二十三枚目 ドリーム馬車プロジェクト始動編
新章突入、でいいのかな?
皆様、お元気ですか? 空川明乃です。早いもので、あのサモンリッチとの戦いから二週間が経ちました。
メンバー全員もすっかり回復し、今ではその辺を飛び回っています。なお、フィアナとピアは物理的に飛び回っています。
全員で勘を取り戻すために墓場のゾンビ退治をしたり、ゴブリンの駆除にと忙しい毎日でしたが、ふと思いました。
「このクランの次の目標、どうしようか?」
その質問を投げかけた瞬間、全員が固まった。
無理もない、フィアナ救出は終わってしまったし、装備の新調もこの間済ませた。
小規模クランにあるまじきお金が貯まっており、私が財布に『ATM』の符を貼っていなかったら今頃部屋の中が金貨であふれかえっているところだ。
「……というわけで、生活できるような馬車を買うか、ここに拠点を買うか、どちらかだと私は思う」
お金はあるが、拠点との両立は不可。拠点を持つと年に一度その街に税を納めないといけない。
また、ギルドへの上納金もあるので、かなりの金額が毎年飛ぶことになる。
馬車の場合は移動できる強みと、ギルドのへ上納金のみで出費が済む。しかし、常に移動し続けることと、馬の世話や常に馬車の警戒
をするなど負担も増える。
「さて、まずはフィアナ、意見は?」
ピアと一緒にホットミルクを飲んで和んでいる二人に声をかける。なお、ピアが牛乳ひげを作っていたので拭ってやる。
「私としてはリリ様に従うまでです。従者ですから。ただ、ピアにいろんな世界を見せてやりたいとも思っています」
どちらかというと馬車派か。
「続いてチカは?」
分厚い牛の皮で作ってもらった特注品のグローブを磨いている千果に話を振る。
「私はいろんなところを見て回りたいですけど、ベッドと布団は柔らかい方がいいですね」
意見として成り立っていない。が、旅をしたい派といったところか。
「で、アケノ、あんたの意見は?」
「定住もいいけど、旅かな? どうもフェネ君は南の方へ行きたいみたい」
前に『ここをキャンプ地とする!』を展開したときに行っていた楔というやつの関係だろう。
その話をするとフェネ君が脳内花畑にふすまで間仕切りするか融合解除して逃げるから聞けていない。
「どうも重要なことみたいなんだけど、どう重要なのか話してくれないからね。まあ、従ってみるのも一興かな?」
「なるほど。私も旅に出たいと思ってたから、満場一致ね!」
実のところ会議の必要すらなかったかもしれないが、ちゃんと意志を統一しないと後々面倒事に発展することがある。
報連相は大事なのである。
「じゃあ、馬車はどうする? 最近流行りの二頭立てはこ馬車?」
町の貴族が乗り回している四角い馬車のことだろうか?
「リリ様、あの手の馬車は乗り心地はよくても生活するには少々狭いかと」
「でも幌馬車だといい馬を用意するか四頭立てとかにする必要が……」
フィアナとリリが千果と私をほっぽり出して馬車会議を始めている。だとしたら今のうちに確認しておきたいことがある。
「ねえ、千果、あんた何してる最中にこっちに来た?」
「確か、チームの練習が終わって、焼肉屋でちょっとだけ飲んだ後に眠くなりまして」
千果も酒関連の後にここに来ていた様子。ここに私たちを呼んだ存在がいるなら、酒関連のイベントが好きらしい。
「うーん、特に関連があるわけでもないか」
何か法則性でもあればよかったのだけど、その共通点が見当たらない。もう少し何かわかればいいのだけど、
「うーん、馬が最大のネックか」
「馬車も複数頭立てににすると管理大変ですし……」
どうやら何か馬関連に話が進んでいるらしい。しかし馬か……
「確か先輩って馬と相性悪かったですよね、ほら、暴れ馬タロウ事件」
「言わないで。思い出したくもない」
思い出すのは、千果と近場の動物園へ行った時のことだ。
イベントで体験乗馬という物があった。コース一周を馬に乗せてもらい、飼育員の人が歩いて馬を引くあれだ。
気性がおとなしく、荒ぶることのないことで有名というタロウ号にチカがノリ、一周してきた後に私も載せてもらった。
コースの三分の一ほど進んだところで、突如タロウ号が暴れだし、さながら西部劇のワンシーンのように天高く前足を上げ、爆走。
私はというと、振り落とされまいと必死でしがみつき、実に十数分もの間必死に耐えていた。
「いまだに原因不明だし、それ以来暴れる様子もないって、タロウ号」
近所に住む飼育員さん三十七歳の証言です。
「つまり、今でも馬は避けていると?」
「馬車でもできる限り馬から離れて座ってる」
それでなくても私が近くにいるだけでも軽い興奮状態になるようなので、正直なところ馬は避けたい。
「うーん、馬以外となると、リリーズとか?」
「ちょっと、リリーズに引かせるとかどんな評判立つかわからないこと言わないでよ!」
「人としてどうかと……」
さすがにあの外見の集団が馬車引っ張ってたら怖いか。そしてその中から私たちが降りてきたら人道的にヤバいか。
「あ、だったら私がゴーレム作りましょうか?」
全員の動きが止まる。
「え? 何? あんたゴーレム作れるの、チカ?」
「言ってませんでしたっけ? あれくらいなら余裕です!」
その瞬間、全員の意志が一致し、叫んだ。言ってねーよ! と。無論各個人で発言ニュアンスは違ったが。
「となると馬代の節約になるわ。馬車自体を豪華にできる」
「水の魔道具付けられますね、調理用魔道具も載せられそうです」
後は居住性をとるか頑丈さをとるか、そこに二人の焦点が置かれるが、
「できる限り頑丈なので。後大きさも結構取ろう。重さと振動は符で軽減できるから」
見せるのは、今書き上げた『リムジン』の符。効果のほどは試してみないとわからないが、『リムジン』が快適な馬車旅を約束してくれます。となる予定。
そして取り出す『ソファ』に、『クッション』『エアマット』に加えて重さを気にせず運べるようにするための切り札。
「そして今回用意したのは『ホバークラフト』の符! これで車体を浮かせられるはず!」
そうして、夢は広がる。かなり滅茶苦茶な方向へと。
誰一人止める間もないまま、私たちの馬車造り計画が、始まろうとしていた。
○- - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
まず最初に行ったのが作った符がどこまで効果を発揮するかどうか、だ。
町の外にて、千果が作った岩をホバークラフトで浮かす検証を行ったところ、私が魔力を注ぎ続けて一メートル四方ほどの岩を浮かせられることが分かった。
「これだけのパワーがあれば大きめの魔石があれば普通の馬車くらいなら浮かせられるみたいね」
「かなり強い風の魔力が働いていますね。リリ様」
ピアも目を丸くして浮いている岩を見ている。どうやら符自体に問題はなさそうだ。
若干やりすぎな気もしないでもないが。
「重さ十五トンくらい? でもできる限り軽くした方がいいですね先輩」
常に私が魔力を通すわけではないので、ある程度は軽くしておきたい。
「ところで、その重さの単位ってどれくらいのもの運べるの?」
「酒場とかに積んである小麦の袋ってあれ大体重さどれくらい?」
質問に質問で返すと、リリが頭に指をあて、考える。
「大体だけど十クワね。念のためだけど一クワ千ケリメ法に則っての計算でよ」
なるほど、見た目からそのままキロとグラムを置き換えても問題なさそうだ。
「だったら一トン千クワね。魔石の魔力量がどれくらいかわからないけど、余裕をもって一万クワ程度にまで重量は抑えたいところね」
リリとフィアナが目を見開いたまま動かない。おーい、帰ってこい。
「こ、この符はこの馬車以外には封印ということで……」
「いや、商会ギルドに製造方法を売ってよりよい馬車を……」
さすがにこの符はいろいろとマズいから売らないです。
「じ、実験は成功したから次は馬車工房へ突撃!」
無理やり話をそらし、町へと戻るのだった。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
町の工房が並ぶ区画、あらかじめシェーブさんから紹介状を書いてもらった馬車の工房がこの燦然と輝く、
「ボロいですね」
「ボロだわ」
「古い建物ですね」
「お、趣があっていいじゃない!?」
傾いた看板に、やや埃っぽく薄汚れた建物。これが今回紹介状を書いてもらった馬車工房のチェースト工房だ。
「ごめんください!」
開け放たれた正面口からリリが物怖じせずに入る。
「なんだ? こんなさびれた工房に何か用か?」
出てきたのは、酒瓶を持ったオジサマ。その奥には何やら札遊びで賭け事をする作業員らしき人たち。
「シェーブさんの紹介で来たんだけど、はいこれ紹介状」
「あの屁理屈男が? 俺を? はっはっは、あいつがそんなタマかよ?」
リリが差し出した紹介状には、ギルドの紋章の封蝋がされており、手紙自体にもギルド印が押してある。
「あの野郎が絶対仕事を受けざるを得ないようにしておくからな」とはシェーブさんの言葉。
「……マジで本物だな。で、村八分にされない様に仕事の内容を聞こうか」
見せるのは、私の符のセット。
「これを使った簡易宿泊施設付きの馬車を作る。魔石による魔力供給式を採用することと総重量九千クワで設計。それと予算だけど」
「待て! 突拍子がなさ過ぎてわけがわからん! 普通の馬車だってそんな重量いかないぞ! せいぜいどんなに頑張っても二百クワだろ!?」
思ったよりも軽い。よく考えたら木製だから総金属製の自動車よりは軽いだろう。
「だから、その重量の制限をほとんど取り払った動く要塞のような馬車を作るのよ!」
「リリの動く要塞って感じですね!」
千果、ここの人たちには通じないから、それ。
「大体引っ張る馬はどうするんだ!?」
「あ、ゴーレムが引っ張ります」
もうわけがわからないといった感じでチェースとが床にへたり込む。
「あーもう、本当に手紙に書いてある通りだ! わかったよ、わかったから最強の馬車でも最高級の馬車でもなんでも作ってやらぁ!」
野郎ども! と叫ぶと同時、奥でくつろいでいた連中がこちらに向かって走ってくる。
「それじゃあ、設計を引くぞ! 全員ついてこい!」
チェーストさんがついてこい、と指差すのは奥にある応接室らしき部屋。私もそれに習ってついていくのだが、足元に落ちていたものを拾う。
それはギルドからの紹介状であり、シェーブさんからの手紙だった。
見えたのは一番最後に掛かれたであろう言葉。
「あいつら絶対ろくでもないことやらかすから、気を付けろ」と。
その場に手紙を置き、私は後でシェーブさんに『静電気』の符を入れたお礼状を送ろうと、そう思った。
後日静電気符入りのお礼状がシェーブさんに進呈されます。




