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四十九枚目 北方要塞異常アリ

ダンジョンは冒険のロマン。

『この街って同じ顔の人が多い? まあ、家系的にハートラ家の人間が多いから。

 聞いたことあるでしょ? ハートラ家の人間は一人見かけたら同じ人が三十人はその辺にいるって』




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 第一層を初めて突破した魔物は、騎士団長があっさり切り殺した。

 二匹目はギルド長の炎の矢で仕留められた。騎士団員と俺たち腕に覚えのある冒険者たちは入り口付近で待機している。


「……マイスって言ったか。俺ら、いらなくね?」

「言うなよ、どうせしばらくしたら組織立って戦闘する必要があるからな」


 騎士団の兄ちゃんと武器を点検しながら、俺は上にある監視所を見る。サポーティアの面々はあそこで第一層のトラップ維持を限界ま


で行うそうだ。


「あの冒険者集団、そんなにすごいのか?」

「まあなぁ……結成してそんなに時間が立っていないのに、北を代表するクランになってるて時点で察してくれ」


 同時に最強の問題児でもあるけどな。あいつらと関わるとジェネラルラッドから魔王までより取り見取り。


「ま、見ていて退屈しないさ。今にわかるさ」


 だからさ、監視所を見ているとこう、何かきっと起こる。


 そう、たった今、監視所が大爆発起こした。


 隣で唖然とした表情で監視所を見る騎士団のみなさん。ついでにすぐ近くにいたチカの奴。


「おい、お前がなんで驚いてるんだよ。仲間だろ?」

「いやぁ、派手にやるなって」


 とりあえずあたりを見渡すと、騎士団側はうろたえているものが多い。ついでギルドと冒険者側、も結構混乱している。

 落ち着いているのはレマの街から集った人間だけ。


「おいおい、本当に大丈夫なのか!?」


 いやまあ、あの程度ならあいつら絶対に死なないし。


「大丈夫だ。どうせ今に全員ケロッとした顔で出てくる」

「いや、わかってるじゃん、マイスさん」


 真下から声が響く。混乱する間もなく、足元の影が沸き立つ。


「さすが魔物。嗅覚だけでこっちの居場所突き止めるなんて」

「リリ様、あの魔物は視覚が退化している分、嗅覚が異常に発達している亜龍ですから」


 となるとワームドラゴンの一種か。あいつら音出さないから洞窟とかで遭遇したくないんだよな。


「って、いつまで俺の影の中にいるな!」


 はぁーいという気の抜けた声が響き、俺の影からアケノ、リリ、フィアナ、ピアがはい出てくる。


「いやぁ、『影潜り』と『影渡り』はほんと便利だわ」

「それで、いつ俺をマーカーにした?」


 アケノが背中、と一言。背中に手を回すと、符が一枚貼られていた、符には『脱出口』とある。


「人のことを便利な逃げ道扱いするなよな」


 というかいつの間に貼った?


「あ、それ貼ったの私です。先輩、何が起きたんですか?」

「簡単に話すと、黒くてでかいミミズっぽい奴が十匹くらい監視所まで突っ込んできたから爆破して仕留めた」


 今頃監視所の中は肉片まみれだろう、と笑いながら言うアケノに、チカはあからさまに嫌な顔をする。


「となると、『電子レンジ』ですか、えげつないの使いますね」

「なあ、どういう符なんだ?」

「理屈はさておいて、体の中にある水分を一瞬で沸騰、爆発させるんです。生き物であれば確実に殺すことができます」


 ……本当にえげつないな。


「それで、監視所を破棄しても問題ないのか?」

「ええ、あそこが落ちても第一層の中はしっかりと迷宮化させたから問題なし。魔物を殺すための迷宮がね」


 魔物たちを飲み込む殺し間か、なんかそのうち魔物たちが罠をかいくぐりながら生き延びてダンジョン化しそうだな。


「それでも迷宮化した第一層から抜け出る奴らは大勢出るだろうから、準備準備!」


 元気よくアケノたちがギルド長たちのいる第二層の入り口に向かう。


「な? あいつらに常識は基本通用しないからな」

「……よくわかったよ」




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 人生良かれと思ってやったことが裏目に出ることがある。


「オーガロードだ! さらに奥に見た事のないドラゴンがいるぞ!」


 入り口の方にオーガを束ねる存在であるオーガロードが、さらにその奥に小さいながらもドラゴンがいる。

 奥のドラゴンの姿を見て、鑑定を掛ける。


「……鑑定不能? 新種!?」


 第一層に敵が到達して、大体一日が経過。あの場所であれば大体二百日が経過している計算になる。

 まさか、時間圧縮したあの場所に迷い込んだ奴らが共食いとかして進化したってことになるか?


 さしずめブラックレマドラゴンとかそういう感じになるか?

 ずっと室内、それも狭めの廊下で生活したから体を小さく、きっと速度重視の進化をしたことだろう。


「ドラゴンの環境適応能力の高さを甘く見ていた……」


 奥のドラゴンの背後にはさらに小さいドラゴンが。おそらく幼体だろう。


「で、弱点とかわかるの?」

「探りながら仕留めるしかないでしょ」


 試しに各種属性魔法を試してみるが、どれも効果が薄い。手前にいたオーガロードは探りを入れている最中に騎士団の人が始末してい


る。


「さすが硬い」

「では、私が!」


 フィアナとピアが一歩飛び出し、光の槍を投げつける。

 槍が鱗を貫通し、刺さる。が、ダメージを多少与えただけ。


「不味い、ブレス来るぞ!」


 ドラゴンの口元に魔法陣がいくつも並ぶ。ソニックブレスかと思いきや、口元から飛び出すのは黒い霧。

 魔力の帯びたそれが周囲に溢れ、


「不味い!」


 とっさにフィアナとピアに向かって簡易の結界符を投げつける。


「全員伏せて!」


 それと同時に、黒い霧の向こうにある魔法陣が輝く。

 次の瞬間に炸裂。黒い霧が一瞬で爆炎に包まれる。


「なるほど、粉塵爆発みたいな魔法か」


 フィアナとピアが爆炎の中から現れる。使われた結界符とその防御壁が砕けると同時に二人とも駆け出して、ドラゴンの頭を一撃で貫


く。


「思ったよりも近接攻撃が効きます。このドラゴンの戦術はたぶん出会った瞬間にこれで焼き尽くして相手を仕留める一芸特化型でしょ


う」


 ピアが魔法による防壁を張りながら、フィアナとともに後退してくる。


「厄介といえば厄介だけど、その分鱗の防御力も低めだから、閉所じゃなければ怖くないタイプかな?」


 ただ、閉所では絶対に先手を取らないと死ぬ。防御間に合わなくても死ぬ。よく簡易の結界符だけでしのげたものだ。


『我が力を貸した』


 トライが、いつの間にか私の頭の上に止まっていた。


「降りてよ」

『断る。今この場は魂に満ちているからな。必然的に我の力、ひいてはピアとフィアナの力も強くなっている』


 なるほど。魂入れ食い状態だもんね。よどみが強いから散らす必要があるけど。


『どうやら中の時間圧縮が強化されたようだな。ざっと一万倍、いやそれ以上か』


 ―――マジ魔界。この戦いが終わったら絶対にあそこだけは破棄か時間の流れを何とか修正しよう。


『ともかく、来るぞ。空を飛ぶ魔物も含めてな』


 見上げる空剥落、そして群れを成して飛ぶ様々な種類の魔物。第一層の出入り口からは新手の魔物たち。


「さあ、盛り上がってまいりました! 者ども、勇者様が決着つけるまで戦い抜くぞ!」


 そうして、ここに本格的な直接戦闘の幕が上がった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 魔王の群生、傘から放たれるよどみが様々な生物の形をとる。よどみがただの生き物を生み出すわけがない。より凶悪な魔物だ。


「出るな、漏れるな、少しでも私の中にとどまるんだ……!」


 私の体を通して、魔王の傘が広がってゆく。よどみが、空を染める。

 だから、私は必死に耐えている。少しでも後世に平和な時間を残すため。笑いあえる世界が残るように。


「ロイヤードの位置はまだレマのあたり。大丈夫、ここに来るまで最低でも一週間はかかるから覚悟はそれまでにしっかり決めればいい



 自分に言い聞かせる。一週間耐えれば、それでいい。

 最後は勇者が魔王を倒してハッピーエンドだ。それにしても、殺されるのは勇者、いやロイヤードであるのが幸いか。


「あいつは判断を間違えないにゃ。どこの馬の骨とも知らない奴なら下手な同情するかもしれないからにゃ」


 ―――だから、私にとって、想定外の事態が起きるのはここからだった。


「へ?」


 ロイヤードの反応が意識を外した隙、大体十秒で全行程の三分の一を突破。その勢いはまだ止まらず、空を飛ぶ魔物たちを貫きながら

、こっちにまっすぐ飛んでくる。


「なぁ!?」


 接触まで後二十秒。空の魔物たちが即席の防壁となるが、一切ブレずにこちらへ飛んでくる。


 接触まで後十秒。魔王の力で強化された視力が捉えたのは白い球体。


 接触まで後八秒。迎撃準備を整えていたドラゴンの群れが一斉にブレスを放つも、傷一つなくそのまま突っ込んでくる。


 接触まで後五秒。自己防衛ともいうべき、多量のよどみで作られる二十七層の魔力障壁。それにぶつかる球体。


 接触まで後四秒。障壁がただの魔力強化もない速度だけで、半分以上一瞬で貫通される。残り障壁十枚。


 接触まで後三秒。すべての障壁が貫かれる。


 接触まで後二秒。私の陰から闇色の触手が湧き出て私に対して斜めに壁を作る。


 接触まで後一秒。触手が球と接触、予定通りに球が障壁に沿って滑る。


 そして、後方二百メートルに着弾。すさまじい衝撃波と土砂を伴って私に迫るが、すべて再構築された障壁と触手がはじき落とす。


「な、なにコレ?」


 理解が追い付かない。


「うぉっ! 衝撃でドアが歪んで開かないぞ!?」


 なんか、内側からガンガン叩く音が聞こえる。

 三十秒ほどそんな音が響き、それから球体の内側から光が奔り、球体が細切れになる。


「あー、死ぬかと思った。移動手段をあいつらに頼むのだけは今後絶対にやめよう」


 奔った光は、光の剣のもの。

 この声は、ずっと隣にいた人の声。


 そして、勇者の気配も、今まさにそこに。


「よーし、とっとと終わらせて、帰るぞ? この酒飲み猫」


 勇者が、ロイヤードがそこにいた。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 北方要塞第一層という、世界でも有数の人造ダンジョンという名の殺し間に敵の大群を誘い込み、出てきた敵を倒す。


 要塞一つを迎撃設備にするという当時の指揮官の判断はすさまじい物だったと思われる。

 ただし、同時に共食いによるモンスターの異常進化という悲劇も巻き起こした。


 レマブラックとも呼ばれるバーストフォグドラゴン、この種もここで生まれ、この北方要塞第一層に根を張っている。


 ごくまれにダンジョンを飛び出した種が洞窟に生息もしており、閉所での対処の難しさから高ランクのクランに対する討伐依頼が組ま


れたりする。


 小型だが、共食いや時間経過による異常進化を遂げた化け物が多く生息しており、現在では指定ランク以下の入場が禁止されている。


 そんな危険地帯だが、勇者と魔王が戦う時間を稼ぐという意味合いではしっかりと成功し、要塞から来たの大森林地帯の方向の門付近


には当時の名残である特殊な符を見ることができる。


 入り口付近は誰でも見ることが可能なのでぜひ北方に旅行の際は見ておきたい場所である。


 ともあれ、第一層は一日という大きな時間を稼ぐことに成功、第二層と合わせて二日ほど、多大な時間稼ぎに成功した。


―――北方魔王戦役考察 第三章『要塞第一層迷宮』より抜粋。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 あの時のことは思い出したくない。全身という全身が正面からくる圧力に潰されてしまい、呼吸すらできない。

 ひとえに、勇者の力を得ていたからこその移動手段だった。


 後世にこの手記を読んだ諸君へ、絶対に真似をしてはいけない。あれは人間の乗るものではない。


―――ある男の手記より抜粋。


ただこの北方要塞のダンジョンに、宝などない。

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