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二十五枚目 その陰の名は……

馬車の道は遠い。

「こちらスカウトチーム。目的の場所を発見。敵は三十七匹、リーダーが七匹でメイジが五人」


 その報告があったのは、坑道最深部。やや広い広間に奴らの巣があった。


「周囲に産卵している骨から推定して、こいつらは何かしらの魔物を食って生活していたと思われる」


 そのリリーズの報告を受け、総員をもって包囲網を敷く。今日一日でこの戦いに決着をつける。


「リリ様、今回のゴブリンは食べるものが無くなって坑道を占拠したんでしょうか?」


 確かに、可能性としてはかなり高い。なにせ、坑道が別の洞窟と接続してしまったというのが今回の調査で分かった。

 だから、ゴブリンと別の魔物の生息圏争いが原因の可能性が高い。だけど、それでは説明がつかないことがある。


「ねえフィアナ、持ち帰れそうな鉱石は持ち帰ってきてって話をしておいたけど、そんなに数はなかったよね?」

「ええ、せいぜいこぶし大の鉱石が数個見つかる程度でした」


 ピアもそれに頷いている。リリーズも報告としては同じ内容だ。


「で、さっきのリリーズからの報告だけど、メイジゴブリンたちは部屋の中心に描いた陣に魔力を注いでいるって。たぶんだけど、転移


系の陣だと思う」


 別の洞窟と坑道がつながってしまったと言ったが、ゴブリン側が意図して繋げたとしたら?


「それもこれも、全部、こいつらの退治が終わったらわかると思う」




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 ゴブリン退治はあっさりと終わった。

 数はいれど、しょせんはゴブリン。それに数の上でも負けていないので、はっきり言って一方的な蹂躙戦だった。


 成果としては、ピアの戦闘能力はゴブリン一体なら槍だけで対処できるレベルに育っていることだ。


 それに、トライも魂の炎という魔法で援護してくれるので、遠近死角なく戦える。


「欲を言えばもう少しだけピアに重さがあればな」


 バンシーという種族は幽霊に属するものなので、基本重さというものが存在しない。

 普段、物をつかんだり食べたりしているのは、魔力による一時的な実像を作っているからであり、そこに重さというものは存在しない


 アケノ様は「魔力で体表面を構成して、一種のサイコキネシスで物をつかんで、食べ物は取り込んで魔力に変換している」とのこと。


 よくわからないが、今頭をなでている感触も魔力で構成されたものを触っているということだ。


 そういうわけで、ピア自身に重さはなく、槍も魔力で構成しているので全体的に一撃が軽いのが欠点だ。


「ひめさま、かるいよ」

「最近はよく食べて寝るようにしていますが、育つのは魔力ばかりで……重さは増えないのです」


 ピア付のウィルオウィスプ、幼い口調のリーアがピアの周りを飛び、元騎士団員だったというアシュトンが現状を教えてくれる。


「槍を使うんだったら、重さを使った攻撃も必要になるから……」


 主な技法は突く、叩く、払う。そのうち、叩くについては重さや振り回した時の勢いが必要なので、何とかしておきたいところ。

 やはり、ここについてはアケノ様に助力を乞おう。


「リリ様が部屋に籠ってから一日。なかなか出てこないですね」


 鉱山の街なので、特に見るところもなく、ただ時間だけが過ぎる。総思っていたとき、


「フィアナ、ピア、トライ、急いで戻るわよ」


 リリ様が部屋の戸を開けて出てくる。おそらく一睡もしていないであろうことが、目の下の隈からわかる、


「あの陣の解析はできたのですか?」

「できたことにはできたけど、少し妙なものがあるから少しアケノの力を借りたいの」

「では、馬車の手配しますね。それまでの間、休んでください」


 どうやら、また面倒事の予感がする。退屈することはないな、と思いつつ鉱山のギルドへ向かうのだった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「おはよーございまーす、それじゃあ今日も事故ゼロで行きましょう!」


 作業に来た人たちが、各々の作業に取り掛かり始める。


「今日は地下の闘技スペースの破壊作業が中心でーす。最初に浄化を実施して、そこから瓦礫を除きます」


 現在、領主の館千果は地上部分、すなわち天井がすべて取り除かれて、太陽の光を浴びている。

 ところどころにある赤黒い部分や、光を浴びてなお黒くよどんだ部分もあり、そういった部分を魔導士の人たちが浄化を行う。


 先輩はというと、


「静かに成仏いたしますよう……『昇天』起動。どうか安らかに……」


 地面に符を貼り、広い範囲での浄化を行う。これが終わった後、壁や床を壊して瓦礫を撤去、さらに浄化してほかの石材に魔法で変換


する。

 土魔法の使い手が多く集まったため、作業は順調で結構なお金を稼げそうである。


「さてさて、ここが終わればほとんど仕事は終わりかな?」


 仕上げはこの地下を土魔法で完全に埋めること。そこまでやれば、あとは石職人たちが総大理石製の新領主館を建てるとのこと。


「まさしく、白亜の館……日本だったら総工費いくらだろう?」

「馬鹿なこと考えてないで瓦礫変換しなさい、千果」


 そんなこんなで、今日も元気に働き、明日には地下を埋める作業に入れそうとなったところで本日の作業終了。


「今日はどこでごはん食べます?」

「シラサギ亭のロースト定食は?」


 宿屋のすぐ近くにある食事処だけど、そこの看板メニューがロースト定食であり、パンに牛乳を使ったスープ、肉のローストが楽しめ


る比較的安価なメニューである。


 ただ、私も先輩も、何の肉のローストなのかを、いまだに聞けずにいる。


 それとなく周りの人に聞いてみたが、だれも顔をそむけるばかりであり、決して答えてくれない。


「でもおいしいんですよね、あのロースト」

「うん、そうだね」


 先輩は鑑定を持ってるから、きっと答えを知ってるはず。


「先輩」

「私は何も見てない」


 有無も言わせぬ即答だった。


「でも、三人ともなかなか帰ってきませんね。馬車の基礎作業始まっちゃいましたよ?」

「案外鉱山がモンスターに占拠されてたとかで遅くなってたりして」

「まさしくそのとおりよ、アケノ」


 声に振り向くと、そこにはリリ先輩とフィアナ先輩、それにピアちゃんとその頭の上にトライが乗っていた。


「お疲れ様です!」


 ピアちゃんを抱き上げ、高い高いの要領で持ち上げ、その場をくるくる回る。

 無表情ながらも、満足そうな顔を浮かべて振り回されるピアちゃん。トライは即座にリリ先輩の頭へ避難している。


「まったく、坑道にゴブリンが住み着いちゃってね。そいつら片づけてたら遅くなっちゃった」

「行動が広かったのと、数が多かったのとで大変でした」


 しかし、それにしてはリリ先輩の顔に出てる疲労が濃いような気がする。


「あとで確認することがあるから、とりあえず今はごはんにしよう?」

「ええ、私たちも今着いたばかりですので」


 ああ、そうだ、最後にこれだけは確認しないと。


「成果はどうでした?」

「問題なし、必要量確保してきたわ」




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 目の前に広げられたのは、魔法陣の写し。リリが見つけてきたものだ。


「どう思う、フェネ君。リリは転移系のものと言っているけど、私もそれは間違いないと思う」


 といっても知識がないので鑑定で判別した結果だ。

 脳内花畑で魔力らしい光の球をかじりながら、フェネ君がルーペを手に魔法陣を見つめている。

 やがてルーペを外し、そろばんをはじいている。しばらく計算した後、フェネ君がホワイトボードを出す。

 ホワイトボードには「よくわかる転移魔法」と書かれている。


「何々、転移魔法はA点とB点をつなぐ魔法だけど、この転移魔法は空間魔法ではなく変換魔法に近いと」


 空間に作用するものの場合は、A点とB点の間のある距離をゼロにして接続する魔法になるが、

 この陣の内容は陣の中にある物体を魔力に変換し、送信、受信側でその魔力を受け取って元の形に変換するという形式をとっていると


のこと。


「つまり、この転移陣はあくまでも物体専用で、生物を送ることができない、と。だけど遠くにまでものを送ることができると」


 満足そうに頷くフェネ君。白衣姿が眩しいです。


「そしてこの形式は魔王の軍勢である魔族が昔使用していた形式のものであり、転移先は残念ながら複数地点を経由するタイプのようで


不明、と」


 何か魔王とか魔族とかきな臭くなってきたぞ。ファンタジーのお約束とはいえ、実際に来られると困る。


「狙ったものが狙ったものだから、、よからぬことになるのは目に見えてるから、素直にリリに話しておいた方がいいってことね、わか


った」


 フェネ君の頭をなでると、気持ちよさそうに目を細めている。


 そして手から離れると、仕事が終わったと言わんばかりに炬燵と漫画本が花畑に現れ、それを器用に前足でめくりながら読むフェネ君


の姿が。


「なんというか、現金だなぁ」


 そのまま、脳内花畑から、現実側へ意識を戻す。


「で、どうだった?」

「転移陣であるのは間違いない。生物は運べないもので、転移先は複数の場所をまたいでいるから不明って感じ」


 その報告に、リリが顔をしかめる。


「鉱石がなかったのも、中央の騎士団が買い占めていったからって聞いたから、合わせると嫌な話しか出てこないわ」


 自分自身でも、その推察が正しいのかわからない、そんな表情を浮かべるリリ。


「魔族が活動しているか、勇者が誕生したか、よ」


 この時、時計の針が進む音が聞こえたような気がした。


「でも、リリ様、どうしてそんなことを?」

「中央はあくまでも王都の守護を受け持つ騎士団であるんだけど、もう二つほど顔があるの」


 リリが指を二本立てる。


「一つは魔族が動いたとき、率先して行動し、これを討伐すること」


 指が折られる。


「そして、もう一つが、勇者が誕生した際に、勇者の軍勢となること」


 リリが南の方角を見る。


「そのどちらかのために、物資が必要なんでしょう。そして勇者が誕生している場合は」


 目を伏せ、頭を抱える。フィアナも目線を下げている。


「魔王が復活したということになる」

嵐の前の静けさ。

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