3 ウィニー
師匠は突然にお腹を抱えてうずくまった少年を心配しました。
「もしかして、雛が空腹なのでは?」
「そうかも! 僕は食べたばかりだもの!」
ピクニックに持って来ていたハムや茹で卵をナイフで切って、差し出すと凄い勢いで食べます。
「きゅるるっぴ!」
少年は次々と切っては食べさせます。
「そんなに食べさせて大丈夫なのか?」
竜の雛がだんだんとお腹いっぱいになったのを、少年は感じます。
「もう、そろそろ満腹みたいだ」
食べるスピードも落ちてきました。
「あまり食べさせない方が良いぞ」
そろそろ止めるよと、師匠に返事をしようとした少年は突然、お腹が痛くなりました。
「ウンチをしたい気分……」
「それは雛竜が排便をしたいのだろう」
少年は農家育ちだったので、動物の扱いになれてました。
「産まれたての子猫は、母猫にお尻を舐めてもらわないとウンチが出ないんだ。
ということは雛竜も同じかも!」
少年は思いついて、パンを包んでいた布を水で濡らして、雛のお尻をちょいちょいつつきます。
「うっ! 臭い!」
「チビなのに臭いウンチだなぁ」
少年はお腹が痛いのが治ってホッとしました。
雛竜を抱き上げて、まだ湿っている身体を拭きます。
濡れて黒っぽい雛竜はお腹いっぱいになり、ウンチもして、少年が拭いている間も目を閉じたり開いたり眠そうです。
『お前の名前はなんていうんだ?』
うとうとしていた雛竜は金色の目で少年を眺めます。
『ウィニー』
『えっ! ウィニーというの?
僕がちゃんと世話をするからね』
師匠は弟子と雛竜の間に絆が結ばれたのに気づきました。
金色のウィニーの目と、少年の目が合ったのは一瞬で、雛竜は満足そうに目をとじました。
『くぅ、すぴぃ……』と寝息をたてて、少年の手の中で丸まって眠る竜は可愛いくて、頬を寄せてすりすりしたくなります。
しかし、少年が読んだ本に出てくる竜は悪者として書かれていました。
「ねぇ、師匠? このチビが大きくなったら娘さんとか襲うのかな?」
不安そうな少年に師匠は首を横にふります。
「卵から孵った時から名乗るぐらいだ。
きっと知性がある。
お前が家畜や人を襲わないように躾るのだよ」
少年は小さな雛竜が悪い竜として退治されたりしないように、しっかりと育てようと決意しました。