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三十七枚目 楔

今回は説明会です。

 現在レマクラフトは王都を抜け、徐々に北へと向かっている。今回はクロックが御者を行っている。

 本来なら千果がやるべきところなんだけど、


「よしよし、レディ、トランプ、いい子いい子」


 このように、生まれたばかりの子オオカミ? をめでている。どうも石が主食らしくせっせと魔法で石を作っては食べさせている。


「さしずめストーンウルフっていうところかな? 魔法生物目ストーンゴーレム亜種みたいな感じの」

「目とか科っていうのはわからないけど、ストーンゴーレムの亜種なら納得できるかも」


 なんでも昔錬金術とかで作り出されたゴーレムがそのまま野生化したらしい。意外とアグレッシブだな、ゴーレム事情。

「ただ、いまだにゴーレム類の繁殖方法が不明という話ですね」

「本当に一瞬目を離した瞬間に生まれているなんていう逸話もあるくらいだしね」


 なにそれこわい。


「大丈夫です、しっかりと管理するから飼ってもいいでしょ、先輩!?」

「って、私は捨て犬拾ってきた子の親か!」


 捨てろとは言わないけど、管理はしっかりと、そう言い含めると千果は笑顔で二匹にエサをやっていた。


「ちなみに今何を食べてる?」

「黒曜石と大理石を」


 レディと呼ばれる側のは大理石が好みらしく、まるでスナック菓子を齧るようにボリボリ食べており、

 トランプと呼ばれている側は黒曜石を少しずつ削るように食べている。


「これさ、食べた石の種類で体表変わったらおもしろいことになるよね」

「そーですね、レディの毛の色、白くなってきてますし」


 生きろ、というキャッチフレーズが浮かんだが、即座に頭から追い出した。


「それにしても密度の高い王都旅行でしたね」


 どっかの誰かの思い付きで始まった旅行なので強行軍もいいところの出発だったけど、帰り道はゆっくりでいいから気楽だ。


 さて、話を切り出そうか。


「では、今後の話なんですけど、私に提案があります」

「どうしました、先輩、いつになく真剣ですね」


 それはそうだ、これから私は爆弾を投下する。


「これから私は少し行ったところに『ここをキャンプ地とする!』による結界を張ります」

「別段普通ね」

「今までと何か違うのでしょうか?」


 私は静かに息を整え、そして、声を出す。


「あれは、魔王の復活を促す陣でもあります」


 全員の表情が固まった。


「マジで?」

「マジで」


 唯一声を上げたリリも、私の言葉に絶句する。


「せ、先輩、どういうことなんですか!? だって魔王が復活したら、世界が滅んじゃうって!」

「そう、世界が滅ぶ。でも、滅び方が問題なの」


 ただ魔王が出てきて、世界をすべて滅ぼす、というのだったら私も復活をさせなかっただろう。


「問題は、魔王よりも、魔物が大量発生することが問題なの」


 このあたりは、フェネ君と、昨日のうちにトライに確認をしたので、まず間違いない。


「つまり、魔王自体は脅威だけど、それ以上に魔物の大量発生が問題と、どれくらいの数なの?」

『地平線の彼方まで魔物で埋まるほど、だ』


 フェネ君曰く、陸が二分で魔物が八分というありさまだったらしい。


「だから、その魔物に回る分の魔力をあの陣で魔王に回してしまうの」


 魔物を生み出す魔力が少なければ、魔物の数が減っていく。

「でも、魔王が強化されたら結局やばいんじゃ」

「大丈夫、その分勇者も強化されるから」


 本当に、この勇者と魔王のシステムを考えた存在は悪辣すぎる。だからこそ、この世界が成立しているのだけど。


「……で、実際の計画を立てたのはフェネ君ということ?」

「その通り」


 それはもう、フェネ君とその家系に伝わる、渾身の計略だ。

 軽く千年は超える計画であると、初代の家系が耐えても分家が引き継ぎ、脈々と継がれてきた計画。


 ようやくフェネ君の代で実行に移すことができたということだ。


「で、ここまでの話を総合させてもらうけどさ、フェネ君って何者?」


 クロックの一言に、待ってました、とばかりにフェネ君が頭の上に乗る。


 あれをやるつもりですね、フェネ君!


「まさか冥府の門の開閉番の狐だったりして」

「あっ」


 千果の発言に、フェネ君がそのまま頭の上に座り込んで前足で私の頭を叩く。どうやら拗ねているらしい。


「……マジで?」

「マジで」


 ほら、フェネ君が拗ねてもう何もやる気しないみたいな感じになっちゃってる。決意をもって私に真相を打ち明けてくれた時の威厳を返してほしい。


「そうなると冥府を管理する四匹の動物が今この場に揃っていることになりますね」


 狐、ネズミ、カラス、犬。開閉番、監視人、運び屋。門番と揃い踏みである。


「ウサギにはそういった伝承はないですからちょっと疎外感が……」


 まあ、それは伝説を作った人に文句を言ってください。


「それじゃあ、私は魔力温存しないといけないから寝るわ。着いたら起こして」


 そうして、私は静かにソファに倒れる。その前に、親指と小指を伸ばして、耳に当てるジェスチャーを千果に見せる。

 そのまま、目を閉じる。暗闇の中、声が聞こえる。


『それで、先輩。どうしたんですか?』


 使った符は、『以心伝心』であり、今はお互いに声を出さずに会話している。


『フェネ君から聞いたことはそれだけじゃないんだ』

『もしかして、帰る方法ですか?』


 そう、その通り。


『さっきの話には、意図的に話していない部分がある。魔物の発生メカニズムなんだけどさ』

『今までの話だと魔力だまりで生活した生物が変質するっていうことでしたよね? だから地脈の上に発生することがあるって』

『そう、その通りなんだけど、もう一つ条件があるの。地脈自体のもう一つの性質、魂の循環路っていうものがね』


 フェネ君によると、魂のよどみがあるものに関しては、カラスに運ばれる際に濾過され、よどみを取り除かれた魂が冥府の門を通り、地脈によって世界を循環する。


『そのよどみがカラスによって濾過されないほど濃かった場合、ネズミに発見されて番犬に喰われる』


 その番犬に喰われたものは番犬の中でよどみごと魂を強制的に燃やし、消す。


『なるほど、そうやって魂を地脈に流していくんですね』

『生きて力を蓄えたその魂が世界を巡り、その力をもって世界全体を潤し、疲弊したら再び現世に生まれ直す。これがこの世界のサイクル』


 よくできたシステムだと思う。世界が魂によって成り立っているのであれば、現世でし魂を磨くことが世界を元気にする秘訣なのだから。


『だったら、何が問題なんですか?』

『給湯ポットを手入れせずに水道水をひたすら使い続けてたらどうなる?』

『そりゃ、中にカルキが貯まって真っ白になりますけど、まさか!?』

『そう、どうあがいても濾過しきれないよどみが現れる。それが魔力だまりに流れ込むと生物が魔物になる』


 それだけなら何の問題もなかった。


『それだけで地脈にこびりつくよどみは取り切れない。それを解消させるのが勇者と魔王、この二つの存在』


 勇者とは、魂をより合わせて作られた高純度魂集合体。魔王は、その勇者の誕生によって勢いを増した地脈によって洗い流されたよどみの集合体。


『そうやって、勇者が魔王の魂を浄化させることによって世界は安定を取り戻す』


 まったく、よくできたシステムだ。


『それが、私たちの帰還する方法につながるんですか?』

『うん。この勇者が魔王を倒した瞬間、魔王の魂は再び冥府に落ちる。そして魂は再び地脈へ、そのよどみが抱えている負の力は世界の外にはじき出す』


 このはじき出すタイミングをもって、私たちが元の世界に戻る。


『……すごい計画ですね。でも、これで帰れるんですか?』

『まだ確証はない。別世界に行くかもしれないし、そのまま世界のはざまに消えるかもしれない。だから、もう少し詰めてみる』

『わかりました、先輩』


 少しだけ、千果の声がさみしかったのは気のせいだろうか?

 でも、これでいい。今度こそ、私は意識を閉じた。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




『盗み聞き』の符を耳から離す。会話の部分でわからないことは多くあったけど、それでもわかったことは、この二人はこの世界の人間ではない。

 そのことだけはよくわかった。


『それで、どうします?』

『ま、二人の作戦に乗りましょう』


『以心伝心』ではない、ギルドで買った遠距離会話用の符を用いて会話する。


 これなら二人に盗聴されにくいだろうと思う。


『だけども。そのために魔王を復活させるって』

『さっきの話だと、勇者が強化されるのは、魂の流れが加速して、その分だけ勇者にも力が巡るって意味なんでしょうね』


 よどみのおかげで魔王と魔物が発生するのであれば、おそらく出口が少ないほど、魔物の数が減るということなのだろう。


 おそらく、楔というのは、よどみが噴出する地点を塞ぐための蓋。そして、蓋をされた地脈はよどみを魔王の元に噴出させる。

 それが、フェネ君の計画。それに彼女たちが便乗しているのだろう。


 だから、彼女たちを手伝う。魔王と直接対決はできないけれど、それ以外の援護はできる。


『サポーティアだしね、最終的には魔王に向かう勇者の露払いはしないとさ、もったいないじゃん』

『相変わらず楽しそうで。だからこそのリリ様ですが。リリも手伝いたいと』

『私も、ラビィ族として正しい姿にしてもらえましたから』


 それじゃあ、全員の許可は出たからさ、サポーティアとして、あの二人の道のために手助けしよう。私はそう決心する。


『じゃあ、とりあえずアケノの魔力回復のために少し寝かせておきましょうか』


 私は、寝息を立てるアケノに、毛布を掛けてやるのだった。

だんだん世界が加速してまいりました。

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