二十枚目 死後の悪夢の宴
第二ラウンドは消化試合。
ガスト。それは怨霊が魔物化したものと言われている。物理現象を引き起こせるほどの密度になった怨霊の類とも。
つまり、相手はこちらに観賞できるのに対し、相手は怨霊のままなので物理現象での対処ができない。早い話が物理攻撃が効かない。
「サンダーストーム!」
右手と左手でサンダーストームを作り、さらに札で三重のサンダーストームを放つ。
炎の方が威力はあるが、属性付与していな連中を下げるために広範囲に攻撃を優先する必要がある。
あちらこちらで魔法が飛び交う。ただし、土属性だけは物体に作用して現象を伴う魔法が多く、効果が低いことからあまり見られない様子。
「伸びろ! 『大理石の槍』!」
約一名、地面から真っ白な大理石を棘状にして地面から突き出している後輩が。
光属性でも宿っていないと効果がないという話を知らないのだろうか?
「うん、森で試した通り効果抜群!」
大理石に貫かれてガストが消滅してゆく。
「えー……」
「おお、あの土魔法使い、聖別された石を呼び出せるのか。かなり高位だな」
どうやら大理石はあいつらに対抗できる物体らしい。白ければいいなら石灰でも撒けばいいのに、そう思ってしまう。
「こっちはダメージ効率の悪いサンダーストームで必死に応戦してるのに!」
シャインショットだと魔力の消費が高すぎて逆に効率が悪い。
「ああもう狐火が使えればもっと早く……」
あれ? さっきフェネ君はなんて言っていた?
「もう使いこなせる?」
使いこなせる? ならもしかして!
もしかして、私にも犬に憑依された千果と同じようにフェネ君によってその器官が作られていたとしたら。
脳内花畑でフェネ君がやっているような、魔力の動きを真似て呼び出す。
「狐火!」
両手から迸る青色の炎。敵のみを識別して焼く精神の炎。
「せーの、狐火チャージ!」
手を上に掲げ、両手から出した狐火を球状にまとめる。そして、
「チャージ! チャージ! チャージ!」
起動させる符は『チャージ』という指定した対象に魔力を付与するもの。この周囲のガストを一掃する為にひたすら大きな球に仕立て上げる。
出来上がった狐火は、直径十五メートルはありそうな巨大な球となっている。
「全員この隙に体勢を立て直して! 狐火フォーリングダウン!」
「ふざけんなー! 俺たちも巻き込まれるわ!」
ああ、狐火が敵味方の対象を識別できることを知らないのか。まあ、大丈夫大丈夫。
「この炎なら死なないから!」
「逃げろー!!」
もう遅い、脱出不可能よ! 腕を振り下ろすと、ゲームでよく見るような隕石落下よろしく傍目ではゆっくりと、実際にはかなりのスピードで地面に落ちて、周囲に蒼炎をまき散らす。
視界がきれいな蒼で染まる。ガストだけが燃え、淡い色の火の粉が飛ぶ幻想的な風景に見とれていると、リリーズの伝令役がくいくいと袖を引いてくる。
「えっと、司令官が『後で覚悟しておけ』って伝えてって」
うん、何とかうやむやにしよう。
「さ、飴ちゃんあげるから仕事に戻ろうね」
飴を頬張って嬉しそうに仕事に戻るリリーズの伝令役。さて、少なくとも気配察知で感じた半数くらいはこれで片付いたはず。
残りも同じ手で一掃したいのだが、『チャージ』の符があまり数がないのと、魔力が結構厳しい。
今後の戦いを考えると、これ以降は今ある戦力で何とかした方がいい。現に光属性の加護を受けた装備持ち組が出入り口から湧き出る怨霊相手に攻撃を仕掛けている。
「これで何とか戦える環境に戻せたけど、あと一押し、、ボスを引きずり出すのにほしいところ……」
狐火で彩られる世界の中、漆黒が舞う。
それは私の脇を通り過ぎ、怨霊の出入り口に向かっていく。そしてそのままガストをその身の羽に吸収してゆく。
「ブラックバード、ということは!」
肩の上にフェネ君が飛び乗る。こちらの頬を一舐めし、そのまま私に融合。
「ここからが本番ということかな?」
脳内花畑では、ヘッドセットとパソコンを用意したフェネ君が頷く。本当にこのあたりのノリはいいですね。
「ふんふん、怨霊は可能な限りあの烏が行うと」
耳よりフェネ君情報に、説得ご苦労様とフェネ君をねぎらう。後で果物買ってあげることを約束すると、フェネ君が嬉しそうに跳び上がる。
「リリに伝えて! 全員へ! あのブラックバードは怨霊を相手取ってくれるから、手を出さないどいて!」
戦いを動かすのは、いつだって情報だ。こんな環境でも情報を間違えることなく伝えられるのはそれだけで武器になる。
突然のブラックバード乱入に戸惑っていた全員が、一斉にブラックバードを援護するように動く。
一部の攻撃できない人たちはブラックバードの抜け落ちた羽を集めては後方に運んでいる。ちゃっかりとしていると思う。
まあ、私も『ばんそうこう』の符を貼りつけてやるなどの援護しているが。
そうこうしているうちに地下から湧き出る怨霊の数より駆逐速度の方が上回ってきたと感じ始めたころ、状況が動いた。
「ボスがしびれを切らして出てきたって?」
気配察知でも一番大きな魔力がゆっくりと地上に向かって動いてきている。そのことに気が付いたのが何人かいるようで、全員が揃って周囲に声をかけている。
「前衛部隊は穴の周囲から撤退!」
大きい魔力の塊が、全部で五つ、地上に現れる。
「くくく、人間どもよ、雑魚を倒したところでいい気になるなよ?」
穴から出てきたのは、貴族風の衣装で着飾った五人。全員が顔に黒いラインが入っており、明らかに普通の状態ではないことを示していた。
「我が眷属たちによる攻勢はいかがだったかな? これですら余興でしかないがな」
真ん中にいる一番豪華な装飾品で着飾った男が、口を開く。
「しかし貴様ら脆弱な人間など、我らサモンリッチ四天王だけでも蹴散らすことは容易であることを知るがいい」
側近の四人が一斉に杖を構える。向こうは戦闘準備万端だが、対するこちらは動かない。
「レマ伯爵。いや、今はサモンリッチと呼んだ方がいいかの?」
ギルド長の声が、どこからもともなく響く。
「呼びやすい方で構わんよ。どうせここにいる全員が我らが仲間入りを果たすのだからな」
「そうか、では、儂からは一言だけ伝えさせていただく―――舐めるなよ。たかがリッチごときが」
そいつらは知らない。大物が出てくるから危険という意味で前衛が避難したわけではないということを。
ギルド長の言葉を合図に、サモンリッチ周辺に炎の矢が一斉に撃ち込まれる。
その炎は周囲に仕掛けられた樽爆弾に一斉に着火。風魔導士たちが一斉に魔法を使って爆風を一点に集中させる。
効果範囲が狭く圧縮された爆発が、彼らを一斉に襲う。煙が周囲に立ち込めるが、それも時期に風で流されてゆく。
「やったか!?」
そういうフラグを立てるなと言ってやりたいが、理解できるのは千果と私だけなので黙って様子を見る。
煙が晴れるとそこには、肉体の半分を失い、残り半分を炭化させているサモンリッチの姿があった。
○- - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○
サモンリッチと化したレマ伯爵の体が崩れ落ちる。そのまま灰になって風で飛ばされてゆく。どんなに強力な魔物も樽爆弾十数個分の威力には抗いきれなかったようだ。
「終わった。これで全部」
ブラックバード捕獲から始まった、この戦いが。全員が一斉に歓声を上げる。
確かに、私たちはこの危機を乗り切って、生き抜くことができた。それが何よりうれしくてたまらない。
「リリ様!」
「フィアナ、それにピアも!」
走り寄ってくるフィアナとピア。その後ろからはチカがアケノを担いで走ってくる。
あれだけ大理石の槍を呼び出しておいて、驚異的なスタミナだ。
「これで終わりましたね。リリ様」
「そしてフィアナは自由の身、か」
奴隷としての持ち主が死亡。そしてそれを引き継げる者はいない。それに誰かが引き継ぐといっても今回の報酬として貰い受けてから解放すればいい。
やっと、やっとフィアナを取り戻すことができる。
「まだ早い気もしますが、またおそばに置いていただけますか? リリ様。なにせ奴隷から解放されてしまうと私無職ですから」
「違いない、私たちのクランも前衛がこなせる人員を募集してるの。ついでにお手伝いしてくれる人も」
ピアを抱えながらその場でくるくる回るフィアナ。よっぽどうれしいのだろう。
そろそろ戦闘モードを終えて、妖精の目を閉じようとして、
「ピア! フィアナ!」
妖精の目に映ったのは、怨霊の手がピアの胸を貫いている姿を。
「バンシー……ドウホウ、クウ! オレツヨクナル!」
ピアが怨霊に飲み込まれそうになるのを、フィアナが阻止しようと槍を振るうが一瞬遅く、ピアを飲み込んで怨霊が大きく膨れ上がる。
「ピアーーーーーー!」
その叫びに気が付いたのか、周りの視線が一斉にこちらへ集まる。同時に怨霊の体が爆発的に膨れ上がり、領主館と同じようなサイズにまでなる。
「バンシーハ、リッチノナリソコナイ! ワレラノエサデシカナイ!」
それを取り込んだことであそこまで膨れ上がっているということか。
「ギュエエエエエエエ!」
いち早く攻撃を仕掛けたのは、空を飛んでいたブラックバードだった。
鳴き声とともに口から火を吐くが、意に介してすらいないように怨霊。
「コザカシイ、ハコビヤフゼイガ! キサマノトラエタドウホウモトリコンデクレルワ!」
怨霊から触手が伸びて、ブラックバードを捕える。そしてそのまま体内に引きずり込んでいった。
「コイツハアトデジックリトリコンデヤル!」
「リリ先輩! フィアナさん! 離れて!」
チカの叫び声に我に返り、リリーズを呼び出す。いまだ放心しているフィアナを担がせ、全力で離れる。
「本日何度目かの『大理石の槍』をくらえ!」
地面から突き出る真っ白な槍が、怨霊を貫くも、何事もなかったかのように再生を始める。
妖精の目が教えてくれる。こいつはさっきのリッチのように怨霊の意識集合体ではなく、無数の怨霊が先ほどのサモンリッチを核として集合しているということを。
だから大きな『大理石の槍』で削ることはできても、大部分が槍の動きに合わせて体に穴を空けて回避していると。
「アケノ、というかフェネ君、何か手段ってある?」
「私じゃなくてフェネ君に聞くところが分かってるよね、リリ。時間稼ぎよろしく」
「サア、ココニオンリョウノラクエンヲヒラコウゾ!」
今度こそ最終ラウンドと思いたい決死の時間稼ぎが始まる。
そう思っていた時期が私にもありました。




