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十一枚目 部屋の中の二人/外の世界の二人

全員の思いは生き残ること。

「おら、今日からここがお前の部屋だ」


 人形のように扱われた先で待っていたのは、質素な部屋だ。


「いいか、お前はご主人様に買われたんだ。これからはご主人様のために尽くせ、いいな、フィアナ!」

「はい」


 私をここまで連れてきた男は、そのまま部屋の鍵をして去って行った。

 とりあえずベットとタンスしかない空間なので、今私を飾り付けている服を脱ぐ。商品の為のラッピングは正直鬱陶しかった。


 タンスを開けると、簡素なワンピースが有ったので、それを着る。


「うん、大分動きやすい」


 さて、日課をこなすことにしよう。テラ家の地下にいた時は大したことも出来なかったけど、ここなら問題ないだろう。

 というわけで黙々と腕立てと腹筋を軽くこなす。このあたりの衰えは命に係わるのでしっかりとやっておけというのが祖父の遺言。


 だから、毎日しっかりとこなす。終わった後は立てかけてあった箒を槍に見立てた型の練習。

 まだまだ父や祖父には追い付けないが、これもまた僅かばかりでも前に進むためには振り続けるしかない。


 そして、そこで気が付く。


「あら、あなたはこの部屋の先輩さん?」


 ベットの上で膝を抱えて座っている女の子。微動だにせず、こちらをじっと見ている。


「私、フィアナ。よろしく」


 隣座っていいかしら、と聞くと頷いてくれたので座る。


「ごめんね、煩かったでしょ?」


 首を振る女の子の頭を撫でる。ふわふわした感触が心地いい。


「お名前は?」


 少女は答えないけど、私の掌に文字を書いてくれる。


「ピア? あなたの名前?」


 喋らずに頷く。不思議な感じのする少女だと思った。

 こうして、私とピアの奇妙な共同奴隷生活は始まりを告げた。




○- - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「こうして、初めてのラット退治は無事成功し、こうして帰りの馬車に揺られるのだった、まる」

「で、なにその手記調の語り」


 私はアロマの香りに包まれながら馬車に揺られている。

 魔力が欠乏して気だるくなっていて動けない状態だ。隣のリリはフェネ君を膝に乗せて撫でている。うらやましい。


 馬車の中はほとんどの人間が満身創痍な状態だった。


 あの後中間地点まで必死に戻り、私たちが動けるレベルになったところで、必死に符を作った。


『漢方配合』の符と『ばんそうこう』の符を大量に作り、『アロマの香り』も作って貼って回復を促す。

 それでも『ばんそうこう』は傷治療には即効性がなく、毒を抜ききらないとまともに動くことも難しくなる。


 毒抜きと傷の治療に一日を掛け、後衛組もダメージを負っているが動ける状態にまで回復。

 その状態で出口を目指して突き進み、地上までたどり着いたのが昨日。


 大体の人間が無理すれば動ける状態に対し、まともに動けないのは符の作り過ぎで動けない私だけだ。


 ダメージはないけど、魔力が足りなさ過ぎて怠い。作成の様子を見ていたヒースさんが、


「あの状態からあれだけの数の符を作ってその状態で済んでいるのもすごいな」


 とのこと。


「すまんのう、リリ。ワシが不甲斐無いばっかりに……」

「死ぬほど働いたんだから今は休んでなさい」


 そういうリリも、耳を頼りにずっと警戒を続けていた。唯一の無傷な人間だからとあちこち動いたりしていた。


「ま、動いていればいろいろ忘れることもできるし、さ」


 それ以上は何も言わずにリリがそのまま視線を空に向ける。

 私も、何も言わない。でも、そろそろ聞くべきだと思うが言い出せない。


 相変わらず『ソファ』の効いた馬車は振動を感じさせない。そのまま町へ戻り続けるのだった。




○- - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「ところで、これどうやって引っ込めるの?」


 報酬袋を指でつつきながら、ネズミ耳を指さす。


「キツネツキの時は体の内側に引っ込めるイメージだったけど」


 あの時は先に出すイメージがあったからそれの逆を行っただけだけど、今回のは逆なので、少し難航している。


「しっかし、間隔まで通ってるから、魔力で出来てるとは思えないわ」


 ネズミ耳を指で触りつつ、チーズをかじるリリ。尻尾は尻尾でフェネ君の鼻先にちらつかせて遊んでいる。


「思ったよりも馴染んでるね」

「まぁね、なんか使い方がすんなり頭に入ってくるっていうのが正しいかな?」


 あ、尻尾の先端をフェネ君が捉えた。


「よしよし、いい子いい子」


 食べていたチーズのかけらをフェネ君に与えるリリ。フェネ君も嬉しそうにそれをかじる。

 かけらを食べ終わった後に、フェネ君が身振り手振りを繰り広げる。


「えっと、キツネツキ状態では、耳と尻尾はあくまでも魔力でできた感覚器だから、魔力を送らなければ消えると?」


 頷くフェネ君がさらにジェスチャーを繰り広げる。


「それに、そこまでの深度で憑依、いや、融合してるのであればそのあたりは意のままに操れるはず、と」


 間借りじゃなくて共生関係に近いと。だから制御はできるはずと。


「操れるって……こうか!」


 魔力を漲らせたリリが声を上げると、


「おー」


 なんか、二頭身くらいのデフォルメリリが出てきた。


「……なにこれ?」

「なんか力を籠めたらできた」


 なんというか、少し普段のリリをアホっぽくした感じ。イメージとしてはゆるキャラ化といったところか。


「マスター、しれえは?」


 リリに向かってびしっとした姿を見せようとしているが、どう見ても子供の背伸びだ。


「とりあえずこのフェネ君と遊んできなさい」


 わーい、とフェネ君を抱えて走り去っていく二頭身リリ。


「あれ、ジェネラルラットの増殖能力?」

「そうみたいね。込める魔力量で能力が変わりそう」


 どうも込めた魔力が少なかったのか、非常に能天気な存在のようだ。それはそれでかわいいかもしれない。


「お、お嬢さん、名前は?」

「リリっていうの!」

「お、おじさんと一緒に遊ばないかい?」


 に、逃げてリリ二頭身! アレどう見てもアウトな人種に声かけられています! フェネ君も露骨に嫌そうな顔をしています!


「おじさん気持ち悪いからいやだ!」

「だ、だいじょうぶだから、向こうでお医者さんごっこしよう?」


 変態が手を伸ばそうとする、が、それよりも早くリリ二頭身が構える。


「さんだーあろー!」


 リリが普段撃つのよりレベルは低いけど、十分な威力のあるものが放たれる。響く雷の音にギルド内が騒然とする。


「おい、我がままリリが縮んでるぞ」

「いや、アレわがままリリの娘だろ?」

「あの歳であのサイズの子供、しかもクリソツ」


「聞こえてるぞ糞野郎ども」


 指先に魔力を集めているリリの表情は、二度と忘れない。あんな女の子がしてはいけない表情を浮かべていたことを。

 そして、この後に起こった、四人分の襤褸雑巾のことを私は決して忘れない。


 それとこれはついでの話だが、この粛清の後、リリは耳のしまい方をマスターした。




○- - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○ - - - - - - ○




「そして、私は今町はずれの森まで来ています」

「その喋り方、なんか流行ってるの?」


 当初、ギルドの訓練場で能力の実験を行おうと思ったが、先ほどの騒動でギルドから少しだけペナルティをくらい、見事三日間の施設立ち入り禁止を食らいました。


 おかげで依頼を受けることはおろか、併設の酒場や訓練場も立入禁止です。


「さて、お互いの手札を全部見せあいましょうか」

「私の場合は文字通り手札になるわけで」


 チョップを入れられた。地味に痛い。


「私のはジェネラルラットの能力の増殖と、超聴覚。それと魔法の矢とこの妖精の目で全部ね」


 目の色が緑色に揺らめいている。揺らめきの中にリリの本来の目の色である蒼が躍っている。


「妖精の目ってどういう効果があるの?」


「言ってしまえば敵として視認したものとの距離や、空気の中の湿気や風の強さ、温度を数字で知ることができるわ。

 加えて夜に使うと昼間のように見通すこともできるし」


 多機能暗視ゴーグルみたいな能力だ。ただ、気になるのは、あの時の豹変だ。


「それだと、あの時の豹変が説明つかないんだけど?」


 自己保身の無い、勝利のみを貪欲に追求した戦闘方法。勝利という結果に対して、自身の屍を積んででも届かせるというようなものを感じた。


「正直、私も判んないんだよね。だって極限状況で使ったの初めてだもん」


 ただ、とリリが付け加える。


「思考が目に支配されるんじゃなくて、目のせいで戦闘に関する思考以外が鈍るっていう言い方が正しいかな」


 指先に魔力を集中させて、放たれる炎の矢。それはあの時に放ったコンプレスという術式を使って作られたものだ。


「今まで考えなしに使ってたけど、少しは考えた方がいいかな?」


 ぜひともお願いします。


「で、そろそろ突っ込んでいいかな?」

「どしたのアケノ?」


 周囲を見渡す。少し離れた森の中。話をしている最中にリリは増殖の練習も行っていた。


「わーい!」

「ひゃー!」

「おーい!」


 森の中を縦横無尽に駆け回るリリ二頭身軍団withフェネ君。


「この大量にいるリリ二頭身たちはどう対処すればいいの!?」


 ざっと数えただけで二十人くらいは居る。よく見ると頭からアホ毛が立っている個体が、アホ毛の立っていない個体を集めてリーダーになっている。


「魔力を強めに込めるとコマンダータイプの知能が少しある奴に、魔力を込めないとソルジャータイプの子供同然のやつになるみたい」


 確かに、アホ毛の無い個体がその辺ではしゃぎまわり、アホ毛のある個体がそれを注意してる感じ。

 このあたりの性質はミリタリーラットの性質と同じだろう。


「そうじゃなくて、こいつらどうなるの?」

「どうも、影の中に仕舞えるみたい」


 リリが口笛を吹くと、二頭身リリが一斉に反応し、リリの前に整列する。


「しゅうごーう!」


 掛け声と共に一斉に集結し、整列するリリ二頭身軍団。

 フェネ君も私の頭の上に戻ってくる。


「全員、戻れ!」

「おー!」


 そのまま順番にリリの影へと飛び込んでいくリリーズ(今名付けた)に少し引く。


「で、アケノは何か収穫あったの?」


 主な収穫としては、フェネ君の怪我が治って、キツネツキ状態を常時行わなくてよくなった。

 そして、私もあの戦いで少し成長したようだ。


「右手に炎、左手に氷……!」


 左右に分けての魔力操作ができるようになり、別属性の魔法を同時に使用できるようになった。


「さらに合成! シャインショット!」


 光で作った矢が的に刺さる。合成魔法もフェネ君のサポートなしで実行できるようになった。


「このように低級ながら合成魔法が自在になりました」


 さすがにキツネツキ状態でもないと、あの時の『混沌の海』のような魔法は出来ないが、おいおい習得できればと思う。


「正直その手札の多さは羨ましいわ……」


 ため息の後、空を見上げるリリに私は、


「ところでさ、リリ。そろそろ話してくれない? 何を悩んでいるか」


 ずっと聞こうと思っていたことを口にした。

ピアとフィアナ、アケノとリリと。


追伸・コンタクトは見つからなかったので新調します。

   数万単位でお金が飛ぶ悲しみ。

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