四十二枚目 四つの難題『聖域防衛線』 前編
これから始まるのは二十四時間耐久レース。
『さて、これからの内容を伝える』
今、この黒の森周辺、私の作った結界付近に三百人、それと集められた冒険者五十人。
その中心で話をするのはトライだ。
『まず、我がこの建物の中の炉に火を灯し、そのまま魔力をつぎ込み『神の炎』を創り出して、この場を『聖域』として機能させる』
「おう、その『聖域』っていうのをわかりやすく説明してくれミニカラス」
『誰がミニカラスだ脳筋勇者』
なんだとう、と暴れそうになっているのを、リンクスが抑えている。
『この『聖域』というものは、場に与えられた属性だ。なので、この場合の『聖域』といのは光の属性、魔王に対する反対属性の物を指すだろう』
トライが火の粉を撒く。見る人が見ればその火の粉に光の属性が宿っているのが分かる。
「しかし、ブラックバードって冥府の運び屋なのに光属性なのか?」
『闇というのは死の属性だ。魂を運ぶにあたり、全身に死を纏っていてはこれから冥府門から魂の流れに乗って世界を巡る魂に支障が出る。
故に、我らは魂の運び手は生きるための力を魂に与えるため、光の力を宿した炎を纏い、その羽には死した魂が安息を得るように光を閉じ込めて黒く染める』
だから、我らの属性は光である、と締めくくったトライ。
『この場は地脈、つまり魂の道も通る場所、この力を借りれば我が光の炎も神格を得て『神の炎』として機能を果たす。
一日の間、この炎を灯せばこの場を光属性の『聖域』として変貌させられるだろう』
そう締めくくり、トライは羽ばたいてピアの肩に下りる。
そのピアは、普段着ないような神官服のような衣装を纏っていた。
『この娘はわが炎の巫女となる人物である、ピアだ』
その場で一礼するピア、それを見守る私たち。
これは私たち全員で決めたことだ。
『我が主にてこの『聖域』の巫女として『聖域』を管理する者なり』
こうして、ピアをこの場の管理人とすることで、バンシーと発覚しても問題なく生きていけるよう、取引を行った。
まあ、管理人といってもここに四六時中張り付く必要もなく、定期的に、それこそ十年単位で一回ほど『神の炎』を灯す作業をするだけだ。
それだけでこの周囲は聖域となり、魔物を寄せ付けなくなる寸法だ。
『では、これよりこの結界の中心で『神の炎』を灯す。これよりこの結界の機能が一日ほど失せる。諸君の奮戦を祈る』
非常に上から目線のトライの説明が終わる。騎士団含め全員がやや困惑している。
困惑していないのは私たちとロイヤードたち位か。
「それでは総員、これより三十分後に『聖域』作成の作業を行う。騎士団は黒の森側の防衛、冒険者諸君は騎士団の援護を」
騎士団長と思しき人物が全員に対して指揮を出す。
「まあ、怨霊が出てきても俺に任せておくといい!」
ロイヤードが光の剣を掲げて叫ぶ。
それだけで全員が雄たけびを上げる。しかし盛り上がってるところ悪いけどさ、
「あくまでも結界が消えるのが三十分後で、『聖域』作成段階の地脈の力に引き寄せられる怨霊や魔物が来るのはもう少し先だけどね」
全員が一斉にこっちを向く。
「だから、怨霊とかが寄ってくるまでに少し時間があるから」
「そういうわけで、みなさん三十分後に向けて準備よろしく」
リリの補足説明にぽかんとした表情を浮かべる全員をしり目に、私たちは乗って来たレマクラフトへ戻るのだった。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
『では、『神の炎』を灯す』
三十分後、『聖域』の中心に組まれた祭壇という名のキャンプファイヤーが組み立てられている。
そこに火を灯し、『神の炎』として機能させる。その上で『聖域』としてこの場所を作り上げる。
『祈りを』
巫女として扮するピアが祈るように手を合わせる。うまくいけば甘いものを食べさせるという約束のもと、演技を続ける。
まあ、炎に魔力を送る作業を『聖域』作成完了まで行うので、徹夜確定である。
「ピアは魔力を送りながら寝るって言ってました」
ピアと同じような神官服を着たフィアナが、槍を担いでいた。巫女に仕える神官ということらしい。
しかし、作業しながら寝ることができる……なにそれうらやましい。本気でうらやましい。
「ギギギ……!」
ほらそこにすごくうらやましそうにしている犬系後輩がそこに。ハンカチ噛まないように、見苦しい。
そしてキャンプファイヤーに火が灯る。
同時に結界に回っていた地脈の力が消え、炎に力が流れ始める。
「では、私はピアについてます。ご武運を」
そう言ってピアの元へと走っていくフィアナ。
「ま、今回は騎士団がメインで戦うんでしょう?」
「そのせいで光属性の付与ができる符、何百枚書かされたか」
術式考えながら符を書いて、魔力と頭を全力で振り絞ったからこそ、騎士団と冒険者全員に行きわたるだけ符を用意できた。
おかげで右腕がパンパンです。
今も右腕には『アイシング』と書いた符を貼って回復に努めている。
「まったく、王都にまで行ってきたと思ったら騎士団引き連れて帰ってくるとか、相変わらず話題が尽きないですね」
声に振り向くと、マイスさんとヒースさんが駆け寄ってくる。
「ま、俺は近接戦闘だからこれから前線行きだけどな」
私たちは後方から援護だけどね。
「ほとんど騎士団が相手取るんだと。魔王との戦い前の肩慣らしだとよ」
やや退屈そうに剣を振るマイスさん。
「騎士団っていうからには俺たち冒険者よか強いんだろう? せいぜい楽してやや割高の依頼料を貰って酒場で飲もうや」
じゃなー、と前線に向かって走っていくマイスさん。ヒースさんもそれに続いていく。
「どうやら前線ではすでに戦闘が始まってるみたいねガスト系の魔物が数匹現れては討伐されていってるみたい」
『望遠鏡』と書いた符を目に当てて遠くを見るリリ。『聖域』作成開始から一時間、まだ敵はあまり現れていない様子。
「うん、まだ様子見? あの怨霊を小出しにして様子を見るねちっこいやり口はリッチあたりがいるかも、と?」
フェネ君が脳内花畑から中継してくれる。今も魔力の塊を食べながら寝っ転がってアニメ見てる。
なんというか昼メロ見てる主婦みたいだ。
「まあ、まだまだ序盤だしゆっくりいこう」
「賛成」
こんな感じで始まった『聖域』防衛線だが、地獄が始まったのはこの後、作成開始から八時間後のことだった。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
―――八時間七分経過。最前線、王国獅子騎士団(貴族子弟部隊)壊走。前線の一部が崩壊を起こす。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
王国獅子騎士団とは、獅子の紋章をあしらった王都防衛を主な任務とする、いわゆる貴族の騎士団である。
その性質上設備投資や福利厚生に予算が多く回され、訓練も最低限以下ともっぱらの噂だった。
「本当に噂通りとかシャレにならないぞ!」
「無駄口叩く暇あったら手を動かす!」
私は魔力を集中させてファイヤーストームを放ってゾンビを焼き払い、狐火を使ってガストを焼き殺す。
怨霊を指揮する側が本気を出してきたのか、六時間前くらいから攻勢が激しくなってきていた。
最初は一列の綺麗な壁を作っていた騎士団だったが、中央にいた獅子騎士団百人が徐々に押されていき、
「ギュイイイイイ!」
怨霊が集まっているのを好機と見たブラックバードに戦場を思いっきり荒らされたタイミングで崩壊。
左右で粘るロイヤード率いる近衛騎士団と魔法兵が半分を占める盾杖騎士団が側面を突かれる形になってしまった。
現在は数が少ないが幽霊退治の経験が多いレマ冒険者集団五十人によって何とかその穴を埋めている。
もはや前衛後衛など関係なく、戦える人が戦い、戦えない人は後方で回復し、もう一度戦場へ。
そのサイクルを全員で繰り返している。
手が足りなくなるところは私がカバーに入ったり、
「げんかいの人は私とこーたいですって!」
「すまねえ、三十分で戻る!」
リリーズがその間支えたりと、全員が一丸となって必死に支えている。
遠くでロイヤードが振るう光の剣が見える。かなりの魔力を込められた光が何度も走る。
「獅子騎士団が抜けた穴を必死にカバーしてる感じだ、なっ!」
目の前に現れたゾンビを一刀両断しながらマイスさんが戦況を見る。
「どう見る、アケノ? 相手の指揮官殿は戦力の逐次投入でこちらを疲労させる様子だが、どうやって対抗する?」
「そー言うのはウチの軍師様に」
私は考える側ではあるけど、大局を見た絵図は描けないタイプなので。
「司令官からアケノへ! さんふんごに敵のうしろをぶっとばすって! ついでにアケノは一番をばくは!」
前線より後ろに溜ってる敵を掃討して、一時全線への圧力を弱める作戦に出る様子。
それに長期戦を想定して、今のうちに一発ぶち込んで、相手の本命が出てきたときにもう一発がぶち込めるようにしておくと。
「あと大体一分くらいだって」
では、こっちも準備をする。手元に用意したの『起爆』と書かれた符が一枚。
先頭が始まる以前から騎士団や冒険者の皆さんに設置してもらった符を一斉に起爆するためのスイッチ。
「で、その符の名前は?」
「えっと、『爆導索』って言って、私の生まれた国で、火薬を大量に詰め込んだ縄を地面に置いたり埋めたりしてに火をつけて爆発させるってやつ」
「なあ、俺たちあれ全部で何枚設置したっけ?」
覚えてる範囲で三百枚くらい、町の符術士総動員で書いたっけ。
「今回起動させるのはそのうち百枚分かな?」
ほい、起爆始動、と。起爆と同時に後方から色とりどりの魔法が放たれる。全員がそれぞれの広範囲魔法を使った結果だろう。
それらが私たちを飛び越えて、森の手前に着弾。周囲の怨霊やブラックバードを吹き飛ばす。
それと同時に最前列より少し後ろ、地面がめくれ上がるように爆発を起こし、一気にゾンビやガストたちを吹き飛ばす。
「最近、俺の中の符術士が後方メインの援護職じゃなくて前線に罠仕掛けて敵を屠る軍隊向きの職業に見えてくる」
「下準備さえあれば符術士は、強いよ?」
その下準備がない状況こそ符術士最大の敵なのだが。
「これで目の前の奴らを倒せばしばらくは落ち着けるはずだから、全員もう少し頑張ろう!」
『拡声』の符を使って全員を鼓舞するように叫ぶ。目の前には爆発と魔法によって焦土と化した草原だけだった。
真っ先に脱落したのは貴族の騎士団という。




