二十一枚目 サポーティアの戦い
闘志、いまだ衰えず。
「さて、時間稼ぎと言われたけどどうしようかしら」
敵は巨大な怨霊。しかも妖精の目が伝えてくる内容は、大量の怨霊が集まってこの形を形成しているということ。
今までのリッチが無数の怨霊を圧縮して出来上がった一個の存在だとしたら、こいつはスライムのように複数で一つといった感じだ。
「……参った、私じゃ倒すことはできないわ、こりゃ」
残念ながら私に面制圧ができる魔法はない。それができるアケノはフェネ君と作戦会議中であるし、フィアナもそんな技はなし。
つまり、サポーティアとしての戦力では今の瞬間にできることはない。
だけど、私たちにできなければ、ほかの人を使えばいい。要は役割分担だ。
周囲を見渡す。あまりの怨霊の数と、その圧力に全員が逃げ腰状態だ。これでは勝てるものも勝てない。
「しゃんとしなさい! いい男たちが情けない!」
私が叫ぶと、周囲の目線がこちらに向く。
「私たちサポーティアがせっかくこいつをブッ飛ばす方法を考えてるっていうのに、何負け戦みたいに勝手に暗くなってるのさ!」
伝令役のリリーズの一人が、拡声の魔道具を持ってくる。それを受け取り、頭を撫でてからさらに叫ぶ。
「いい? 今ウチの知恵袋がこいつを散らす最高の作戦を考えている最中! そのために時間をくれって言ってる!
サポーティアとして全員のサポートができるように全力で作戦を立てている最中だ!
それなのにあんたたちは何もせずに逃げて周辺の街や集落に『ここは危険だから逃げろ』と言いふらすだけで終わるの!?」
握り拳を振り上げる。
「私は認めない! たかがこの程度の怨霊がなんだ! 逃げるならもっとあがいてから逃げろ!
それができないなら冒険者なんかやめて地面でも耕してろ! こいつらは烏合の衆が寄り集まって大きく見せてるだけだ!」
「コムシガヤカマシイ! キサマモナカマニナルガヨイ!」
迫ってくる怨霊の群れに対し、私は陰からリリーズを呼び出す。その数、三十人。
「だから、全員で吹き飛ばせ! こんな寄せ集め如きに、この町の未来を好きにさせるな!」
リリーズと私による一斉射撃。各それぞれが両手で放つ六十二発の炎の矢が怨霊を撃ち落とす。
全体総量からすれば雀の涙。でも、それは確かに反撃の狼煙だった。
「ラインブレイズ!」
怨霊軍団を挟んで反対側、爆発の魔法が炸裂する。見覚えのある多重詠唱の爆発魔法に、思わず表情がほころぶ。
「全員、魔力が枯れるまで撃ち続けろ! サポーティアの知将は絶対にとんでもない手段でこの状況を覆す! だから信じるんだ!」
ヒースさんと炎の巨人のみんなが一斉に魔法を唱える。それに合わせて暁の剣士団が総出で怨霊たちに切りかかる。
「そうとも、我らが諦めてなんとする! レマギルド員の奮戦はそんなものか!」
ギルド長が長大な杖から光魔法を放ち、怨霊に対して攻撃を敢行する。
そこから始まるのは、全ギルド員の総攻撃。光属性が付与された武器に、魔法。中には聖水を投げつけて攻撃をしている人もいる。
チカも大理石の混ざった砂利を地面から吹き出すようにして攻撃をしている。
「ありがとう! みんな!」
さて、これで当面の時間稼ぎはできるだろう。士気高揚もサポーティアの仕事だ。
「で、答えは出た? アケノ」
座り込んだまま黙って目を閉じていたアケノがゆっくりと目を開く。
「おかげさまで。さて、フィアナさん。行きましょ、ピアちゃんを助けに」
うなだれていたフィアナが、首を上げる。
本当に、アケノとフェネ君からは何が出てくるかわからない。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
フェネ君から聞いた話は非常に単純明快だ。こいつの核をつぶしてしまえば、この怨霊群も瓦解するとのこと。
しかしそれには二つほど越えなければいけない壁がある。
一つは、この怨霊の中から核となっているサモンリッチを見つけ出すこと。掘り出し物市から本当の掘り出し物を見つけるような気分
だ。
もう一つが重要なのだが、ピアの救出。
サモンリッチがこの怨霊集団を制御しているのだが、あいつ自身にはほとんど力が残っていない。
樽爆弾の力は偉大だなと感心するが、あれだけやっても消滅しないというところが怖いところでもあるが。
ともかく、サモンリッチ自体ではなく、ピアに内包されているであろう力を使ってこいつらを制御している。これだけ見れば、ピアが
完全に吸収されていると思われがちだが、そうではない。
フェネ君曰く、バンシーに集まる霊は正の性質、つまり怨霊ではない存在であるため、負の性質である怨霊が取り込むのに時間がかか
るとのこと。
現在はごく一部の取り込んだ力を使って怨霊を制御しているということ。
「つまり、要約すると?」
「まだピアは完全に取り込まれてないので、ピアを切り離せばこいつら雑魚集団になる」
非常に単純だ。
「肝心の方法は?」
第一段階はリリがしっかりやってくれたからクリア、残る第二、第三段階はこれから一気に実施する。
「大丈夫、全員が全員の役割を果たせば必ず助けることができるから」
「それじゃー先輩、私は何をすればいいですか?」
千果が勢いよく手を挙げ、役割を確認してくる。
「それじゃあ、説明するよ。全員傾聴。特にフィアナさんが作戦の胆だからね」
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
アケノさんから聞かされた作戦は非常にわかりやすかった。
まずは第一段階。相手の動きを縫いとめるように、ついでに怨霊の総数を少しでも減らすこと。
「光をまとう風よ!」
「ブラストフレア!」
「オラオラ! 怨霊が何ぼのもんだ!」
今なお組織立って足止めと攻撃を繰り広げているみんな。ただ、少しずつだけど息切れが目立ってきている。
前衛は怨霊に精神を削られ、後衛は魔力が少なくなってきている。
なので素早く第二段階へ移行する。
「起動、『探知』、『以心伝心』探し物はいずこ」
第二段階、相手のコア位置の特定。
「起動、『マップ』『ダウジング』にて『以心伝心』位置を示せ」
『マップ』と書かれた符がひとりでに動いて、紙に人を模した図を描いていく。おそらくあの怨霊の地図といったところ。
そして一点にだけ赤い点が打たれる。それはちょうど胸のあたり。やや左側にずれているか。
「文字通り核が心臓ってことか。それじゃあ、千果とフィアナさんは準備!」
ここから第三段階。
「使用するのはこれで大丈夫ですか、先輩?」
チカさんの体は符が何枚も巻きつけられている。ほとんどが『衝撃吸収』と『衝撃緩和』で、胸の部分には『プロテイン』が二枚張り
つけられている。
そして腕には、何枚もの『リニアレール』という符が貼り付けられている。その符の下にも何らかの符が貼り付けられている様子。
「大丈夫。大理石の球も準備できたから」
そういって、チカさんに手渡すのは石の球ではなく、符が何重にも貼られた球だ。
「うわー、すごい数の『加速』の符。一番内側に『超伝導体』ってところですか?」
「そう、千果はこれから人間リニアレールカタパルトと化すのよ」
よくわからないけど、凄そう。
「もしかして、人類最速の球を投げる女になりますか、先輩!」
どれくらい速いのだろうか? もしかして私のアハトアハトより速い?
「じゃあ、準備よしってことで。フィアナさんも符の準備大丈夫?」
「大丈夫です、いつでも行けます」
私の体には、『プロテイン』の符が二枚、両足には『赤い配管工ジャンプ』と書かれた符が。
そして手には切り札となる符を用意。
「それじゃあ、千果、やっちゃって!」
その言葉に待ってましたとばかりに、チカさんが構える。
「それじゃあ、ウィンドミル投法でのストレート、ど真ん中ぶち抜きますよ!」
言葉とともに振られた腕。放たれるのは、閃光。
あまりにも一瞬の出来事に目を疑いそうになるが、『プロテイン』で強化された体はそれにも反応してくれた。
光と見まごうほどの軌跡、白い線が一瞬で怨霊の真ん中を貫き、巨大な穴を開ける。
そんな理不尽な速度をもってなお、直撃を免れた核が、ほんの数センチの核を、私の目がとらえる。
「見えた!」
足に力を込める。『赤い配管工』符の力は私の跳躍力を余すことなく強化し、『プロテイン』はその爆発的な力を支えるかの如く体を
駆け巡る。
一瞬で、核の元へたどり着き、私は槍を、『接続』と書かれた槍を突き刺した。
○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
怖い夢を見てる。わたしの胸に穴が開いて、黒い何かに吸い込まれる夢。
吸い込まれた先は、真っ暗で、聞こえてくる声はみんな耳をふさぎたくなる叫び声。
『痛い』『苦しい』『死ね』『みんな死ね』『怖い』『いやだ』『つらい』『滅びろ』『返せ』
いろんな人の叫びが聞こえる。だから、きっとこれは悪い夢。
「夢ではない」
目の前に降り立ったのは、黒いカラスさん。
「これは夢ではなく、取り込まれた者たちの声。死後も平穏を得られない声」
そのカラスさんはわたしの体よりずっと大きくて、つやつやした黒い羽をもっている。
取り込まれた人たち? わたしもその中に入ってる?
「然り。我もまたその取り込まれ囚われた者。されどまだあの中に混ざらぬ者」
怖い声が聞こえるけど、周りから聞こえてくるだけで、ここにはいない。
混ざるとどうなるの?
「その絶望を奴の糧にされる」
カラスさんが羽で指した方に、黒いお日様が見える。そこに向かって黒い何かが吸い込まれていく。そして、そのお日様から伸びたく
ろい何かがわたしたちを囲んでいる。
「あれは恨みを力に変えるものよ。いわばお前と真逆の存在」
真逆? 反対ってこと?
「然り。お前は魂の喜び、希望、未来への想い、それらをくみ上げて力と為す」
ああ、わかった。だからあの光の粒たちは力を貸してくれていたんだ。
周りをよく見てみる。真っ暗だと思ったけど、わたしの周りにあの光の粒が見える。
「ひめさまはわたせない」
「この子は我らの未来、希望」
「守り通す。今度こそ、我が子を守れなかった罪滅ぼしでもある」
みんなが、わたしといてくれる。
「あの黒い太陽は、我らをこのまま押しつぶそうとするだろう。だが、このまましばらく耐えれば機は訪れるだろう。あの人にして人な
らざる者たちが道を開くだろう」
カラスさんが呟いたと同じくらいのタイミングで、黒いお日様が揺れる。
「外で攻撃が始まったか。もうひと押しといったところだが……」
わたしたちを囲んでいる黒い何かがゆれる。苦しい、って言っているみたい。
「来る。いいか、お前の中の光を呼べ。どんなものでもいい、自分の信じる者を呼べ。さすれば道は開かれる」
だったら、決まってる。
周りが、黒い声と黒いお日様が作ってた世界がこわれる。
一瞬で白い光が満ちる。だから、叫ぼう。
「お姉ちゃぁぁーーーん!」
「ピア!」
ほら、お姉ちゃんは、私を守ってくれるのだから。
次回、完全決着。




