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三十四枚目 抑えの結界

王都地下の戦いの後始末です。

「冒険者たちの多大な活躍により王都の安全は……」


 地下でやたらと数の多いトカゲ軍団、正式にカメレオンマンと名前の付いたそれらと戦ってから一週間。

 事後処理を含め、本日終息宣言のための式典が行われている。


 で、なんでか私たちも同席することになってしまった。というか栄誉的な話と王都ギルド長の強制依頼ということでだ。


「危険を顧みず戦ってくれた勇者と、騎士団には感謝を」


 もったいなきお言葉、と騎士団長が王に跪く。ロイヤードも同じく跪いている。


「して、勇者よ、そなたにふさわしい剣が見つかったのか?」

「は、この通り」


 彼が王に見せたのは、ナックルガードのついた剣の柄。よくある中世のレイピアの柄部分って感じか。

 でもよく見ると、握る部分は私の渡した柄のままだ。


「刃なき剣とは面妖な」

「いえ王よ、これは使い手の魔力に応じて光の刃を出す代物なのです」


 その言葉に王が魔力を込めるとナイフほどの光が現れる。


「ほう、これはすごいな」

「ええ、まるで私に合うように設えたようなものです」


 勇者が王から一礼して受け取ると、魔力を込める。それだけであの時に見たような巨大な光の剣を生み出した。

 その姿に、周囲の人たちが息を飲む。あの薄暗い下水道でもあれだけきれいに見えたのだ。日の光の中で出してもさぞかし映えるだろ


う。


「王よ、古代遺跡からこの剣を見つけてきたのは、この場にいる冒険者クラン、サポーティアの面々です」


 同席している王都ギルドのギルド長の言葉に私たちは一礼の後、跪く。


 ちなみに、光の剣が私の符の力という話は伏せられ、古代遺跡から発見された古代人の遺産ということになった。

 なお、秘密を守るため宮廷術士長に製法ごと買い取ってもらった。一応作ることもできるけど広めないでほしいという意味もあるのだ


ろう。


 まあ、光の槍としてひたすら作っては投げということをする人もいるから、作ることはやめないだろうが。


「クラン・サポーティアよ。勇者の力になったこと、大義であった」

「もったいなきお言葉でございます」


 ここでぶっちゃけてしまうと、私たちはここにきてこの言葉を言うことだけが目的でございます。


 下がれという言葉に私たちは下がり、元の位置に戻る。そしてそのまま約一時間もありがたい言葉とあまり意義を見出せない式典が続


くのだった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「というわけで、みなさんお疲れ様でした」


 無事式典も終わり、その後の祝賀会もロイヤードへの義理を果たす程度に参加。全員が立食パーティで軽く小腹を満たす程度にとどめ


ていた。


「乾杯!」


 レマクラフトの中、五人のグラスがぶつかり合う小気味いい音が響く。


「いやはや、立食パーティだったけど軽食しかなくてね……」


 私が作った鶏肉のグリルを食べながらクロックが呟く。


「しょうがないですよ、あれは長時間話をするために小出しにしていくタイプのパーティでしたから」


 千果が貰って来た宿屋のスープを飲みながらフィアナが呟く。なお、ピアとトライは鶏肉のグリルを一生懸命食べている。


「でもまあ、そのおかげで先輩の手作りにありつけるわけですし」


 リリが買ってきた串焼きを摘まみながらワインに手を付ける千果。


「宮廷料理もいいけど、私はこっちのほうが好きかな」


 リリもリリでフィアナが作った芋と燻製肉のジャーマンポテトもどきを頬張っている。


 さて、ここでこのお疲れ様会の食卓に上っているメニューを見てみよう。

 まずはメインは私が作った鶏肉のグリル。塩と鶏肉、一応奮発してスパイスも使ったので仕上がりは上々。


 次にスープだが、これは千果が宿の人に頼んで作ってもらったミルク系のスープだ。

 野菜スープに牛乳をぶっこんだいわゆるシチュー系のものだ。


 パンは同じく千果が宿屋から調達。串焼きはリリが露店のおじさんから数本調達してきたものだ。それとジャーマンポテト風の炒め物


はフィアナが作った。


 それと最後にデザートがあるが、簡単な焼き菓子と果物をクロックとピアが調達してきた。


 ここである事実に気が付いて愕然とする。なんて女子力の低いメニューだと。


 手料理が私とフィアナの物しかなく、そのメニューも簡単に作れるようなものだ。

 不幸中の幸いはみんなが乾きものとお酒しか持ってこない末期的飲み会じゃないことだ。


 これは近いうちに何とかしなければいけないかもしれない。と言っても私だって女子力低いのだからどうしようもないのかもしれない



 しばらくそんなことを考えたがどうでもいいことだったので、このことを考えるのを放棄し、今後の予定を考えることにしよう。


「さて、全員王都に予定ってある?」


 全員ものを口に入れながら首を横に振る。


「実のことを言うと、私、というかフェネ君はあるみたい」


 全員の視線が、おっかなびっくりスープを舐めているフェネ君に向かう。

 最近の研究によるとフェネ君は狐、イヌ科の生物っぽいのに猫舌だ。


 ま。実際には犬も猫舌だということなので、何らおかしくはないが。舌を付けては離しを繰り返すフェネ君の姿は正直イイ。


「どうも、前に作った安全地帯の結界をこの近くに張らないといけないらしいからさ、ちょっとだけ時間がほしい」


 相変わらず、フェネ君は楔という言葉に対しては何の説明もしてくれない。いい加減してくれてもいいとは思っているけど。


「わかった。どれくらいかかる?」


 フェネ君に目線を向ける。そして三回ほどフェネ君が頷く。


「三日、地下水道に一つ、南側の道に一つ、最後に北側に一つずつ。魔力食うから一日に一個設置できればいいかな」


 前回のは地脈の上に設置で、そのうえ地脈の力をすべて陣に流し込めたから消費は低かったが、今回は違う。


「さすが王都。地脈の流れの上に町が設置されてて、何かに地脈の力を使ってるから影響の出ない範囲でやらないと大変なことになりそ


う」

「……王都の結界だと思うから、まじめに勘弁してね」


 確かに下手に手を出してリンクス含めた王都警備隊と騎士団with勇者ロイヤードに追いかけられる羽目になるのは勘弁。

 さすがに自殺志願者ではない。なので、王都の楔に関してはあらかじめ許可をいただいている。


「当座の活動資金はいっぱいあるし、まあ結界張り終わったらレマに戻るんだよね?」

「そうね、王都は神の言葉を聞きに来ただけだし、当面はレマで活動ね」


 なんてことないように、果物に手を出すリリ。


「なんだかんだ言って、リリ様はレマの街が気に入ってますから」

「聞こえてるわよ、フィアナ」


 小声で耳打ちしてくるフィアナに、リリが声を上げる。

 千果はというと、


「先輩が出かけるなら私もちょっと出かけてきますね。タロジロのお散歩もしたいですし」


 食事を終えて、タロジロと戯れる千果。いや、それゴーレムでしょうに。


「なんか昨日見たら毛が生えてきてまして、これもう生き物にエボリューションって感じですね」

「それもう何か呪いの物体なんじゃ」


 違いますぅー、と抱きしめて首元をなでてやっている姿を見ると、なんかペットをかわいがる姿に見えてくる。


「まあ、いいか」


 さあて、今日は食って寝て英気を養って、明日からの結界張りに備えるとしよう。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「報告いたします、ロイヤード様」


 パーティの見世物役を終え、城に与えられた一室にてこっそり隠していたラム酒を開けていると、リンクスがいつの間にか部屋の中に


いた。


「わかった。ここの眼は排除しておいたからな。いつも通りでいい」


 その言葉を告げた瞬間、張り詰めた空気は消え、ついでにラム酒の瓶をふんだくられる。


「おい、俺の楽しみを返せ」

「私の楽しみでもあるにゃ!」


 ええい、この飲兵衛ネコめ、ラッパ飲みでもう半分飲んでやがる!


「いいから返せ! 高かったんだぞそれ!」


 北部に行けば比較的安いけど、王都だと地味に高いんだぞそれ!

 やっとの思いで取り返したそれには、すでに三分の一しか入っていなかった。


「ごちそうさまにゃ」


 非常に満足した顔で酒臭い息を吹きかけてくる。後でシバく。


「ええい、報告ならとっととしてくれよ……」


 残った酒を、同じく隠しておいた干し肉を肴に飲む。


「じゃあ、いい報告と悪い報告があるにゃ」

「悪い報告から」


 これは冒険者時代からの癖だ。最後に残るのは、その一つは希望であってほしいというゲン担ぎ。


「南で魔物の大量発生が起きたんで、勇者様を派遣するにゃ」

「掃除屋かよ」


 神の加護を授かってからというもの、寝なくても食べなくてもずっと戦っていられる。

 まるで世界中がバックアップをしてくれるようだ。だから、そんな俺は体のいい便利屋扱いなのだろう。宮廷貴族どもにとっては。


「ま、受ける受けないも勇者様次第だけどにゃ」

「受けざるを得ないだろう。どうせ勅令が飛んでくる」


 しかし、利用してきた輩には、いつか痛い目を見せる。


「で、いい方の報告は?」

「北部からの報告が帰って来たにゃ。北部にも『抑えの結界』が出来ていたにゃ」


 リンクスの言う『抑えの結界』とは、大体五十年ほど前から各地に忽然と現れる結界のことだ。

 その結界が出来た場所には、魔物が寄り付かず、また、地脈から流れる魔力を制御して魔物の発生を抑える効果がある。

 無論、俺が調べたことではなく、宮廷魔術師の受け売りなのだが。


「この結界で二十七個目。後いくつで終わるのやら」


 結界は東から南、西、北の順番で各地の地脈の上に作られている。これが五十年ほど前から一定周期で現れている。


「しかも、今回の結界は一戸建て付だったにゃ」

「どんな優良物件だそれ」


 一等地にもほどがあるぞそれ。


「まあ、王城の地下にも『抑えの結界』は存在するし、そこまで貴重じゃないのかもしれないにゃ」

「あれは機能していないから数に入らんだろう」


 かつて、王城は『抑えの結界』に似た術式の陣の上に建てられたとされている。

 現在はその陣自体が欠けているため力を発揮できず、正確な内容が記載された文献も古すぎて解読できず、修復も出来ないとのこと。


「いったいどこの誰がこんなことをしているんだか」

「まあ、考えても仕方がないにゃあ。多少の幸運と思っておくにゃ」

「魔物が増えなければ魔王の軍勢は減るからな……ところで俺の干し肉はどうした?」

「おいしかったにゃ」


 次の瞬間、俺は光の剣を手に取っていた。


「ちょっと、待つにゃ! いくらなんでも大人気なさす」


 この日、王城の一室が光の剣によって吹き飛んだのだった。


勇者様大ハッスル。

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