シスター×狼男
ジャンルは【ホラコメ】
ホラーとコメディーを掛けております
とあるハロウィンの日。
「はぁ……はぁ…はぁ…」
月明かりが照らす静かな森を1人の若い綺麗なシスターが何者から逃げるように草木を掻き分けながら道なき道を全力疾走していた。首から下げている十字架のネックレスが激しく揺れ動いている。
走ること数分、シスターは森の中心にある開けた場所に辿り着いた。そして、シスターは目の前にいるもう1つの影に向かって、腰に付いている隠しポケットから拳銃を素早く取り出し弾を連射。
「うおっ!」
勢いよく弾が向かった先にいたのは全身灰色の毛が覆われて目は赤く鋭く、人ではない生き物。そう、狼男だった。
「ちっ!避けたか。次は外さない」
「ちょっと待て、なんでオレがシスターに追われているんだよ!普通はオレがシスターを追う立場でっ!」
狼男が喋っている間もシスターは拳銃で撃ちまくる。いつの間にかシスターの両手には拳銃が2つあった。
「今日はハロウィン。貴方達みたいなのがわんさか出てきて狩るのには絶好のチャンスなのよ」
パパンッ!
「お前、何者だ?」
サッ!
「私は神に仕える清きシスター」
パパパパンッ!
「今のお前の姿は誰がどう見ても清くはないぞ!」
ダッシュ!
シスターの目は百戦錬磨の肉食獣のようで怖い。そんなシスターから逃げるように狼男はまた森の中に逃げるが、後ろから人間業とは言い難い速さでシスターが追ってくる。
「そうね、強いと言えば貴方達を狩って物好きなコレクターに売れば、こっちはがっぽり金が貰えるの」
「その金で孤児院の子供達に美味い飯を食わせてやるのか」
「いいえ、この金はこれっぽっちも他人には渡さないわ」
「この守銭奴シスター!全っ然、清くねぇぇぇええ!」
狼男は走りながら叫ぶ。
「なんでこいつがシスターなんだよ!こいつをシスターにした奴の頭はどうなっているんだ!」
でこぼことした山道を駆け抜けるとまたも開けた場所に出た。そして、息を切らした狼男に息を切らしていないシスターがゆっくりと話しながら近づく。
「私には病気の父がいる」
「まさか、お前」
「病気を治すのには薬がいるのよ。でも、その薬は高くてね」
狼男はシスターの流した一筋の涙を見て冷静になった。よく考えてみれば、化け物を狩るだなんて返り討ちの危険性がある綱渡りだ。それなのに、自ら危険を顧みず化け物に挑むなどちゃんとした理由が無ければやらないと。
「父親のために」
しかし、狼男の鋭い目には涙が浮かんでなどいない。
「って、お前の父親は病気なんてしてねーだろ!」
「ちっ!バレたか」
「今日の朝、お前と父親が腕を組んで買い物していたところを見たぞ!めっちゃ仲良しだなオイッ!」
シスターが流していた涙はいつの間にか消えており、代わりに両手には銀色の拳銃がしっかりと握られていた。
「本当の理由は、コレクターに貴方達を売ってがっぽり儲けたら家族みんなで世界一周旅行に出掛けるのよ!」
シスターが叫ぶと同時に拳銃の引き金が引かれる。
こうして、狼男とシスターの攻防戦はハロウィンが終わる直前まで続いた。狼男がシスターに狩られたのかどうかは神のみぞ知る。