14 宰相登場! 黄金のイボコガネテングタケ!
「駄目に決まってるじゃないですかー」
静峰が最終試験に合格し、陛下が女王交代を宣言した。
その後すぐの出来事である。
金色の眼とドレス姿の疣黄金天狗茸が出てきたのだ。
目立つ容姿だが、いつから闘技場に来ていたのかはわからない。
黄金姫はこの王国の宰相頭。
宰相は王国の決め事をする際に詳細を考える役割を持っている。猛毒御三家と違い、基本的に宰相は特に強いわけではない。
「黄金姫……?」
陛下がぴくりと眉を動かす。
女王交代は国の根幹に関わる重大行事。
女王がせっかちで独りにしておくと何を言ってしまうかわからないのは簡単に予想できる。宰相が確認しに来ないわけがないのだ。
「そちらの静峰様が次期女王に相応しいのは認めますよー。でもねー、正式な女王交代は秋のはずでしょー」
「そ、それは……」
女王が押され気味だ。
こういう注意をよく受けているのかもしれない。
「はいはい。これから次期女王の静峰ぽんには猛毒御三家の誰かを……そこで倒れててる毒鶴茸でいいかな、彼女を付けておこう」
勝手に処遇が決まっていく。
現状王は何も言わない。
観客席の娘達も何も同じく口を噤んでいる。
「現状王の付き添いを減らすのはありえないけど、次期女王にも誰かいないかなー」
最後の試験を合格できる娘ができるとは思われていなかったから、警護にあたる娘を用意できていないのだ。
王国の重要娘の同伴は猛毒種で信頼を置ける事が最低条件である。
宰相頭の黄金姫には黒卵天狗茸という猛毒御三家に準ずる高位の存在が宰相頭専用の用心棒として付いている。
そして、宰相頭も極めて重要なので、護衛を外す事は出来ない。
「私が護衛やるだー」
勝手に進行する会話に割り込んだのは袋鶴茸だ。
元々王城護衛隊なので最適な存在だ。
観客や静峰は空気のように薄い存在感になってしまっている。
「あー、袋鶴茸君か。いいね、決定―」
「やっただー」
決め慣れているのか、せっかちな女王の影響か、すぐに取り決められていく。
「さーてっ、女王様も秋には隠居するんだしー。城外の環境にも順応してもらわなきゃねー。あっ、そうだ! 今回の審査に協力してくれた料理人を家まで送ってあげてよー」
「え、ええ。わかりました」
料理人の家は闘技場のすぐ隣にあるアンミン洞窟の上――山の頂――にある。
辿り着くには猛毒種でさえ準備があっても苦難を極めると言われている。
自然にできた地形、独自の生物、気温、変わりやすい天候……。
最高難易度の送迎と考えていいだろう。
「おいっ! 女王様を殺す気かっ!」
春のアミガサ三人娘の舎熊網笠茸が拳を打ち鳴らした。
「猛毒御三家が付いてるんだよー。大丈夫に決まってるでしょー」
毒鶴茸以外は現女王の護衛だ。
最強の盾を持っているとしても、女王は生身だ。環境の変化に耐えなければならない。
外敵の心配がなくても、用意なく海深く潜れば水圧で死んでしまうように、女王にも危険は十分ある。
むしろ猛毒種と女王では身体の基本性能が違いすぎる。
猛毒種では気づきもしない環境の変化でも体調を崩す可能性は十分ある。
「どうかしらね。心配だわ」
「そうですわね。あ、いい事を思い付きましたわ! 一緒に山登りして、ポルチーニの料理でも堪能してきましょう」
「そうだな!」
春のアミガサ三人娘は女王と共に行動すると決めたらしい。
「さっそく行きましょう」
せっかち女王が急かす。
「駄目ですわ。料理人にも準備が必要でしょう」
さすがにこのまま行くのは無謀だ。
「さーってと! 宿に行くわよ!」
次期女王はくすくす笑いながらその場で走る真似をした。
真似だけなので、少しも前には進んでいない。
「わかっただー。ちょっと待つっぺ」
袋鶴茸が気絶中の毒鶴茸へと近づいていく。
彼女達は次期女王の正式な護衛なのだ。
ふわふわの手袋で気絶中の天使を揺らす。
「そんなんじゃ起きないよー。黒卵天狗茸!」
黄金姫は直属の護衛を呼びかける。
「……」
黒卵天狗茸は無言で動かない。
彼女は大きなヘッドホンを装備していて、音楽しか聞こえない。
黄金姫は遠い眼をして振り返る。
気絶した毒鶴茸を指さし、眼を瞑る。
それから、自分の頭をグーで殴る動きをした後、眼が覚める演技をした。
つまりは身振り言語である。
黒卵天狗茸は頷いて歩き出す。
無言で見守るだけの観客も静峰も顔を引きつらせていた。
前面は鳩尾部分と肩に繋がる部分を切ったような特殊なブラなので、掌サイズの胸が歩くたびに揺れている。
風の音しかしない。
黒卵天狗茸が絶賛卒倒中の娘の前に立ち、拳を振りあげた。
ガンッ!
石畳がひび割れる音。
毒鶴茸の頭を直撃するかと思われた拳は床を叩きつけた。
白い天使は殺気で目を覚ましたのか攻撃を飛び退いて回避していた。
状況は飲み込めていないらしい。
「ようやく起きたかー。貴女は次期女王の警護に付いてねー」
「えっ、次期……」
「そこの静峰様が秋から女王になる事が決まったのです」
混乱する毒鶴茸に女王が説明した。
数秒の間の後、ふっと息を出し微笑んだ。
「私は倒されちゃったのね」
負けたはずなのにどこか清々しい。
「そろそろ行きたいんだけど……」
次期女王の静峰は退屈そうだ。
「どこへでもどうぞー。でも、秋一番までに城へ来てねー」
宰相頭の了解も得て、新たな仲間、毒鶴茸と共に静峰は闘技場を去った。
次期女王試験の関係者もいなくなって、呆然とする観客だけが残された。
◇
「ふふふふふ、ようやくあの時の雪辱を果たせるわ」
静峰は悪い顔をしている。
「どういう事だー?」
袋鶴茸も紫や眞白達も頭に疑問符を浮かべている。
「ああ、貴女達に会う前だったわねー」
次期女王は勝手にうんうん頷き納得顔をしている。
ここは闘技場隣のコンコン村だ。
「たのもー!」
「いらっしゃいませコーン」
「私は次期女王、静峰月夜! 特別客室をお願いするわ!」
そう、ここはコンコン宿。
以前来た時には、特別客(VIP)用の豪華な部屋を間違えて(?)案内されたコンコン宿だ。
因みに、前回接客をしてくれた狐野槍は観戦に行ったままである。
今旅館にいるのは狐野椀。
「おお、それはすごいですコーン。では、特別室に……と言いたいところだけど、次期って事はまだ一般人ですコーン。」
「え!?」
「あ、女王様が来てくれましたコーン」
「ええ!?」
現女王が登る山に一番近い宿は当然ここだった。
しかも、料理人は山鳥一族の一員。
紫や眞白とも話したいのだ。
「ここが私の部屋で~すかっ。隅々まで考え抜かれていて、とってもとっても綺麗で~すよっ」
静峰は灰のように、或は心のない石像のように、立ったまま固まって気絶していた。
ここは今日も平和です。




