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二十八枚目 道連れの旅

盗賊どものおかげで臨時収入を得たので、懐は温かいです。

「ほれ、これが報酬な。いや、ずいぶん強いんだな、あんた達」


 宿場町の兵士詰所に盗賊どもを引き渡したのが、大体日も落ちかけた頃。全員が臨時収入でホクホクしていた。


「さて、依頼は一応完遂だな。ありがとうよ、クロック。それとクラン・サポーティアの面々!」


 去っていく商人さんを見送る。どうやらクロックさんの依頼はこの町まで商人さんを送り届けることだったらしい。

 報酬らしきものを受け取り、息をつくクロックさん。


「すみません、いろいろ助かりました」

「いいのいいの、こっちも儲けたし」


 取り分について相談した際、こっちが八割貰っているので懐のうるおい率が高い。

 そういったわけでこちらとしては十分なのだが、


「それでも私が納得いかないので、せめて何か奢らせてください!」

 と、息まくクロックさんに、全員が押し切られる。


「ま、しょうがない。こういう時は素直に奢られましょう、先輩?」


 何か千果が理解を示している。私より上下関係関連の厳しい場所にいたから、何かしらの理解があるのだろう。こういう時は素直に従


っておこう。

 そうして案内されたのは大きめの酒場。


「おう、悪いな! 今日は貸し切りなんだ。すまないが他を当たってくれないか?」


 少し残念に思いながら、三件ほど酒場を回る。結果は全滅。


「ま、まあそんな日もあるわ」

「いえ、申し訳ありません、私の不幸がご迷惑を……」


 すごく落ち込んでいる様子。


「私、いつもこうなんですよ……」


 何やら重症らしい。何か幸運に関するパラメーターでも落としたのだろうか? それともダイス判定が非常に厳しいのだろうか?

 と、そこで感覚の眼が彼女にまとわりつく違和感を見つける。


「ふむ?」


 じっと目を凝らしてみると、クロックさんにまとわりつく何か黒いものが見える。

 さらによく見ると、鎖のようなものや文字が渦巻いているようなもの、ヘドロのようなもの、

 共通していえるのは、何かの魔力がびっしりとこびりついていることである。


「……フェネ君、あれって?」


 フェネ君はしばらく首をかしげていたが、少しして私に融合をしてくる。大体十秒ほどでキツネツキ状態は終了した。


「えっと、あれは全部が幸運のお守りなんだけど、一つの構成を間違えた術が周囲すべての術を反転させていると?」


 つまり、反転している原因を特定しないといけないのか。この様々な魔力が絡みついている状況でか?


「あとはてっとり早く全部解呪することだけど、そうすると加護ごと消してしまうから危険と。加護って?」


―――加護とはその個人が生まれた時から持つ、魔法に対する防御機構です。


 魔法に対する免疫を引っぺがすようなものなので、実行すると大変危険ということが分かった。ありがとう謎ボイスさん。


「うーん、クロックさん。落ち着いて聞いてほしいことが……」




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 宿は残念ながら取れなかった。しかし、代わりに大きな空地を交渉して貸してもらった。

 宿場町で宿屋に泊らず、馬車泊という前代未聞の状態になっている。


「下手な宿屋よりも豪華だからいいか。レマクラフトがあってよかったね、ピア」


 横では、ピアが光の槍で素振りをしている。その体には『体に見合った重さ』というなんだかよくわからない符が貼られている。


「ひめさま、おもさがある」

「ふむ、魔力を重さに変換しているのか。しかも体を構成する魔力の量で重さまで自動で調整するとは」


 よくわからないが、アケノ様はまた符術の無駄遣いをしている様子。魔導士の幽霊さんもその技術力の高さに唸っている。


「少し槍が下がり気味だから、もう少し上げて、脇を締めるように」


 重さを得たことで、どうも体力の消耗という問題が出てきたようだ。ここは徐々に鍛練を積み重ねよう。

 現在、馬車の中では治療が行われている。と言っても外傷の治療ではなく、複雑に絡み合った加護を紐解いてクロックさんの不運を取


り除くんだとか。


 そうやって、基礎トレーニングを続けていると、リリ様がレマクラフトの後部ドアから顔を出す。


「フィアナ、ピアー? そろそろご飯にするから、切りのいいところで終わらせて戻ってきてね」


 今日の食事当番はリリ様とチカ様とのこと。


 正直に言おう。リリ様の料理は非常に不味い。今までは私が補佐として致命傷を避けるように調理をしてきた。

 煮たり切ったりなどの下準備は完璧なのに、なぜか出来上がると不味い。だから今まで私が尽力していた。


 レマの街でも基本は食堂や宿のご飯で済ませていたので、自炊ということをせずに暮らしてこれた。


 ちなみに昨日の食事当番はアケノ様。

 何か叫びながらかき回していたが、出てきた料理はまともだった。


「腕パンパンで死にそうだけど、マヨネーズ作ってみた」


 あの白いソースと芋のサラダは非常においしかっただけに、今日という日の食事が怖い。


「せめてチカ様が料理上手でありますように……」


 ピアが私の袖を引っ張る。その表情は大丈夫? と言っているようだった。

 レマクラフト車内へ戻ると、顔が赤いクロック様と、心なしかツヤツヤしているアケノ様が席についている。


「どうでしたか、アケノ様」

「久しぶりに大物触らせてもらいました」


 その言葉にクロック様が胸を隠すようにする。腕に押されて、もっちりとした胸が揺れる。


「え、なに? うらやましいって? 大丈夫、ピア。あなたはこれからだから、ね?」


 バンシーが成長するかわからないけど、頭をなでておく。


「ところで、アケノ様、成果のほどはどうでしたか?」

「うーん、少しこんがらがってるから、今は系列ごとに整理してる最中。これだけでも不運がだいぶ打ち消されるはずだから」

「幸運のお守りやらいろいろ買いあさってまして……それらが全部作用してるらしいので」


 少し恐縮するようにクロック様が体をよじる。


「三人とも、ご飯できましたよー!」

「いやーチカって料理上手なのね、見直したわ」


 キッチンから持ってきたのは、赤いソースで煮込まれた、骨付き肉といった感じの料理だ。


「特製鶏肉のトマト煮です、さあさあ、じゃんじゃん食べてね?」


 トマト、というのは聞き慣れないが、鶏肉の煮物料理というのは理解した。甘酸っぱい香りに、鳥の臭いが混ざって非常に食欲をそそ


る。


「久しぶり、千果のトマト煮。大変だったでしょ?」

「いえいえ、そこはリリ先輩が頑張ってくれましたから」

「まさかあのキラーレッドを料理に使うなんてね、初めての体験だったわ」


 ……はい?


「うん、おいしい。見事に完熟トマトだわ」


 キラーレッドを? 料理?

 甘酸っぱい匂いを出す果実をつけ、匂いにつられた獲物を捕まえて捕食する獰猛な食獣植物?


 大きさによっては人間の子供を襲う魔物のキラーレッド?


「トマトって結構暴れる植物だったんですね先輩。初体験でした」

「うん、おかわりある?」


 いっぱいありますよ、とおかわり分を盛りに行くチカ様。リリ様もおっかなびっくりながらも鶏肉を口に運び、頬を緩める。

 クロック様は最初こそ固まっていたものの、パンにソースを付けて一口食べると、

 そのまま何も言わずに鶏肉とパンを勢いよく食べ始める。


 ピアに至っては口の周りをソースまみれにしながら食べている。とりあえず口を拭いてやり、自分も一口食べる。


「……むう」


 赤い酸味の効いたソースに、鳥の油が程よく混ざり、まろやかな味を醸し出している。

 また、鶏肉もただ煮たのではなく、下味をつけた後に小麦粉をまぶして焼いてから煮ている。


 結構手の込んだ料理だ。


「リリさんが切ったりトマトの湯むきとかそういうのが得意で助かりました!」

「ふふふ、下処理の達人とは私のことよ」


 助かった、チカ様が料理上手で本当に助かった。心からそう思った。

 でも別な意味で危険だとも思ったが、美味しいので胸の内にだけ秘めておく。


「でもリリ先輩、あんな大物仕留めてくるとは思いませんでした! なんて名前の鳥なんですか?」

「ああ、ビッグダックってやつ。前アケノが料理してくれた時おいしかったから、ね」


 前略おじい様、話半分で聞いていた武勇伝にあった「魔物の肉は意外にうまいぞ」をこの身で実践することになるとは思いませんでし


た。


「でも、美味しい……!」

「ええ、久しぶりにお肉食べたので、非常においしいです!」


 客人の遠慮の減ったくれもないクロック様が骨ごとかじる勢いで肉を食べている。食事面でも不幸だったようだ。


「それで、クロックはこれからどうするの?」

「私が責任もって解呪するので、強制連行」


 アケノ様が胸を張って宣言する。横でクロック様が驚いているので、完全に承諾なしで話していますこの人。


「無い胸突っ張ってるんじゃないの、で、一応アケノが言うところもあるけど、途中で放り出したくもないのが本音。どう? 王都まで


一緒に行かない?」


 その言葉に、しばらく考え込み、顔を上げるクロック様。


「では、よろしくお願いします。一応拳士でもあるのでそのあたりの魔物には後れを取りません!」

「ぜ、前衛だ……前衛が来たぞぉー!」


 チカ様が叫び声を上げる。アケノ様が感慨深げに頷き、リリ様がピアを肩車して回る。


「ど、どういうことでしょうか。フィアナさん」

「リリ様とアケノ様はマジックハンターに符術士で後衛職、チカ様は土魔法と投擲術の使い手で後衛職、

 私とピアは前衛もできますけど基本は投槍や魔法による後衛向きの戦闘スタイルなので……」


 どんな形であれ前衛を支えられる職業が来るのがうれしくてしょうがない。


「よく、そんなバランスの悪いクランが成立しますね……」

「集まるべくして集まりましたので、それにメインは他のクランのサポートを行うことですから」


 だからこそ、サポーティア。直接戦闘能力では一歩劣るが補助ならお任せあれ。


「……でも、近接なくても殲滅戦ならかなり強いですよね?」


 その発言には、無言を貫いておいた。


「ええっと、未熟者ですが、クロックといいます。しばらくの間ご厄介になります」

「よろしくお願いします、クロックさん!」

「ま、前衛よろしく、クロック」

「寝る前にも少し作業するからそっちもよろしく!」


 ともあれ、狐に鼠、犬に烏、果てはバンシーのチームに、ウサギが加わるのだった。

 私も盛られた分のトマト煮を食べ終え、一息つく。


「ほひゃあ!?」


 奇妙な叫び声にクロック様の方を見ると、ピアが胸を揉んでいた。


「こら、ピア? 柔らかかったって、そうだろうけどね? ちゃんと許可を取ってから、ね?」

「い、いつもこんな感じ、何ですか?」


 これが、概ねいつも通りです。

そう、こうやってウサギ一人養うくらいには。

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