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04 怪しいおばさん? ドクヤマドリの誘い!

 洞窟内は静峰から発行される淡い光があっても相当暗い。

 上下左右が岩壁なので硬く、不規則に段差もある。


 静峰、袋鶴茸ヴォルヴァタ、白い少女はアンミン洞窟に入っていた。次期女王試験を受けにトキポキ林に行くためだ。案内人と護衛がいなければ危険と言われるここには数々の難所や分かれ道があって、恐怖の迷宮とも評価されている。


「あ、ここ氷柱つららあるよー!」

 ただ、闇夜が全く問題にならない静峰には遊びの延長らしかった。


 因みに、ゴスロリ娘が見つけた氷柱は氷の柱ではない。

 姿は同じだが、石でできている。

 当然、静峰はつんつん突いて進む。折れる危険なんて気にしない。

 もし折れていたら、笑って誤魔化すのだろう……。


「すごいっぺー。こんなに暗いのによく道がわかるだー」

 先頭を歩いているのは静峰でも袋鶴茸ヴォルヴァタでもない。

 白い無口少女だ。

 全く喋らないので名前は不明だ。


「うはっ、ここには落とし穴!」

「そんなんあるだかー。不思議だなー」


 あまり驚いてくれない袋鶴茸ヴォルヴァタに少し膨れる静峰。

 意地悪し甲斐がないが、猛毒種スプリームきのこにはその別格の強さのおかげで大体の事が茶番扱いになってしまうのだ。

 もし洞窟で迷子になっても、力技でなんとかしてしまうだろう。


 無言のきのこも反応がないが、そういう性格なのだから仕方ないだろう。


「落とし穴って言っても逆さだけどねー!」

 反応の悪い面々に自分から種明かし。

 逆さまの落とし穴とは茶杯ティー カップのように丸く窪んでいるのは天井なのだ。


「今度は川があるよ!」

 あっちへふらふら、こっちへふらふらしているが、静峰は何度も言うように夜目が利くので昼間と変わらないように暗闇の中でもはっきり視える。


 袋鶴茸ヴォルヴァタはというと、案内人である(勝手に思っている)白い乙女きのこの背中をそっと触って歩いている。


「ふふふふふ」

「ん、今度は何だー?」


 たたたたたたたたっ

 たたたたたたたたっ


 叩舞タップダンスでもやっているかの音だ。

 軽快に踊る静峰の方から聞こえているのは間違いない。

 本人が発光しているのでぼんやり踊りは見えるのだが、動きはぎこちない。


「へっへーん。どう!?」

「すごいっぺー」

 褒められて満更でもない静峰。

 一方の袋鶴茸ヴォルヴァタは本気で思ったことを言っているのだがその評価は甘々だ。塩と砂糖を間違えたケーキでも高評価してくれそうなくらい甘い評価だった。

 でも、こんな所で本当に叩舞タップダンスをやっていたわけではない。


「実は蝙蝠こうもりでしたー!」

 よく手元を観察すると何かが握られているのがわかる。


 ただたたっ、たたたたっ。

 ようやく解放され飛び去っていく蝙蝠こうもり

 

 なんであれ静峰は十分満足したらしく、その後は真面目に歩き出した。

 いや、背中を撫でたりツンツンするくらいのお茶目はあった。


 そして、さらに歩いた一行は口を半分開けて感嘆の声を漏らす。

 ぱっと黒い岩壁の中に見える明るい景色が映ったのだ。


「出口だー」

「出口だなー」


 その光の先には一つの人影きのこかげ

 身構えもせず、飛び出す静峰と仲間達。


 茶色いマッシュ頭のきのこがギザギザの歯をきらりと見せて笑っている。

 なんだか胡散臭い。


「おほほほほ、これは眞白ましろちゃんじゃありませんこと?」

 どうやら白い少女の知り合いらしい。


 静峰はジロジロと女を鑑定するように眺める。

 着ている長袖のワンピースは上部の白から下へ行くほど色が茶色。

 他の装備は黄色い線が規則正しく入った黒マフラー、黒と灰色の縞々(しましま)の手袋にハイヒールでなんとなくおばさん臭い。


 胸は中サイズのC、しかしお尻は大きい。

 そのおばさんのに白い乙女が抱き付いた。


「え?」

 苦笑するおばさんと涙目の乙女。

 まるで微笑ましい再会シーンのようだ。……いや、そのものだ!


「えーと、それじゃ私達はこれで」

 なんだか気まずい気分になった静峰は立ち去ろうとする。


「貴方達、眞白ましろをここまで護衛してくれたのでしょう?」

「護衛って程でもないだー。一緒に歩いてただけだでー」


「あら、謙遜けんそんなさらなくてもいいのよ。アンミン洞窟は案内人がいても危ないですもの」

「それで、お姉さんは一体何してるんです?」

「ふふっ、礼儀正しいお嬢さんだこと。眞白ましろを迎えにいくところでしたの。か弱いきのこだから虐められてはいないかと心配でしたが、ここまで連れて来ていただけて感謝しておりますわ」

 胡散臭いだとかおばさん臭いだとか思っていたが、物腰は柔らかく丁寧だ。

 なんだか悪い事を考えてしまったと内心反省して、静峰は勝手に気まずい気分になっている。


「はぁ、それはよかったです」

「せっかくです。私の家に寄りなさいな」


 その瞳は赤色が鮮烈に輝いていた。

 毒種スペシャル猛毒種スプリームであるのは間違いない。


「それでお宅はどちら様?」

「あら、自己紹介がまだだったわね。私は山鳥毒美ぶすみ

 毒が美しいと書いてぶすみ……。


「そう、私は静峰月夜。よろしくねっ」

「私はの事はー、袋鶴茸ヴォルヴァタって呼んでけれー」

 スカートをはためかせ微笑む悪戯っ子の静峰と手を上げて軽快に笑うちょっとおっさん臭い袋鶴茸ヴォルヴァタだ。


 歩く事十数分。

 人里から少し離れた位置に目的地はあった。

 林に囲われる目の前の豪邸いえの積み重なった赤い煉瓦れんがと黄土色の石床や噴水に目を奪われてしまう。


 白い門を潜り抜けると、白い鹿のような執事が腰から上を曲げた姿勢で立っていた。

 鹿の角も生えている。

 とっても背が高く見えるが、上げ底とハイヒールの効果らしい。


「お帰りなさい、毒美ぶすみ様、眞白ましろ様。そちらの方々は一体?」

「ご苦労様、羊ちゃん。こちらは静峰さんと袋鶴茸ヴォルヴァタさん。眞白ましろを連れてアンミン洞窟を抜けてきてくださったの」

「そうでしたか! それはそれはありがとうございます!」


 こ、このおばさん、お嬢様だったの!?

 そう衝撃ショックを受けているのは静峰である。


「そんなに感謝されると照れるっぺー」

 太く見える身体をゆさゆさ揺らして頬をピンク色に染めている。

 静峰はようやく正気に戻ったところだ。


「私はしがない執事です。さぁ、皆様、中へどうぞ」

 鹿執事の案内で室内へと歩みを進める。

 赤い絨毯じゅうたん、二階分の床をぶち抜いたような高い天井、白い壁、丸い広間の両側から二階への階段があり、中央からはそのまま庭が見えている。


 その二階には紫のワンピースを着た高級感漂う女神像が――

眞白ましろ! よかったわ」

 いや、気品漂うお嬢様が立っていた。


 頭には金色イエローゴールドの薔薇の髪飾りをつけている。

 その顔には喜びと安堵が溢れている。


「感動の再開第二段……」

 静峰は眼を白黒させていた。

 またもや存在を忘れられる主人公である。


「お嬢様、こちらの静峰様と袋鶴茸ヴォルヴァタ様がお連れしてくださったのです」

「あら、そうでしたの。ありがとう」

 深々とお辞儀をする紫姫おじょうさま

 一挙手一投足に高貴な空気を纏わせる。これに対抗できるのは女王陛下シルキーくらいだろう。


 そして、一行は裏庭へと案内された。

 塩素なしのプールがすぐそこに見えるが、静峰達がいるのは水の中ではなく丸い机の周りである。


 紫姫おじょうさま眞白ましろ毒美ぶすみ袋鶴茸ヴォルヴァタ、静峰が順に座っていた。静峰の隣は袋鶴茸ヴォルヴァタ紫姫おじょうさまだ。


「私は山鳥(ゆかり)。気軽にゆかりと呼んでくださいませ」

「お、お嬢様!?」

「よいのです」


 鹿執事は何やら不満げだったが、ゆかりの命にそれ以上の口出しはしないようだ。


「わかっただー」

「よ、よろしね」

 無頓着な袋鶴茸ヴォルヴァタはともかく、静峰は緊張している。


「こうしてトキポキ林近くまで来たという事は貴女達は次期女王を目指しているのですか?」

「は、はいっ!」

「そうですか。では、最初の試験である知能審査、応援しております」

「お嬢様、それは機密事項です!」


「あら、そうでしたの。申し訳ありませんわ」


 驚愕に顔を歪めたのは鹿執事だけではない。


「ち、知能審査ですって……!?」


 静峰は頭を押さえて嘆くのであった。


 試験内容が戦いだけだと思っていたのは静峰だけではないだろう。

 つまり、先に情報を知れただけで、ゴスロリ娘がかなり心理的に優位に立ったのは間違いなかった。


 ここは今日も平和です。

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