父×娘×母
ジャンルは【ほのぼの】
とある休日、3人家族の父親である藤村 俊介は妻、藤村 沙苗が朝ごはんの時に使った皿を台所で洗っている間、リビングの床に座り新聞を読んでいた。
すると、おもちゃで遊んでいた3歳の娘、藤村 裕香が右手にプラスチックで出来たジャック・オー・ランタンを象った入れ物を持って俊介の目の前に立つ。
「パパ!とりっくおぁとりーと!」
「おっ、早速来たか」
待ってましたと言わんばかりに俊介はズボンのポケットからオレンジ色の紙に包まれた飴を裕香が持つ入れ物の中に入れる。
「あめちゃんだ〜!」
飴を貰った事が嬉しかったのか裕香は大きな目を更に見開き、その場で飛び跳ね、特徴的なアホ毛をぴょこぴょこと揺らしていた。そして、今度は入れ物を俊介に突き出し、テンション高めの声で叫んだ。
「とりっくおぁとりーと!」
「ん?もう無いぞ」
俊介はポケットを叩きこれ以上は無いと裕香に言ったのだが、そんな事はお構いナッシング。
「とりっくおぁとりーとっ!」
「……えーと」
「とりっくおぁとりーとぅ」
「ほら、これ以上甘いもの食べたら虫歯になるからな」
「むしばになってもいいの」
「いや、よくは無いだろ」
俊介と裕香のやり取りを台所から見ていた沙苗はその光景に微笑んでいた。
(ふふ、裕香は結構、頑固よ)
「とりっくおぁとりーと」
「じゃぁ、卵ボーロで良いかな?」
「いやや、うちチョコがええ」
「なぜ、関西弁⁉︎」
柔らかい頬を膨らまし駄々をこねる裕香に俊介は苦笑する。しかし、裕香はまだ諦めない!
「とりっくおぁとりーとっ」
「うーん。これ以上、家にお菓子はないなぁ」
「とりっくおぁとりーと!」
「だからね。お菓子はもう」
「とりっくおぁ……ママぁ〜!パパがおかしくれないぃぃぃぃいい!」
「いや!さっき飴ちゃん渡したよね⁉︎」
裕香は泣きながらダッシュで沙苗の元に駆け寄り、腰にきつくしがみ付いた。ちょうど洗い物を終えた沙苗は裕香を抱っこして、困り顔の俊介の隣に座る。
「裕香、お菓子をくれない人にはいたずらしても良いんだよ」
「そうなの?」
その瞬間、裕香の瞳がキラリと光った。
「でも、さっき飴ちゃんを」
「それはそれ、これはこれ」
「裕香、その言葉どこで覚えた?」
驚いている俊介に沙苗は抱っこしていた裕香を俊介の膝の上に乗せる。そして、親指を立てて。
「やっちゃえ」
「パパ!かくごっ!」
裕香は俊介の脇腹をくすぐったりと、子供らしい悪戯をしたのでした。