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二十七枚目 ウサギさんとサポーティア

サポーティアは新しい技術の開発に余念がありません。

 レマクラフトの乗り心地は全力運転さえしなければ精密作業ができるほどに振動が少なくていい。


「そう、こうやって符を書いていても手元がぶれない」


 懐に仕込む符を何枚も書きながら、レマクラフトは街道をほんの少しだけ外れた場所を行く。


「で、なんで街道を外れた場所を?」

「目立つからよ、これ」


 それに不整地でも走れるなら街道をショートカットしても問題はない。


 問題は、ただ一人。


「先輩、だれも見てないなら全力運転で」

「やったら『味覚音痴』の符貼って一週間放置の刑」


 一瞬でおとなしくなる千果。そう、このスピード狂が最大の問題だ。


 気を抜くと全力運転したがるのが厄介で、作業もへったくれもなくなるのが痛い。

 どうせ今は急ぐ旅でもないのでもう少し優雅なレマクラフト旅を堪能したい。普段やれないようなことをしっかりやって準備を整えて


おきたい。


 さて、今回新たに作った符は『反応装甲』の符と『装甲プロテクター』の符。

 どっちも防御系だが、用途が異なる。


 まず『反応装甲』だが、これはくらった瞬間に外向きの爆発が起動し、向かってきた衝撃を殺す仕組み。


 近接戦で使うと爆発ダメージを相手に与えつつ防御できる代物。しかし自分もダメージを受ける欠陥があるので、これは王都のギルド


で売り払おう。


 きっと体力自慢の猛者が使いこなすだろう。


 そして二枚目の『装甲プロテクター』については、受けた衝撃を自身が割れることで殺すタイプ。


 無論、耐久力を越えない衝撃の場合はそのままはじき飛ばしてくれる。これは懐に入れつつ量産しよう。

 私たち全員が防御力に不安を抱えているので、少しでも底上げをしておこう。そのうえで余った分は売りに出しておこう。


 防御用の符はこれくらいにし、続いて攻撃用の符。


「というわけで、用意したのは『光の剣』と『衝撃波』の符……」


『光の剣』は符というか、恒久的に使える武器を目指した結果、柄だけの木の棒に安定用の魔法陣を書き込み、握りのところに符を巻き


つけたものとなっている。

 これで魔力を込めると光の刃が現れる構造になる。全員が万が一の事態に備えて携帯することにした。


 フィアナが槍状に改装したものを何本か持っておきたいとのことなので、今後も改良を続けることにする。


 そして『衝撃波』の符なのだが……勢い余って作ってしまった。使い方としては相手に当てて使うのと、文字通り衝撃波を飛ばす二通


りの方法。


 前者はおそらく打撃武器にセットする形になるだろう。後者は後衛の人がとっさに使う近接防御用となる予定。


「でも、『ヒール』の符がうまくいかないのはなぁ……」


 あれだけ治療現場で見本を見たヒールがうまく作れないのが痛い。あれが出来れば緊急時の対処もだいぶ変わるのに。


「足りないのは、何だろうね?」

「私もヒール使えないし、ピアも治療士の幽霊から教わってる最中だってさ」

「ま、これの開発は焦らずに行ってく。そっちはどう?」

「街道外れてるからとくには何もないわ。せいぜい見張り番の子が風に当たってはしゃいでるくらい」


 リリーズの二人が屋根に上がって異変がないか確認している。正面はチカが監視しているが、ほかの方向に異変がないか確認しないと


いけない。


 そうやって進むこと、大体一時間ほど。街道ショートカットが終了し、合流しようとしたとき、右側観測中のリリーズが報告を上げる



「馬車が一台が襲撃されてる!」

「現場の状況と襲撃の規模を確認! 妖精の目の使用を許可!」


 反対側の監視はそのまま継続させて、リリがさらに二人呼び出す。その三人が共同して襲撃状況をチェック。


「襲撃されている側は荷馬車です! 車輪がやられてます!」

「襲撃側の人数は七、馬車側は二! 荷馬車側の二人はラビィです!」

「襲撃側の身なりから盗賊団と推定です!」


 矢継ぎ早に繰り広げられる報告に、リリが少しだけ考える。


「どうする?」

「チカ、行ける?」

「大丈夫です、問題ありません! タロジロ、全力運転!」


 ゴーレム故に声こそ上げないが、生物だったらさぞかし立派な吠声を上げていただろう。


「全員、何かにつかまって!」


 次の瞬間、レマクラフトが加速。上にいたリリーズがひゃー、と言いながらしがみついている。


「あいつらは大丈夫。なんだかんだ言って私より身体能力あるから」


 椅子にしがみつくリリは若干余裕がない。


「リリ様、屋根からいつでも援護できるようにします」


 フィアナはずいぶんと順応早いですね。ピアも屋根に上るための梯子を上がっている。


「姫様、魔法とは心の眼で狙うものですからな」


 お付きの魔導士幽霊がピアにアドバイスをしている。


「投槍よりも遠くに届くから便利ですよね」

「千果、あとどれくらいで?」

「三十秒ほどで!」


 上等。私も立ち上がり、後部のドアを開く。


「すれ違いざまに私がエントリー、千果はそのままUターンして再度突撃。停車後リリーズと一緒に制圧かな?」

「それでいい、荷馬車側はどっちも前衛だから、協力して時間稼ぎよろしく」


 残り十五秒、そこからピアが放ったと思われる炎の球が襲撃者の近辺に落ちる。

 フィアナが投槍の射程に入った瞬間に第一投。それは寸分たがわずに襲撃者の一人へ命中。

 そこでようやく、襲撃者は突撃してくる存在に気が付いた。


「騎兵隊だぁ!」

「騎兵じゃないでしょうが!」


 千果が叫ぶと、レマクラフトの進路から一斉に襲撃者が逃げる。その瞬間、私は後部ドアからジャンプ。

 素の跳躍力だと心もとないので『ライダージャンプ』の符を使ってから飛び降りた。


「らいだーじゃーんぷ!」



○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 ラビィとは、幸運の種族と言われている。

 その大きく長い白い耳。身に降りかかる厄を耳で捉え、その赤い目で見えざるものを見ると言われている。


 だけど、私はその両方を持っているはずなのに、運がない。

 見えないし、聞こえないのだ。周りのみんなが持っているはずのものを、私だけが持っていない。


 道を歩けば財布をスラれ、取り戻した財布をそのままドブに落としたり、ギルドで依頼を受ければ採集依頼なのに魔物に襲われたり、

 討伐依頼に出れば討伐対象の魔物以上の魔物がセットでついてきたりと、ついた二つ名が『不幸』である。


 今回だってそうだ。安全な街道を通る、荷馬車護衛とギルドから聞いていた。

 実際はどうだろう? こうやって盗賊の襲撃を受けている。


「だ、ダメだ! このままだと不味い! 何とか逃げないと!」

「無理、囲まれてる!」


 依頼人の商人も、慣れない剣を必死で振っている。

 嬲るように攻撃しては逃げを繰り返し、こちらの消耗を誘っている。


 先ほど荷馬車の車輪を壊されたので、強行突破も出来ない。


「万事、休すかな……?」


 覚悟を決めた瞬間、私の耳が聞き慣れない音を複数とらえる。


「大きい獣の足音と、風の音?」


 しかも、だんだん大きくなってくる。音のやってくる方向を見る。


「騎兵隊だぁ!」

「騎兵じゃないでしょうが!」


 何だろう、あれ。

 馬並に大きい二匹のオオカミが引く、なんというか、銀色の小屋?


 そこから飛んできた炎の球と槍。

 炎の球は外れたが、槍は盗賊の一人に命中した。


 馬車のようなものはというと、そんな攻撃などお構いなしに突撃を続ける。

 って、そんな大きさのものがこっちに突撃してくるって、私たちも危なくない!?


「うわわわわわ!」


 そのまま盗賊たちを蹴散らす勢いでその馬車? が通り過ぎたとき、我に返った一人の盗賊が私に向かって突進してきていた。

 あ、これはダメだ。対処が間に合わない。


 相手の持つ剣を迎撃できない。このまま脇腹を刺されて終わりだろう。


「かーらーの、ダブル『空川コレダー』!」


 空から降ってきた一人の人物が、両手を前に突き出して、私に向かって突撃して来ていた盗賊に触れる。

 同時にものすごい音とともに電撃が盗賊の体を焼く。


「ぎゃあああああああああ!!」


 絶叫が響く中、降ってきた人物は手元に紙のようなものを構えて私の前に立つ。

 白銀の髪に、フェネックの耳を生やした後姿。


「テメエ! 何者だ!」

「符術士だったりして!」


 彼女が符を振るい、あたりに炎が巻き起こる。


「立てる、私後衛職だから援護に徹したい。だから前衛お願い、バニーさん!」


 符術士と名乗った人に、符を腕に貼られる。次の瞬間、全身に力がみなぎり、疲弊した体が嘘のように動くようになる。


「一時的な処置だけどね、三十秒時間を稼げばこいつら全員倒すことができるから!」


 それを聞いて安心した。足に力を入れ、真横に跳躍。自慢のこぶしを叩き込む。


 瞬間、景色が吹っ飛ぶ。普段なら跳躍しても数瞬かかる距離を、一瞬以下で通り過ぎて盗賊に肉薄。

 それでも体は反応したらしく、そのまま拳を盗賊に叩き込む。

 

 勢い余ってハードレザーの部分を殴ってしまったが、拳には問題ない。

 むしろハードレザーの部分が大きく凹ませて盗賊が吹っ飛んでいった。


「あれ?」


 吹っ飛んでった盗賊を全員が見る。私自身もあまりの威力に目が点になる。


「……さ、さすが『リミッター解除』さん、半端ないっす……」


 銀髪の符術士さんが何かを呟く。


 全員が硬直する中、先ほどの馬車? が戻ってくる。

 屋根におんなじ顔をした小さい子が二十人ほど乗った状態で。


「全員、一斉射!」


 響く掛け声と、殺到する雷の矢に残りの盗賊たちも一斉に打ち据えられる。

 そこで馬車? がゆっくりとその爆走を止めて停車する。


「えっと、なんかとんでもないことになっちゃったけど、大丈夫?」


 これが私と、ちょっと後に知ったクラン名・サポーティアの初めての出会いだ。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 壊れた馬車があります、応急修理してけん引しますか?


「無論、けん引する、と」


 盗賊たちを縛り上げ、ついでに盗賊たちに『爽快快眠八時間』と書いた符を貼る。これで八時間は目を覚まさないだろう。


「次の宿場町で引き取ってもらえばいいから、大体後四時間くらいで着くしちょうどいいくらいね」


 そんな彼らはというと、ひとまとめにして荷馬車に括り付けてある。

 鈴なり盗賊団さんが寝息を立てて荷馬車で揺られています。


 荷馬車の持ち主さんと仮称バニーさんことクロックさんはレマクラフトに招待している。


「フィアナ、御者お願い」

「先輩、いくら私でも来客中は自重しますよ?」


 うん、信用できない。


「いやはや、こんな立派なゴーレム車をお持ちとは、さぞかし名のあるクランなのでしょうなぁ」


 はっはっはと笑う恰幅のいい商人さん。


「か、体が、気が抜けて痛みが……!」


 さっき使った、というか貼り付けた『リミッター解除』の影響で筋肉痛になっているクロックさん。

 現在はベッドに寝かせて、私が看病している最中だ。


「大丈夫? さっき使った符は体の限界を超えて動けるようにする符だったから、ごめんね?」


『ばんそうこう』の符を貼り、ダメージ回復を図る。横ではピアが回復の魔法の実験台代わりにヒールをかけている。


「最近の商売はどうですか?」

「ぼちぼち、ですね」


 商人さんとリリが若干の探り合いをしている様子。

 間に見えない火花が散っているようだ。


 千果が隅っこで拗ねているが、あとで慰めればいいので、今は放置。


 こうして、こんな騒がしい状況が続きながら、予定通り馬車は四時間で宿場町にたどり着いたのだった。


しかし、新たな技術には尊い犠牲がつきものです。

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