1 竜の卵
ある国に魔法学校で学ぶ少年がいました。
ある日、少年は魔法使いの師匠から竜の卵を貰いました。
「これは私が師匠から頂いた竜の卵だ。
これを孵しなさい」
師匠は落ち着きのない少年が、竜の卵を温めることで集中力が養われるといいと考えたのです。
アヒルの卵みたいだと思いながら、少年は受け取って、寮でじっくりと眺めて首をかしげます。
「師匠は竜の卵だと言われたけど、本当かな?」
魔法使いの弟子の少年は竜を見たことがありません。
「竜なんて本当にいるのかな?」
竜の卵は青味がかった灰色でアヒルの卵ぐらいの大きさでした。
その上、石みたいに固かったのです。
「どうしたら孵るのかな?」
少年は竜の卵を温めました。
「寒いから孵らないのかな?」
腹巻きに入れたり、暖炉の前に鍋を置いて砂に埋めたり、色々試してみたが、竜の卵は孵りません。
実は師匠も真面目に魔法の修行をするようにと、師匠から竜の卵を貰ったのです。
『落ち着くどころか、休憩時間には暖炉の前まで卵をひっくり返しに行ったりと、余計にバタバタしているな~』
少年は竜の卵が師匠から弟子にと代々受け継がれているということは、師匠にも孵せなかったのだと気づきました。
「師匠! 師匠も孵せなかったのでしょ?」
師匠は弟子がすぐに気づいたのに舌打ちをしました。
「私の師匠の師匠は竜から卵を託されたのだ。
お前は曾孫弟子だから、頑張って孵しなさい」
少年は師匠も竜を見てないのだとがっくりしましたが、師匠の師匠の師匠は偉大な魔法使いとして有名でしたから、もう少し頑張ってみることにしました。
「ずっと昔の卵だから、孵らないんだよ」
少年は孵らないのだと諦めかけていましたが、卵を春になっても温め続けました。