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二十二枚目 全員集合!

ようやく、全メンバーが集合します。

 そこは白と黒の世界。黒い太陽が輝く暗黒の世界。

 白い世界を浸食する暗黒の世界。


「ふむ、貴様が白の女王の守護者か。我は黒の運び屋。冥府の烏」


 ブラックバードが頭を下げてくるので、こちらも礼を返す。


「それで、その運び屋がいったい……」


 ピアが抱き付いてくるのをあやしつつ、私はブラックバードを見据える。


「守護者や外にいる監視者と開閉番、それに番犬。それらと共同でここまで来たのだろう。目的はこの白の女王と黒の王を切り離し、白の女王を奪還すること」


 遠い伝承で、聞いたことがある。

 死者の魂を烏が運び、その魂を鼠が見定め、犬が通るにふさわしくない魂を追い払った後、狐が冥府の門を開くと。


 その理屈で当てはめると、リリ様が鼠、チカ様が番犬、アケノ様が狐というところだろうか?

 ともあれ、ブラックバードの推理は正しいので、素直に頷く。


「結論から言おう。不可能だ」


 頭の中が真っ白になる。


「大方開閉番が計画した策だろうが、遅かった。白の女王の意志は守られているが、この場を出てしまえば解けて消えてしまう」

「そのためのこの『接続』と『切断』の符です」


 アケノ様は、この『接続』をもって私とピアの存在を接続し、切断をもって怨霊からピアを切り離すというものだ。

 それを一瞥するとブラックバードは首を振る。


「守護者よ。お前の器では白の女王を受け止める前に崩壊する。それに、白の女王と黒の王はすでにこの場への浸食を開始している。

 白の女王の力が乗っ取られかけている証拠だ。このまま切り離してもすぐに再度接続されて終わる」


 ほんの少しだが、黒いシミのようなものが、この白い世界を覆い始めている。

 光の粒たちも頑張っている様子だが、そのシミの侵攻を止めることができない。


「だが、方法がないわけではない」


 ブラックバードが翼を広げる。


「お前が人間を辞めればいい」

「その程度でよろしければ」


 助けられる手段があれば、そこに迷うべき部分はない。それに、リリ様も純然たる人間ではなくなっている。悩む要素には成りえない


「……では、取るべき手段簡単だ。まず、我と守護者が融合する。それで器の問題は解決する。なに、あの開閉番と似たようなことをするだけだ」


 決定的に違うのは我の肉体が無くなるくらいだ、と言いながら、ブラックバードの存在が光となり、私の体に吸い込まれる。


 それと同時に背中から黒い翼が生える。まるでおとぎ話に出てくる堕天使のようだ。


『さて、それでは次は白の女王、守護者に身をゆだねろ』


 私と同じ声で、ブラックバードが喋る。ピアは頷くと、私の胸に手を触れる。


『守護者よ、『切断』の力をもって黒の王との繋がりを断て!』


 槍に『切断』の符を巻きつけ、シミに向かって振るう。それだけでシミが消え、白い世界が再び広がる。


『いまだ! 守護者は『接続』の力を、白の女王と守護霊たちはその身を完全に守護者へ!』


 ピアの体が光になって私の中へ、合わせて今までこの世界を守ってきた光の粒たちが順に宿ってくる。


「ひめさまのナイトさま、よろしく」

「ふむ、魔力以外は逞しい守護者だ。期待している」

「よろしくー、一心同体の守護者様」


 光の粒が入ってくるたびに、私の中、いや、私たちの中に力が宿る。それに加えて意志も宿る。


『さて、これでおそらく世界初であろう白の女王にして守護者にして運び屋という摩訶不思議生物が誕生したな』


 私の右肩には小さなカラスがとまっており、左肩には小さく、簡略化されたピアが座っている。


「それじゃあ脱出するよ、ピア!」


 ピアが頷く。私もそれを確認して、一枚の符を取り出す。


『非常口』と書かれたものは、逃げる際の出口として用いる言葉と教えられた。


 符に魔力を通すと、人がドアに向かって走っていく絵が上部についたドアが現れる。


『なかなか高精度の符だ。狐はいい人材を捕まえたな』


 ああ、そうそう、扉をくぐるときにこれも置いて帰ってきてと言われたから、符に魔力を通して設置する。

 いったいどういう意味かは分からないが、『ガイドビーコン』と書かれたそれはそのまま白い世界に溶け込んでいった。


 それを見届けて、私は出口に向かって羽ばたく。皆が待つ世界へ。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「大理石の壁!」


 何度目かになる、怨霊の猛攻を防ぐ防壁。さすがに魔力が尽きてきている。

 今更ながらに気が付いたのだが、土よりも石、石の中でも鉱石や大理石といった少し特殊なものを呼び出すと、魔力の消費が多くなる。


 一息入れたくなるが、戦いの情勢がそれを許してくれない。私の役割は怨霊攻撃を防げる物理障壁を作ること。


「この腕の問題がなければなぁ、キビシー……」


 私の左腕は、まったくと言っていいほど感覚がない。先ほどの人間リニアカタパルトの影響で、腕全体にダメージが入っている。


「ま、腕が消し飛んだりしてないなら問題ないけどさ」


 それに、『ばんそうこう』の符を貼ってもらっているから回復は早いだろうが、この場で間に合うほどではない。


「司令官のお友達さん、結構重い」

「頑張るのよ、報酬はおいしいごはんって司令官が言ってたから」


 現在の私は、機動力を確保するため、大八車みたいなものの後ろに乗り、縦横無尽に戦場を駆け巡っている。

 しかし、怨霊の動きがやや緩慢だ。攻撃されたことに対して散発的に怨霊を送り返しているだけだ。


「これはひょっとすると、成功したかもしれないですね。フィアナ先輩」


 無事な右手で水筒のふたを開けて飲み干す。さらに壁を作りつつ、行動不能になっている人間を拾って、戦場を一周。

 救護テントの治療班に治療者を引き渡し、私とリリーズはさらに走る。


 ガストの集団という、やや物理よりも精神にダメージを与えてくることの多い相手なので、『ばんそうこう』含む回復が効きにくいのが嫌らしい。


 でも、そのギリギリの綱渡りも、終わりを迎える。怨霊の集合体が脈動、それが何度も繰り返され、さながら痙攣を引き起こしているように見える。


「お帰りなさい、フィアナ先輩!」


 怨霊の中心部から槍を突き出して現れるのは、黒い翼をもち、髪の毛に白い光の粒を纏わせたフィアナ先輩。


「ってなんか姿が変わってるーーー!?」




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 誰もが息を飲んだ。


 怨霊の中から現れたのは、黒き翼を纏った漆黒の天使。怨霊の中から現れたその姿は神々しさと同時に、生者にはない禍々しさも秘めているように見えた。


 そんな存在が私の目の前に降りてくる。


「で、何があったか説明しなさい、フィアナ」


 少し罰の悪そうな顔をして、私の前に跪くフィアナ。


「いえ、ピアを救出するのにはこうするしかなくて」


 フィアナの両肩には小さなピアとブラックバードが乗っている。なるほど。


「どう思う? 知恵袋と融合中のアケノ」

「まあ、どれがおまけかと言われれば私本体がおまけだけどね。フェネ君が言うには器の魔力不足があるから、ブラックバードが融合して補ったみたい。

 それにブラックバード自身も肉体を失っていたから脱出するにはそれしか手段がなかったとのことです」


 後でフェネ君に干し肉を奢ってあげよう。


「さて、最後の仕上げに掛かりましょうか!」


 その言葉に、アケノが構える。そう、最後の勝負はこいつの符が成功するかで難易度が大きく変わる。

 と言っても事後処理の面倒さが変わるだけだが。


「さて、用意するのは千果が用意してくれたこの大きな岩!」


 瓦礫だけ広がっていた空間に、チカが土魔法で大きな岩を呼び出す。今度の岩は大理石ではなく、身の丈ほどある黒い黒曜石のような岩。


「そしてリリーズの一部を借りて作り上げた注連縄!」


 立派な黒曜石に幾重にも巻きつけられる縄。それには紙で作られた飾りがいくつもついている。


「では、『幽霊吸引』の符を貼りつけます」


 貼り付けられ、魔力を流された符が効果を発揮し、怨霊が一気に引き寄せられる。


「で、ここでさらに岩に特別な効果を宿すためにもう一枚」


 さらに貼られる符。異国の言葉で書かれていて読めないが、『殺生石』という昔の怨霊の原因となる石の名前らしい。


「この『殺生石』が怨霊を縛り付ける礎になり、さらにこの『圧縮封印』の符で集められた怨霊を無力化!」


 大部分、全体の三分の二ほどの怨霊が吸い込まる。吸い込むのもこれくらいが限界のようだ。

 そして『圧縮封印』の効果で岩が拳程度の大きさに変化する。


「最後にこの『殺生石』をどこかに封印すれば完了!」

「で、どこに封印するんですか、先輩?」


 アケノの動きが止まる。ついでにフェネ君の耳もぴくぴくしている。フィアナの方を見るとブラックバードがあきれるように首を振る。


「って、考えてなかったの!?」


 私の絶叫が響き、次第に戦場の怒号にかき消される。

 かくして、ここに怨霊の封印は成され、この一連の騒動に決着がつくのだった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 さて、その後の話をしよう。


「サポーティアが決めたぞ! 者どもかかれぃ!」


 ギルド長の号令により、戦士というか暴徒の集団の如く亡霊が狩り尽される。今までのうっぷんを晴らすかの如く、非常に大規模な戦闘だった。


「さて、皆に『ばんそうこう』配ってくるから。アケノ、手配よろしく」

「うう、リリーズの何人かに『自動書記』の符つけて手伝わせていい?」


 負傷者に『ばんそうこう』を配り、怨霊にやられた人は『悪霊退散』で体内に残留した怨霊や呪いを払い、『アロマの香り』の効いたテントに放り込む。


「よーう、飲んでるか!?」

「飲みたいよう、飲みたいよう……!」


 残敵相当が終わり、炊き出しが始まるが、途中から宴会に代わり、

 最後まで裏方に徹しているサポーティア全員がその宴会に参戦できず、私はお酒の飲めない口惜しさを符にぶつけ、


「ところでこの『殺生石』という怨霊の集合体はどうするんだ?」

「武器に使う? 確実に呪いの魔剣とかできるよ?」


 ギルド長を交えた『殺生石』の扱いを考えたり。


「なるほど、これがバンシーか。初めて見た」

「うん、可愛い、お姉さんこんな妹ほしかったからお持ち帰りしたいわ」


 ピアが女の冒険者たちに囲まれてお姫様状態になっていたり、非常に目まぐるしくいろんなところを巡った。


 それが、おとといの話。


 今は混乱も収まり始め、徐々に日常生活を取り戻しつつある町の中。

 その中にある、大体中堅に位置する宿屋。一週間の間ギルドの厚意で借りているその一室。


「腕が、腕が痛い!」

「わめかないでよチカ、声が響いて全身……!」

「ピア、私は長くないかもしれません……」

「あー、魔力切れて何もする気が起きない……」


 今ここに、今までの無茶のツケを払わされている冒険者クランがいた。


 大きめの部屋にはリリーズが走り回り、ピアがフィアナやリリの世話をかいがいしく行い、千果が痛みに呻き、私がベッドで魔力切れの虚脱感を味わっている。

 フィアナは無傷ではあるのだが、ブラックバードの能力の幽霊収集のせいで無差別に幽霊を取り込んでいるため、必死に制御している最中。


 テーブルの上ではフェネ君と見事にデフォルメされた状態である幽体ブラックバードが果物をつまんでいる。

 なんというか、カラスと狐がエサをつまんでいる姿はかわいい。和む。


「それで、今後の予定は決まってるの?」


 なにせ、このクランの当初の目的は果たしてしまった。

 昨日付でギルドから報酬の一部としてフィアナを貰い、即座に奴隷から解放した。貯金したお金はそのまま残っており、余計なしがらみはない。

 つまりは、自由だ。


「旅をしてもいいけど、その前にこの体を何とかしないと」


 まったく、締まらないクランだ。でも、それでいい。それがいいんだ。


「じゃあ、怪我治したら、何をするかみんなで決めよう!」

「おー! あてて!」

「はい、なんとか制御しますから、天国に引っ張らないで……」

「だから叫ばないで……!」

「叫んだら余計怠く……」


 本当に、私も含めて締まらない連中だ。それがいいんだけどね。

フィアナは、摩訶不思議生物に進化した。

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