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二十四枚目 少しばかりの翳り

準備は大切。

「地味な仕事だけど、一つ片づけては馬車のためー、と」


 現在地は領主館跡地。現在行っている作業は、瓦礫の撤去作業。馬車を作ると行動を初めて早三日が経過。

 ようやくギルドも落ち着いたので、新しい領主の着任前に掃除をしようということになった。

 本来ならもう少し後に手を付けてもいい作業なのだが、素早く片づけないといけない事情ができた。


 きっかけはピアとフィアナの二人だった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「いい天気ね。水あめおいしい?」


 歩きながら棒二本を使って水あめを練る私とピア。ただ、ピアはちょっと耐えきれなくなって飴を舐めてしまっているが。


「街の方もだいぶ落ち着いてきてますね」


 ピアも興味深そうにあたりを見回している。

 量り売りの豆屋に、焼き肉串を売る屋台、怪しげなアクセサリー屋や露店の野菜売りまで。


「ん? あのお店は? ああ、研ぎ屋さんね。今は用事ないけど今後行くことになるかもね」

『おい宿主、我はあの果物を所望する』


 この元ブラックバードも結構気ままに暮らしている。主食は怨霊じゃないの?


『あれは羽に魂を蓄えるための行動で、基本なんでも食べる』


 どうしても困ったときは怨霊から魔力を搾取して補うそうだ。

 露店のおじさんと交渉して、少し分けてもらう。


「はい、これ」

『済まぬな』


 ロラの実という小粒の木の実を干したものを手のひらに何粒か出して差し出すと、

 肩に乗っていたブラックバードがそこからついばむ。


『ふむ、程よい酸味がたまらん』


 そうやって、街中を歩いていると、正面に領主館の跡地が見える。

 私はあそこで奴隷として扱われ、ピアはあの場で幽霊の集合体として生まれ、ブラックバードは見世物用として売られる予定だった。

 全員が全員、数奇な運命で一つになった。だからこそ、あの場には複雑な思いがある。


『そうやって思いに浸ってるところ悪いが、白の女王が何か言いたそうにしているぞ』


 ピアが袖を引っ張っている。そしてそのまま領主館を指差す。


「えっと、このままだとまたリッチや私みたいのが生まれるって?」


 染みついた怨念が魔力を蓄えていくそうな。時々突然変異でバンシーが生まれるとのこと。


「どうすればいい、ブラックバード」

『知っているが教えん』


 何か拗ねている。こっちに目を向けてくれない。


「なに? ピア? ああ、なるほど……それは悪いことをしてたわ」

『余計なことを言うな白の女王』


 そう、私とピアにあり、ブラックバードにないもの。


「それじゃあ、貴方の名前は『トライ』よ」


 私と、ピア、そしてトライで三人で一つの存在。そういった意味でこの名前が思い浮かんだ。


『……まあ、いいだろう。我はトライだ』


 これで良し。さて、本題に入ろうか。


『ふん。簡単だ。あの地下にある建物をすべて壊してしまえばいい』


「つまり、瓦礫も地下も片づけて完全な更地にしてしまうと」


 ピアはできる限り早い方がいいと言っている。トライも同意見の様子。


「わかった、リリ様に相談してみる」




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 つまり、早く片づけてしまわないと、第二、第三のリッチ襲撃事件が出来上がってしまうとのこと。

 また、報告を受けたギルド側としても、こんな街中に魔物の巣窟を作るわけにはいかないということで、緊急性の高い依頼として召集をかけた。

 シェーブさん曰く、「ギルドの予算が悲鳴を上げているがここで何とかしないと」とのこと。


 先行投資は大事である。


「馬車が出来上がるまでは一か月ほど。リリとフィアナたちは鉱山に馬車の材料買付に遠征中。平和だ」

「先輩! 浄化お願いします!」


 千果の声に、集められた瓦礫の山へ向かう。役割分担としては、作業員全員で瓦礫を集め、私含む魔導士がその瓦礫の怨霊を浄化し、土魔法使いがそれを石材へと変換する。

 石材については今後のことを考えてほとんどを大理石にして作成するとのこと。


「ほいっと、浄化浄化」


 用意した『悪意の塊』の符を使って怨霊の源である悪意を符に吸収、その後に染みついてしまっている魂があれば、もらっておいたトライの羽で吸収をする。


「はい、完了。千果、よろしく」

「せーの、まとめて変われ!」


 瓦礫の山が、一瞬で大理石の塊に早変わり。


「いやはや、土魔法すごいね」

「先輩の符に比べたら汎用性低いですけど」

「いや、お前らの魔法はおかしいからな」


 浄化の炎という魔法で同じく瓦礫を浄化しながらヒースさんがあきれた声を出す。


「どの辺が? 普通よね?」

「ですよね、先輩」


 頭を抱えるヒースさん。将来胃痛か頭髪関連で悩みそう。


「あー、もういいや。休憩してないで作業に戻ってくれ」


 お互いに手を挙げて、瓦礫を片づけに入る。報酬もいいし、リリたちが戻ってくるまでのいい時間つぶしになるだろう。

 さて、作業作業と思った瞬間、作業場に数人の男女が乗り込んでくる。


「おい、ここにサポーティアってクランのアケノという奴はいるか?」

「あ、はい、私ですが」

「そうか、お前か……」


 何やらただならぬ雰囲気。これは少し荒事の覚悟を決めた方がいいか、と思い、右手をこっそり符ホルダーに回す。


「後生です! 符の作り方を教えてください!」


 予想外の懇願に戸惑うばかりだった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「さて、今日も今日とて頑張るわよ!」


 おー、と声を上げる総計五十人のリリーズとピア、フィアナ加えて私。


「昨日は西の坑道を中心に調べたから、今日は東側の坑道を調べるわ。毒ガスとか出てる地帯があったら即時報告。全員作業開始!」


 手に持つのは小さなピッケル。ピアとフィアナは槍をもって坑道を進む。

 事の起こりは三日前。鉱山の街に着いたのはいいのだが、肝心の鉱石が一切ないとのこと。


 在庫の鉱石も中央の騎士団抱えの職人が買占めを行ったとのこと。

 そしてその肝心の鉱山なのだが、現在繁殖力の強いゴブリンに占拠されているとのこと。


 騎士団の派遣を領主に願いだしてもまったく返答がなく途方に暮れているとのこと。

 すみません、領主様はリッチになったので退治されました。


「つまり、ゴブリンを退治してしまえば鉱石は採掘可能、ついでに私たちも買い付けできると」


 そういったわけでゴブリン退治が決まり、広い坑道の中を人海戦術で巣を探すという作業が始まった。

 ついでに表層にあるお目当ての鉱石は掘り起こしてもいいと言質をいただいたのでピッケルを装備している次第だ。


 しかし、どうにも地図にない道が掘られている様子。ゴブリンが採掘を行うのは考えにくいのだけど……


「司令官、第三班と十五班がゴブリンと遭遇、撃破した様子です」

「了解、警戒を密に。昨日は完全な空振りだったけど、今回は成果を上げられそうかな?」


 報告のあった地点から少しずつ網を狭めるようにして巣の場所を特定する。地道だが手を抜くことのできない作業だ。


「さて、何が目的なんだ、このゴブリン?」




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「というわけで、今書いて見せたのはギルドで話題の『ばんそうこう』ですが、根本的に今までの符と変わらないです」


 黒板に私が符の見本を書く。大きめの会議室に、男女合わせて十名が黒板に書いたひらがなを真似て書いている。


 あの瞬間、頭を下げてきた五人は、符術士だった。簡単に言うと私のせいで仕事を失いかけている人たちだ。


「大事なのは、効果がどういうものかをイメージして符の文字を決めることです。ただ形を真似るだけなら符術士でなくてもできます」


 実際リリも書き上げてたし『自動書記』でリリーズに書かせた時も、リリーズは魔力しか込めていなかったから、出来はあまりよくなかった。


「しかし、基礎の書には字は流れるように書くとありますが」

「言ってしまえばどんな字を書いても効果があるかはどれだけイメージできたか、に尽きると思う。だからこそ、こんなのでも効果がある」


 ミミズのような線を符に書くが、イメージでは『マッチ』と書く。

 魔力を通すと、符が燃え始める。


「こうやって、イメージして符を書くことが最重要。字の綺麗さにこだわる暇があるなら自身のイメージを磨くことが重要かな?」


 見本があるならなお良し。私もようやく神官さんの使う回復魔法を見ることができたので、今はそのイメージで符を作っている最中。


「というわけで、ここにいる人たちは私より符の効果に詳しいので、自身のイメージをぶつければ私の符を超えるものを作れるはず」


 実際に、『ばんそうこう』のイメージを伝えたところ、私以上に効果のある符を書いている人もいた。

 やはり年季の差は覆せないだろう。符に魔力を込めるときが私とは比べ物にならないくらいうまい。


 私のははっきり言うと魔力のゴリ押しだからしょうがない。


「というわけで、考えて、感じて、書くべしって言うのが私が習ったことかな?」


 主にカード化で符を作っていたときに謎ボイスさんから。


 さて、これで私の講習は終了。これを機に私があまり納品しなくても済むようにしたい。

 ここのところ腱鞘炎気味で腕疲れて死にそう。ギルド側も符を蓄えておきたいそうだ。


「じゃあ、私はちょっと訓練場に行くから。何かあったら呼んでください」


 会議室から出て、訓練場に向かう。手に構えるのは、『プロテイン』の符。二枚同時起動での全力疾走。

 からの急停止で指定位置にぴったり止まる。


「体が、慣れてきてる。フェネ君こっそり肉体改造してるでしょ?」


 肩に乗っているフェネ君が顔を洗っている。何かをごまかす時の仕草だ

 まあ、狐火がキツネツキ状態じゃなくても使えるあたりから想像はできているが。


 両手に狐火を生み出し、合成魔法の要領で統合する。そうすると、冷気を纏った炎が出来上がる。


「で、フェネ君、これが鬼火ってやつだね?」


 頷くフェネ君。同じようにフェネ君も鬼火を生み出す。試しに目標に向かって投げつけると、当たった部分が焼け焦げた後に凍結している。


「氷と炎の二重属性、しかも精神の炎だから幽体にも効くと」


 どうも調べれば調べるほど、フェネックが幽体に対してのメタ張りをしているように感じる。

 これがいわゆる伝承の開閉番の役割から来ているのだろうか?


「まあ、考えても仕方がないか」


 右手に雷、左手に氷、さらに符で狐火を生み出し、三属性合成。


「うーん、まだちょっと難しいか」


 三つの力がうまく混ざりあわず、そのまま霧散する。

 道はまだまだ遠い、けど、せかすような何かが、私の中にはあった。

味方もも、見えぬ敵もどちらにせよ準備は大切。

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