三十一枚目 トカゲだー!!
デバガメ作戦の後に待ち構えるものは?
「どうも、レポーターの空川明乃です。今、私たちは王都の中央広場、南門広場へ来ています!」
私は今、さっき屋台で買った串焼きを手に、レポーターごっこをしている先輩を眺めている。
「先輩、このビックリザードの串焼きおいしいですね!」
冷める前に食べてしまおう。以外に淡白で食べやすい。
「いやー、こういうお城とか広場見ると、外国来たなぁって気分になるわ」
確かに。天に届かんばかりの白いお城、そこに広がる石畳の街並み。
やたらと広い円形の広場に、行きかうモンゴロイド以外の人たち、まさしく海外。
「うーん。、カメラあったら所構わず取りたい気分」
残念ながらスマホやカメラはないので、記憶に焼きつけよう。人間の脳味噌はそれくらいできるはず。
「ところで先輩、なんでかリリ先輩たちが私たちから距離取ってますけど?」
「きっと気おくれしてるだけね」
「一緒にいると恥ずかしいからに決まってるからに決まってるからでしょ!」
まあ、確かに。旅行のとき、横におのぼりさん同然の動作している人がいたらそれは恥ずかしいだろう。
「ま、珍しいのは事実だし」
「ねー、先輩」
あ、リリ先輩が頭を抱えてる。少しは自重した方がいいだろうか?
「まあまあ、どうせならエンジョイしようよ?」
先輩は一切自重しない様子です。それよりも気になることが二つ。どっちも臭いだけど、毛色の違う気配。
一つは魔物の臭い。前に森であった二足歩行トカゲの臭いがする。姿は見えないけど、匂いまでは隠しきれていない。
もう一つは、監視や何かの警戒の臭い。トカゲの臭いに交じって微かにする程度。対象は私たちとトカゲに向けてで半々くらい。
おそらく、この臭いの感覚ではトカゲたちは気づいていないように思える。
「それじゃあ、皆、わかってると思うけど、解散。それぞれ目的を達成した後、合流するってことで。ノルマは雑魚殲滅で」
目的は買い物と、尾行者の殲滅。達成できない場合は可能な限り情報を集めて速やかに撤収。
「じゃあ、クロックはこっちでもらってくから」
メンツはある意味必然的な、私、クロック、先輩のチームと、リリ、ピア、フィアナのチーム。
どちらにも前衛を置いてどんな環境でも対応できるようにする。
「それじゃ、私はあっちの裏路地から行くから」
「それじゃ、私はこっちの裏路地から行くわ」
一瞬で先輩とリリ先輩が侵攻方向を決める。
また後で、東側の路地とに潜り込む私たち一行。リリ先輩たちも西側の路地に潜ったようだ。
「それじゃあ、ゆるりと行こうか」
裏路地は表と同じ石造りだけど、日の光が入らない分、何か出そうな感じだ。
先頭は先輩、次に私、殿がクロックの順番で進む。先輩が先頭の理由は非常に単純。
「先輩、今防御用の符ってどれくらいありますか?」
「たしか『反応装甲』だけで三十枚。『装甲プロテクター』が十五枚だから問題なく近接は耐えられるはず」
遠距離攻撃は私が壁を作って防ぐから。殿がクロックなのは、一番反応が早いだろうからである。
残念ながら先輩は運動神経が切れているので、自動防御に頼るしかない。その分頑丈だけど。
そのまま明かりのあまり入らない裏路地を進むと、少しだけ開けた場所に出る。
そこに差し掛かった時、前からローブを着た集団が現れ、道を塞ぐ。
同じく背後にも同じ集団が現れる。正面四人の背後四人。八人で三人を制圧しようというのはいささか乱暴な話だ。
「えっと、ナンパなら間に合ってるんですが……」
「タマシイヲ、クベヨ……モンヲ、ヒラケ!」
言葉とともに一斉にローブを取り払うと、そこには立派な鱗肌。
「リザードマンは初めて見るわ」
「私はあの森で何度か出会ってます、先輩」
「えっと、とりあえず倒しましょうか?」
クロックの意見に賛成。後ろはクロックに任せて、私は石を魔法で作り出す。先輩も符を取り出す。
ただ、今回は街中なのでそれも配慮して、球にも小細工を施す。
「第一投、投げたぁ!」
今回は建物も多いため、逸れても大丈夫なよう急角度のライズボールを投げる。
そしてその投石がリザードマンの頭に命中、そのまま頭がはじけ飛ぶ。
貫通した球はそのまま中空で砕ける。これで周辺に被害もないはず。
「……あれ? ちょっと強すぎた?」
目の前で繰り広げられたグロい絵を無理やり無視し、第二投を構えようとしていると、
先輩が左手と右手に魔力を集中させる。二種合成魔法の様子である。
「光の、壁!」
跳びかかって来たリザードマンたちが一斉に壁にぶつかって地面に落ちる。
その隙に先輩が新たな符を構える。
「衝撃波ぁ!」
大気が爆発するようにうねり、そのまま三体ほど巻き込んで跡形も残さず消し去る。
「……相手は死ぬ!」
「先輩、それ人間相手には絶対に使わないでくださいね」
あまりの威力に先輩も目を剥いている。
「さて、クロックは……」
介入の必要はなかった。なぜならすでに三体シバキ倒して四体目の腕を取って極めている最中だ。
「うーん、とりあえず折るか」
発想がおっかないですクロックさん。
「うん、ちょうどいい」
先輩が白紙の符を取り出して、文字をしたためる。
『正直者』と書いたそれをリザードマンに貼り付ける。
一瞬だけリザードマンの体が光る。
「さて、目的は何かな?」
「ツヨイニンゲン、タマシイ、オクル……!」
即席の自白剤の効果はなかなかにいい様子。下っ端だろうから大した情報は得られないだろうけど、少しでも情報を集めよう。
「魂を送ってどうするの?」
「マオウサマ、シモベ、ツクル……!」
どうやら魂を集めて魔王の僕を作る、要は魔王軍勢を増やすということだろう。
「そのために私たちを狙ったの?」
「マ、マオウサマ、バンザイ!」
次の瞬間、リザードマンが爆発する。大規模なものではなく、胸のあたりがきれいに穴が開くような、ピンポイントなもの。
「……万が一時の自決装置、か」
忠誠心に感服するべきなのか、それとも命を捨て駒にできる精神を恐れるべきなのかわからないところだ。
先輩も何か思うところがあるのか、もう一枚符を取り出して魔力を通す。
「さて、『探知』で確認したけど、そろそろ出てきてもいいと思うんですが?」
リザードマンの死体があちらこちらにある惨状の中、一人の女性が立っていた。
「いやはや、お強いんですにゃ」
その人物は、引きしまった肉体に、鋭そうな爪、そして頭に猫耳を生やした女性だった。
「あなたは?」
「リンクスとでも呼んでくれればいいにゃ」
山猫さんということだろう。敵か味方かわからないけど、少なくともリザードマンたちの味方ではなさそうだ。
「質問を返すようで悪いけど、あんたたちは?」
「クラン・サポーティアの符術士、空川明乃。まあ、正しくはアケノ・ソラカワになるかな?」
「同じく渡良瀬千果、チカ・ワタラセってところで!」
「クロック、まあ、新入りって感じかな」
別段本名を隠す必要もないだろう。少なくとも下手な身分ではないことだけを示せるはず。
「ああ、あの……忘れてたけど、あたしは一応王都の警備隊所属にゃ」
なるほど、それにしては『探知』を使ってようやく発見できるレベルで気配を消す芸当ができることは突っ込まないでおいてあげよう
。
「しかし、魔王の軍勢が王都の中に入り込んでるとはにゃ、もう少し警戒すべきかにゃ?」
「ま、そのあたりは警備隊で相談するといいんじゃないかな?」
それじゃあこれで、と踵を返そうとした瞬間、肩に手を置かれる。
「事情聴取にゃ。ちょっと詰所まで来てもらうにゃ」
残念、リンクスからは逃げられない。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
連行された詰所は中央広場のすぐ近くにある大きな詰所なのだが、
「わーい」
「ひゃっほー」
「これなあにー?」
詰所は今、無数のネズミ耳幼女の託児所状態と化していた!
言うまでもなく、リリーズだ。それも最大人数を出しているのではないかというくらい詰所の中があふれかえっている状態。
「な、なんなんにゃ!?」
「わー! ねこさんだー!」
その声が上がった瞬間、一斉にリンクスに向かって魔力を込めた指先を向ける。
「そこまで、全員その猫は攻撃しない!」
どこかから上がった声に、渋々といった感じで指を下すリリーズ。やはり鼠の本能が恐怖しているのだろうか?
「い、生きた心地がしなかったにゃ……」
威力が高くないとはいえ、人間相手なら十分火力のある魔法を見える範囲でに十発近く撃ち込まれる状況だ。私も胆が冷えた。
「それでフィアナ、状況説明よろしく」
詰所の壁際でピアを抱えて座っているフィアナに説明を要求。
「簡単に説明すると、リザードマンを数の力で圧殺しました」
状況的に、裏路地に入る前から少しずつリリーズを放出、私たちと同じように裏路地の広場まで誘い込んだ後、屋根上と相手の背後か
ら炎の矢を浴びせまくったらしい。
「なんで炎の矢? 雷の矢だったらもっと迅速に制圧できたんじゃ」
それに、いくら石畳の街とはいえ火事の危険性もある。
「司令官がね、みせしめだって。ぜったいみてるやつらがいるって」
さらっとえげつないことを告げる指揮官型のリリーズ。
「この間のリッチ戦を彷彿とさせました」
そのせいで警備隊が大挙して現れたそうだ。
で、その後に事情聴取で全員詰所に呼ばれたわけだけど、その全員というのをリリーズ含めた全員と指示したのが運のつき。
「街の探索や斥候に出していたリリーズも含めて全員をここに呼び寄せた結果……」
こうなったと。
「大人気ないなぁ」
「安易に物事を口にしないという教訓ができたということで」
「わ、わかったにゃ、今回のことにかかわった子だけ残るにゃ!」
その言葉に、一斉に大移動を始めるリリーズ。三十秒ほどかけて約半数が外へと走り去っていった。
「あ、あれ、魔法生物かにゃ!? ずいぶんと数がいたけど……」
「詳しいところは秘密。じゃ、お互いに情報交換と行きましょう」
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
「にゃるほど、昨日の戦闘後も君たちだったのかにゃ」
「これくらいなら私たちでもね」
聴取は滞りなく進む。聞かれたのは、昨日フィアナとクロックが遭遇した奴らと、私たちが遭遇したリザードマン。
特徴は戦闘になりそうな環境に現れるとき、あのローブ姿で現れるということらしい。
「なーんかすごい擬態で検問を突破してくるにゃ。見つけられないわ、上からは無能呼ばわりされるわでもうストレス祭りにゃ」
自慢の耳もへたってるにゃ、とリンクスが耳を伏せる。すっごく触りたい。
「とりあえず君たちは白だにゃ。むしろ協力感謝にゃ」
しかし、だいぶ疲れている様子。王都は広いから、その中に紛れた不穏分子の取り締まりは大変なのだろう。
「あーあ、なんか簡単にこいつら探す方法ないかにゃあ……?」
ま、あったら苦労しないだろう。相手が行動を起こすまでその擬態を見破れないんじゃあしょうがない。
「魔物よけの魔法も魔物探知の魔法も効果がないなんてね……」
突っ伏しているリンクスをしり目に、千果が袖を引っ張ってくる。
「先輩、今思ったんですけど、これ、外から入ってきてるんじゃなくて、もうすでに中にいるんじゃないでしょうか?」
その言葉に、リンクスの耳が動く。
「どういうこと?」
「いや、あるじゃないですか、ゲームで、サバンナで戦ったありの大群の卵が、帝都の地下で大繁殖引き起こしてみたいな」
すごいピンポイントなたとえだ。個人的にトラウマが刺激される。
「ちょ、その話」
「私も聞かせてもらおうか」
少しだけ聞いた覚えのある声が聞こえる。
詰所に現れたのは、昨日見た勇者様、ロイヤード・マダルだった。
第一次勇者接触。




