2 孵れ!
春になり、少年は師匠と花見に行きました。
勿論、竜の卵もポケットに入れてあります。
満開の花の下でピクニックをしていたが、少年は木の根っこに足を引っ掛けて、転んでしまいました。
ポケットからコロコロと竜の卵が転がり出て、少年は慌てて追いかけます。
「あっ! 竜の卵が……」
固い石のようだから大丈夫だろうと思いましたが、拾い上げてビックリ!
「動いてる! 竜の卵が動いてる!」
師匠も、本当に竜の卵が孵るとは考えていませんでした。
「落ち着け! 竜の卵を花見の敷物の上に置きなさい」
桜の木の下の毛布の上で、竜の卵はゆらゆら揺れています。
「コツ、コツ、コツ……」
揺れている竜の卵の中から、必死に孵ろうと叩く音が響いて、少年は思わず叫びました。
「頑張れ! 孵るんだ!」
しかし、なかなか竜の卵は孵りません。
「殻が固すぎるんだ!」
コツ、コツ、という音も小さくなり、揺れ方も小さくなっていきます。
「師匠? 孵らなかったら、どうなるの?」
師匠も竜の卵が孵るのを見るのは初めてなので、わからないと答えます。
「このままじゃ、死んじゃうよ!」
少年は卵のてっぺんを指の関節で、ゴンゴン叩きました。
血が出ても、叩き続けます。
師匠がケガするのを心配して止めようとした時に、竜の卵のてっぺんからヒビか伸びました。
「あっ! ヒビが入った!」
固い竜の卵のてっぺんから、ギザギザのヒビが下まで伸びたと思うとパカンと割れて、竜の雛が転がり出ました。
「竜だ! 竜の雛だ!」
濡れていて黒っぽい竜の雛は、少年の方へよたよた歩いてきます。
『きゅるるるる』
くしゃくしゃの羽根を引きずりながら、雛竜は少年の前まで来ました。
『きゅるるっぴ!』
少年は今まで感じたことがない空腹感を感じます。
「師匠! お腹がすいて、目がまわりそうだ」