05 頭使うの大嫌い!? 怒るシャグマアミガサタケ!
今日は小雨。
いい天気なのに、静峰は憂鬱です。
紫の豪邸にある図書室の隅に彼女はいた。
緑の縁の眼鏡をかけて、手には鉛筆、目の前には参考書とノートがある。
「最強と言われる猛毒種の頂点が猛毒御三家である。彼女らは表舞台で知らぬ者はいない程有名であるが、噂だけ広まる裏舞台の御三家も存在している。その名もキノコ食中毒の御三家。輝く隠者、黒い死神、白い悪魔と恐れられるが、現実にいるのかも定かではない」
鉛筆持った右手を突き出し、机に突っ伏した。
ばたばた手足を動かす静峰。
「もう勉強嫌―っ!」
頭と背中の間から見えるノートにはきのこの絵が途中まで描いてあった。
◇
その頃の袋鶴茸は眞白と毒美に同行しトキポキ林の側にあるトキポキ村を探索していた。
村には藁を丸く積んだような家があるばかりで他には何もない。
「空気も水も新鮮だなー」
「そうですわね。何もないところですが、のんびり暮らすには最適ですわ。今はこんなですけど」
殺風景だが、女王決定戦の影響で歩き回る娘達は個性派揃いだった。
様子が違う街のせいか眞白はぼーっと呆けている。
彼女の視線の先には白い優美荷台から村を眺める春のアミガサ三人娘の編笠茸と尖網笠茸。
お姫様のような彼女らに憧れるお年頃なのかもしれない。
対する連れの毒美が見つめるのは、荷台を押している側の娘、赭熊網笠茸である。
見知らぬ猛毒種だから警戒しているのだろう。
「ここには何っにもねぇなー。早く試験始まればいいのによぉ! 全員ぶっ飛ばしてやっから!」
五月蠅く喚く赭熊網笠茸だが、最初の試験が知能審査である事はまだ知らない。
ぴきっ。
赭熊網笠茸の挑発を聞いているのは毒美だけではない。
橙色の髪とスカートに緑のヘタがついて、柿のような姿の娘も自信過剰な言葉を耳にしていた。
にこやかに笑っているが、どこかがおかしい。
不穏な存在感がある。
ぱきぱきっ。
柿娘の拳と右の顔半分が落ちた。
「……!」
眞白が無言の悲鳴を上げたのは、柿娘の隠れた本性を見たからだった。
肌色の表皮が剥がれて露わになったのは真っ黒い肌と真っ赤な眼。
彼女も当然、毒種以上の娘だ。
「いろんな人がいるんですね」
黄色いワンピースを着て走り回るのは、赤い『3』の数字の髪留めをつけた黄色い幼女。
可愛い栗のペンダントを身に着けた彼女の眼も赤く輝いている。
「魔物の巣窟になってしまったのかしらね……」
毒美の顔が引きつるのも無理はない。
普段なら出会う事さえ稀な猛毒種やたまに見る程度の毒種が沢山いるのだ。
「魔物なんてどこにいっぺー?」
袋鶴茸はマイペースだ。
強がりでもなく、怖がってはいないらしい。
そして、黒い和服の黒肥地さん。
「なかなか強者揃いですね」
嬉しそうに微笑む純和風娘である。
因みに袋鶴茸に衝突されて飛ばされた彼女は、幸運にも目的地に到着したので結構喜んでいた。
ただし、誰に突進されたかは視認していない。柔らかい感覚だけが背中に残った模様。
「いろんな娘さん見れてー、村を歩いた甲斐があったってもんだー」
「そ、そうですわね」
袋鶴茸と毒美は違う意味で村を周った事に満足していた。
晴れてきて一緒にいる眞白が薄目になってきたので一行は帰る事にした。
◇
毒種以上がどんどん増えて、村人もそわそわを通り越して心細くなってしまったが、ようやく次期女王決定戦が開幕する時がやってきた。
真剣な面持ちでトキポキ林に集まる娘達。
誰も喋らず真面目に立っているのは司会をする紫の只ならぬ気品のせいだろう。
「……というわけで、山鳥紫が今回の試験管を務めさせていただきます」
紫の言葉が終わり、ようやく区切りがついた。
「よっしゃあ、ぶっ飛ばすぜ!」
「ああ、難しいのは嫌、難しいのは嫌」
「なるようになるだー」
ようやく話し出す娘達の前に、さささっと木製の机と椅子が用意されて行く。
こうした雑用をぱぱっとこなすのは鹿執事である。
「武器をつかって戦うのか?」
「わかる問題がきますように、わかる問題がきますように」
「頑張るだー」
参加者全員に机が用意されたところで、娘の視線が紫に集まる。
例外の静峰達を除いて、状況を飲み込めていないのだ。
「次期女王決定戦の初戦で試される女王の資質は……知能ですわ。試験時間は一時間、存分にその知力を振るってくださいませ」
紫はすっと頭を下げた。
「そうくるか……。まぁ、いっちょやってやるか」
静峰の前の燃え上がる炎のような真っ赤な髪の娘は穏やかに微笑んだ。
簡単に順応できる娘ばかりでもない。
「な、なんだとぉ! ふざけんじゃねえ! 女王様は腕っぷしのいい者っつったんだぞ!」
赭熊網笠茸に殴られた机が真っ二つに千切れた。
観客の一部が悲鳴を上げる。
「受ける受けないは自由です。今から問題用紙を配るので、受けたい方だけ残ってくださいませ」
厳しい言葉のはずだが、紫が声に出すと、とても上品に聞こえてしまう。
こんな北の果てまで来て今さら引けないと腹を括ったのか、高貴な紫の声に平伏したのかはわからないが、娘は静かに席についた。
そして、鹿執事がささっと歩き回り、問題用紙が配布された。
両手の指先を組んで祈る静峰。
ぴりぴりした空気。
「試験始めっ!」
娘達の戦いは今始まった。
ぺらりと紙を捲る静峰の前にあった問題はたったの三問。
ごくり……。
きのこ学試験
問壱。栄養液が三本あります。今日、一本飲みました。明日飲める残りは何本?
問弐。きのこはその特性によって五つに分けられます。一つは毒種。残りの四つは何でしょう?
問参。私は誰でしょう? 白から褐色です。傷つけられるとだんだん赤っぽくなっちゃいます。猛毒種です。ブナ科の木が好きです。シロテングタケさんと間違われる事もあります。
「ふふふ」
「くっ、くそ難じいじゃねえか!」
皆真面目に座って問題を解くトキポキ林の試験場。
赭熊網笠茸は自分で壊した少し前まで机だった物に用紙を置いて、真面目に解こうとしている。
ここは今日も平和です。




