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十三枚目 ヤタガラスとキツネと新たな影

一家に一匹八咫烏。


※6/5タイトルを編集時の物で間違えて投稿したため修正。

 八咫烏。太陽の霊鳥ともいわれる三本足のカラス。サッカー代表のユニフォームに描かれているのもこの鳥だ。

 本来咫とは大きさを示す単位であり、この場合は大きいものとしての側面が強い。


「気を付けろよ? こっちに気が付いたら確実に炎を飛ばしてくるぞ」


 ミックさんが弓を取り出し、手に一本の矢を持つ。リリも指先を向ける。フェネ君も静かに相手を見据えている。

 私は私で、いつでもサンダーストームが発動できるように準備している。


『オオ、アア……ヨウヤク、ムカエガ…………カアサン』


 怨霊が、ブラックバードを見て声を上げる。そしてそのままブラックバードの羽に吸い込まれるようにして消えた。

 その瞬間、ミックさんの矢が放たれる。


「キェアアア!」


 放たれた矢は、ブラックバードが放った炎で撃ち落とされた。どうやら気づかれたらしく、こちらに向かって数発の炎が


飛んでくる。


「危ない!」


 取り出したのは、『吹雪』と書いた符。札から吹き荒れる吹雪が炎を撒きこんで消火する。作っておいてよかったと安堵


もつかの間、リリが雷の矢を放つ。二発放たれたそれは羽によって防がれる。


 リリーズの三人から三、四、五発目がさらに放たれ、それぞれが足に命中し、バランスを崩させる。


「ミックさん、次の矢を!」


 声をかけるのと同時に矢をつがえて、放つ。


「ギャアアアア!」


 今度の矢は胴体に命中。麻痺が聞くまでに時間がかかるだろうから、サンダーストームを放つ。

 あたりに雷鳴が轟き、ブラックバードを打ち据える。そしてそのままその体を地面に横たえる。


「これで、いいかな?」

「予定とは少し異なる結果だけど問題ないでしょ?」


 飛ばないように蓋をするというのが目的だったはずだが、途中から飛ばせないために攻撃を当てて邪魔をするというよう


な戦いになっていた。


「そのあたりは臨機応変ね」


 結果オーライということで。ミックさんも嬉々としてブラックバードに駆け寄る。私も興味があるので同じように駆け寄


って、


「キュアアアアアアアア!!」


 悲鳴を上げてまだ動こうとするブラックバードが口から火炎をのぞかせた。

 次の瞬間、私は体が勝手に動いていた。

 ブラックバードの懐に潜り込み、両手を当てる。手にはカード化で作られた二枚の符。その名は、


「空川コレダー!」


 絶叫と共に放たれる最大密度の電撃。周辺に被害を加えることなく高圧電流を流し込む。

 五秒ほど流し込み、符が消えたのを確認した後、ブラックバードを見る。少し焦げているが、呼吸音が聞こえたので生き


ている。


「よし、捕獲成功!」

「アホかぁ!」


 次の瞬間には、手加減版氷の矢が私に直撃した。というか小さい氷の塊が頭に当たってすごく痛い。


「符術士がそんな近接魔法使ってどうするのよ! それに警戒もしっかりしなさい!」

「そーだそーだ!」


 怒っていますと腰に手を当てるリリに、はやし立てるリリーズ。連係プレイ抜群ですね。


「ごめん、反省してる」


 その言葉によろしいと怒りモードを解除するリリ。しかしリリーズの三人は、一人が口元を押さえて笑っており、二人が


たんこぶになったところを撫でてくれている。

 ありがたいけど痛いのでちょっとだけそっとしておいてほしい。


「よし、それじゃあ足と口を縛ってから運ぼうか」

「羽も忘れずね。じゃあフェネ君、周辺警戒お願い」


 今回、出番のなかったフェネ君がこくこく頷く。

 正確に言えば行動を起こす前にすべて終わっていたというのが正しい。言うなれば高レベルパーティーの雑魚モンスター


蹂躙のようなものだ。


 先ほどの奇襲に対応しきれなかったことに責任を感じているのか、結構気合を入れている様子。


「それじゃあ、運ぶよー?」

「おー!」


 リリーズのちっこいのが五人、麻痺して倒れているブラックバードを担ぎ、運び始める。なんかこういうゲームを昔見た


ことがある。


「それにしてもこんな魔法もあるんだな、奥が深いな!」


 ミックさんはしきりに関心をしている。ついでに何も言っていないのにリリの増殖能力を魔法と勘違いしてくれている。

 超常現象の類だから魔法というくくりもあながち間違いではないだろうが。


 そんなこんなで来た道を引き返し、森を抜けて森の入口にたどり着く。


「しかし、思ったよりも時間が余ったね」


 当初の予定では滞在は二日。その間に捕獲して帰ってくる予定だった。思いのほか近場で見つかったのと、捕獲も一発で


決まったので時間が余ってしまった。


 というわけで、あっという間に森の入口……なのだが。


「そうだった、こりゃうっかりしてたよ!」


 あっはっはと笑うミックさん、そして私たちも思い出した。


「馬車、迎えに来るの明日でしたね」


 馬車のチャーターは高い。行きは乗合馬車に乗せてもらい、帰りはチャーターした荷馬車に乗って帰る予定だった。

 到着は明日を予定していた。


「どうしようか? 大きい荷物もあるし」

「まあ、森から少し離れて野宿、かな?」


 森の中は夜になると魑魅魍魎のオンパレードで怨霊フェスティバルなんだそうな。見てみたい気もするが確実に呪い殺さ


れるので遠慮しよう。


「どったの、フェネ君?」


 森を抜けた後しばらく警戒を続けていたフェネ君がこちらの頬を叩く。どうやら憑依したい様子。ついでに何かを伝える


とのことだ。


「いいよ、おいで?」


 言葉と共にフェネ君が方から飛び上がり、私の頭に着地する。

 次の瞬間には、体の中に別な何かが入ってくる感触。その感覚に引きずられるように私の意識が体の中に引き込まれる。


「で、やっぱりここなのね」


 目の前には、私の脳内花畑が広がっていた。




○- - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「それで、今回は何かな?」


 持ち出されたのはホワイトボード。今回は私の目の前にちゃぶ台、それに座椅子がセットされている。

 ホワイトボードに書かれた文字は、地脈を利用した恒久的セーフゾーン作成について。


「セーブポイントを参考にした?」


 フェネ君が頷く。


「なになに? 結界の効果を符とこのあたりの地脈とで結合して魔物が入れない空間を作ると」


 それは興味深い、けど何で?

 言っちゃ悪いけど結界符で即席の結界を貼って、私たちの身の安全を確保するだけでいいんじゃ?


「怨霊はあの程度の結界ではすり抜けてくる? それにブラックバードも入り込んでくるって?」


 もともと怨霊は魔力体なので、結界に干渉しやすいんだそうな。それに千年物のビンテージ怨霊だったら結界を破壊するなど朝飯前にやってくるらしい。


「安全な寝床の為にもぜひやっておくべきだ。と」


 フェネ君の言い分にも一理ある。が、ぜひとも気になる点がある。


「建前はそれくらいにして、本音は?」


 ホワイトボードがひっくり返る。そして、大きい文字でこう一言。


『せっかく作った理論だからぶっちゃけ実験したい』


 マッドサイエンティストだ、フェネ君が研究にしか興味の無いマッドサイエンティストのように見える。

 ああ、フェネ君が私のイメージを拾って丸眼鏡に白衣なコスプレをしている。少しかわいいぞ。


 さらにホワイトボードがひっくり返ると、今回の魔法陣に使う符の配置が現れる。


「前回は六芒星で広く張ったけど、今回はここにある標石を中心に五芒星で陣を敷いておくと、ついでに街道の一部も巻き


込んでおくと」


 そうすることで、安全に過ごせる地帯がふやせていいと。しかし、


「これ、何の意味があるの? 別に誰からも頼まれてないのにやる意味があるの?」


 私のメリットは、せいぜいが気軽に眠れる場所を確保できるくらい。

 フェネ君が頷いて、ホワイトボードがひっくり返る。そこには何も書いていない。

 でも、フェネ君はこちらを見据えている。


「今は、教えられないけど、どうしてもここに楔を打ち込まないといけない?」


 よくわからない。楔というのが何なのかが。


「―――わかった、やってみる。でも、今度はちゃんと説明して」


 納得はしていないけど、どうしても必要な物、というのはよく伝わった。


「それじゃあ、やろうか。どうせだったら派手に大きくさ?」


 フェネ君は、深く深く頭を下げていた。そんなフェネ君に私はそっとゲーム機のコントローラーを差し出した。


「本当はこれも目的でしょ?」


 フェネ君は静かにそれを受け取った。




○- - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




 意識が一気に現実へ引き戻される。掃除に頭から狐耳、尻から尻尾が生えてくる。


「うぉ、ビックリした!」

「キツネツキになってあんた何するつもりなの?」


 ミックさんが驚きの声を上げ、リリが疑問を聞いてくる。


 何をするか? そんなものは決まっている。


「このあたりなら安全に過ごせそうだから、結界張るんだけど?」


 ミックさんは首を傾げるが、リリは得心が言ったように、影からリリーズを呼び出す。


「で、今回は?」

「五芒星。頂点は森の入口に。この標石を中央にする感じで」


 その言葉を口にした瞬間、リリーズの一人が標石の上に登る。


「じゃあ、正確な形はこっちで調整するわ。符、頂戴?」


 五枚の符を渡すと、一斉にリリーズが五方向へ散る。標石に登ったリリーズが指示を出していく。

 そして配置が終わると、リリが頷いてくれた。私は標石に結界符を貼り、構える。


「それじゃあ、五芒星陣展開、術式名『ここをキャンプ地とする!』展開!」

「術の名前だけはもっとマシにしなさいよぉ!」


 リリが泣いている様な気がするが気にしない。

 頂点を示す符が地面に落ち、小さな石柱が出来上がる。石柱同士が光で結ばれ、地面に白い線が引かれる。


「地脈接続! 成功、定着!」


 その線が淡い光を放つようになり、術式が安定する。


―――結界術式『ここをキャンプ地とする』を習得しました。地脈の力で安全地帯を作ります。


 謎ボイスさん仕事早いですね。


「これで完成、立派なセーフゾーンの出来上がり!」


 結構大きめに陣を張ったので、一軒家が収まるくらいにはスペースがある。

 最後にこの標石に張り紙をしておく。


『この陣の内側は魔物や怨霊が入ってこれません』


 こう記しておけば誰かにに陣を消されることはないだろう。それにしても、魔力を結構消耗したので、そのまま標石に背中を預ける。


 石の冷たさが心地よい。向こうではリリを問い詰めるミックさんに、適当にあしらうリリの声、

 褒めて褒めてと言わんばかりにはしゃぎまわるリリーズに、遠くからの「助けてー!」という声。非常にのどかだ。


 いや全然のどかじゃないでしょう!


「ぎゃー! スピリチュアル的な物体は勘弁! 静かな丘とか青い鬼とかバイオなハザードも勘弁ですー!」


 何かが、それも懐かしい感じの単語が森の中から聞こえた。

謎の声の正体は一体?

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