二十六枚目 ドリーム馬車プロジェクト完成編
馬車もといホバークラフト完成です。
「ぜんたーい、進め! 全力疾走!」
現在行っている作業は、ゴーレムの試運転だ。と言っても人間型ではない。
「タロ、ジロ、止まれ!」
走っているのは、犬というかオオカミだ。それも馬サイズの。
指示を聞いて、その場で急停止する姿は動物にはできない動きだが、それ以外の部分は完全にイヌ科の生物だ。
「こらこら! お座り! よしよし!」
ああやって、千果にじゃれついている姿からゴーレムとは思えない。
「あのレベルになるとゴーレム召喚も生き物になるのね……」
現在はピアがタロと名付けられた黒いオオカミにまたがっている。なお、千果はジロという白いオオカミにまたがっている。
「リリ様、お待たせしました。必要な作業は終わったので、あとは加工のみだそうです」
リリが確保してきた鉱石。おそらくゴブリンたちもどこかに送っていたと思われる金属。
「ミスリルの生成作業はうまくいったみたいでよかったわ」
千果のゴーレム作成を見ている間、フィアナは採掘してきた鉱石をミスリルに生成する作業を行っていた。
通常の炎でも作業自体は可能だが、生成純度が悪く時間も非常にかかる。なので作業時間短縮のため、神性を帯びた炎が用いられる。
本来はブラックバードの炎を採取し、それを火種にした炉で生成を行う必要があるのだが、
よりたくさんの炎を求めて、フィアナがトライを果物で買収して協力させた。
神性を帯びた炎そのものを使えるため、より高純度のミスリルが生成可能となったため、工房一同で大ハッスルしているとのこと。
私も手伝おうと思ったのだが、残念ながら狐火では神性が足りないらしい。
これで馬車の細かい部品と外装が出来上がる。
「でも、先輩、あれを馬車と言っていいんでしょうか?」
「いいの、いざとなれば馬でも引けるし」
最高の馬車を作る話がどうしてこうなった。完璧自分のせいなのでそれ以上は何も言わないでおく。
「おーい、アケノ! 符の配置はこれでいいのか!?」
馬車の土台となるミスリル製車台に貼り付けられた『ホバークラフト』の符。しかし、土台の中央にそのまま貼られているのを見て、
これでは足りないと思った。
とりあえず四隅に符を貼り、魔力を通す。車輪に支えられていた土台が浮き上がる。
「どう?」
「少し真ん中よりに合わせてほしいな。このままだと中央部の重さを支えられない」
『ホバークラフト』符を五枚にしてもいいのだが、そうすると魔石の供給魔力の割り当てが厳しくなる。
理想的な配置を考えて、思考錯誤することに時間、全体を均一に、効率よく浮かばせられる配置が完成する。
「これで良し、あとはこれに外装と内装を付けて整えるんでしょ?」
「まったく、馬車じゃなくて移動要塞だ、こいつは。外装は総ミスリル製、最新技術を惜しげもなく使い、軽く宙に浮かぶゴーレム車。
古代遺産レベルの代物だな」
曰く、アーティファクトレベルの馬車。しかし、馬車だ。剣とかの武器や防具ならわかるけど、馬車。
確かに車両は財産だけどさ。
「先輩、ならそのうち作ったらどうですか?アーティファクトクラスの武具を」
「やるとしてもそのうちね」
かなりの労力使いそうだし、自分で使えないものを作っても意味なし。
「さて、あとは作っておいた壁を合わせたりする作業だからな、しばらくアケノの出番はねえな。今日のところは戻っていいぞ」
それじゃ、お言葉に甘えて戻ることにしよう。
まだ作業のある千果を残し、先に宿屋に戻ることにする。
帰り道に考えるのは、魔王復活の可能性。
伝承によると、勇者が誕生するとき、封印された魔王もまた復活するんだそうな。
今はこの平和な感じだけど、いつかは戦乱に包まれるんだろうか?
少なくとも、魔物を使ってミスリルを集めている奴らがいる。果たして、世界はどう転がるのか、それは私にもわからないが、この世
界に来た意味が、このあたりにあるかもしれない。
「ま、難しいことはその時に考えよう。おじさん、串焼き頂戴」
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
そして、一週間の時が経ち、ついに馬車、という名のホバークラフトゴーレム車が完成する。
「しかし、凄い外見ね」
「銀色に輝く車体、引っ張る厳ついオオカミ……いい」
何かうっとりしているフィアナは放置しよう。
「肝心の車内は……」
車内はうって変わって、木材によるシックな内装。キッチンが供えられたリビング。それに加えて折り畳み式のベッドが四基。
さらにはトイレも作成し、ここだけで完全に生活できるように整えた。
部屋の隅にはインテリアのように置かれている青い色の魔石。『静音』と『制振』など各種快適に暮らすための魔力をここに蓄積する
。
魔石自体にも『魔力吸着』の符によって周辺の魔力を吸収して魔力を蓄積するようにしてある。
ソファやラグなども敷き、完全に動くワンルームである。
「外観は完全に動く要塞だけど、内側は普通のワンルームって感じですね!」
「実際に動かしてみてからですね」
リリは梯子を伝って天井開口部から馬車の上へあがる。フィアナはピアと一緒に『ウォーターベッド』で柔らかさを強化したマットの
感触を堪能している。
千果も御者台に設置したソファの感触に満足しながら、タロとジロと戯れている。
「試運転、行きますか?」
全員が頷く。外でもチェーストさんをはじめ、ギルドの皆様が揃っている。ヒースさんとマイスさんも同じく並んでいる。
「なぜに?」
というかどこで聞きつけた? 代表してシェーブさんに声を掛ける。
「いや、町を救った奴らのめでたい出来事なら祝いにこないとな」
「本音は?」
「どんな爆弾を作ったか確認しに来た」
信用ないですね、私たち。
「外見だけでかなりの度合いなので、この後次第で俺は倒れる」
「そうそう難しい技術はないですよ?」
せいぜい浮くぐらいで、真新しいことは何もないはず。
「それじゃあ動かすよ!」
ピアがインテリアのように置かれた魔石に魔力を軽く流す。それを合図に床板と底面土台の間に書かれた魔法陣の流れに従って魔力が
流れる。
見えないところの技術だが、魔法陣はフェネ君とトライが頭をひねりまくった力作だそうな。
ただ、外から一切見えない場所の作業に、二匹が肩を落としていたのは不謹慎だが少し可愛かった。
「全員各部最終チェック、ベッド固定完了!」
「天井開口部閉鎖!」
「後方出口施錠よし」
「タロとジロ、準備完了!」
準備完了。千果が御者台に、それ以外は全員中央のソファに着席。
「固定具解除、発進!」
合図とともに、千果が御者台にあるレバーを倒す。同時に車輪から伸びる錘が内部に格納され、車輪のロックが解除される。
「お、浮いた」
「よし、タロ、ジロ、走れ!」
タロとジロが足を動かすと、窓から見える景色が動き出す。馬車工房を抜け、町の大通りへ、そのままタロとジロの並足で町の外まで
向かい、
「ゴー!」
全力疾走を開始。景色がすごい勢いで流れる。
「ちょ、チカ! 早い! 加減! 揺れる!」
未知の領域に踏み込んだらしいリリが絶叫する。
手元の『速度計』符によると、速度は時速百キロをマーク。これは期待できそうだ。
「風だ、私は風になる!」
道に沿って急カーブ、フェネ君が遠心力に流されそうになるのを、手で支えてあげる。
さらにもう一度の急カーブ。トライがフィアナの肩で踏ん張っている。踏ん張られているフィアナの表情は痛みを我慢している様子。
直線路に入り、さらに加速。リリが車体後部側へ転がり、壁に張り付いてGと戦っている。
さて、そろそろ限界の様子。
「千果、そろそろ速度落として、市街地に入るから」
「アイサー!」
徐々に速度が落ちて、大体六十キロ程度にまで落ちる。
「大丈夫?」
「なんで、あんたは平気なのよ」
「慣れてるのと、シートベルトしてたから」
ソファの隙間にベルトを埋めてあり、必要な時に装着。いわゆる車の後部座席式だ。
「そういう設備の説明は先にしなさいよ!」
いえ、していましたが聞き流していただけかと思います。ともかく、工房まで戻ってきて、馬車を再び格納する。
「……なあ、アケノ。一つ質問いいか?」
馬車を降りて、シェーブさんが質問を投げかけてくる。
「これは、お前のところで馬車というのか?」
「言わないですね」
そのまま、シェーブさんは頭を抱えた。
マイスさんは外装を拳で叩いて強度を見ており、ヒースさんは馬車搭載の魔法陣サンプルを見ながら、しきりに唸っている。
チェーストさんたちはお酒を持ち込んで、祝杯を挙げている。
私も、もちろんリリやフィアナ、千果も含めた全員が、今回のゴーレム車の出来に満足をしている。
「で、先輩。このホバークラフトもどき、なんて名前にするんです?」
この場にいる全員が、私に視線を向ける。
「そうだね、『レマクラフト』なんてどうかな?」
ホバークラフトにこの町の名前を追加した感じで。
「おおー! 先輩、なんだか馬車とは思えない格好よさ」
「なかなかいいな。この規模のものを作れるだけの技術があると宣伝ができるな」
皆様好感触。ピアも満足そうに頷いている。
ただ、ジトっとした視線を向けている存在が一匹。
「どしたの? フェネ君?」
まあ、フェネ君の視線の意味は分かる。
「いいじゃん、とっさに出てきたのがあの名前だっただけで他意はないよ。たとえそれが昔のゲームに出てきたモンスター名だったとし
てもさ」
どうやらフェネ君は脳内花畑でそのゲームをプレイしていたらしい。
とりあえずは、こうして無事にレマクラフトは完成、私たちは遠出するための足と今後の拠点を同時に入手することができた。
「さて、目指すは王都、出発は明日だ!」
騎士団の動き、その真相を知るために。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
「で、明日出発って話なのに、なにこの惨状」
いつまでも起きてこないチカとアケノ。二人の様子を見るために部屋へ行くと、二人がベッドで倒れていた。
「ご、ごめん。昨日飲みすぎた……覚醒にちょっとだけ時間頂戴」
「せんぱーい、頭がゴンゴン痛いです……」
もう面倒なのでこいつらの荷物をまとめ、フィアナに頼んでチカを担いで工房まで移動する。
「おう、レマの救世主たち、待ってたぞ……大丈夫か?」
「大丈夫です、少々飲みすぎなだけなので」
なら大丈夫だな、とギルド長が存外あっさりと見捨てる。
「我らとしてももたらしてくれた情報の確認はとりたい。これはレマギルドとしての依頼ということにしておく」
それはありがたい。
「餞別を出すことはできないが、万が一の時のためにレマギルドの推薦状を書いておいたので使ってくれ」
受け取った封筒には、ギルドの員が押された蝋で封がしてある。
「ありがたく受け取っておきます。では、そろそろ行きますね」
「ああ、いつでも戻ってきてくれ。後方援護専門の皮をかぶった武闘派クランサポーティアに幸あれ」
その言葉に苦笑するしかない。実際には前衛がいないから後方支援に徹するしかないのだけど。
レマクラフトに乗り込み、二人をベッドに叩き込む。
フィアナが御者台に座り、私も窓際に立つ。
「それじゃあ、行ってくる!」
レマクラフトが動く。どんどんと街を離れるように動く。
「それじゃ、さよなら。また会いましょう」
街が見えなくなるまで、窓の外を眺めていた。その心は、居心地のいい街だった、と。
「先輩、私はもうだめかも」
「大丈夫、二日酔いで死ぬ人はいないから」
少しはこの感傷に浸らせてほしい。心から思った。
というわけで、レマクラフトをよろしく。




