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10 小っちゃ可愛い! リュウコクヒナベニタケ!

 数々の猛毒種スプリームに続いて、遅ればせながらも入った静峰が見たのは全身が微振動するきのこだった。

 白いワンピースに黒いマント、そして白いマフラーを装備した茶髪。

 輝く赤い瞳より、不自然な動きが恐ろしい。


 狂喜の科学者シロシベ・キューベンシス。

 開発三昧の彼女が今回の試験管だ。


「モウ皆そろってルのかな? ヒャヒヒ、こコの試験は簡単! 地下四階までこれたらいいんダよ?」

 可愛い顔なのに、眼はかっと見開いて、ゆらゆらカクカク揺れる。


 科学者シロシベの前が円形に開き、下へ続く螺旋らせん階段が出来た。

 不思議な事に地下は暗くない。


「姉さん頑張れー」

「お姉ちゃんならきっと大丈夫だよー」

「……」

「ちゃんとここで待ってるんですよ? 行ってきます」

 黄色い五つ子の長女が一番乗りで階段を降りた。


「私も行かせてもらいます」

 続くのは黒肥地。


 それから、後を柿娘シャロンと謎のアフロ美女二三河(ふみかわ)が続く。


「行ってくるよ!」

「いってらしゃい、静峰様」

「ご武運を祈ってます」


 最後に静峰が階段へ向かった。


 女王候補もたったこれだけに減っていた。

 第四試験まで残ったのは片手分のきのこしかいない。


 ◇


 地下二階は村だった。

 木の家があり、空も光もある。


 しかし、そこにいたのはどう見てもきのことは思えない生き物たちだった。

 硬い外殻がいかく、輝くその者たちは茸蟲きのこむし


 絶滅させたはずのきのこ達の天敵てきだ。

 全員に戦慄が走る。


 しかし、これで思考が止まって慌てる程ではない。


「離れてなよ。火傷するぜ!」

 火群ほむらが颯爽と走っていく。

 そして、丸っこい茸蟲てきの背中に手をそっと触れた。


 フッ。


 手の当たった位置からじんわり白くなっていく。

 さらに黄色くなり――

「ぐががっ……!」

 燃え上がった。


 荒れ狂う茸蟲きのこむしの反撃を華麗に避けた火群ほむらが飛び退く。

 その数秒後、虫全身から火が上がって燃えだした。


「ががががっ!」


「いっちょ上がりっ!」


 炎は全身に広がり、やがて虫がただの炭に。

 きのこの天敵と言っても、猛毒種スプリームの前には無力だ。


「でも、まだ終わってないみたいですね」

 数体の茸蟲きのこむしがぞろぞろと出てくる。

 にこにこ笑顔を崩さない柿娘シャロンと見下すようににやけるアフロ二三河ふみかわ

 猛毒種スプリームと比べると見劣りしてしまう黒肥地は少し汗を掻いている。


「全く……。でも、これこそ、腕っぷしの試験って感じ!」

 静峰は手を握って振り上げた。

 しかし、きのこの数より茸蟲きのこむしの方が少ない。


 結果、腕を上げた静峰は何もする間もなかった。

 同じく戦わずに済んだ黒肥地はほっと肩を撫で下ろす。


「……。さ、さーてと、地下への通路探しに行こっと!」

 気を取り直しゴスロリ娘は駆けて行く。

 地下の村地下としては大規模だが、全部探し回るにも三十分も必要なさそうであった。


 民家は点々と存在していた。

 地下への階段を隠すには丁度良さそうでもある。


「お邪魔しますよー」

 茸蟲きのこむしがいるかもしれない家へと入る静峰。

 中には誰もいない。

 みょうに生活感があるだけ。


「邪魔しちゃいますよー?」


 次々と家を探すが以地下通路は見つからない。

 時折、移動中に他のきのこを見かける位のものだ。


 何件も調べて飽きてきた静峰は悪戯でもしようかと企み始める。

 階段の事は……忘れてしまったのだろう。


「鉛筆どこにあるっかなー?」

 もはや泥棒のように入念に家宅捜索している。


 そして、手のひらに載るほど小さな和服のきのこを発見する。

 龍谷雛紅茸リュウコクヒナベニタケという種である。


 手を上げて飛び上がった。


「え? あ、ああ、人形ね」

 落ち着いた静峰は指先できのこをとんとん撫でる。


「ひ、ひぅぅ」

「かわいいねー」


 和服の小娘は目をつむって、くすぐったそうに身体を振った。

 静峰はにやりと笑い、棚をあさる。


 タオルをまな板に巻いてテーブルに置き、小娘を寝かせる。

 その上にたたんだハンドタオルを布団代わりにかけた。


「あ、あの……」

 声が小さいせいで誰にも聞こえていない。

 そこでようやくはっとする静峰。


「枕がないっ」

「あ、あの!」


「え? あれ? 生きてる?」

「は、はぃ……。龍谷りゅうこく雛紅ひなこと申します」


 橙色オレンジの人形みたいな娘は布団から身を起こして正座し、ぺこりと頭を下げた。

 静峰の顔がみるみる赤くなる。


「し、静峰月夜です! ごめん! 人形だと思って」

 人形であったとしても人のもので悪戯しているのはよくない。


「ええと、それはいいんですが、外には茸蟲きのこむしがいますよね」

「あ、うん。いたわね」

 まだ残っているのかはわからない。

 静峰の軽い調子に目を丸くする龍谷。


「え、そんな、あっさりた反応……」

「あはは、それがどうしたの?」


「えっと、まだいるんでしょうか?」

「んー、何体かは倒されたみたいだけど、まだ残ってるかはわからないわ」


「そう、ですか」

 龍谷は項垂うなだれた。

 静峰はそわそわする。


「あ、あの!」

「何?」


「避難所まで連れて行ってくれませんか?」

 茸蟲きのこむしのいない場所があるのだろう。


「わかったわ!」

 試験中にも関わらず静峰は安請け合いしていた。

 小娘りゅうこくを手で軽く握って、家から出る。


 とりあえず、すぐ近くに茸蟲きのこむしはいない。

 静峰は手を前にして小娘りゅうこくが目を回さないように歩いた。


「あ、あの!」

「どうしたの?」


「そっちじゃありません」

 降りてきた螺旋階段を目指していた静峰は指摘された。

 遠くに見える階段を見ながら困惑している。


「避難所は下です!」

「ええ!?」


 今度は小娘りゅうこくの案内に従うと村のはずれに辿り着いた。

 何もない。


「えっと……」

「開いて頂戴!」


 困った顔の静峰の前で地面がすとんすとんとくぼんで、地下への階段ができた。

 彼女達は気を引きめて地下へと降りる。


 地下三階ではきのこ達が宴会していた。

 ここの天井は曇り空だが、結構明るい。


「おいおい、もっと酒が足らんぞー」

「頭痛が、頭痛が痛い……」

 酔っぱらいである。


 唖然とする静峰。

 嬉々としてぴょんぴょん跳ねる小娘りゅうこく


 ここは今日も平和です。

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