03 無言のシロヤマドリタケ。でも、身振り手振りがあるんです!
「もー、こういうのは今回限りにするだー」
静峰に拝借されたモッコモコの服を取り戻した袋鶴茸は笑顔に戻っていた。
ニコニコである。
服の効果であの大きな胸が目立たなくなり、身体の線も緩やかになり、少し太って見える程だ。実際は魅力的な身体のくせに残念である。残念娘である。
「ごめんね? また会いたくってつい、ね?」
もちろん軽い嘘だ。
あの時の静峰は腐女子化を防ごうと必死だった。
「本当かー?」
「ほ、本当だよ! もう一緒に旅して欲しいくらい!」
木製の部屋の中、袋鶴茸はどっしり立って微笑み、ゴスロリ娘は忙しなく歩き回る。旅をする身振りだ。
因みに、ドアの向こうでは狐野が心配そうに聞き耳を立てている。
モコモコ服を奪われて下着姿だった袋鶴茸が少し前まで激怒していたのだから心配するのも当然だろう。
「なら、一緒に旅するだー」
純粋な袋鶴茸に冗談は通じないらしい。
狐野はほっと安堵して槍を背中に戻す。
今さら引けない静峰は苦笑いして、親指を上げた拳を突き出した。
「う、嬉しいわ!」
袋鶴茸が仲間に加わった。
◇
その日の晩。
「ふふふ、これが噂の槍ね」
狐野の部屋に忍び込んだ静峰はこっそり貸してもらおうと槍に触れた。
飾りだと噂される物が本物か確かめたかったのだ。
「あ……」
その槍は『ぼふっ』と音を立て無残に崩れ落ちた。
そう、見かけ倒しの槍は脆かった。
すごくすごく脆かった。
顎に手を当てて、数秒間ぎゅっと眼を瞑る。
静峰は頭を掻いて退散した。
その翌朝早くに、静峰と眠たげな袋鶴茸は宿を出た。
狐野の寝床には沢山の、本当に沢山の桑の実が置かれていた。
◇
「それで一体どこに行くだー?」
今さらながら、どういう旅をしているか話していなかった事を気づかされる静峰。
何も知らずについてくると決めた袋鶴茸もおっとりし過ぎと言うか考えなしと言うか……。
「私、次期女王目指してるの」
「ほほー、それでどこ行くだ?」
掲示板を見ていなかったのだろうか、と訝し気ながらも微笑む静峰。
しかし、猛毒種ともなれば、周りに無頓着でも有意義に生きていけるのだ。たとえ女王交代の知らせを聞いていないとしても不思議はない。
「トキポキ林よ。アンミン洞窟を通って行くの!」
「そっかー。わかっただー」
果たして本当にわかったのだろうかと、心配になりながら釈然としない面持で歩く静峰。
静峰にとっては暗闇は友達と言える程に問題なく動けるが、他の娘にとっては暗すぎて案内人が必須と言われる程の洞窟である。
「ん?」
コンコン村の端、洞窟の入り口手前から声が聞こえる。
幼い子どもの無邪気で棘を感じる声。
「かびてるよねー? どう見てもかびてるんだけど」
嫌な予感しかしない。
静峰は肩をがっくり落とし、空を見上げてため息をついた。
空はきっぱりさっぱり晴れている。
嫌な天気だ。
木の陰からこっそり覗いてみる。
袋鶴茸はその後ろで静峰の様子を不思議そうに眺めるだけだ。
静峰の視線の先にはきのこ頭の幼女が立っていた。
緑と黄色の縞々(ボーダー)のついたタンクトップに、白いスカート、そしてふわっふわの靴下を装備している。
それだけなら可愛い小学生なのだけど、問題はその装備だ。
その両手両足には黒くて鉄っぽくていかつい防具をつけている。
棘の沢山ついたその防具には切れ味良さそうな爪がついていておっかない。
娘の天敵茸蟲の討伐戦以降は平和になったので、必要ないはずである。
戦に憧れるお年頃なのだろうか。
防具幼女の前で両手を交差して、頭を横にぶんぶん振っているのは真っ白いロングドレスの少女である。白山鳥茸の少女、名前は不明。
全く喋らず、ただただ身体を動かして否定の意思表示をしている。
髪も肌も純白で美しい。
「あっれー? よく見るとまつ毛反り返ってるー。なんでー?」
飛んだり跳ねたり回ったりしながら質問を続ける幼女は素直なだけなのかもしれない。
しかし、そうだとしても、その素直さが白い乙女を傷つけてしまっている。
止まっていてもしょうがないので、思い切って進む。
そして、彼女達の目の前まで来て一言。
「あんたら、揉め事けー?」
袋鶴茸が訊いた。
声を掛けようと手を上げていた静峰は赤面してそっと手を下げる。
「んーん! お姉ちゃんに質問してただけー」
「そーかー。お姉さん恥ずかしがり屋みてーだから、代わりに私が答えてやんどー」
素直さと素直さで暖かい会話。
静峰が話していたら、論争になっていただろう。
「んー。なんでお姉ちゃんは眉毛ぶっといのー?」
確かに袋鶴茸の眉毛は太い。
しかし、もふもふの服には全く触れず、本人が気にしているかもしれない身体的特徴を突くとは……。
「あははー。それは生まれつきだっぺ」
「ふーん。つまんなーい」
訂正、静峰が会話に参加していたら、確実に戦闘になっていただろう。
袋鶴茸はボケているのか大らかなのか笑って受け流している。
「さーて、そろそろ私らも行くだで。また今度話してけろー」
袋鶴茸が早くも別れを切り出した。
ここで立ち話するのが目的ではないので、このまま何事もなければ助かる。
「そうね! 行きましょう」
静峰がふわりとスカートをはためかして歩いて行く。
「ふーん。まー、いーやー」
棘ある子どもはたたたったと去っていく。
どうやら興味も失せたらしい。
ほっと胸を撫で下ろす静峰だが、眺めていただけの娘である。
防具幼女は消えたが、純白の乙女は後を追ってきた。
「貴女も来るの?」
静峰の質問に大きく頭を上下する乙女。
何やら心配そうな表情をしている。
「いいわ。行きましょう」
「行くだー」
静峰、袋鶴茸、白い乙女となった一行は洞窟へと足を踏み入れた。
周囲が暗くなっていくのと対照的に静峰から漏れてくる淡い緑の光。
反応をわくわくしながら、そわそわ歩く緑の光。
その輝きにびっくりして、そして見とれる娘が一つ。
「光ってるだー。不思議な事もあるっぺなー」
見とれてない方の娘の反応はこんなもんだ。
ゆっくり歩いて行く。
静峰の周りは仄かに明るいので他の娘も足元を確認できる。
「ん……?」
いきなり白い手に握られた静峰の手がくいっくいっと引っ張られる。
振り返ると残念そうに顔を横に振る少女の姿が映った。
はっとする静峰。
「も、もしかして……。道間違えちゃった?」
ぶんぶんと頭を上下に振る娘が照らされていた。
ここは今日も平和です。




