三十枚目 オペレーション・ピーピングトム
役者が徐々に揃いだします。
「全員そろったね、それじゃあ始めるよ」
宿屋の食堂、そのテーブルで提供された朝ごはんを食べながら、私が切り出す。
少し白の割合が強い黒パンに、燻製肉の入ったスープ、それと何の卵か鑑定してないけど目玉焼き。
飲み物として提供されるのは、少し香りの強いお茶。
それぞれにご飯を頂きながら、本日の計画を決める。
「まず私から。宿の人に確認してみたけど、発表は王都中央区の王城で発表。その際は玉座の間の様子を巨大水晶に映して見せるという
ことらしい」
目玉焼きを平らげ、オプションで付けたジャムを塗ってパンを食べるリリ。
しかし生放送か、今時みたいに三秒ほどずらして放送しているとかないだろうか?
「つまり、現場で直接は無理か」
忍び込めないこともないだろうけど、その手の対策がされていないわけがない。仮にも王城だ。
私が及びもつかないぐらいの防御はされているだろう。
「その水晶が置かれる中央広場に関して、よく見える位置は有力貴族や商人などがすでに抑えているとのことです」
スープにパンを浸しながらつまむフィアナからの報告。
横では一生懸命黒パンを噛んでいるピアと、そのパンの破片をついばむトライ。
「気の早い人は告知のあった時からすでに場所取りを行っていたとか」
「それに、見える場所は騎士団が規制線を張って、見物料を取ってるって」
どこから持ってきたのかチーズと目玉焼きを黒パンに乗せて頬張る千果の証言と、目玉焼きの黄身をパンにつけていただいているクロ
ックのお話。
「さて、これらを鑑みた意見として、私たちがとる手段は……ズバリ、現場にも広場にもいかないことを提案します」
お茶を飲みながら、符を書く私が意見を出す。
「で、アケノ? 内容如何によっては痺れ地獄の刑に処するわよ?」
痺れ地獄とは、ひたすら弱い雷の矢をリリーズが浴びせ続けるという一種の拷問である。
「財力には限りがあるし、今から席取りに言ってもろくな席しか取れないと私は踏んでる」
このあたりは早い者勝ちなので、残念ながら我々に勝つ余地がない。
「リリの熱狂っぷりからもうすでに端席を確保するのがやっとということになる」
「広場の端だとすると、水晶設置位置によってはかなり離れますよ。そして中央でも二百メートル以上はあるかと」
かなり広いな、中央広場。まあ、我に秘策有り。この程度なら想定内。
目の前に符を掲げる。今しがた出来上がった符には、『衛星アンテナ』『通信傍受』と書かれている。
「この符を使って、王都から中継されるであろう映像を、こちらでも受信する」
つまり早い話が水晶に転送される魔力をこちらでも捉えて盗み見る作戦だ。
「できるの?」
「一番苦労するのがチューニングだけど、そこは出たとこ勝負かな?」
あの手のマジックアイテムは見せてもらったことがあるが、映像を撮る親機と映す子機のセットであることが多い。
レマの街でも実物が動いているのを見せてもらったことがあったので、大体の魔力波長はわかる。
「では、これより、オペレーション・ピーピングトムを開始する。各員の奮戦に期待する」
全員が頷く。さあ、すべてはしっかりとお告げを見るために。なんか方向性ずれてるけど気にしない!
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
現在の時刻は朝の八時。お告げの時間は十二時からだが、できる限り余裕を持たせて不測の事態に対応をしたい。
「で、アケノ? その符は?」
さすがに『衛星アンテナ』と『通信傍受』だけでは厳しい。どういう事態になるのかもわからないので、専用の符をさらに作成する。
「そうだね、傍受だけだと不安だから、『中継アンテナ』と『ブースター』を、後受信機となる水晶に『4Kテレビ』を……」
うっは、貧乏リーマン時代には絶対に考えられない贅沢仕様の装備がここに整うことに。
「それで、それらをどうするの?」
その言葉に、地図を広げる。簡易的な王都のものだ。
「王城が真ん中、この宿が大体北の外延部よりちょっと内側。中央広場からもかなり距離がある」
中央広場の名にふさわしく、王城の南門前に広がる場所をそう呼ぶ。いわゆる俗称という奴だ。
「会場がどの場所にあるかわからないけど、大体王城中心部と仮定。あのマジックアイテムは遠くに映像を飛ばすとそれだけ魔力が多く
必要になる」
レマクラフトも最高速度を出すためには魔力の対かが必要になる。なので、大きく画面を移すことを考えると、できる限り距離は短く
したいはず。
「なので、『通信傍受』と『中継アンテナ』の符を中央広場を囲う建物の屋根に貼って、北門の方へ向かって『ブースト』で魔力を増幅
して飛ばす」
後はそれを『衛星アンテナ』で受信、さらに『4Kテレビ』で受信。問題はそれを映す媒体だけど……
「先輩! 見つけてきましたよ! ちょうどいい大きさの板と黒い塗料!」
「でかした、さっそく片面だけきれいに塗りつぶしてきて」
あれでテレビの代わりができる。
「ところで、クロックとフィアナは?」
「ああ、二人には今ちょっとだけお仕事を頼んできてる」
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
「どうですか、クロック様?」
「いや、様付けじゃなくていいからね? 条件と合致してるし、何よりも何かあっても気づかれない」
アケノ様に依頼された仕事は、符を貼る位置の下見だ。なので必然的に高い身体能力を誇るクロック様、いえ、クロックさんと私たち
が来ている。
『しかし、こんなことに全力を費やすのはあの狐くらいだろうな』
「アケノ様は自身のなさりたいことだけに全力を注ぎますから」
それが結果としていい方向に進むのならそれでいいだろう。
「だけど、ちょっとばかり帰る前にやることがあるかな」
「そのようで」
いつの間にか、囲まれている。黒い装束を身にまとった男たちが五人。私たちの周囲にいる。
「王族に仕える密偵という奴?」
『いや、そういったものではないだろう。魔物の臭いがする』
こんな王都の真ん中に、魔物がいるのもおかしな話だ。
「言葉が通じる前提で言わせてもらうけど、何者?」
「ヨニ、コントンヲ。タマシイヲ、クベヨ……!」
その言葉を皮切りに一斉にとびかかってくる黒装束たち。
「それじゃあ、全員仕留めますか!」
クロックさんが両手に二枚ずつ符を貼る。とびかかってきた相手のうち、一体に対してその拳を振るった瞬間、爆発を引き起こした。
『反応装甲』の符が炸裂した証だ。手の保護に『装甲プロテクター』の符を貼っているので問題もなし。
私の方も初撃を回避した後、背後から襲い掛かってきた奴に対して、新たな特技を見せる。
現在、ピアとトライは私と融合した状態である。それを利用し、背中に羽を出す。
「さしずめ、ウィングカッターでしょうか?」
突然飛び出してきた羽に、黒装束が一人、串刺しにされる。
「ま、とっとと倒しちゃって、レマクラフトで中継見よう?」
「そうですね、行きますよ、ピア」
肩に小さいピアが現れる。この姿でも使う魔法は通常時と遜色がない。
かくして、黒装束と私たちの戦いの火蓋が切って落とされた。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
「さて、準備も整ったし、全員観戦準備はOK?」
私はできている。観戦用の飲み物とおつまみを用意しておいた。千果も同じくだ。
「で、クロックとフィアナ、大丈夫だったの?」
「問題なしね」
「あの程度なら如何様にでも」
どうやら何か魔物に襲撃されたらしいが、返り討ちにしておいたらしい。
「しっかし、本当にここで見ることになるとは、ね」
私は基本インドアなので外に出ないで済むならそうしたい。
「あ、始まりますよ!」
符が魔力を受信し始める。それが『4Kテレビ』の符が貼られた板に映し出される。
『これより、神の言葉を告げる。神官長、前へ』
豪奢な衣装に身を包んだおじいさんがゆっくりと前に出る。
『我らが神は、こう伝えた。
死してなお蘇りし魔王、恐ろしき力を振るい世界を滅ぼす、と』
予想していたとはいえ、魔王復活という言葉に、私と千果以外が息を飲む。
『だが、神はこうも言った。
我らが力を受けし勇者、蘇りし魔王を冥府の底に叩き込まん』
つまり、魔王を何とかできる奴を呼んでおいたからあとよろしく、ってことだろう。
その言葉を伝え終えた神官長は、そのまま下がり席に座る。
次に出てきたのはこれまた豪奢な鎧を着た壮年の男と、同じく白銀の鎧を纏った男。
『では、その勇者を紹介しよう! 我らが勇者、ロイヤード・マダルである!』
印象としては、州知事を少しだけスマートにした感じ、ハリウッドスターにありがちな外見をしていた。
「なんか、剣よりもメイスが似合ってそうな感じね」
「アメコミのヒーローっぽいですね!」
力こそパワーって感じで何もかも叩き潰す感じで。
『勇者よ、この世界の命運はそなたに掛かっておる。ここに装備を用意した。くれぐれも気を付けていくのだ!』
『ありがとうございます、王よ! このロイヤード、命に代えても魔王を倒し、この世界を救ってみせます!』
その言葉を締めとして、こまごまとした儀式を繰り返し、映像が終了する。
「それで、リリ? これからどうするの?」
ここまでわざわざ見に来たのだ。何もせずに帰るとは思えない。
「そうね、今日と明日は王都観光して、あさってレマに戻りましょうか」
っておい。
「勇者に協力をとかそういう風に叫ぶかと思ってたけど」
「いや、そういうのはもっと雲の上の人たちがやることだから」
レマクラフトの性能試験と物見遊山が目的だし、というリリに、私たちはそっとため息をついた。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
「ふむ、ここが現場か」
神の言葉を告げる儀式が始まる前に起きた騒動。現場は中央広場でも北側にある建物の屋根。
「ロイヤード様、どうでしょうか?」
「なかなかに手練れだな。リザードマンの亜種がおよそ五体、二体は爆発系の技か魔法で粉々、残り三体は何らかの手段で倒された後に
燃やされている」
屋根の一部にだけ、焼け焦げた後がある。
そしてそこにわずかに残る、爪や炭化した体の一部。それらが複数体いたことを告げる。
「あそこで死体を焼いたのだろう。二体分については破片が残っているだけだから正しいかはわからないがな」
腕を組み、考える。
神の言葉を告げられる前は冒険者として生きてきたが、これだけのことをやれるような存在は今、王都にはいないはずだ。
高ランクの冒険者には軒並み国からの勅令で様々な場所に派遣されているはず。
「実力を隠している? もしくは新たに台頭してきた連中か?」
疑問は尽きない。が、そいつらを探すのは俺の仕事ではない。
「では、任せた。見つけても丁重に頼むぞ」
戦力は多い方がいい。人はどんなに強い力があっても、一人では万の数を倒すことはできないのだから。
「願わくば、いや……」
共に歩むものであってほしい、その言葉は胸の内に仕舞っておいた。
パズルのピースも徐々に埋まっていきます。




