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三枚目 脱出の森とキツネツキ

宣言通り森編は今回で終わりです。

「あれは、ヤバいね」


 フェネ君は怯えきって震えている。その原因は私たちの目線の先。豚面の二足歩行物体が歩いている。

 鑑定の結果によると、対象はオーク。よく薄い本で女騎士や女戦士を襲っているあいつだ。


 どうやらこのあたり一帯はオークの縄張りらしく、やつもその中の一体といったところだろう。

 ここ数時間で移動を繰り返しながら間合いを計っているが、森の出口方向に向かって放射状に縄張りが広がっている。

 つまり、彼らの巣を横断して森を抜けなければいけない。その際に気づかれない可能性は限りなく低いだろう。なにせ風


上に一度立ってしまったときに臭いでこちらを追尾してきそうになったからだ。


 幸いにも興味がなかったのか、満腹だったのか、こちらには来なかった。

 カードホルダーに目をやる。


「手持ちは、これだけか」


 魔法は基本の三属性に加えて、発展形である『ファイヤストーム』『アイスストーム』『サンダーストーム』の範囲系魔


法。

 鑑定はこの際捨て置くにして、カードの手持ちはフェネ君の力を再現した『結界』と『浄化』が三枚ずつに三属性下級魔


法がそれぞれ二枚。身体強化と加速が一枚ずつ。


 『結界』と『浄化』は役に立たない。ここで役に立つのは五枚分。それと範囲魔法。オークの体力も分かっているので、奇襲を仕掛ければ行けると思う。

 問題は、数だ。


「あれ一体だけならいくらでもやってやれるけど……」


 騒ぎを聞きつけてほかのオークがやってきたら? そう考えると攻めあぐねてしまうのだ。


「でも、これ以上は時間かけられないよね?」


 すでに森の外縁らしきこの場所で釘付けにされて1日、そろそろ匂いも覚えられているだろう。

 範囲系魔法をカード化する時間はなかった。今の魔力では三枚分揃えるだけで空になってしまう。


 ―――勝負に出よう。


 勝負は一瞬、カードを構える。構えるものはサンダーのカード。一番音は大きいが感電効果で動きを止められるのは大きい。

 そのままカードをオークめがけて投げる。張り付いた瞬間にカードから雷が炸裂。悲鳴を上げるオークにさらに追加でアイスの符を地面にたたきつける。

 巨大な霜柱が無数に生え、オークの皮膚を貫く。が、浅い。さらに三枚目のファイヤをオークに張り付けた後に自身もファイヤストームを詠唱する。


「燃え尽きろ、ファイヤストーム!」


 二重の炎の相乗効果で一気に燃え上がるオーク。やがてオークの動きが止まり、炭化したあたりで火が収まる。

 そのまま加速のカードを使用し、全力で森を駆ける。

 フェネ君が伝えてくれる内容は、あたりのオークがこっちに向かっている、である。

 全速力で疾走する。逃げなければこっちが死ぬ。


 そのまま三十分もの間、全力で疾走を続け、森の出口に差し掛かる。

 

「な、なんとか、撒けた?」


 フェネ君から帰ってくる返答は頷きが一つ。

 オークも撒けた様子で、なんとか命拾いしたと胸を撫でおろそうとした瞬間、


「え?」


 私は宙を舞っていた。

 加速する世界の中、眼下に見えたのは棍棒を持ったオーク、その姿は野球のフルスイングをしたような態勢。

 かく言う私は右半身の感覚が完全になく、右腕がひしゃげていた。


 どうやら、あのオークに待ち伏せをされ、ホームランされたようだ。

 どうやってフェネ君の探知を抜けたのかだったり、この後の自分はどうなるだろうとかそんなことを考えていた。


 そして、地面に激突。肺の中の空気を全て吐き出してしまう。呼吸がままならない。すべて痛みのせいだ。

 ひゅうひゅうという呼吸音の中、オークがこちらに歩いてくる。悠然とだ。

 どうやら、最後の最後でしくじったらしい。親も先生も詰めが甘いと言ってきていたのにこのザマだ。


 フェネ君が私の頬を舐める。手を伸ばそうとするも、痛みがそれをさせてくれない。


 オークが私の目の前に立つ。その両手を伸ばそうとしたところで、オークに変化が起きる。


 ―――青い炎だ。突然発生したそれがオークに絡みついている。


 そのまま一気に燃え広がるその様子はオーク自身の魂が燃えているように見える。

 そして私を庇うように立つフェネ君は、その炎を身に纏っている。自身も焼かれるようにしながらオークの顔めがけて体当たりをする。


「プギィイイイイイ!!」


 響き渡る絶叫。それを契機に一気に燃え盛る炎。その光景は幻想めいていて、とても美しい光景だった。

 やがて炎が収まると、そこには炭化したオークと、力を使い果たしたように横たわるフェネ君の姿だった。


「ふぇね、くん?」


 痛みに慣れた体が、ようやく声を上げる。

 フェネ君は、ピクリともしない。弱弱しい息を吐くだけだ。


 おそらく、あの力は彼には早すぎたのだろう。

 決死の覚悟で出したその炎は、彼の命そのものだった。


「そっか、ごめんね?」


『フェネク幼体 状態・瀕死』


 鑑定の力が、今にも燃え尽きそうなフェネ君を捉える。

 このままではお互いに共倒れか。自然治癒の札で治しているうちにほかのオークが集まってくるだろう。


「ごめんね、フェネくん。ゆだんしちゃった……」


 ひゅーひゅー、と息を吐くフェネ君の体を眺めながら、私の意識も白んでくる。

 これはもうダメだ。私自身に打つ手がない。

 ちゃんと回復のイメージを明確にするんだった。


 後悔に沈みながら消えかかる意識、視界にとらえるのは最後の力を振り絞ったのか、胸元に飛び込んでくるフェネ君。


 そして体からあふれる光。体の傷が治り、今まで黒かった髪がフェネ君と同じ色の銀に染まる。頭には狐の耳が生え、尻尾も出てきたようだ。


「ってなんじゃこりゃあ!」


 思わず絶叫する。


『空川明乃 人間 状態異常:キツネツキ』


 なんか妙な状態異常追加されてますが!?


 ―――状態異常:キツネツキ フェネクが体に融合した状態。


 メッセージさん解説ありがとう。


「ということは、今フェネ君が私の中に?」


 頭の中でいつものフェネ君が頷いている。和む。

 ふむ、どうやら一種の共生状態になっているのがこのキツネツキという状態異常の様子だ。


 フェネ君は狐火の無理な使用で魂にダメージを受けていて、肉体自体は無事。

 私はオークにらめぇな一撃で肉体にダメージを受けていて、魂は健康体そのもの。


 つまり、フェネ君の体に私の魂を詰め込んで、その間に私の体とフェネ君の魂を回復させる。

 二人で一つの体をシェアして、フェネ君が回復し終わったら融合を解除するという寸法。


 これがキツネツキの状態異常であり、現在フェネ君の魂は、私の脳内お花畑で絶賛走り回り中だ。

 あ、お願いだからあまり荒らさないでね。


 本来の能力はフェネ君が隊商を全部を乗っ取って操る寄生技だけど、今は力を貸してくれている様な感じだろう。

 おかげで私自身の能力も加わって、今まで以上に戦えそうだ。


 おっといけない、これ以上ここにとどまるとあっちの茂みからオークが飛び出してくる。

 そんな奇襲ぐらい、フェネ君式気配察知術が教えてくれる。


 ―――合成魔法が解禁されました。両手の魔法を合わせて複合属性魔法を放てます。


 実感ないけどレベルが上がったような感じか。だったら頭に過った魔法を試してみることにする。


 引き抜くカードは四枚。

 結界をオークの足元に投げ、動きを封じる。暴れるオークが結界を壊そうとするが、それよりも早く三枚の攻撃魔法を投


げる。

 ファイア、アイス、サンダーがそれぞれオークに張り付き、光を放つ。


 ―――複数属性を合成すると、光属性か闇属性になります。三つ以上の属性を混合すると自動的に闇属性になります。


「即席合成術『混沌の海』だ!」


 カードを介した合成魔法。本来混ざるはずの無い属性を混ぜることで、疑似的な闇属性の魔法、混沌を作り上げる。

『混沌の海』と命名した魔法は、合成の過程で出来上がる混沌に対象を巻き込んで崩壊させる魔法だ。


 崩壊に巻き込まれ、消滅するオークを眺める。


「おおう、すごい威力……結界で抑えてなかったら森が大変なことになってた」


 結界で区切った部分がクレーター上にえぐれており、威力の大きさを物語っていた。


「フェネ君……ありがとね」


 森の外に向けて走り出す。走りながら加速のカードを作り、使用する。

 ダメ押しで身体強化の札も使って一気に駆け出す。


「それじゃあ、一緒に行こう!」


 こうして、後に知ることになる北の大森林の冒険は終わった。

 得たものは力の使い方と生きる術。そしてこの世界にやってきて出来た、かけがえのない初めての友。

 生きよう。わずかに見える森の終わりに私は駈け込むのだった。

彼女達の旅は、続きます。


※少々思うところがあり4/26修正しました。

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