三十三枚目 予定外の強襲作戦
探索パートが終了しました。
「なるほど、クロックの言うことも一理あるわね」
三人にしこたま怒られた後、クロックが気づいたことを説明する。
「となると、すでに調べた地点も怪しいってことになるね」
「そこまで探すのは大変ですよ?」
なので、新たな符を作っておいた。
「こんなこともあろうかと、『探し物はトカゲですか?』という専用の符を作ってみた」
なんでかリリに怒られた。もっと早く出せって。
「しょうがないじゃん、こっちだってさっき思い立ってようやくできたんだから!」
「それをもっと早くやれって……まあいいわ。これで相手の位置の特定ができるわけね?」
「その通りでございます、と言いたいところだけど、うまくいくかの保証はまだない」
符に対して先ごろに倒したトカゲの鱗に残っている魔力を覚えこませただけだ。
「まあ、出たとこ勝負はいつものことだから、お願い」
「了解、と」
地図に符をあてて、魔力を送り込む。符から地図に光が流れ込み、全体が輝く。
そのまましばらく光っていたかと思うと、その光が一か所に向かって集まっていく。
「これ、ギルドからそんなに遠くない位置、よね?」
「そうですね、大体徒歩五分の好立地って感じです、リリ先輩」
なんか駅チカ物件のように言わないでほしい。
「何かあれば移動はこの下水道を通ればいいし、ギルドを覗くことも容易、と」
場所が分かれば後は一度行ってみて確認をしてみるのみ。
「では、リリ様……」
「先行してリリーズを向かわせるわ。フィアナ、子の中だったらあなたが一番足が速いから、現地のリリーズに合流して」
「了解、ではお先に」
ピアとトライが融合し、黒い翼を生やしたフィアナが飛ぶ。
「気取られないようにね!」
さて、私たちも現地に行きましょうか。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
「ここが地図の示す場所だけど……」
目的地に着いた私たちの前にあるものは、ただの壁だった。叩いても反応がなく、魔力が使われている痕跡もない。
「アケノ、『探知』は?」
「このあたりって示すだけでそれ以上は……」
「ここで臭いが途切れていますけど……」
ピアちゃんが壁をポフポフ叩いている。その頭の上にはトライが乗っており、毛繕いをしている。
ただ、そろそろ私も突っ込みたい。
「えっと、意図的に光っている壁の部分は無視?」
全員の視線が私に向く。
「いや、このあたりの壁に変化はないけど……」
「何も光っていないけど」
フィアナとチカも同意するように頷く。
どうやら見えているのは私だけのようだ。
「ちょうどこの部分が光って」
光っている部分に手を当てると、壁が押し込まれる。同時に重たい音が響き、すぐそばの壁が横にスライドする。
「……扉、ありましたね」
「あったわね」
むむ、皆は認識できず、私だけが見えた光。
「えっと、もしかしてこれがラビィ族の力なのかな?」
見えざるものを見るってこういうことを指すのだろうか。
「わからないわ。物心ついたときには親は死んでたから」
「そう、それじゃあ、全員撤収で」
あえて触れないことを選んだらしい。その気遣いは受け取っておきたい。
「えっ? 潜入するんじゃないんですか?」
「いや、ここで潜入する方が危ないから帰って報告。探索済みの場所にこの扉があったってことはできる限り内密にいかないと」
潜り込んでいる輩に知られたら困る。次にここを開くのは突入の瞬間でいい。そうでもしないと逃げられてしまう。
「それじゃあ、見えないようにマーカーを置いて……」
アケノが『ここが目的地です』という符を目立たないところに貼り、手元の地図にマーキングされたことを確認。
「さてクロック、怪しまれるから入り口閉めておいて」
「え?」
全員に奇妙な空白が生まれる。
「もしかして、閉め方わからない……?」
私が知るわけがない。だって偶然道を発見したのだから。
「リリ」
「予定変更! リリーズの一人に地図を持たせて私たちは突入。四人でできる限り制圧をかける。難しそうな場合は時間稼ぎに徹するってことで」
全員が頷く。
「それじゃあ、途中までは隠密行動ってことでこの符を」
アケノが『ジャミング』と書かれた符を私たちに貼り付ける。
「先輩、皆の匂いがしなくなりましたよ?」
「しばらくの間探知系の行動を無効化してくれるはずだから、警戒しながら、静かに敵を仕留める感じで」
なんという潜入探索。見つかるイコール即終了でないだけマシか。
「それじゃ、入り口に結界置いておくから、危険感じたらここまで撤退で」
リリさんが手で入り口を指す。突入、という意味だろう。
私たちは一斉に入口へと群がっていった。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
「うーん、見つからないにゃあ……」
冒険者たちに依頼を出して下水道探索をさせている最中、私たち警備隊は騎士団と協力をして地上の拠点探しに勤しんでいた。
「やっぱり地下か、外から潜り込んでるのか……」
答えは見つからないが、基本、こういった探し物は足が資本だ。
屋根まで駆け上がり、上から見下ろす形で路地裏まで見渡す。
「見つかれば金一封だけど、そう簡単に見つかるかにゃあ?」
それにしてもあのリリという女、なかなかにうまい誘導をしてくれた。
勇者様の地下に行きたくない、ひいては面倒事を避けたい性質を利用して、冒険者ギルドに依頼を上げさせるという強かさ。
「しかも、独占じゃなくて緊急招集かけさせるなんてにゃあ」
手が足りないのも事実だろうけど、ほかのクランのやっかみを避けるのも事実だろう。
そうして地下探索が行われて始めてから、トカゲたちの襲撃を匂わせる事件が急激に少なくなった。
今のうちに何か手がかりを見つけられればいいのだけど……
「おーい、ねこさんー」
気の抜けるような子供の声に振り向くと、あのリリーズとかいう子供が立っていた。
「司令官からの伝言です、『敵の拠点を発見、こちらの動きを気取られた可能性があるので先に突入。援護求む』だって」
渡された地図を見ると、一か所光っている点と、端書きに『探索終了地点にて発見、できる限り気取られず来て』と書いてある。
「となれば、臨戦態勢の騎士団にだけ報告かにゃ? それが終わったらギルドに連絡って感じで行くかにゃ」
ご褒美に後で食べる予定だった甘草の茎を二本渡す。それを齧りながらリリーズの少女は屋根を降りて行った。
「さて、急ぐかにゃ」
目指すは、騎士団の詰所。屋根を蹴り、全速力で駆け出した。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
「アケノ様! 槍! 光の投槍持ってきてください!」
拝啓皆様、下水の香りのする地下で、いかがお過ごしでしょうか?
わたくし達は今、やや開けた広間の入り口にバリケードを張り、必死に防戦している最中です。
あんなに意気揚々と『ジャミング』の符を使ったのに、私がくしゃみをして思いっきりばれるという間抜けな展開のせいです。
「ほいさ!」
『光の剣』符を書きあげ、それを渡す。
フィアナとピアがそれを核に魔力を込めて槍を作り上げる。
「そーれ!」
トカゲ側も盾やテーブルで防御しながら徐々に距離を詰めようとする。
「あーもう、数が多い!」
通路側に陣取っている関係上、リリーズを展開できないため、呼び出したリリーズは二人分。
リリと合わせて合計六発の雷の矢が放たれる。それらが六匹のトカゲに当たるが、大体半分は倒れずに進んでくる。
「ヒルムナ! ススメ!」
「まったく、どれだけ数がいるのよ!」
どうも、敵が集合している時間帯に突撃してしまったらしい。この間のラットもかくやという数がひしめいているように感じる。
じりじりと寄られる恐怖と戦いながら、とにかく攻撃を重ねる。
一匹がこちらの攻撃をすり抜けてバリケードに取りつく。
「リリ! これ以上は厳しいかも!」
「よし、後退! 結界の場所まで下がるから、なんか足止めよろしく!」
即座にアイスストームでバリケードを凍結させる。
「それじゃあ私も!」
千果がそれに習って一枚土壁を作る。
「撤収!」
即座に後ろに向かって走る。壁の向こうからトカゲの物らしき怒号が聞こえるが、通路をとにかく走る。
「あと少しで出口!?」
リリの声が途中で止まる。
「ギギ! シンニュウシャ!」
なんとまあ、回り込まれた。これはまずい。鑑定と『探知』の符を合わせて即座に敵の数を数えると、十体。
そのことを伝えようとした瞬間、クロックの耳が揺れる。
「バリケードと足止め破られた!」
さらに絶望を追加してくれる。
「これは、本腰入れて不味い、かな?」
リリが大きく息を吐く。
「突入から二十分、上出来かな?」
一瞬リリの言葉が理解できなかったが、答えはすぐにやって来た。
光りが走ったかと思えば、目の前にいたトカゲたちが一斉に倒れ伏す。
「どうやら間に合ったみたいだな、足止め感謝する」
そこには、白銀の鎧をおかげの返り血で染めたロイヤードと、ナイフを構えるリンクスがいた。
血払いをするようにロイヤードが剣を振ると、その剣が半ばからぽっきりと折れる。
「またか……やはり俺が振るえる剣はないのか……」
高かったのに、とつぶやくロイヤード。
「それ、ただのボロなんじゃないの?」
「いや、新品。ミスリル製の剣なんだが、勇者の力に耐えられないんだ」
なんとまあ、規格外。
「神様ももう少し融通を効かせてくれればいいのに……」
その様子だと加減すらできないらしい。
「ま、君たちは下がりたまえ、ここからは勇者と騎士団の仕事だ」
ロイヤードが拳を構える。
その姿がなんとなく不安に思えたので、私は懐をまさぐる。
「だったら、これ使ってみてくれない?」
懐から『光の剣』を巻いた柄を取り出して渡す。
「なんだこれ?」
「魔力を込めれば剣ができるから」
おおよそで、私が全魔力を込めたときはいわゆるショートソードくらいの長さになった。まあ、それだけあればきっと問題ないだろう。
「ふん!」
ロイヤードが気合を入れるように魔力を込めると、二メートル近い彼の身の丈を超えた光が発生する。
「おお、これは便利だ」
どうやら勇者は相当なチート存在の様子です。
「では、行ってくる! 武器の感想は後で話そう!」
颯爽と去っていくロイヤードと、しばらくして響くトカゲたちの絶叫。
「……ま、オーライってことで、何とか生き延びれた……」
どっと疲れの湧いた体を引きずって、入り口の結界部に向かうのだった。
同時に戦闘パートも終了しました。




