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四枚目 目覚めれば、布団

今回は説明回。新キャラも登場します。

 気が付くと、私は布団にくるまって寝ていた。


「うゆぅ……?」


 まあいいや。とりあえず久方ぶりの布団を堪能しよう。枕も懐かしのそば殻枕チックで実に良し。


「って良くない!」


 飛び起きると、そこはどこかの部屋。木でできた殺風景な部屋であり、間違っても現代の自分の部屋でも、天然の草布団と木の根っこが自慢のペンション森林公園でもない。

 ふむ、思い返してみても、森の出口を見つけ、そのまま飛び出した後の記憶がない。


「あ、やっと起きた」


 部屋の戸を開いて、三つ編みの女の子が入ってくる。なんというか、純朴な女の子というオーラを放っている。


「体は大丈夫そう?」

「えっと、うん。問題なさそう」

「よかった、あんなボロボロの状態で森から飛び出してくるんだもの。しかもオーク引き連れて」


 おかげで儲けさせてもらったけど、と笑う女の子。中身は純朴ではなさそうだ。


「自己紹介がまだだったわね。私はリリ。あなたは?」

「えっと、明乃。空川明乃」


 とっさに問われた問いに答えを返す。リリと名乗った彼女は何かの紙を取り出して書き込んでいる。

 そして、その書き込んだ紙を私に突きつける。


「それじゃあ、これがこの宿の宿泊費と三日間眠り続けてた時の世話代の請求書。払ってもらえるものをもらえば私は全然気にしないから」


 どうやら純朴な金勘定に厳しい女の子の様子です。親の顔を見てみたい。


「……服着替えさせてるところで判ってると思うけど、私無一文だよ?」

「だったら働いて返してもらおうかな? 何せ北の大森林を歩けるほど強いんでしょう?」


 働いて返せという彼女の言葉はごもっともだ。強いかどうかはわからないが、とにかく行動することにしよう。


「というわけで、冒険者の仕事なら斡旋できるから。北の大樹海を抜けられる人間なら大丈夫でしょ」


 少し考える。ここで申し出を断ることはできる。この町でお金を稼いで返却するのはありだろう。

 その方が危険は少ない。あのような森の中で何日もさまよったり、怪物相手に死にそうな思いをしなくてもいい。


 でも、その選択肢は取れない気がした。体の中で渦巻いている今まで感じなかった力が、私に立ち止るなと言っているように聞こえる。

 これもフェネ君の意志なのだろう。脳内フェネ君も頭の中で頷いてるし。


「うん、よろしくお願いする。リリ」


 手を差し出し、握手を求める。その手をリリが握り、私たちの契約が成立する。


「それで、戦い方は?」


 貫頭衣のようなパジャマを脱いで、置いてあった自分の服に着替える。そこにカードホルダーを巻いて、カードを取り出す。


「ふーん、符術士か。後衛の補助職業科なんだ」

「補助職業科?」


 呟いた瞬間、リリに怪訝な顔をされる。いや、知らないものは知らないし。


「ってことはギルドもクラン登録もしていないド田舎冒険者?」


 失敬な。元の住処は中堅都市くらいだ! 通じないだろうけど!

 そこ、あからさまに嫌そうな顔しない!


「うん、田舎から出てきてあの森で一週間くらい迷子になってた」


 内心を隠して、情報を引き出そうと思う。今必要なのは借金というこの窮地を脱する情報だ。

 三国志で出てくる軍師とか古代中国の偉い人も言ってた気がする。情報さえあれば無敵だから、と。


「よく無事に脱出してきたわね……」

「実際死にかけました」


 事実だ。


「じゃあ、簡単な説明だけ。ギルドは冒険者が仕事をもらうための相互互助組織、クランはギルド所属のメンバーが構成するチーム、職業科っていうのは前衛職業、後衛職業、補助職業の三つの科に分類されているの」


 なるほど、補助職業科はRPGにおける強化と弱体、後は居るとなにかと便利な職業か。

 商人とか吟遊詩人とか踊り子とか錬金術師とか。


 だったらとりあえずはそれらしく振舞っておこう。ついでにカードも在庫切れだから作っておこうか。


「まあいいわ、とにかくギルドに行ってあんたの登録だけしておきましょ」





○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○





 準備を整え、そのままリリに手を引かれて宿屋を連れ出される。

 外の街並みはヨーロッパ系の石畳。そしてレンガの建物が並んでいる感じ。


「赤レンガ倉庫とかそんな感じかな?」

「何か言った?」


 なんにもー。と返しながらも手を引かれて五分ほど。たどり着くのは、赤い三階建ての大きな建物。

 そのまま臆することなく入るリリの後を追って私も建物に入る。

 中に広がっていた光景は、よくファンタジー映画とかで登場するような酒場だった。


「いらっしゃいリリ。そいつが例の子か?」


 気安い感じで話してきたヒゲ達磨に、同じように軽く返すリリ。


「そうよ、アケノっていうわ。ギルド登録もないから登録作業とギルドの説明してやって。私は報告とクラン設営してくるから。じゃ、後よろしく」

「そうか、この子がその相棒か。じゃあ頑張れよ」


 そのままリリが奥に消え、取り残されたのはヒゲ達磨と私。

 職場にはいたけど初対面のヒゲ達磨と会話は少し気まずい。


「アケノと言ったか。冒険者ギルドへようこそ。窓口担当のシェーブだ。よろしく頼む」

「よろしくお願いします、シェーブさん」


 ヒゲ達磨だから怖そうな人と思ったが、なかなかにいい人そうだ。


「しかしお前も運がないな。よりにもよってわがままリリに助けられるたぁな」

「嫌なあだ名ですね、わがまま」

「まあ、誇れるようなあだ名なんてそうそう付かないさ。そういうのは称号って言うんだよ」


 ごもっとも。


「さて、ギルドは冒険者の相互互助組織であり、依頼の斡旋所だ。一般人でもここに来れば依頼はできるし、ギルドメンバーは依頼を見て仕事を受ける。ここはその仲介を行うための場所だ」


 シェーブさんが指さした先には依頼表と思われる紙が貼られた掲示板があった。


「まあ、登録は無料。特に大きな制約もない。おまけにどこの国でも身分証明として使うことができるギルドカードも付いてくる」


 つまり、免許証や住基カード、パスポートみたいなものか。旅行に便利そうだ。


「あるとすればギルドの召集クエストで呼ばれることくらいか。早々ないけどな」


 まさしくゲームでよく見るギルドということか。

 奥の方のカウンターに座ってるのは可愛らしいお姉さんだ。こういうところもゲームでよくありそうだ。


「で、これがそのギルドカードを作成するための鑑定球というものだ」


 なんでもこの水晶玉に手を当てて数秒で、自身の能力について記載されたギルドカードが発行されるという寸法らしい。

 体に流れる魔力から得た情報をカードに記録するんだそうな。


「では、ペタリと」


 鑑定球に手を当てる。すると鑑定球が淡い光を放ち、一枚のカードを吐き出す。

 手に取ってみると、私のカード化で作ったカードに感触が似ている。


「ほうほう、これがギルドカード……」


『空川明乃:レベル5 職業:符術士 種族:人間 キツネツキ』


 状態異常まで表示される様子だ。これが悪い方向に働かなければいいか。


「へえ、お前キツネツキだったんだ」


 おや意外と淡白。


「珍しいですか?」

「珍しくはあるが、無くはない。ただ、体に狐の特徴が出ていないのは初めてだな」


 しかしおかしい。あの時フェネ君が融合した時に生えてきたはず。大きく変わっているのは銀髪になったことなんだけど、この人たちは元の色知らないからな。

 耳のあったところを指で触ってみて、感触がないことに気が付く。うむ、これが普通なのだが、なんだか言われてみて違和感。

 なんというか、飛行機の気圧差で耳がキーンてなる時の感覚のようなものがある。


「うーむむむ、出ろ!」


 イメージは耳抜き、それと指の部分が丸まったゴム手袋を膨らませるイメージ。

 ふさっと、頭に何かが出てくるイメージ。ついでにお尻から何か生える感触。なんか解放感に包まれる。


 ―――変化を覚えました。耳と尻尾の出し入れが出来ます。熟練すれば様々なものへ自在に変身できます。※キツネツキ状態限定です。


 なんか覚えた。使い方まで教えてくれるサービス付きで。

 その上で注釈までつけてくれている。


「うぉっ! 本当に出てきた!?」

「ごめんごめん、ちょっと驚かせちゃった。耳仕舞ってたの忘れてた」


 驚かすな、と豪快な顔で笑うシェーブさんを尻目に、なんとか誤魔化すことができたことに一息つく。

 そしてそのまま意識を集中させて尻尾と耳をしまうイメージで消す。


「普通キツネツキはそのままなんだが……」

「ま、日々の訓練のたまものってことで」


 微妙に納得したようなしていないような表情を浮かべるシェーブさん。

 訓練とは便利な言葉である。


「とりあえずはギルド登録は完了したから、これでアケノも冒険者だ。さて、符術士ならカード作れるんだろ? ギルドからの職業確認の一環で何か作ってくれないか?」


 ほい、依頼表と一枚の髪を渡される。


「なになに、『符術士の作成した符』を探しています。できれば身体能力を上げる符がほしいです、報酬は一枚につき300クレジ?」


 依頼主の欄を見ると冒険者ギルド受付窓口のシェーブと書いてある。


「まあ、簡単な依頼なら冒険者でも一般市民でも出せるからな。とりあえず俺が簡単な実力確認用に今作った。期日は明日までだ」


 職権乱用じゃないのだろうか? しかし現金は欲しいので、


「じゃあ、受けるわ。身体強化でいいの?」

「おう、すまんが墨と筆は自前で用意して……!」


 身体能力が二倍になるイメージを込めてカード化を使う。現れたカードを掴み、首を傾げる。

 森でさまよってた時にこういったカードを作った際は、結構な魔力消費があったのだが、

 今は非常にとまではいかないが少ない魔力で作ることができた。言うなれば消費魔力3/4と言った感じか。


 キツネツキ効果すげぇ。


「はい、依頼達成。もう二枚くらいいる?」

「……マテリアライズ? こんなレベルの低い子が?」


 目を見開いているシェーブさん。声をかけても反応せず、目の前で指を振っても同じく無反応。


 おーい、もしもし? 聞こえてますか? お留守ですか?

 とりあえず何かつぶやきながら硬直しているシェーブさん目掛けてカードのカドで額を叩く。


「うおっと、すまん……アケノ、お前師匠は?」

「いないけど? 教えてくれる人いなかったし」


 嘘ではない。あの白い空間の声を人と言っていいのかはわからない。


「とすると天才か。いいか、人前でそれやるなよ?」

「何で? 便利だよこれ?」

「お前がやってるのは魔力を物質化しているんだ。高位の魔術師がようやっとできるくらいの力を、そこらへんの子供と同じようなレベルの冒険者が持ってるなんて知れたら良いカモにされるぞ」

「なるほど、私は金の成る木ってこと。自重する」


 誘拐沙汰とか地下室で拘束されて機械のように使われるとかそう言ったバットエンド的な人生は御免こうむる。

 ただでさえ人生が訳の分からないルートに進んでいるんだ。これ以上の厄ネタは勘弁してもらいたい。


「まあいい、カードは納品されたということで依頼達成だ。これが報酬の300クレジに色つけて500クレジだ、おまけにこれも渡しておく」


 渡されたのは、硯と筆。それと一枚のカードに本。


「昔挑戦しようとして挫折した符術士入門セットだ。なにせ魔力を込めて筆を持つなんてできなかったからな」


 本をめくると見たことない文字が書いてある。しかし不思議なのが、それらを何の変換もなしに日本語訳に出来てしまうことだ。


「墨壺はセットに入っていなかったから自分で整えてくれ。なんでも上位の符術士は墨壺を持ちながら戦闘中にカードを仕立てあげるそうだ」


 イメージする。

 上半身をまったく動かさず走りながら、カードに筆で文字を書いては攻撃する姿を。イメージの中で使った符は衝撃波と書いてあった。


「それはすごいね、十人で世界を征しそうだ」

「きっと俺とお前のイメージに差があると思うが、すごいことは確かだな」


 ちなみにシェーブのイメージは魔法が飛び交う中、物陰に隠れながらカードを書いている姿だった。それもそれで泥臭そうなイメージだ。


「それじゃあ、ギルドの基本も学んだところで、最後にクランの話だ」

「要は冒険者のチームと聞いたけど」

「大まかにはそれで間違いはない。ただ、有名なクランに属しているとそれだけで依頼が取りやすくなるし、選びやすくもなる」


 要は派遣会社に所属していると仕事が取りやすいという話か。


「そうやって有名になってから独立してクランを立てる奴もいるし、同じクランにずっと残り続ける奴もいる。要は自分に合った生き方をしろってことだ」

「それについては同感」

「ま、お前はリリが作るクランに所属決定なんだがな」


 選択肢がないことも人生ではままある。


「お前はリリの推薦でギルド入りだからな。最低限1年はクラン所属の義務が生じるわけなんだわ。これも初心冒険者保護のためと思ってくれ」


 問題起こしたら即除名と制裁のコンボですね、わかります。


「これで説明は終わりだ。リリもクラン申請終わったみたいだしな」


 奥からリリが戻ってくる。とりあえず笑顔だった。


「終わった、シェーブ?」

「見ての通り一通りの説明は終わった。これでお前のクラン員として冒険者の仲間入りだ。

それとこれは俺からの個人的な忠告だが」


 そう言うシェーブさんの顔はここ一番のいい笑顔。


「何よ、気持ち悪い笑い方ね」

「うるせぇよ、ま、忠告は単純だ。その娘、手放さない方がいいぜ?」


 そんなことを言うシェーブさんに対するリリは怪訝な顔をするばかりだ。


「ま、せいぜい気張って稼いでくれ。じゃな」


 私のカードを懐に入れながら今度はシェーブさんが奥へと戻っていくのだった。

主人公、能力チートを本格的に悟る。

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