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十九枚目 第二ラウンド開始

開幕爆撃は基本。

「しかし、こんな街中で魔物退治をすることになるとはな」


 剣にこびり付いたゴブリンの血を拭いながら、マイスさんが呟く。

 来るべき決戦に向け、この元領主館に向かって様々なクランが集ってきている。


「このあたりの有名どころはほとんどそろってるな。あっちに鉄槌戦士隊もいた」


 あたりの様子を見てきたヒースさんが炊き出しで作っていた芋粥を持ってきてくれたのでありがたく頂戴する。


「うーん、あったかい」


 味はそこそこだけど、その温かさが身に染みる。


「ところで、結界はどれくらい持ちそうなんだ?」

「あと二時間は問題ないよ。かなり強力な結界を作っておいたから」


 そう、私がイメージしうる最強の結界の言葉。その名は『関係者以外立入禁止』という。この場合の関係者とはギルドやクランに所属している者たちを指す。


「そう、この結界に穴はない!」

「たしかここの領主もギルドの一員だったはずだな」


 ……マジですか?


「マジです」


 即座に結界の効果がある符をイメージする。まず領主対策のために『地下からの入場お断り』と書いた符を地面に叩き付ける。

 ダメ押しで『封鎖』と書いた符も地面に叩き付ける。

 すぐに符の効果が表れ、敷地内を走っていた線の色が濃くなる。


「おいどうしたアケノ! 結界が脈動したぞ!」

「あー大丈夫、補強しただけです」


 シェーブさんを筆頭にギルドの人たちが私めがけて殺到するが、符を追加したことを話すと、納得して戻っていった。


「ただいまー」


 しばらくするとリリたちが戻ってきた。リリはいつもの格好、フィアナはいわゆる鎖帷子のようなものを着こんでいる。

 手には銀色に輝くシンプルな槍と、先ほどのぼろぼろになったワンピースから見違えるほどだ。


 ピアも新しい服を着せてもらい、小さめの槍を手に持っている。新しい服がうれしいのか、笑顔だ。


 一方、何も変わらないのは千果だ。どうも鎧が重く、イマイチしっくりこないんだそうな。

 私も似たようなものなので、二人で服の内側に『ボディアーマー』と書いた符を仕込む。これである程度は大丈夫だろう。


「私たちの準備はいいけど、みんなはどうかな?」


 もう一度見渡すと、結界で封じられている出入口に大きな樽が運び込まれており、導火線らしき縄が救護テント付近まで伸びている。

 中には火薬が入っているそうで、結界が解けると同時に爆発させてダメージを与える作戦とのこと。なので、それに便乗して私も中に


何枚か符を混ぜさせてもらった。


 符の内容は『ナパーム』と『C4』としてある。起爆前に発動させ、起爆した瞬間に効果を発揮するようにイメージした。


 実践テストはしていないが、たぶん大丈夫。効果がなくてもただ符が数枚無駄になる程度。やらないよりマシということで。


「本当にすごい人数ですね、先輩!」


 祭の神輿よろしく、中身は冒険者たちなので、いろいろとごつい人たちが多い。

 血の気の多い強面のおっさん達に、精悍な顔つきの渋めのオジサマ。魔法が得意ですと言わんばかりの線の細い若者に、老人の域に達


しそうな方まで。


 老若男女問わず、前衛後衛を問わずにいろんな人たちが集まっている。


 救護テントの近くには簡易の櫓のようなものも設置されており、そこにはミックさんなどの弓を得手とする人たちが集まっている。

 思い思いにこの休憩時間を過ごしているが、私たちの意識は共通している。


「守らないとね、この街」

「そうね、守らないと報酬もらえなくなっちゃう」


 リリはブレずに報酬の計算を始め、


「リリ様? 報酬から整えた装備代が引かれることをお忘れなく」


 フィアナが計算するリリを諌め、ピアが何も言わずにフィアナの横に立ち、


「先輩、これ終わったらキャッチボールしましょう?」


 千果が昔のように抱き付いてきて、


「軽くね。本気でやったら私の体力が持たないから」


 私は千果に返事をしながら、最後に四枚の符を書き上げる。これ以上符を作成すると戦闘開始時間までに魔力が回復しきらない。


「じゃあ、皆にこれ。どこかに持っておいて」


 すでに魔力は通してあるので使用は問題ない。各々が役割を果たせる位置に行くためだ。


 フィアナは前線組に混ざって雑魚を抑える。ピアは防御魔法でその補助を行う。


 千果は救護テント付近に土をもって作ったマウンドからの投擲。場合によっては前線に出て壁の修理。


 私とリリは遊撃。ただしお互いが別方向で遊撃を実施。

 加えてリリはリリーズを利用した伝令を行い、私は結界の補強も並行して行う。


「だから、これ。『以心伝心』っていう符で、効果は持っている人との間で声を出さずに会話ができるようになるの」

「それじゃあリリ、サポーティア全員が揃ったところで一つお言葉を」


 リリが一歩前に出る。


「少しばかりキツい戦いになるだろうけど、終わったら結構いい報酬が得られる予定になってるからさ、皆で宴会しよう。だから、生き


て帰ってくること。

 これがサポーティア最大の目標ということで。それじゃあ全員持ち場に!」


 リリが解散、と言おうとした瞬間に、千果が手を前に出す。私もそれに習って千果の手に私の手を重ねる。

 わからないながらもピア、フィアナ、リリも続く。


「それじゃー、しまっていこー!」


 その重ねた手を、一斉に上にあげる。


「まったく、私がリーダーなんだから」


 次は私がそれ仕切るわ、と言いながらリリが持ち場へ移動する。


「では、アケノ様、チカ様。終わりましたら後ほど」


 ピアも小さく手を振って、二人が前線側に移動する。


「では、私もピッチャーマウンドに行ってきます。では、後ほどのシャンパンファイトで会いましょう」


 手には長年使い込んできたであろう、革のグローブを嵌めて、救護テント横のマウンドへ歩いてゆく。

 私も、配置場所に向かってゆっくり歩く。


 外はすっかり日も暮れ、あたりに焚かれたかがり火と、私が急きょ作成した『ナイター球場』の符で明かりを確保。


 決戦は、すぐそこに迫っていた。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「これより、ギルド長のお言葉がある。全員作業の手を止めず聞いてほしい」


 マイクのような魔道具を持ったシェーブさんが全員の注目を集めた後に、横にいた老人にマイクを手渡す。


「私は北方都市レマのギルド長、ソレアリアである。全員が知ってのとおり現在このレマの街を未曾有の危機が襲っている。

 過去に類を見ない、領主によって引き起こされた緊急事態だ」


 そこで、ギルド長が息を吸う。


「しかし、見よ。この緊急事態、クランの仲や偶然通りがかった冒険者含めこれだけの人数が集まってくれた。この場で感謝を申し上げ


る」


 ギルド長が頭を下げる。


「街を守るため、ただ報酬のため、召集されたから、守りたいもののために、参戦理由や信念は様々だろうがこの場でそれは問わない」


 さらに息を深く吸い、叫ぶ。


「我らが力、存分に見せつけ、各々の目的を達成するよう、努力してほしい。以上だ!」


 ギルド長からマイクを受け取ったシェーブさんが叫ぶ。


「あと数分で封鎖結界が解ける! 諸劇を加えた後は自由に戦え! 総員準備!」


 シェーブさんが避難するギルド員に魔道具を渡し、大きな戦斧を構える。横のギルド長も身の丈ほどの長大な杖を構える。


 それぞれが武器を構える。剣、槍、斧、弓にスリング、中には私と同じように符を構える人や、手甲を構える人もいる。


 きっと、リリの構えや千果の投擲なんてものは異質だろう。


「全員に、あと一分で封鎖の効果を終了させます!」


 私も支給されていた魔道具に向かって声を送る。


 残り五十秒。


 直前の水分補給を済ませる。


 残り三十秒。


 最初に使う符を構える。


 残り二十秒。


 出入り口付近にあった樽が蹴りこまれる。


 残り十秒。


 手に持った『起爆スイッチ』に魔力を通す。


 そして、残り零秒。


 導火線から火が走り、投げ込まれた樽に引火、同時に『ナパーム』符と『C4』符が起爆を果たし、猛烈な爆風を発生させる。

 複数ある出入り口から上がる火柱は、戦闘開始を告げる、盛大な燃料になった。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「アケノめ、いったいどんな符を使ったのやら」


 盛大に上がる火柱を見て、前衛組は歓声を上げる。今までの樽爆弾に比べて二倍近い威力がありそうだった。

 現に、一部の人間が軽く負傷している。


 そういった人たちはすぐに後方へ下がり、救護テントへ向かっていく。


「でも、この程度では終わらないよね」


 妖精の目がとらえるのは、魔力の大きさ。かなりの数が吹き飛んだが、それでもまだこちらの人数に匹敵するくらいの反応がある。

 その魔力が移動をはじめ、地上に姿を現し始める。


 まず最初に出てきたのは、体に黒い線の入ったゴブリン。続けて初めて見る真っ黒なスライム。さらにオークが続く。

 判断は一瞬。スライムに向けて炎の矢を撃ち込む。三割くらいの力で放っても十分に始末がつく。


 ゴブリンは前衛で構えていた戦士が真っ二つにし、オークは後衛の遠距離攻撃で頭にダメージを与えて退治。

 まだ警戒をしているのか、染み出すようにしか動いてこない。


 そんな状態が大体三十分ほど続く。


 そんな中に、私は違和感を感じた。


 前衛の人たちはその動きに疑問をあまり持たず、出てきた敵を切っている。

 違和感を感じているのは、後衛の人。俯瞰で戦場を見ている櫓の射手達。そして気配察知のできる人たち。


「妙だ……地下の魔力があまり動いていない」


 リリーズに本陣への伝令を走らせる。嫌な予感がする。


『リリ様、皆様、ピアが気を付けてって! 怨霊が、押し寄せてくるって!』


 頭の中に、直接フィアナの声が響いた。

 まさか、と頭の中が真っ白になる。この魔力の反応すべてが怨霊だとしたら、光属性を付与した武器しか通じないことになる。


 事前準備の時から万が一を考えて付与を行っていたが、それでも半数が精いっぱいだったはずで、もう半数はゴブリンなどのモンスタ


ー対策に当たる予定だ。

 魔力の塊が地上に向かって動き出す。白くなった思考が一瞬で色を取り戻し、伝令役のリリーズすべてに命令を送る。


「全員気を付けて、下位の怨霊、ガストが押し寄せてくる!」


 言うや否や、出入り口付近に多量の怨霊が噴き出るように現れる。

 前衛組の一部が怨霊に飲み込まれるのを、私は見ていることしかできなかった。


次回、乱戦。

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