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十六枚目 領主館の攻防戦

二人の再会です。

 確かに声は、下の方向から聞こえた。瓦礫の中から地下への道を見つけるとそのまま飛び込む。

 ほとんどの明かりが消えており、暗闇に包まれている。


「妖精の目、展開」


 緑色に染まる視界の中、目がわずかな光を捉えて視界に映す。さらに左目から流れる視界は、生物物体問わず熱を赤く映


す視界が広がる。

 熱量が小さい物体はおそらくゴブリンやスライムであり、適度に捌きつつ進む。大きい個体はナイトウルフなどの個体だ


ろう。出来るだけ交戦を避けて進む。

 そうやって進んでいると、一番深いところで、もう一度だけフィアナの声が聞こえる。


 それと、そこへ辿り着くまでに大型の魔物を目視。熱源の広さからして複数体。


「やっと追いつきました! まっすぐ後を追ってきたはずなのにねばねばした奴とか二足歩行の獣っぽい奴とかいっぱいい


るんですから!」


 横に並んだのは、チカだ。おそらくだけど、アケノは地上で結界張りを実施しているのだろう。

 到着が遅かったのは、私が避けた魔物を全部殲滅しながら進んだからだろう。


 この先の魔物を相手にするなら手は多いほうがいい。実力は未知数だけど、黒の森で生き延びられるなら弱くはないだろ


う。


「リリ先輩、この先にいる奴、黒の森にいた二足歩行のブタっぽい奴ですね。ありゃりゃ、匂いが濃いから五匹くらいかも



 おそらくオークの事だろう。犬の嗅覚でかぎ分けているらしい。便利な能力だ。


「交戦は不可避、なら全滅させてから突破しましょう」

「いえいえ、ここは私に任せてください!」


 一瞬何を無茶な、と言おうとしてそれを止められる。


「大切な友達、なんですよね? 詳しく聞いていないですけど」


 無造作に彼女は歩く。手に魔力が灯り、重たそうな球が現れる。


「不意を打って三匹、その後の戦闘で二匹、これなら攻撃の通らない怨霊の方が怖いですから」


 そう言って、チカが球を構える。


「それじゃあ第一級はストレートで!」


 ボールを構え、右腕を大きく一回転させるようにして投げる。


 そのボールを妖精の目は捉えた、が、捉えられたのは手から伝わったわずかな熱の赤い線。

 それが猛烈な勢いで通路の先に進み、オークの頭部を貫通して壁にめり込んだ。


 何事もなかったようにオークは立ち続け、そのまま息絶えた。あたりに血が飛び散っていなければ死んだとわからない、


悲鳴すらない瞬殺だった。


「続けて第二球、投げたぁ!」


 今度は左にいるオークの頭部に命中。同じく頭部を貫通している。

ここにきてオーク側も奇襲に気が付き、こちら側に向かってくる。


「それじゃあ第三球はライズボール!」


 通路をまっすぐ向かってくるオークめがけて投げられる球。今回は頭ではなく、動体目掛けて球が向かう。

 それに気が付いたオークが小さな盾を構え、


「勝利への急上昇!」


 浮き上がった軌道でオークの喉を貫通する。


「行ってください! 大切な人がいるって聞きましたから! 後悔だけはしないように突っ走ってください!」


 アケノからもらった身体強化の符を使う。普段の倍以上の速度でオークの向かってくる通路を走る。横を、チカの投げた


球が通り過ぎる。今度のは左にスライドしてオークの槍を弾き飛ばす。


 私も虚を突かれたオークに向かって氷の矢を脳天に向けて撃つ。成果は確認せずにひたすらまっすぐに。

そうして五分ほど走り続け、明かりのある場所にたどり着く。


 瓦礫の中で対峙する、少女と貴族たちの姿を。そしてその少女の足元に、フィアナが倒れていた。




○ - - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 出し惜しみは無用。染み出るように出てくるスライムをファイヤストームで干物にする。

 這い出るゴブリンをサンダーストームで黒こげにする。大きい芋虫みたいな魔物をアイスストームで氷漬けにする。

 怨霊が出てくれば狐火で精神ごと焼き払う。リリーズの伝令員の足を考えると、ここからギルドまで五分、さらに先遣隊


の戦力をかき集めるのに十分は必要となるだろう。


 最低限、私はここで九百秒の時間を稼がないといけない。最初の数分は出てくる数も少なかった。

しかしつい一分前、モグラ型の魔物が瓦礫から飛び出てきた瞬間からデスレースが始まった。


 合わせて魔道具から魔力を啜ったのか、スライムがあちらこちらから湧いてくるように出てくる。

 このままだとジリ貧なのだが、泣き言を言っていられないのも事実。即席の結界符で一部の入口はふさいだが、これもい


つ破られるかわからない。


 脳内花畑のフェネ君も大忙しで魔力整理を手伝ってくれている。


「右手に炎、左手に氷、合成、フォールシャイン!」


 手から放たれるのは光の矢。それが天高く上り、無数の矢となって地上に降り注ぐ。

 それなりの数を撃破するが、それ以上に這い出てくる魔物の数が多い。


 こちらの排除を優先と踏んだのか、だんだん包囲するように魔物が現れ始める。残り時間はどれくらいか?


「えっと、残り五百十七秒? なかなかに厳しいな……」


 カウントありがとう、フェネ君。

 符を構える。ここからは符を織り交ぜた戦いにシフトする。在庫一斉処分の符のバーゲンセールの開始だ。


「たーまやー!」


 手当たり次第に投げつけるのは『かんしゃく玉』と書かれた符。大きな音で攪乱しながら、本命の『地雷』と書かれた符


に誘導し、爆殺。


「かーぎやー!」


 手に『ガスバーナー』と書かれた符を持って敵陣に向かって火炎放射したり、面白半分で作った符も総動員してとにかく


時間を稼ぐ。


 そうして倒して倒して倒していると、ふと疑問に思う。

 あれからどれくらい経っただろうか? 倒した数は覚えていない。


「ええと、さっき『スプリンクラー』は使ったし、『トランポリン』も『箪笥の角』も使っちゃったから……」


 考えていると、背後からゴブリンが襲い掛かってくるが、狐火で迎撃。

 消費される符の枚数と、値段にクラっときそうになるが、踏ん張る。ああ、フェネ君、片手間で計算しなくていいから。


お金という現実はいらないから。


「それに、ようやく到着したみたいだから」


 言葉と共に、私の周囲が爆炎に彩られる。とっさに『火気厳禁』の符で私の周りだけ火が届かないようにする。


「遅いですよ、ヒースさん」

「これでも急いだんですがね?」


 それはそうだろう。フェネ君の用意した時計では、援軍到着の最低時間まで百八十秒近くある。

 それに、マイスさんが手近なスライムを切り飛ばし、ゴブリンを蹴散らしている。


「ちょうどこの近くに旨い飯屋があってな。そこで飯食ってたら爆発は聞こえるわでそりゃもう大慌てさ」


 そこから宿に取って返して装備を持ってここまで走ってきたのだと。


「二人とも、リリの伝令役がギルドまで援軍を呼びに行っているから、それまで耐えれる?」

「その援軍なら今大通りをこっちに向かってきています」

「依頼料も完全後払いの緊急依頼なんていつ振りだろうな」


 よし、ここからは気兼ねなしで突撃だ。


「気を付けてね、まだ奥にオークとかゴブリンリーダーとかそういうやつらもたんまりいるから!」

「聞かなければよかった」

「ギルドは大損かもな!」


 よし、元気出てきた。カード化で即座に符を呼び出して、目の前の集団に叩きつけるのだった。




○- - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 貴族の男がファイヤーボールを放つと、少女の魔法陣がそれを弾く。別の貴族がさらに重ねて魔法を放つも、結果は同じ



「糞っ、忌々しいバンシーめ!」


 少女の方に妖精の目を向けると、肉体ではなく、魔力が集まって人の形を取っているのが見える。


「あれが、幽霊の女王……」


 話にだけは聞いたことがある。幽霊たちを束ねる存在。魔物としてカウントされているが、実態は不明な存在。


「攻撃を緩めるな! いつあの鳴き声が来るかわからんぞ!」


 叫びを上げながら、貴族の男が魔法を放つ。しかしそれに対しても意に介さないバンシー。

 力の差は歴然だ。おそらくだけど、この惨状を作り上げたのもあのバンシーが原因なのだろう。


 だとしたら、私のやることは一つだ。あの場所にいるフィアナを救出する。そうと決まれば、次の大きな魔法が発動する


瞬間、一瞬勝負だ。


「喰らえ我が爆裂魔法を!」


 ちょうど都合よく目隠しにもなる爆裂魔法が発動しようとしている。さっきから見てればフィアナが巻き添えになっても


仕方がない魔法ばかり繰り出して。


 全部終わったらとっちめてやろう。そう思いながら符を構える。


「体の負担になるから三枚以上の同時使用はダメだよ?」


 そう言われた身体強化の符。『ステロイド』と『プロテイン』の二枚。それに加えてこっそり持ってきた『ギャロップ』


と書かれた符。

 ほかの二つは分からないが、ギャロップと言えば馬の走りに関する言葉だ。これならきっと足が速くなるはず。


「喰らえ、ボンバーブラスト!」


 爆発が、バンシーの周囲で起こる。次の瞬間には三枚の札を使った全力疾走が始まる。

 一枚目の『プロテイン』で体全体が強化され、さらに『ステロイド』が強化をベースにした身体能力強化を行う。

 そして『ギャロップ』の力が発動し、私は最初の一歩でフィアナの元にたどり着く。


 フィアナを担ぎ、次の一歩で先ほどまでいた位置に戻る。三、四、五と一瞬で先ほどまでいた空間を離れ、一気に地下を


駆け抜ける。


 その調子で来た道を半分ほど戻った瞬間、破綻が来た。

 突然符の効果が切れ、足がもつれる。全身にひどい痛みが走り、そのまま床に倒れこんでしまう。


「これは、ちょっとどころじゃなくキツいかな……!」


 足の感覚など無いに等しい。『ばんそうこう』を貼って魔力を通しても状況は良くならない。

 フィアナにも同じく『ばんそうこう』を貼って回復を図る。

 妖精の目で辺りを見渡しても、敵はいない。この非常事態の中で、遠くからの喧騒以外音のしない、不思議な感覚だ。


 体の状態は最悪だけど、心は最高の状態だ。フィアナを助けることができた。

 呼吸を整えながら、痛みが引いていくのを感じていると、私の走ってきた方向から声が聞こえる。


「急げ、あの女を探せ!」

「あいつが居ないとバンシーを釘付けに出来ない!」


 とっさに『ギルバート』と書かれた身を隠す効果のある符と、『立入禁止』という結界符を合わせて使用し、敵意の有る


物が近寄れないようにする。


 声の主が行っているあの女とはフィアナの事だろう。しかし、バンシーを釘付けに出来ないとはどういうことだ?

 状況の推察をしようとしたが、すぐに取りやめとなる。


「うぅん……」


 とっさにフィアナの方を見ると、ゆっくりと起き上がり始める。


「あれ? リリ様……?」

「久しぶり、フィアナ」

目覚めた従者は何を思うのか?

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