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四十一枚目 四つの難題『新術開発』

彼女たちは魔王を目指す。

「初めまして、宮廷魔術師のクラップと申します。『光の剣』の開発者、アケノ様」


 ギルド内の会議室、その中でも最もグレードの高い大会議室。そこには王都からやって来た宮廷術士、勇者とそのお付き、そして私の


四人が揃っていた。


「ご丁寧に、アケノ・ソラカワです。若輩者ですが、よろしくお願いいたします」


 お互いに差し出された手を握る。それを見ているのは、がっちり簀巻きにされているロイヤードと、そのロイヤードの前でパンを齧る


リンクス。


「で、なんで俺はこんなになっているんだ?」

「いや、解いたら逃げるでしょう?」

「絶対逃げるにゃ。ロイヤード秘蔵のシャトーコンティ賭けてもいいにゃ」


 シャトーコンティとは、王都の宿屋の食堂でメニューの飾りにあったワインの名前だ。

 つまり、やたらと高い良いお酒ということになる。


「勝手に俺の秘宝賭けてるんじゃねぇよ!」


 ほーどーけーよー! とびったんびったんするロイヤード。


「なんという新鮮な魚。勇者じゃなくて水揚げされた魚の方がしっくりくるような」

「騙されてはいけませんよ、アケノ様。あれは毒魚ですので。食べたら死にます」


 なんだとう、と一層激しく暴れる。その暴れている身体能力も勇者の力だと思うと、なんか悲しくなってくる。


「まあ、そこの域のいい魚は無視して、新しい魔法って何を作るにゃ?」


 クラップさんが椅子に座り、用意してあったお茶を飲み、一言告げる。


「いやこれがさっぱり」


 全員がずっこけた。


「ちょ、ちょっと待て! 俺にふさわしい装備一式を作るって息巻いていたのはどうしたんだよ!」

「少しは考えるにゃ、鎧と剣をを作るのは鍛冶師にゃ。問題はその鍛冶師が鎧に刻む術式にゃ」


 術式付きの装備というのは、はっきり言って一級品だ。刻まれた術式は魔力を通すだけで発動するため、装備に刻まれた術式によって


は無類の強さを発揮する。


「ところが、生半な術式だと、この馬鹿魔力の塊だと意味がないんですよ」

「たしかに、本来ショートソードサイズの『光の剣』を大剣サイズで作り出せるほど魔力有り余っていますからね、この勇者」


 つまり、下手に防御強化とか入れても、素の能力が高すぎてまったく効果がないということか。


「私だったら気配消しの術式だけで十分にゃんだけどにゃあ……」


 まあ、この勇者が今更気配消しても魔力ダダ漏れだから一発でバレるし。

 つまり、アイディアがまったくないということなのだろう。


「だから、装備術式の研究を中心にやっている私自身、お手上げ状態なんです」


 しかし、と目を見開いて私が作った『光の剣』の符を取り出す。


「このように、魔力そのものを武器にするようなものを見せられては、何もできないのは我慢ならないが、アイディアがない」

「だから私を呼んだわけですか」


 その通り、と追うように頷くクラップさん。


「こいつ術式装備狂いだから、『光の剣』は相当衝撃だったみたいなんだよ」


 それなりに真剣な声を出すロイヤードだが、残念ながら彼は簀巻きだ。


「それに俺としても自分の装備をおろそかにするほど馬鹿じゃないからよ、魔王が出てきても問題ないくらいの装備を作ってほしいんだ


わ」


 それができるのはこいつくらいだと、太鼓判を推すロイヤード。


「んっ。ではアケノ様、防具から考えたいので最近何か防御用の符で何か作ったりしませんでしたか?」


 ……最近作ったものを考えると、まずこれが出てくる。


「えっと、この『反応装甲』というものを作ったんだけど、魔力を通した後衝撃を加えると爆発する符」

「……それ、使った側も爆発で吹っ飛ばないか?」

「そうならないように文字が書いてある面にしか爆風がいかないようになっている」

「爆風を纏い、敵を体当たりで引きつぶすロイヤード、いい!」

「よくねぇよこの駄猫!」


 なかなかいいアイディアだと思ったが。


「ウチのメンツであれを手甲の上に貼って、殴り飛ばす人もいるけど」


 全員の顔が「なにそれこわい」と表情で言っていた。


「爆発の威力はリザードマンが粉みじんになるくらいには」


 リンクスが身震いする。おそらく想像してしまったんだろう。


「ほ、ほかにないかな? できれば穏便に済むような物がいいのだが」

「じゃあ『装甲プロテクター」は?」


 こっちは爆発しないし、限界以上の衝撃が来ても符が壊れるだけで済む。


「あ、それだと鎧が砕け散るからダメか」

「単語だけ聞くと不安だなぁ」


 大丈夫、符がダメージを肩代わりするタイプだから、鎧がはじけ飛ぶとかそういうのじゃないから。

 ちゃんと説明すると三人とも納得してくれた。


「ところで、ロイヤードからこんなのほしいって意見はないの?」

「うーん、大抵この魔力でどうにかなるからな。特にこれといって思いつかないんだよ」


 試しに魔力を絞って『空川コレダー』を貼ってみる。


「おお、ビリビリ来る!?」


 なんか大してダメージ受けていない。たぶん、最大出力でやっても死なないんだろうと思う。

 となると、この力を攻撃に回す魔法があればいいのか。


「ちょっと失礼」


 白紙の符と墨、筆を取り出してさらさらとイメージを書き上げる。そう、防御分の魔力もすべて攻撃に回せばいい。


「と、そんなイメージで作ったのがこの『オーバーブースト』です」

「ふむ、符の構成自体は身体強化に近いようですが……」


 一目見ただけで違いを判るとは、さすが宮廷魔術師。


「身体強化は体全体を強化して能力を引き上げるけど、『オーバーブースト』はその強化を行ったうえで、体の限界まで身体能力を 引


き上げる、いわゆるリミッター解除の符です」


 ロイヤードの馬鹿魔力で強化された身体能力をさらに引き上げたうえで、限界以上の能力を引き出す。

 通常の人間がこの符を使ったら体がバラバラになるかもしれないが、ロイヤードの場合はあふれ出る魔力がそれを防いでくれる。


「実質ロイヤード専用かにゃ?」

「戦士系の人なら十数秒なら大丈夫かも」


 ちなみに私が使ったら数秒で筋繊維がちぎれて、その数秒で全身はじけ飛ぶ。


「恐ろしい物作るなおい」


 身震いするロイヤードだが、大丈夫、あんたが使ってもせいぜい筋肉痛で終わる。


「あともう一枚、『バリアタックル』っていうのも今思いついた」


 こっちはあふれ出る魔力でバリアシールドを張り、それを体当たりでぶつけることによって相手にダメージを与える符だ。


「攻防一体の符か。こっちはまだまともだ」


 ほっとしている様子のロイヤードだが、これもロイヤード以外が使うと一瞬で全魔力が吸われてしまうくらいに消費が激しい。私で五


秒くらいか。


「で、これ、一度使うと前方に対してすごい勢いでカッ飛んでく」

「まともだと思った俺が馬鹿だった」


 失敬な、攻防一体の最強兵器の一つだぞ。抜き撃ちと見せかけて殴ることだってできるし。


「ふむ、鎧に組み込むのはその二つ、後は万が一のために『反応装甲』も組み込もう」


 なかなか、クラップさんもえぐいの選びますね。


「ただ風や火じゃなくて爆発、それと力場というのが気に入った」

「で、鎧はそれ、盾は無くていいといったから、今度は剣だな」


 別段『光の剣』があるからいいんじゃないか、と思ったがそうもいかないらしい。


「文献によると、魔王の中には魔力を無効化してきた奴もいたらしい。その対策のためにオリハルコンで刀身を作り、それに『光の剣』


を纏わせて使う。ただ、ここまで来たら剣本体にもさんざん仕込みたいだろう」


 私は首を縦に、ロイヤードは首を横に振った。


「そうか、賛成多数で仕込むことにしよう」

「ちょっと待て! リンクスがいるから賛成多数にはならないだろう!」

「あ、私賛成で」


 瞬間的にロイヤードを追い込むセンスが素敵です。


「う、裏切ったな! リンクス!」

「人生とはかくも辛いものにゃのか……」


 とりあえず後でお酒でも奢ってあげよう。


「じゃ、ここから作戦会議ってことで。どんどん改造してやりましょう」

「君とはいい酒が飲めそうだ」


 改めて私とクラップさんとで握手する。これからしばらく退屈せずに済みそうだ。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 そんなこんなで一週間が経過。私の符の見本で会議室の机が埋まったころにリリとフィアナが帰還。


「お帰り、十中八九わかりきってるけど場所決まった?」

「ただいま。あの場所以外考えられないでしょ。そういうわけで、報告上げてくるわ」


 なお、二人は意図的に簀巻きになっているロイヤードを無視。唯一興味津々でピアがロイヤードを眺めていた。


『ふん、今代の勇者はずいぶんと力がみなぎっている様子だな』

「なんだこの偉そうなカラスは?」


 ちょっと一触即発な瞬間もあったが、おおむね平和に過ごしていた。

 そしてそこからさらに一週間後、会議室の黒板が術式で真っ白に染まる頃、千果とクロックがレマクラフトでギルド前に乗り付けた。


「ただいま戻りました先輩!」

「とりあえず風呂に行ってきてください」


 大量のオリハルコンを抱えて戻って来た二人だったが、どうも鉱山奥に籠ってひたすら作業していたため、真っ黒になっていた。


「報告が終わったら入ってきますね、先輩!」

「これ全部お金に換算したら国どころか世界が傾きますよ……!」


 なんか二人とも目が少し怖い。なんというか、徹夜明けのテンションになっている。


「それはお前らも一緒だと思うのだが、どう思うよリンクス」

「私は何も見えにゃいにゃ」


 失礼な、私たちはちゃんと寝てるし、別段おかしいところなんて何にもない。せいぜい新しい術式開発にのめりこんでるだけだし。


「それじゃあ、先輩、そっちが終わったらあとは『聖域』作りなんでほどほどにお願いしますね」

「了解、そっちもお疲れさま」


 二人に向かって『炭酸効果のタブレットが効く』と書いた符を投げてよこす。早い話が炭酸系入浴剤の代わりに作った符だ。


「ありがとうございます!」


 さて、大まかな術式はまとまったので、


「あとはこれをしっかり鎧に書き込める術式にするだけ……!」

「あと一息です、仕上げてしまいましょう」


 私たちの戦いはまだまだこれからだ!

 なお、決して打ち切りエンドではない。悪しからず。

主にロイヤードが『バリアタックル』で。

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