13 燃え上がれ! カエンタケ?
白い柱に囲われた闘技場。
観客席は階段上になっていて、中央には石畳が広がっている。
次期女王を決めたい女王様、女王の交代を阻止したい猛毒御三家、女王になりたい静峰と火群、そして数多くの観客が集まっていた。
「さーて、始まりました最終決戦! その内容は……」
用意された紙を手に鹿執事は固まった。
試験内容は毒鶴茸が一部で公開したものの、まだ正規公開されてはいないのだ。
暗雲の下、視線が鹿執事に集まる。
「私に勝つことですわ」
腕を後ろで組んだ毒鶴茸が闘技場中心へと歩いた。
絶句する観客の頭から次期女王の誕生の可能性は消えていた。
「初戦の相手はしず……」
立ち尽くす鹿執事や観客には構わず発言しようとしていたが、それを遮るように火群――猛毒種の火炎茸――に手を上げて止められた。
周囲の視線が火群に集まる。
「何かしら?」
「私からお願いしたい」
「駄目よ。貴女は今日の対決の最後にこそ相応しいの」
猛毒種以外では勝負にすらならないと思っているのだ。
そして、それは正しい。
観客もどうせなら最後まで期待を残したい。
逆に言えば、眼が赤くもない静峰は全くの脈なし判断をされているとも言えた。
「私からでいいの? 倒しちゃったら、火群さんどうなるのかな?」
「ふふふふふ、そんな心配は無用よ。お嬢さん」
周囲がどう思おうと、静峰は負ける気なんて全くない。
勝つ気満々である。
「ふーん」
静峰は闘技場の中心へと歩いて行く。
あまり怖がった様子はない。
「いつでもどうぞ」
毒鶴茸ヴィロサ)は微笑んだ。
結果は分かっているとばかりに観客席には悲壮感が漂っている。
「そう? じゃあ、行くよー」
ふわりっ、とゴスロリ娘は浮いた。
一歩、二歩と駆ける。
待ち受ける毒鶴茸の前で腕を引いて――
「んっ?」
突き出した。
踊るように出された突きが肉薄し、間一髪で躱された。
「うまく魅せますこと」
先日、呆気なく倒された黒肥地は微笑む。
接戦に見えるように上手く演技していると思って観ている娘が多勢を占める。
強くなればなるほど無駄な動きが減る。
技を避けるにも大きな動きは不要なのだ。
「まだまだ行くよー」
舞のように突き、回転しながら足や拳を出していく。
その全てを毒鶴茸は薄皮一枚で躱す。
「おいおい、本当かよっ……。洒落になんねぇ」
赭熊網笠茸が両手で頭を覆った。
息を飲んだのは猛毒種の、その中でも上位だけだった。
紙一重で避けているのではないと気付いたからだ。
「あのヤロー、相当やべーな。これはひょっとしたらひょっとするか」
白卵天狗茸の頭上の口が喋る。
踊るように攻める静峰に反撃していないのではなく、防御に徹しないと倒される勢いだったのだ。
実際、基本的な能力値が高いのは猛毒御三家の方だろう。
「貴女、一体っ!」
静峰は『キノコ食中毒の御三家』と呼ばれる存在の一員だ。彼女らは生まれ持った毒性の強さではなく、経験によって後天的に強くなった者たちである。
モシャモグ街へ向かう船上での食中毒事件はお茶目な無差別攻撃の一例にすぎない。
防戦一方でもいつまでも捌ききれるわけではない。
手を床に着け、全身をばねに回された足が、毒鶴茸の腹を打ち付けた。
「おおおおおっ!」
死の悪魔の白い服が汚れたのは初めてだ。
今試験でという意味ではない。
これまでで初めてという事である。
「ちょこまかとよくやるわね。でも、所詮は毒種未満の攻撃なんてっ……」
毒鶴茸はお腹を眺めて苦しみだす。
そう彼女の腹には変な顔が描かれていたのだ。
「こ、このっ!」
憤慨して、擦ってみるも効果はない。
焦る姿はどこか、なんというか……
「ふふふっ、可愛いー!」
静峰は毒鶴茸の事を形容したわけではない。
どう見ても変な顔だが、これはこれでファッション界に流行をもたらすのである。
「どうやら本気を出してあげた方がよさそうね」
毒鶴茸の背中に生えた小さな翼から羽が飛び、大きな鎌ができあがる。
最強の猛毒種だけあって、使える能力も威力も凄まじい。
「やれやれだわ」
白卵天狗茸は女王を守る為に前へ出た。
卵天狗茸は次期女王候補の火群を護っている。
猛毒御三家による最強の防御布陣だ。
試験関係者である紫、鹿執事、料理人、紅天狗茸、科学者と、眞白は猛毒種の山鳥毒美が護る。
観客席はというと、袋鶴茸と元女王候補のアフロ二三河が前に立った。
見物に来ていた猛毒種の一部も臨戦態勢で護衛についている。黒スーツの娘や真っ赤なドレスの娘である。
鎌に切り裂かれた空間は風の刃となって、場外まで飛んで行く。
猛毒種の防御によって阻まれてはいるが、どこまで持ちこたえられるかは時間の問題でしかない。
だからといって、食適種は、いや毒種でさえも腰を抜かして動けないのだ。
「これで終わりよ」
毒鶴茸が一瞬で間合いを詰め、鎌を振りかぶった。
そのすぐ先には観客席がある。
「阿呆か!」
静峰が手刀で脳天を叩き、鎌を持った女は膝をついた。
音のない観客席。
毒鶴茸は倒れ、鎌は羽に戻って風に流された。
ぽかんとする会場。
眼が赤くない猛毒種はいない。
しかし、例外はいる。
静峰は毒があるのに眼が赤くない唯一の存在である。
猛毒種の中で一番の希少種とも言えるだろう。
「うああぁぁあぁぁぁぁぁぁ」
「倒しよった……」
「すごい」
「助かったぁ……」
数々の叫び声に、静峰は微笑み恰好を決めて叫ぶのだった。
「ふふっ、私が女王よっ!」
「女王! 女王!」
湧き上がる会場。
踊るゴスロリ。
そして、ぽつり誰かが喋った。
「あれ、火群さん、まだ試験受けてなくね?」
気まずそうに立つ真っ赤な女にちらほらと視線が集まっていく。
鹿執事もようやく司会だった事と火群の事を思い出す。
「えっと、火群様、は……」
「き、棄権だ! 棄権する! あんなの魅せられたら、私の真っ赤な心も新女王に惚れ込んじゃうよ!」
「おぉぉぉ!」
「ゴスロリ!」
「おぉぉぉぉぉぉ、お……」
女王陛下が場内へ歩き出す。
しんと静まる闘技場。
「今日、この日、この瞬間をもって、女王は静峰月夜であると宣言します!」
やはりせっかちな女王、いや、元女王。
式典も何もなく、女王交代となるのだった。
「やったわ!」
闘技場中央には踊りだす静峰、後ろでほっと安堵する元女王、そして白目剥いて倒れる毒鶴茸がいるのだった。
ここは今日も平和です。
※毒鶴茸は気を失っているだけで健康です。




