番外編 ある日のリリーズ+1の生活
ちょっとした番外編です。
「ばんごーう! いーち!」
「にーい!」
「さーん!」
よろしい。全員そろっている。
我らリリ様護衛部隊、アケノ様からもらった名でリリーズ!
「よーし、司令官の指示のもと、われら任務を遂行するとき!」
「おー!」
この間の戦いで名誉の負傷を負った司令官とその仲間たちを助けるため私たちは戦うことになった。
「っていってもお使いですけどね」
「二番、それでも我々に与えられた大事な仕事だ!」
「四番から二十番に比べたらかわいいものじゃない?」
五番から二十番はギルドからの下級依頼をこなしている。
討伐には参加せず、主にお使いや郵便配達や失せもの探しといった子供の小遣い稼ぎのような依頼を。
そうやって日銭を稼いで日々の食事代として充てている。今は少しでもお金がほしいと司令官は呟いているので、皆が動けない間は私
たちが働く。
「わーい! おそとー!」
と、三番は今まで宿内でのお世話ばかりだったので、外に出られたことを喜んでいる。
少しのんきだと思うが、まあいいだろう。
「たのしーねー、ピアちゃん!」
待てい。不穏な言葉が聞こえたので振り向くと、そこにはフィアナ様の連れているバンシーのピア様が!
基本私たちのような分裂存在とは違う高位のお方が、三番の阿呆に引っ張られている。
「さ、三番!? いったいなぜピア様が!?」
「さっきフィアナ様が連れてってって?」
ねー? と首をかしげる三番と、無表情で同じ動きをするピア様。
「ひめさま、たまにはうごく」
「幽霊とはいえ、運動せねば」
ああ、光の粒たちも同意するように光っている。
「ま、まあいい! 二番! 今日の目的は?」
「ギルドの酒場に書きあがった符を納品して、符屋で白紙符を貰ってきて、水あめを買ってくる!」
あの時の戦いで、アケノ様は自身の武器である符の九割以上を使い切った。
そして、その時の符の大半は負傷者治療用『ばんそうこう』の符となって消えたため、その分ギルドが補填してくれることになったら
しい。
詳しいことは司令官とギルドの間で交わされた約束なので知ろうと思えば知ることはできるけど、私の能力だと理解できないだろう。
この辺は分裂体の宿命ということで。
アケノ様がそろそろ回復するとのことなので、戦いで消費した符を補うために白紙の符を準備する必要がある。
「それじゃあ、いこー!」
一斉におー! という声と、ピア様が腕を振り上げる。
こうして、四人? のお使いは幕を開けた。
○- - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
「シェーブさん、おしごと終わったよ」
「シェーブさん、依頼のサニーおばあちゃんの買い物に出発します」
「シェーブさん、書類の整理終わったよー!」
「シェーブさん、おしっこー」
北方都市レマのギルドは、基本そんなに忙しくない。
今の季節は安定した気候で過ごしやすい地域であり、魔物の活動も活発ではないので冒険者たちの間ではこの時期一種のリゾートのよ
うになっている。
無論北方なので冬場は寒さが厳しく、強めの魔物も発生するので稼ぎ時でもあるのだが。
では、その忙しくない季節に依頼処理や書類の監査、仕事の斡旋などの新年祝い祭りと鎮魂祭が同時に来たような忙しさがあるのはな
ぜか?
答えは、一週間前に起こった領主の馬鹿野郎事件である。
中央のギルド本部へ上げる報告には、『レマ伯怨霊の討伐事件』として報告がなされる予定だ。
今現在その報告処理のために事務人員の三分の二が駆り出され、必死に町の被害状況から当日の人の動き、原因に至るまでの資料を作
成中。
つまり、ここにいるのは事務の中でも研修中の新入りや、どうしても窓口から外せない、または外部から雇った人間だ。
それで欠けた人員の半分は補えた。もう半分は正直反則的な手法で解決することになった。
「だーもう! 仕事終わったら受付に完了票を出す! ばあちゃん腰弱いから気を付けるように! 終わった書類は三番目の棚に! お
しっこはトイレで!」
そう、どこで身に着けたか知らないが、分裂という技術で募集枠の半分の人員を提供したリリである。
彼女曰くリリーズというこの個体群はそれぞれに適した能力配分を行って配置されているとのこと。
現に、書類整理では正規研修を終えたくらいのギルド員と同等の働きをし、少額の初心者向け依頼をこなす奴らは身体能力が高めで、
酒場を切り盛りする奴は手先が器用で愛想がいい。
「便利なのは認めるけどここは孤児院じゃねえぞ……」
しかし、こいつらは能力があっても思考が完全に子供だ。なので誰かが陣頭指揮を執るのだが、俺が指示するとなぜか納まりがいいら
しく、やけに素直に従う。
これがほかの連中だと、途中で飽きるのか統率なく好き放題にするらしい。
「ああ、ギルドの入会担当なんてならなければよかった……」
手続きが複雑な関係上、俺が窓口から離れるわけにもいかない。離れられるなら誰かに役割押し付けて報告作成側として仕事するもの
を。
しかし、愚痴ばかり言っていられないので、素直に仕事をする。
「シェーブさん、司令官からの預かりものだって」
「おう、今日の分か」
カウンターから出て、待ち合い用の椅子に座る三人のリリーズに、毛色の違う女の子が一人。
ただ、やや像がぼやけて見えるので、バンシーの子だろう。
「よう、配達ご苦労。そっちの嬢ちゃんは?」
「ピアちゃんっていうの! きょうはおさんぽ!」
ピアと呼ばれたバンシーがお辞儀をする。
「そうかそうか、それじゃあお前たちのご主人様に伝えてくれ。後一週間ほどで作業終わるってな」
それとご褒美ということで甘草の茎を渡す。食べると甘い味のする草の茎で、このあたりでは子供のおやつとしてよく売られている。
どこにでも生えてくるので銅貨一枚で数十本買える様な物だ。
「ありがとう、シェーブさん」
「おう、気を付けろよ? 最近ガラ悪いの入ってきてるから」
ギルドの出口から出ていく四人を見つめながら思う。
この混乱に乗じて裏側の奴らもあわただしく動いている。厄介なことにならなければいいが。
そしてカウンター内に戻ると、リリーズのみなさんがむっとした表情を浮かべている。
「……いるか?」
教訓、食べ物を与えるときはなるべく平等に与えよう。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
「ありがとうよ、また来いよ!」
手には大量の白紙符。符屋の人は在庫が捌けてうれしいとのこと。
「本当に符って人気ないんだね」
「そうみたい」
「ふつうはこうげきできないって、きいたよ?」
ピア様は甘草の茎をゆっくりかじっている。どうも気に入ったらしい。
「だとするとどこで覚えたんだろうか?
「チカの魔法もそうだね」
「おっきいいわがどっかーん!」
リリ様もどこか気になっている様子だが、やはり二人が話してくれるのを待っているらしい。
だったら私たちがとやかく言うことではない。
「それじゃあ、頼まれた水あめを買って帰ろう!」
「みずあめー!」
「あまいのー!」
そうして、意気揚々と歩き、お店で水あめを買う。小さなツボに収まった水あめは見ただけでおいしそうだ。
「ひとくち……!」
「ダメ」
私も我慢しているのにほかの子が手を付けるなんて許せない。
ここは心を鬼にしてでも持って帰る。
そうして、宿の前についたあたりで異変を感じる。
「我こそは、クラン『克刃の衆』のクラン長ライである! 貴殿らサポーティア、我らを恐れなければこの決闘を受けるがいい!」
なにか、頭の毛がさみしい人が宿の前で叫んでいた。
「あー、すみません、我がクランは現在総員負傷状態でとてもじゃないがクラン戦を行う余裕がありません。お引き取りを」
アケノ様が窓から顔だけ出して気怠そうに男と向き合っている。魔力が回復する端から符を書いているので、早々に完全回復しないん
だそうな。
ちなみにクラン戦とは、早い話がクラン同士がいざこざを起こさないようにある程度の序列を決めるための戦い、とリリ様の知識が教
えてくれる。
もうちょっと難しい取り決めとかあるみたいだけど、理解しきれないので気にしない。
「ほう、逃げるのか? 先の騒動の際率先して前線に立った猛者なのだろう? それがこんな腰抜けだったとは!」
「いや、あの場にいたなら私たちの動きは大体わかってるでしょ? 無茶に無茶を重ねて、それでようやく生き残れたんだからさ」
「ふん! あの程度でよく言う! 貴様などただ符を書いていただけではないか! あれなら赤子でもできるわ!」
司令官からのリンクで伝わってきた内容は、あの時書いた符の総数はおおよそ五百枚ほどという。
三分の二が『ばんそうこう』とはいえ、それだけの枚数を書いて魔力を通せば、ふつうなら魔力切れどころか寿命を擦切らせていると
のこと。
「あー、もしかしてあの場にいなかったから有名になったクランにケンカ売って、自分の名声にしようとしてるでしょ」
「なっ! 何だとぉ!」
「あー図星っぽい?」
さて、このままアケノ様があおるだけあおった後、部屋まで突撃してきた相手が仕掛けられた符の犠牲になるまで見ていてもよかった
のだけど、
「司令官、命令受領しました」
「おー!」
「やっちゃうよー!」
ピア様も腕をまくって、光でできた槍を取り出します。どうも幽霊さんたちが力を込めて作る光の槍だそうです。
「おい、お前ら! 構うこたぁねえ! あの女ども引きずり出して袋にするぞ!」
騒いでいた男の周りに五人の男たちが集まる。全員かどうかは不明だけど、それなりに経験は積んでいそうだ。
「司令官より発令、全員偽装解除、構え」
周りのやじうまから現れるのは、仕事帰りのリリーズ。さらに宿の入り口から雪崩れて出てくるのは世話役のリリーズ。
その数、合計五十人。
「ああ、ウチのクラン長からの一言。戦いは数だよ、だそうです」
「了解、一斉射!」
周囲に迷惑をかけないように、手加減された雷の矢が総計百本。ダメ押しで放たれる光の槍が男たちに殺到する。
「ほぎゃああああ!」
男たちの断末魔が響き渡る。死んでないけど。
「ほーら、皆、早く帰ってきなさい! 今日は頑張ってる皆をねぎらうご褒美を用意してるよ」
ご褒美と聞いて、皆が一斉に宿屋に向かう。途中の消し炭を踏み越えつつ。
ともあれ、この後皆には私たちが買ってきた水あめが配られ、翌日に司令官を含めた全員が動けるようになっていた。
こうして私たちの一週間にわたるお世話とギルドのお使い依頼による日銭稼ぎは終了した。
が、ギルドが忙しいのは相変わらずで、事務処理の手伝いだけは今もなお続いている。
リリ様曰く、「稼げるだけ稼いでおきましょう」とのこと。役に立てるのはうれしい。
水あめを頬張りながら、明日もまた頑張ろうと心に誓った。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
「く、くそ!」
「あんなに人数いるなんて聞いてねぇぞ!?」
多量に食らった雷の矢で痺れながらも、宿屋の前から何とか離脱に成功する。
サポーティア、あいつエアのギルドに登録しているクラン名。
事前に集めた情報だと、後衛ばかりでサポートに特化したクランと聞いていた。
近接戦闘能力者は一人で、そいつも基本は後衛だという話だ。
ついでに全員女で一人は貴族が奴隷にするほどの美しさを持っているとの事。
そんな連中が、今この町一番の有名クランになっていると聞いた。
正直、チャンスだと思った。
奴らを挑発し、ギルドの制度に則り、クラン戦を仕掛ける。
クラン同士を競わせ、お互いの能力を競い合う制度、半ば形骸化しクラン同士のいざこざを解決するための暴力手段、更にクランの実
力を示す物として存在している。
当然受ける受けないの選択はあるが、クランの名誉を傷つけるものとして断らないものだ。
それがどうだ、思いっきり断られ、強硬手段で頷かせようとした俺らが逆に数の暴力で潰された。
「危なかった……だがこれで正確な情報を得ることができた。裏の連中に売ったらいくらになるだろうな?」
「誰もそんな情報買わねぇよこのゴブリン以下の脳味噌どもが」
裏路地から現れるのは黒い外套を着た男。
「手前ぇ、案内屋!?」
この町の裏を牛耳る存在、この町の裏元締めの使者。
いつしか裏に繋がりを持つ人間は奴のことを案内屋と呼ぶ。
「いやはや、お前らは俺らを舐めすぎだよ。あの程度の情報くらいならすでに知ってる」
お前ら最近の小遣い稼ぎ依頼の消費量見てないんだろうな、と男が笑う。
「言ってしまえばあいつ等は近接の戦闘手段がやや乏しいだけでそれを補う手段がいくらでもある連中だ。
俺らでもあいつ等はできる限り敵に回したくねぇし、あいつらはこの町の恩人だ。無下にできねぇよ」
「高々案内屋風情が言ってくれるじゃねえか? 体の痺れも取れたからお前を伸すぐらいならわけないんだよ!」
剣を抜き、一足飛びに切りかかる。
「なるほど、こいつらがあの騒動の元凶か?」
「確かに元凶ではあるが、しょせんは小悪党以下の虫けらだ。役には立つさ」
横合いから出てきた大剣に俺の剣を受け止められた。
「ありがとうよ、情報屋」
「なぁに、こういう手合いには見せしめが必要だ。俺らにとってもお前らにとっても都合がいい」
剣の持ち主を見る。しっかりと鍛えられた体に、重そうな大剣を軽々と片手で扱う腕力の持ち主。
顔を見るまでもなく、その正体が分かる。
「あ、暁の剣士団……団長!?」
「おうよ、団長のマイスだよ。チンピラ以下の迷惑集団」
裏路地から出てきたその男に、全員が恐怖する。
剣のみを扱うクランという近接集団のクラン、この町の有名クランを並べたときに必ず入る存在。
まず間違いなく俺らより強い。一人で俺らを叩きのめすぐらいわけないくらい強い。
「まあ、俺だけじゃあないんだが」
マイスが指差した方向には、杖を構えた集団。
炎を象ったペンダントをする男を有するのはクラン炎の巨人のヒース。
その隣にははぐれ者のハンターミック。
「つまり、何だ。お前らはこの町のクランすべてを敵に回した」
「裏の人間としてもこういう状況になるのは望んでいないからな。ま、せいぜいこいつらと大好きなクラン戦でも楽しんでくれ」
案内屋が背中を向ける。この場にいる男どもが獰猛な笑みを浮かべる。
「さあ、少しばかり汗を流そうか、なあオイ」
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
その後、クラン『克刃の衆』の面々は後遺症が残らない程度にボコボコにされ、町の城壁に一日吊るされていた。
額には『愚か者の末路』と書かれた符が貼られていた。と外壁掃除に駆り出されたリリーズは、静かに語った。
水あめ食べたい。




