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二十九枚目 街道最速とおまじない

今はこれが精いっぱい。

「はっはっは、進め進めーい!」


 現在、王都への道をひたすら爆進中のレマクラフト、その車内でシートベルトを締めながらお茶を楽しむリリ、フィアナ、ピア、クロ


ックの四人。御者は千果が担当し、現在全力運転中。


 私はというと、そんな四人に対して給仕を行っております。

 揺れる、といっても十分踏ん張りが効くし、現在は街道を走っているのでそこまで揺れないので問題なしです。


「ところで、四人ともシートベルト外さないの?」

「あんたみたいにすぐ慣れると思ったら大間違いよ」


 リリの言葉に頷く残り三人。解せない。


「でも、できる限り揺らさないで急げと言ったのはリリじゃない? だから遠回り覚悟で街道を全力運転中じゃない?」


 クロックたちと車中泊をした日のこと、リリが急に急いで王都まで向かうと言い出した。


「理由、聞いていなかったけどどうして?」

「教会で、明日の正午ちょうどにお告げが降りるって告知があったの。おそらく私たちが知りたい情報が来ると思う」


 となると、魔王復活か魔族襲来かのどちらかだろう。


「仮に違ったとしても、お告げが降りるのはもう五十年以上なかった出来事だからね」


 それと尾ひれのついていない正確な情報を確認したい、とも言っている。


「確かに電話もメールもネットもなければ現地で確認するのが一番だよね」


 理由を聞いて納得。では、少し急ごう。車内の隅に設置してある魔石まで歩く。


「アケノ様?」

「千果、機関最大、全速前進」

「了解、全速前進ヨーソロー!」


 設置しておいた椅子に座り、魔石に触れて全力で魔力を流す。同時に千果がタロジロに対しての魔力供給を無制限にする。

 瞬間、ものすごいGが襲い掛かる。


 窓の外の景色が、一瞬で流れる。手元の速度計で百五十キロを計測。

 途中の緩やかなカーブで多少減速するも、基本速度は落とさずひたすら突き進む。


「だ、だれがここまで出せって!」

「いやいや、そういうイベントならいい席取らないと!」


 話によると、通常の馬車で北方都市レマと王都間が約四日。余裕をもっての移動でこの速度。

 大体の移動速度が一日百キロほどなので、おおよその距離は四百キロ程度。途中の街道部分を全力で走れば、宿場町などで速度を落と


しても本日中には余裕をもってたどり着ける。


 空を飛ぶ乗り物でもない限り、地上最速の乗り物なんじゃないだろうか、レマクラフト。


「先輩、どれくらい持ちそうですか?」

「あと二時間は問題ないかな。それ以上はちょっと厳しい」


 全力運転といいつつ結構魔力絞っているけど、それくらいでガス欠になる。魔石の中の魔力でも十分な速度が出るので、休み休み行こ


う。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 そして、日が暮れる。


「おう、ギリギリだったな。あと少しで門を閉めるところだったぞ」


 門番の兵士に言われ、入都のための税を払う。

 その時、レマクラフトは王都の北門に到着していた。


「よかった、全力で飛ばしてきた甲斐があったわ」


 そう、魔力が切れそうになったけど、何とか王都へ到着することができた。


「それにしてもでかいな、そのゴーレム車。盗まれないように気を付けろよ? ついでにこれ、馬車ごと泊められる宿の場所を書いてお


いたからな」

「ありがとう、それじゃ通りますね」


 タロジロを走らせ、市街へと入る。何か視線を感じるが気にしない。まあ、理由はわかる。


「これだけ巨大なものが道を走ってれば誰もが見るでしょ」


 リリが御者台まで出てくる。


「どうせ道わからないでしょ? ここから私が動かすから」

「ありがと、気を付けてね」


 中に戻ると、そこには倒れ伏している人たち。全員で交代しながら魔力供給を行った結果、魔力切れを引き起こしている。

 つまり、死屍累々。


「あとでタロジロの整備もしてやらないとね」

「というか先輩、なんでそんなに元気なんですか……?」


 鍛え方が違うというか、ある程度余力残すようにしたし。


「ま、宿で少し休めば回復するでしょ」


 ひどい、と言いながらベッドに崩れ落ちる千果。まあ、この後のやることとして、クロックの不運の原因となっているものを突き止め


る作業をしなくちゃいけない。

 魔力はいくらあっても足りないので、温存しておきたかった。


「やっぱり安定した場所で作業したいし」


 昨日の編纂作業で見えてきたけど、結構大がかりな作業が必要になりそうだ。

 そうこうしているうちに車内全体に浅い振動が走る。どうやら目的地に着いた様子だ。


「とりあえず細かい話は部屋に入ってからにするわよ。全員準備して、降りるわよ」




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「ふう、疲れた……」


 あまりの強行軍に疲れ、ベッドに倒れこむ。


 現在は王都にあるそれなりの規模の宿屋、その一室にて回復中。


「なんか、急にいろんなことが変わりすぎてわからないや……」


 寝転がりながら天井を眺める。


 商人の護衛をしていたら死にかけて、そのピンチを救ってくれたのが、アケノさんたちサポーティアのみなさん。


 やんごとなき立場のようなリリさんに、その従者なのが丸分かりのフィアナさん。

 明るいけど出自がよくわからないチカさんにアケノさん。

 立ち振る舞いからある程度の礼儀作法を習得していそうだから、その辺の平民でないことは間違いないんだけど、


「えーっと、ここをこうして、こうして……」


 そのアケノさんはいつも連れ歩いているフェネックとともに、紙に何かを書いては唸っている。

 妙に魔法に精通しているところもよくわからない要因だ。


「クロックー、何か刺青みたいの入れてない?」


 呼ばれたので起き上がって、上半身の服をはだけさせる。


「い、いきなりのストリップはちょっと……」

「ち、違います! 背中にあるんです!」


 背中に彫られているのは、先祖より伝わるまじないの文様らしい。

 その文様が彫られている背中をなでまわし、紙に何かを書き込んでから、


「いいよ、ありがとう。たぶん今夜には解決できるかな……?」


 また紙を前に何か唸っている。

 そうやってしばらく唸った後に、肩に乗っていたフェネクが、自らアケノさんと融合を行った。


 黒かった髪の毛が白く染まり、頭からはフェネクの耳が生えてくる。

 そしてそのまま床に墨で何かを書き始める。しばらく眺めていると、何かの魔法陣のようなものが描かれた。


「クロック、ちょっとここに立って?」


 言われた通り、アケノさんが指差す陣の中心に立つ。


「まず、不運の原因となってる術式が分かった」


 先ほどから見ながら唸っていた紙を見せる。

 そこには、何か炎を連想させるような文様が描かれている。その縁には小さく文字のようなものも描いてある。


「これが、クロックの背中に描かれていた文様。で、これ自体はたしかに幸運のお守りとも言うべきものなんだけど……」


 紙の裏面をこちら向ける。文様の縁にあった文字らしきものと同じものが、大きく書かれている。


「この縁の文字、フェネ君曰く古代文字の一種なんだけど、綴りを間違えてるって」


 この綴り間違いが最大の原因だということだろう。


「それで、どうするんですか? しっかりと彫られてますから直すことなんてできないですよ? 何か剥がす手段でもあるの?」


 ラビィ族に伝わる文様の義、その時に文様を彫られる。そうして大人への第一歩とする神聖な儀式。


 しかし、体に馴染んでいるものを、どうやって引き剥がすのか?


「いや、剥がさないよ?」

「じゃあ、どうするの?」


 簡単、と言わんばかりに一枚の符を見せる。


「この符を使うの」


 見せられた符には、古代語のような柔らかい曲線の文字が書かれている。


「これは?」

「ふっふっふ、作ったはいいけど使い道のなかった、『幽体離脱』の符、それともう二枚、こっちは『修正ペン」と『油性マーカー』っ


ていうもの」


 なんか、猛烈に嫌な予感がする。


「聞きたくないけど聞くよ、何するつもりですか?」


「非常に長くなるけど」

「短くまとめて」


「簡単に言うと『幽体離脱』で魂を体から一時的に出して、『修正ペン』で該当箇所の記述を削除、『油性マーカー』で正しい記述に書


き直す」


 即座に逃げ出そうとして、足が動かないことに気が付く。


「た、助けて!」

「大丈夫大丈夫。あくまでも体の表面に魂を出して、そこを修正して肉体へ反映させるだけだから問題なし。フェネ君もそう言ってる」


 だったらなんで今私動けないの!?


「いや、暴れると危ないから麻痺陣を。それとなんとなく逃げるような気がしたから」


「悪魔か!?」

「キツネツキです」


 面白くもなんともない、と抗議を上げる暇なく、体に『幽体離脱』の符が貼られる。

 次の瞬間に、意識が体の外に引っ張られ、目の前が暗くなる。

 大体数秒くらいたったあたりで視界が回復。そして見えるのは、目を閉じているラビィ族の顔。


「これ、私?」


 見覚えのある服に、グローブ。まさしく私だ。


「それじゃあ施術するから」


 そのまま魂の抜けた私の肉体を担ぎ、ベッドへ向かう。その体が移動するごとに、私の魂? も引きずられる。


「一時的に表面に出してるだけだから、体からは離れられないと思うよ」


 アケノさんが二本の羽ペンに先ほどの『修正ペン』と『油性マーカー』の符を巻きつける

 そして魂に背中があるのかわからないけど、アケノさんが私にその羽ペンを向ける。


「それじゃあ、痛くはないと思うけど、何か少しでも嫌な感じがしたら言ってね」


 魂の体である私に羽ペンが突き立つ。少しくすぐったいような、そんな異物感。だけど害があるように感じない。


「うんっ……んっ」

「いや、悩ましい感じの声は少し勘弁して」


 意識しているつもりはないのだけど、ペンが私の魂に突き立つたび、むず痒いような感覚が走るのだ。

 きっと魂だけになったから、ダイレクトに感触が伝わるのだろう。


「ん……魂を取り出す法が外法と言われるのも納得……だわ」

「だから声がエロいです」


 しょうがないものはしょうがない。

 この後、都合二時間ほど私は魂のみの状態で羽ペンを突き入れられ続けるのだった。


 さて、これで幸運がしっかりついてきてくれればいいのだが……

 今まで真剣に祈ったことのない先祖に対して、初めて真剣に祈るのだった。


なお、この小説は健全です。

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