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07 美しきベニテングタケ! え? 虫なんて……いませんよ?

 倒れたきのこ達が立ち直り、真相が明らかになる。


「あの緑のスープは一体何なの!?」


 怒った顔を嬉しさで興奮していると勘違いした静峰は満面の笑みで答えた。


「ふふっ、驚いた? あの衝撃しょうげきデビューしたのは私の自信作よ! まさか美味しすぎてぶっ倒れる人がいちゃうとはねー」


 静かになる培養ちりょう室。

 集まる冷たい目線。


「因みに……これがそのスープです」

 引きつった顔で鹿執事が危険物それを運んできた。

 緑の液体が沸騰ふっとうしたようにぐつぐつ流動している。

 とても苦い臭いがする。


 ポルチーニはスプーンで少しだけスープをすくい口に入れた。

 きのこ達の不安気な目が向けられる。


 無音……。

 わくわくしているゴスロリ娘以外は頭を抱えたり胸を押さえたりしておろおろし始めた。

 表情が固まっていて、もしかして立ったまま気絶したのかと心配されている。


「ぽ……」

なんてこったい(マンマ ミーヤ)! これはひっど~いよ!」


「っ……!」

 安心と納得するきのこ達と驚愕する静峰。


「これは危なっ~いよっ!」

 そうなげくなり、ポルチーニは理解が追い付いてない様子の静峰を引きずって厨房ちゅうぼうへと舞い戻る。


 そして、料理長ポルチーニの地獄の短期特訓が行われたという……。

 そこに響いたのは静峰の特訓に対する悲鳴と、静峰の思いもしない失敗に驚くポルチーニの悲鳴である。


 ◇


 船が目的地に着いた頃には、静峰もなんとか食べれる料理を作れるようになった。


「疲れてるだなー」

 袋鶴茸ヴォルヴァタに心配されるのも無理はない。

 不眠不休で一泊二日の特訓を受けた静峰は疲労困憊だったのだ。


「ふ、ふふ……。もう当分料理はしないわ」

 うつむいて呆然としている。

 しかし、これで船から降りれると聞いているので静峰はかなり安堵していた。


 苦笑する鹿執事に、きょとんとするゆかり

 周りにいる多くのきのこ達は『当分』どころか『一生』しなくていいと怖がっていた。

 ――そう、ここが地獄からい出る最初の一歩なのよ!

 前向きな静峰とその一行は船を出た。


 海の香りと共に鼻を刺激するのは香辛料こうしんりょうだ。

 ぞわりと、背筋を登る嫌な予感。


 船をぞくぞく女王志望者が出て乗員乗客が揃う。


「ようこそ! 食の都モシャモグまちへ!」

 もしかして、まさか、そんなはず……。

 視線が静峰に集まっていく。


聞いて(センティーテ)! もう察してるきのこもいるだろ~けど、私が次の審査員でっ~すよっ」


 歓迎する雰囲気の街人とは違い、船旅で静峰の料理の破壊力を経験したきのこ達は戦々恐々している。


 料理や食材の出店がいっぱいの街。

 隣に位置する服の都カワモテ街と並んで文化の中心地として賑わっている。


「いきなり街に出されても困るでしょう。希望者は試験まで豪華客船を宿代わりにしていいらしいですわ」

 ゆかりが宣言した。


「それってまさか……」

 静峰が青い顔をする。

 にやりと笑って静峰を見つめる料理人ポルチーニ


「いーやぁぁあぁぁぁあああ」

 試験日までこってり特訓じごくは続くのでした。


 ◇


 料理対決当日。

 並ぶ調理器具に食材。

 きのこそれぞれに割り振られた台所キッチン

 戦いは既に始まっていた。


「じゃがいもの芽は捨てる……。食材は同じ大きさに……」

 静峰はどうやら詰め込まれた知識と染み込まされた技術で凄まじい動きをみせている。

 少なくとも手際は悪くない。


 他の候補者も負けてない。

 大きな炎の上の中華鍋をぶんぶん振り回して炒飯チャーハンを仕上げて行く真っ赤な頭のパンクなきのこ

 豪快さなら春のアミガサ三人娘の赭熊網笠茸シャグマも負けてない。まな板を叩き割るように、野菜を叩き潰すように料理(?)が進んでいく。いや、料理……ではないかもしれない。


 逆に、卵とじから煮物まで純和風な料理を揃えて行く黒肥地はすごく丁寧だ。


 緊張な面持の審査員。

 白い長机を前に座っている。


「船では何やら料理とは言えない危険物を作ってしまったきのこさんがいるそうですが大丈夫ですの?」

 桃色ピンクのコルセットと白いドレスで物語のお姫様のようなきのこである。

 色合いや与える印象は全然違うものの、静峰のゴスロリ服と似た形である。


問題ノン チェないよ(プロブレーマ)! 私がきっちり鍛え~たよ」

「あら、お弟子さんですの?」

 にこにこしていて可愛らしい。

 日差しを遮る為白い水玉付の真っ赤な傘を差している。


「違っ~うよ。あのきのこの料理はひどすぎた~よ。あれじゃはえも近寄らな~いね」

「あら、あらあらあら。何てお名前かしら?」

 笑顔なのにどこか怖い。


「静峰というらし~ねっ!」

「わかったわ」


「ここで審査員の紹介でございます。まずは料理と言えばこのきのこ! ヤマドリ・B・ポルチーニ様!」

 司会の鹿執事の紹介で拍手が巻き起こる。

 調理服のポルチーニは立ち上がって小さくお辞儀。


「もう一人の審査員は街の看板娘アイドル紅天狗茸アマニタ・ムスカリア!」

 観客からの声援が響く。

 左手を小さく振って応える紅天狗茸ムスカリア


「それでは、あ、こんなところにはえが……」

 飛び回るはえ紅天狗茸ムスカリアの前を通り過ぎようとして……


 ばぎぃぃぃ


 はえは消えた。

 何故か机は『く』の字に曲がり、鉄球でも落ちたかのように円状にヒビが入っていた。


 紅天狗茸ムスカリアは変わらぬ笑顔で笑っている。

 その顔に見とれていた殆どの観客も何が起きたか気が付いていない。


「机が老朽化でもしていたんでしょうか」


 音に驚いたポルチーニと、にこにこ微笑む紅天狗茸ムスカリア


「さて、そろそろ時間も終了! さっそく審査してもらいましょう! まずは愛と炎のパンクで熱い(ホットな)娘、火群ほむらカエン様!」


 燃え上がるような髪、お腹の見える橙色オレンジシャツに黒の短パン

 、ロングブーツ、それから革の上着ジャケットの娘が出したのは炒飯と餃子ぎょうざセット。

 香ばしい匂いがたまりません!


「美味し~いよっ!」

「これはなかなか見事ですわ」

 評価も上々だ。

 火群ほむらもかっこよく橙色オレンジの眼鏡をくいっと上げる。


「次は袋鶴茸ヴォルヴァタ様! 素朴なこのきのこはどんな味を作るのかー?」

 鹿執事、のりのりである。


「私はこれしかできないだー」

「に、に、に、肉じゃがきましたー! 私はこの、この素朴な料理に、母ちゃんと叫びたい! いや、叫ぶ! かあちゃぁぁあああ」

 鹿執事、どこまで行くつもりなのか。


「や、優しい味だ~ねっ」

「……」

 ニコニコ顔の紅天狗茸ムスカリアから一筋の涙が落ちる。

 美女の涙。


 こうして審査は進んでいき、最後。


「えー、最後ですが。まぁ、ええ、その。何といいますか」

 さっきまでの元気はどこ行ったのか、たじろぐ鹿執事。

 観客がざわめく。


「残っているのは静峰様ですね。どうぞ」

 満面の笑みの紅天狗茸ムスカリアが司会の代わりに話を進める。

 船の上の惨劇さんげきを知っているきのこは不安気だ。


「はい!」

 静峰の料理、それは紫パスタと赤いシチュー。


 不思議と匂いは悪くない。

 そっと食べる料理人ポルチーニ


 固唾かたずを飲んで見守る一同。

 静峰は両手を握って祈っている、自分の合格を。

 観客も同様に祈っている、料理人ポルチーニの無事を。


「……」

「……」


「だいじょ……」

 鹿執事が心配して声かけようとした時……


「合格っ!」

 今まで合否発表なかったのに、いきなりの宣言。


 そして、声の主は紅天狗茸ムスカリア。まだ一口も食べていない娘である。

 ポルチーニは小さく頷いた。

 そう、それでいいのだ、と。


「やった、やったわ!」

 こうして静峰達の第二りょうり試験は終わった。

 ポルチーニと紅天狗茸ムスカリアの無事に皆ほっと安堵した。


 ここは今日も平和です。 


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