08 ちょっと休憩? 水着になってみた!
第二の試験を達成し、シャモグ街を出てカワモテ街へと移動した静峰一行。
地面は余すところなく芝生で建物は全て淡い桜色。
街で統一されて一体感がある。
しかし、建物それぞれが個性も忘れていない。
巨大樹をくり抜いたような住宅、半円形の街人会館、占地茸形の小物売場……
ここファッションの都が第三の試験会場だった。
既に残った女王候補の数も五十にまで減っている。
今回精査されるのは美しさ。
この街の娘が最重要視する女王の資質が容姿感覚なのだ。
「やっと料理から解放される~!」
静峰はご機嫌で踊るように歩く。
ふわりとスカートが揺らめき中の黒いカボチャパンツが見えたり隠れなかったり。
「今度は服の試験だー、言ってたなー」
袋鶴茸も女王候補として第二試験を合格していた。
ただし、本人は女王になろうとは思ってない。
「よしっ、水辺に行くわよっ!」
トキポキ村、シャモグ街と並んで、カワモテ街もポッコリ池を囲っている。
「静峰様、ほ、本当に行くのですか?」
鹿執事が心配している。
まだ春で水も冷たいのに水着で遊ぼうなどと提案し、今まさに水辺に向っていた。
紫も一緒に行くのだから、心配なのも無理はない。
水辺と言っても砂浜はない。
海とつながっているが、ただの湖である。
名前はポッコリ池だが、ただの湖である。
「ふふふ、ようやくこの時がやってきたわね!」
静峰の頭飾りとビキニ、両方黒地に黄緑のフリルが付いている。
三日月形の翡翠の首飾りはいつも通り。
「少し冷えますわね」
紫は濃紫の競泳水着だ。
髪飾りは黄土色の薔薇。
「お嬢様、タオルをどうぞ」
紫のバスタオルを掲げるのは鹿執事。
ビキニの上は黄色、下は白でひらひらスカートが風で揺れる。
厚底ハイヒールブーツを装備していないのでかなり小さい。
長身の紫と並ぶと頭一個分くらいの差だ。
「あれ? 袋鶴茸……?」
「少し遅れただー」
「あ、ああ、そう」
静峰はつまらなそうに眼をそらす。
この中で圧倒的に一番の巨乳である袋鶴茸の水着はなんと白と茶色の……ウェットスーツ! 灰色の手袋も靴も装備しています。
「暖かそうですわ」
幾分か羨ましそうにウェットスーツを眺める紫。
「お嬢様……?」
「貴女の選んでくれたこの水着も気に入ってますよ」
静峰は少し不機嫌だ。
勿論、考えていた袋鶴茸への悪戯ができないからである。
「ねぇ、スイカはどこかに売ってないかな?」
「静峰様、まだスイカの時期じゃないです」
別の作戦を考えるも失敗……。
「んー、じゃあ、貝殻でも集めよっか……?」
「わかっただー。私も行くだー」
「では、私も……」
「お嬢様、あまり動かれては御身体に障ります」
紫は司会や女王試験の雑務もやっているので、心配だったのだろう。
そうでなくても、身体が弱そうだ。
「そっか、紫は来れないのね」
「私なら大丈夫ですよ」
表情を見ると、鹿執事の懸念通り少し疲れが見える。
「ん……待てよ。ふふふ。紫! 心配しないで! 私達がかわいい貝殻を持って来てあげるから!」
「え? でも、そんな……」
「ほら、静峰様もこう言ってくれている事ですし」
紫は少し残念そうだ。
「私の代わりに黄昏ていてよ! 後で感想聞くから! お昼寝してもいいわよ! ふふふ」
黄昏ると言っても、まだ昼間である。
静峰の提案はゆっくり考え事でもしていたらいい、という意味である。
「そう、ですか。では、物思いにでも耽るとしますわ」
紫の決断に鹿執事はほっと胸をなでおろし、静峰はにやりと笑った。
さっそく椅子に座って遠くを見つめる紫を背に、静峰と袋鶴茸は歩き出した。
「さて、可愛い貝探すっぺー」
「そうね。ふふふ。帰ったら昼寝している紫と執事に。ふふふ」
静峰の脳裏に過るのは、昼寝する紫達への悪戯計画だ。
◇
その頃街ではある噂が急速に広まっていた。
紅天狗茸が認めた娘が女王候補にいるのだと。
服の姫と謳われる彼女の色がこの街の色にもなっているのだ。
その理由の発端は料理試験での静峰への評価だ。
恐ろしい料理を作るはずなのに合格宣言を即座に受けた……。
そんな評価をするのは紅天狗茸が彼女を気に入ったからだ、と思われている。
紅天狗茸と似た服を着こなしている事も街の娘の心を掴んで、噂はどんどん広まり、期待はずんずん高まっているのだった。
◇
貝殻をいくつか見繕った静峰は後からついてくる袋鶴茸と共に街へと歩く。
静峰は企みに必要な物を揃えようと街へ歩く。
「あれー、こっちは水辺じゃないだー」
「いいのよ!」
ひそひそ……。
ひそひそ……。
視線が集まる。
「あれー? なんで下着姿の娘がいるのかなー?」
「しまった!」
赤面する悪戯娘。
こうして静峰の悪戯は未然に防がれましたとさ。
ここは今日も平和です。




