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十七枚目 合流

暗い地下の中で各々は何を思うのか?

 すごい音がして、お姉ちゃんが抱きしめてくれて、気が付いたらお姉ちゃんが倒れていた。


 今までずっとベッドの上で座ってたわたしを見つけてくれたお姉ちゃん。

 ご飯を食べさせてくれて、一緒に遊んだり、お話を聞かせてくれたお姉ちゃん。


 そのお姉ちゃんが倒れている。原因は、わたしだ。


 怖いドラゴンとお姉ちゃんが戦っている時、こわくて、ただ震えてただけ。

 ドラゴンの腕や爪から、必死になってわたしを守っている。


 槍が折れて、棒になって、折れても。


 おとぎ話の騎士様みたいに、ぼろぼろになっても立ち上がろうとしている。

 お姉ちゃんが、死んじゃう。


 でも、何もできない。目から涙が出てくる。


「ひめさまが泣いている」


 声が、聞こえた。


 その一言だけだった。でも、その一言が波紋のように広がり、気が付くと、私の周りにいっぱい光が浮いていた。


「ひめさま、泣かないで」

「泣いているのはあのドラゴンが原因?」


 泣かないでと言われても、できない。止められない。


「だったら、泣いちゃおう」

「思いっきり泣けば、泣かなくて済む」

「せーので、思いっきり泣いちゃおう!」


 光の粒たちが、飛び回る。粒が通った後に、さっきドラゴンの口元にあった模様が一斉に並ぶ。

 もう我慢できない。声とともに、泣いた。


 模様が一斉に反応してあたりが真っ白な光に包まれた。


 光がなくなった後、わたしの周りにはなにもなかった。

 いや、ドラゴンは居なくなっていて、光の粒がお姉ちゃんのまわりを飛んでいた。


「糞、どういうことだ! 私の屋敷に一体何が潜り込んでいた!」


 瓦礫の中から見たこともないような綺麗な服を着た人たちが出てきた。

 その人たちの周りにもあの時の模様みたいなものが出ていたが、すぐに消えてしまった。


「まさか、あれがバンシー!?」

「こんなところに現れるとは……!」


 バンシー? 何のことだろう? わからないけど、この人たちの目が、まるで何かにおびえるようにこちらを見ている。


「あの奴隷か! おのれ、高かったくせに主人を害するとは!」


 手に持っていた杖が、お姉ちゃんに向けられる。


「ファイヤーボール!」


 杖から出てきた火の球が、お姉ちゃんに向かって飛ぶ。とっさに前へ出て、お姉ちゃんを守ろうとする。

 目の前まで来た火の球を、光の粒たちが私の前で模様を描き、模様にぶつかった火の球を消してしまう。


「あの奴隷を庇っているのか?」

「だとしたらあの奴隷に攻撃を集中させればあいつを倒せるぞ!」


 わたしを? お姉ちゃんも? 一緒に?


 させない。


 わたしがどうなろうと構わない。でもお姉ちゃんだけは絶対に守りきる。

 お願い、だから力を貸して、みんな!


「ひめさま、まもる」

「ひめさまの騎士も守る」


 光の粒たちが今までよりも大きく模様を描く。模様が出来上がってすぐ、氷や雷、炎、いろいろな攻撃が飛んできた。

 でも、それらを光の粒たちが防ぐ。光の粒たちにお願いするようにして、模様を描いてお姉ちゃんを守る。


 だから、その一瞬にわたしは何もできなかった。


 大きな爆発が私とお姉ちゃんの周囲に起きる。でもこれならさっきも防げたから問題はないはず。


 だから、何が起きたのかわからなかった。、


 いきなりお姉ちゃんのところに三つ編みの女の人が現れた。


 その女の人は気を失っているお姉ちゃんを担ぎあげる。

 次の瞬間にはお姉ちゃんとその女の人が居なくなった。


 魔法を撃ってきた人たちも、私も、光の粒たちも動きを止めている。


「な、なんだあいつは!」

「それよりもマズい、あの奴隷が居なくなったら!」


 一斉に通路に向かって走りだした男の人たち。私もお姉ちゃんを見つけないと。

 お姉ちゃんに張り付いていた光の粒が場所を教えてくれる。


 わたしが、守るんだ。教えてくれた方へ向かって走り出す。

 目の前にいた男の人たちが私を見てあわてているけど、気にしない。


「ひめさま、こっち」

「気をつけて、足元危ない」


 大丈夫、この程度ならいつもの事だから。


 暗闇の中を、光の粒たちが照らしてくれる。大丈夫、行ける。何回も繰り返して私は走り出した。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「リリ様! ピアは! それにドードラゴンは!?」


 目が覚めたフィアナが急に起き上がり、私の肩を掴んで揺すってくる。体にダイレクトなダメージが!


「お、落ち着いてフィアナ……ちょっとどころじゃなく痛い」

「し、失礼しました、リリ様」


 そう言って跪くフィアナ。まったく、そそっかしい子だ。


「言ったでしょ? あなたには暇を与えてるの。だから主従関係とか無し無し」

「それでも、です。リリ様」


 こうなったら言っても聞かないので諦めることにしよう。


「ではリリ様。状況を確認したいのですが」


 リリの目に真剣な色が宿る。あの場で何があったのかを把握しないといけないのはこっちも同じだ。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「うーむ迷いましたね」


 リリ先輩を送り出してからオークを仕留め、周辺の安全確保のためにサーチアンドデストロイを実行下は良いが、道に迷った。


「どうしよう? 出口まで行こうか、それともリリ先輩と合流するか……」


 どうしようかを考えていたところで、向こうから光が近づいてくる。臭いはほぼ無しで、怨霊とか幽霊とかそういう系の臭いがする。


 けど、怨霊のように死臭のようなものを感じないので健全な幽霊だろう。

 光のところまで近寄ってみると、幽霊っぽい光の粒を纏った女の子がうろうろしている。


「……どうしたの?」


 驚いた表情をする女の子と、やや敵意を持った臭いに変化する光の粒たち。

 そんな中、女の子が何かを伝えたそうにこちらを見つめる。すると光の粒の一つが、こちらに近寄ってくる。


「ひめさま、騎士さま探してる」


 光の粒から聞こえる声に若干驚きつつも、この子が誰かを探しているということが分かった。


「うーん、その人の特徴って判る?」

「二人連れ、騎士は貴方みたいな黒い髪をしていて、もう一人は女で三つ編みだった」


 うーん、おそらく片方がリリ先輩で、もう片方が件のフィアナさんだろう。

 よし、だったらリリ先輩と合流しよう。ついでにこの子も連れていけば一石二鳥。危なそうな気配は感じないから大丈夫。たぶん。


「それじゃあ、私、その人の位置判るから一緒に行こう?」


 女の子がそれに頷く。了承ということで、女の子を肩車する。

 驚いて暴れようとするが、足を抑えてしっかりと固定するとおとなしくなった。


「大丈夫、こうした方が早いからさ」


 これくらいの子にしては軽い。よく見ると栄養状態もさほどよろしくないようだ。

 今の状況で軽いのは良いことなので、後でいっぱい食べさせてあげよう。


「さて、匂いではこっちだけど……」


 匂いを嗅いでいると、女の子が匂いの方向を指さす。この子はこの子で相手の居る方向が分かるようだ。


「りょうかーい、じゃ、行くよ!」


 走り込みで鍛えたチーム一の瞬足をとくと見よ! ピッチャーだからあんまり関係なかったけど!

 私の鼻と彼女の的確な進行方向サポートであっという間に匂いの源付近まで近づくが何も見えない。


「いや、待った。確か先輩に……」


 懐から一枚の符を取り出す。符には『間違い探し』と書かれている。そのまま魔力を通すと、先ほどまでは見えなかった人影が二人、


この先で座っている。


「ここかな?」


 どうやら光学迷彩と人払いの結界を組み込んだ無駄にハイスペックな符を使っているらしい。


「でもどうして『ギルバート』って名前にしたんだろう?」


 先輩に尋ねたら、「戦場で隠れるならこの人しかいないと思って」と笑っていた。スナイパーか何かだったんだろうか?

 何か違和感のようなものを通り過ぎると、利理さんと黒いきれいな神の女の人がいた。


「やっほー、リリ先輩! やっと見つけました!」




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 目の前に見えた光景に、一瞬で臨戦体勢を取る。

 何しろこの大きいアケノの後輩が肩車で先ほど決死の思いで逃げてきた原因を連れてきたのだから!


「あ、お姉ちゃんってどっち?」


 バンシーが指したのはフィアナの方。


「ピア! 無事でしたの!?」

「ってなん普通にバンシーと仲良く話してるの!?」

「え?」


 いや、え? じゃないから! 魔力あるんだからそれくらいわかるでしょう!


「えっと、バンシーって何ですか? リリ先輩!」


 しまった、ここにも一人疎いのが。


「簡単に言うと魔物だけど、幽霊の女王ってことね」

「それにしては悪意を感じませんね。じゃあ問題ないです!」


 軽いなこの子。


「えっと、ピアはいい子ですよ? なかなか槍の筋もいいですし」

「そうじゃなくて、この子、幽霊、魔物!」


 私が一通り叫ぶと、ピアと呼ばれたバンシーがむっとした表情を浮かべている。


「ほら、ピアがうるさいって。非常事態なんですから」


 なんでか私が悪いことになった。


「ともかく、ここから脱出して、地上まで脱出しましょうか。あ、明乃先輩の後輩で渡良瀬千果です。よろしく!」

「リリ様の元従者、フィアナと申します。この子は幽霊のピアです」


 よろしく、と言わんばかりに胸を張るピアと呼ばれたバンシー。だが、身長の高いチカに肩車されたまま胸を張ったので、そのままの


けぞって落ちそうになっている。


「……この問題は一旦脇に置いておこう。それじゃあ地上に戻りましょ……!」


 そこで、違和感に気づいて、ネズミの耳を出す。まだ完全に気配察知を利用するに当たって、耳の有無が重要になってくる。

 先ほどから私たちの声しか聞こえない。フィアナが驚いているが、今はそれどころではない。


「リリ先輩、妙です。このあたりの魔力の臭いがどんどん消えていっています」


 大気の魔力が何らかの魔法で消費されていっているのだろう。

 ところで魔力の臭いっていったいどんなものだろうか?


「足音も声も聞こえない。これは風魔法で音を断ってるってところね」

「リリ様、もしかして囲まれてます?」


 十中八九その答えで間違いない。


「チカ、帰り道わかる?」

「問題なしです」


 だとしたら作戦は単純だ。まずはリリーズを二人単位で四組用意する。


「先行はこの子たち、攪乱したのちに私たちが出口に向かって一直線で逃げる」

「では、その際の露払いは私が」


 何の疑問もなくリリーズを受け入れているように見えるが、おそらく後で質問攻めされるんだろうな、と思いつつ、


「ああ、フィアナ。預かってたものを返すわ」


 渡したのは、ミスリル製の飾り気の少ない槍。


「確かに返していただきました。それでは急ぎましょうか」


 四方へ一斉に散るリリーズを見届けた後、私たちも一気に『ギルバート』符の効果範囲から飛び出した。

明乃はまだ地上で一人無双中です。

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