第五話 憎しみの跡に残る物
東の大陸、そこにそびえる屋敷「ホルバッグ邸」
そこでは、二人の男が相打っていた
「はあああ!!!」
マオ・アマツ・・・
家族を奪い自分に呪われた運命を背負わせた者達に復讐を誓う薄幸の狂戦士
ホルバッグ・・・
自分の気に入らないモノの存在を良しとしない傲慢で醜悪な支配者
この二人が互いの命を奪う為にぶつかっていた
「ふん、いけリオレース!ジークフリート!」
黒い巨人と古龍の姿をした怪鳥がマオに向かって突撃する
巨人・・・リオレースはマオの体に強烈な拳をぶつける
しかし、マオはそれを翼の機動力で避け、そのままジークフリートに斬撃を浴びせる
ジークフリードはその攻撃で両翼を落とし地面に崩れ落ちる
「やるな、流石は呪具所持者か・・・だが!」
ジークフリードは徐々に翼を再生させ数秒で復活する
「なに!」
「そんな馬鹿な!」
「ジークフリートはあらゆる生物を取り込んだ化け物、怪鳥の中でも最狂と言われる獰猛さと食欲を持つんだ、その程度で朽ち果てる訳が無い。それに、ワシの体液が入った生物はワシに忠誠を誓うだけではなく強靭な肉体を得る、つまり、今のこいつの強さはSランクモンスターを軽く凌駕する!」
「きええええええええええええええ!!!」
ジークフリートはマオに向かって灼熱の息「ファイヤーブレス」を繰り出す
「くっ!ファイヤーブレス・・・通常の猛獣じゃここまで強力なのは出せない筈」
「ふっふっふ、こいつら獣だと思って舐めてかかっていては命が幾つ有っても足りんぞ?」
「こいつらに眼中は無い、俺が用のあるのは貴様だけだ」
「熱烈だな、だが、生憎男に興味は無い!」
ホルバッグが二体の魔獣に命令を出すと二匹でマオに突っ込む
「は!流石に獣か?正面突破しか頭に無いらしいな!」
マオは距離取りながら剣を構える
「・・・馬鹿は貴様だ!」
ホルバッグの指輪が光りだしマオの後ろからもう一匹魔獣が現れる
「なっ!」
「出せるのが二匹までと誰が言った」
マオと現れた魔獣「ガルバドス」という非常に数の少ない「悪魔獣種」の一匹の距離は腕を伸ばせば届く程の距離である
急に現れた敵に対応出来ずにいた
その時・・・
「喰らえ!気光丸!」
「ぎやあああああああ!!!」
ダンの光球がガルバドスの背中に当たりガルバドスは悲鳴を挙げて倒れる
「なにっ!」
「ダン・・・すまない」
「なぁに俺らは仲間だろ、一緒にあいつを倒すぜ!」
「おのれ、不意打ちが当たった程度で調子に乗りおって・・・」
「アンタの攻撃も不意打ちだろうが!エラそうに喋んじゃねぇよ!」
「・・・ホルバッグ、こいつをただの人間と思ってたら・・・足元すくわれるぜ?」
「ぐ・・・まあいい、ゴミが一匹増えた程度で」
「あぁん?・・・言っとくがな?俺は結構・・・負けず嫌いなんだよおおおおおお!!!」
ダンがリォレースに向かって鬼神で斬りかかる
「無駄だ!弾き返せ!」
「ぐ・・・ぅ」
「どうした!早くしろ!」
「よ・・・えええええええ!!!」
ダンは防いでいるリォレースの腕を弾き一気にその巨体を切り裂く
「が・・・ああああ」
「馬鹿な・・・Sランクの魔獣を・・・こうもあっさり」
「悪いが、俺はアンタを認めない!だから負けられないんだ!」
ダンの言葉に黙っていたホルバッグが激昂する
「この・・・スクラップ同然のゴミ共があああああああああああ!!!」
すると服を破り捨て体全体に刻んだ魔方陣・・・ルーンを輝かせる
「俺の呪具の副作用は『精力』でな、余り大量に使うと俺の生命力を削り肉体を老化させる・・・だが、こいつを解き放てば確実に貴様等を殺せる!」
「一体何を・・・」
「こいつは・・・マズイな」
巨大な黒い渦が現れその中から現れた不気味な腕が残ったジークフリート引きずり込む
ぐちゃ ばき ごき むしゃ
まるで生物を喰らうかのような・・・いや、実際にそいつは食べているのだろう
引きずり込んだ怪鳥を・・・それほどまでに今から出てくるのは恐ろしいという事を意味していた
「くっくっくっく・・・ワシの全てを喰らい尽くせ!出でよ!背徳龍『モラルバイト』!」
黒い渦から出てきた魔獣は・・・
巨大な体に数十ある目玉
悲鳴を挙げているかのような女性であろう肉体が体中に取り込まれ
腕・・・というより醜悪で不気味な触手が全て蝕み人間の性に対する道徳を冒涜し
脚には処女の血により薄汚れた跡があり赤みを帯びた気色の悪い跡も足の甲にもある
「はっはっはっはっは・・・」
見るとホルバッグは徐々に老いて行き、見るも無残な醜い老人に変わり果てた姿があった
「いいぞ、これがワシの十数年の結晶」
「なに・・・」
「あいつ・・・元はかなり若かったのか・・・」
「そうとも・・・この能力は使用者の肉体を糧に使う物・・・当時、力に溺れたワシは呪具を多用し・・・このような醜い姿となった」
だが、とホルバッグは続ける
「この力で!この力の御蔭で!ワシの貧相で惨めな人生は変わった!国は滅び廃棄されたゴミ屑同然のような生活をしていたワシが望んだのは・・・女により得られる快楽だった!」
「下衆が、下等な生物そのものだ」
「何とでも言え、ワシは欲しい物を手に入れ好き勝手にさせてもらった最早この世界に用は無い!せめてあの方に報いる為に貴様等ごとこの場で葬り去ってくれる!」
「あんな龍見たこと無いぞ・・・」
「当然だ、奴はワシの欲望が生み出した災厄の象徴、貴様等にこのワシの絶望なまでの欲望に耐えられるかな?」
「耐える?違うな、俺は貴様の醜く淀んだ絶望を殺す!」
「お前のせいで苦しんでる人達がいるんだ、その人達の為にも・・・お前を倒す!」
「やってみろ!このモラルバイトに勝てるものならな!」
「・・・きえやああああいぇひおhうkfchじょいえうんv!!!」
モラルバイトの叫び声は自分の状況に絶望し耐える為に挙げる女性の叫び声のようであった
「行くぞダン!奴の理不尽をここで止める!」
「ああ!二人で戦うぞ!」
「しっかし、マオ達遅いですね」
ギルド「セイクリッド」
いつもの食事をする場所ではなく上流階級の人間が集まって食事をする大広間ではギルド長のシオンが二人の帰りを待っていた
「シオ~ン料理食べていい?」
「ダメです!それはダンくんのSランク昇格祝いの料理ですよ!折角場所を貸しきったのに・・・」
「いいじゃん別に~一つくらい~」
「ハルナさん!あなたは女性ならもっとおしとやかに出来ないの!」
「シオンちゃんに言われたくないよ」
「はぅ・・・痛いところを突きます・・・95点です・・・」
「これこれハルナ、余り長をイジめるでない」
「・・・・(コクコク)」
「ごめんごめん!つい・・・ね?」
「全く、ほらガロンも手をつけるでない!」
「・・・バレてた?」
「はぁ・・・あの二人は無事でしょうか・・・ん?」
シオンは魔法通信による通話を始める
「はい、ギルド長のエリュシオンです・・・え!?」
シオンの表情の変化に皆が疑問に思う
「どうしたのじゃ長?」
「・・・二人の向かった先に・・・呪具所持者がいるという情報が・・・」
「なっ!」
シオンの言葉に驚きを隠せないヨシナガ
しかし、驚いたのはそこにいる全員だった
「不味いです・・・今すぐ二人の下へ向かわないと!」
「・・・待って」
そこに現れる一人の眼鏡少女
「カリンさん!いたんですか!」
「・・・ヒドイ」
「あぁすいません!ですが、何故そのような・・・」
「・・・マオも組織を追っている、一員を見つけたのなら一気に奴等に近づける筈」
「ですが!呪具所持者に遭った者はみな生きて帰ってはこれません!」
「長・・・」
「ヨシナガくん?」
「大丈夫じゃよ、あの二人なら」
「・・・(コクコク)」
ヨシナガとシガラもカリンの意見に賛成する
「そうだね♪マオくんだけなら危ないけど・・・今はダンがいるし!」
「あぁ!あいつは一目見ただけで分かる程の漢だ!」
「みなさん・・・」
「・・・マオに情報を送っていたのも私、でも、彼にとってはそっちの方が一番正確で手っ取り早い」
「カリンさんが?・・・何故?」
「私は、マオに救われてここにいるから・・・」
「・・・え?」
「死に曝せ!」
腕の触手で二人を攻撃するモラルバイト
「避けろ!」
「言われなくても!」
それを避けて攻撃に転じる二人
右の触手に向かって力強く剣を叩きつけるマオ
左の触手に連続で斬撃を与えるダン
「こいつ、思ったより強くない?」
「・・・いや、今から本気らしいぞ」
マオの目の前には触手により取り込まれるホルバッグの姿があった
「くそっ、やはり不完全な化け物の飼育は大変だな・・・」
完全に取り込まれモラルバイトの一部となったホルバッグ
「・・・ふぅ、どうだ?こうなった今では殺す以外止める方法は無いぞ?」
「わっ若返った!」
モラルバイトの腹部に上半身のみ現れたホルバッグの姿は太った中年のような姿ではなく
やつれてどこか絶望したような目をした青年となっていた
「これで終わらせる・・・私の人生を彩らせて貰う!」
「させねぇよ、お前を殺す前に聞くだけ聞いて殺してやる」
マオは翼をはためかせ腹部に向かう
「ふん、腹部が弱点という事を瞬時に見極めるとは・・・だが!」
「っ!マオ!」
背後から襲い掛かる触手に気づかないマオはそのまま縛り上げられる
「ぐ・・・あ!」
「ほれほれ、このまま圧迫死でもいいが・・・試しに貴様の精でも吸わせてもらおうか!」
「(不味い・・・今力を吸い取られたら・・・)」
マオにとって最悪の結末がよぎった瞬間・・・
「マオを放せ!このスケベじじぃ!」
ダンの刀が捕まえていた触手を切り裂く
「くっ・・・そこのモルモットだけなら容易な物を・・・」
悔しそうに歯軋りをするホルバッグ
その反応にダンはふっ、と笑いながら言う
「俺達はギルドだ、仲間と協力して任務をこなす事が仕事だ!」
「・・・ダン」
「ふん、仲間など私の人生にとって不要なもの!私に必要なのは忠実なる奴隷だけだ!」
「ふっざけんなぁ!」
再び襲い掛かる触手に怒りの斬撃が入る
「人間同士は対等であらなきゃいけねぇ生き物だ!奴隷とか忠誠とか!さっきから聞いてて反吐が出るんだよ!要するに自分の言う事聞く人形としかコミュニケーション取りたくないだけだろうが!」
「貴様に何が解る!」
「分かりたくもねぇよ!人間捨てて・・・そんなみっともねぇ姿晒してる奴の気持ちなんざぁ!」
「そうだ・・・所詮、貴様等は人間という皮を被った化け物だ、理解される訳も無い!」
「貴様もそうだろうが!己の呪われた力を利用する!それでも立派な人間と言えるのか!」
「くっ・・・俺は・・・」
「・・・てんめぇ!」
怒りの余りダンはホルバッグに突っ込む
襲ってくる触手を避けながら攻撃し、出来るだけ近付きモラルバイトの腹部・・・ホルバッグの前に跳躍する
「あいつはな!自分の不幸を幸せに変えようと今を歯ぁ食い縛って生きてるんだ!お前みたいに、人の命を食い物にして不幸撒き散らして生きてる奴と一緒にすんなあああああああ!!!」
ダンの太刀、鬼神がホルバッグの額に突き刺さる
刀を抜いた瞬間、鮮血が迸り、辺り一辺に血の雨が降り注ぐ
「ぐあああああああああ!!!・・・くそ・・・このゴミ同然の下等生物がぁぁぁぁぁ!!!!」
ホルバッグの逆鱗に触れ、触手は何倍にも増え二人に一気に襲い掛かる
「決めるぞダン!」
「おう!」
二人は背中合わせになりお互いに武器を構える
マオは天照を両手で、ダンは鬼神と改良を加えて片手仕様にしたVソニックを二刀流で構える
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」
背中を向かい合わせにしながら、お互いに襲い掛かる触手を片っ端から切り刻んでいく
「はああああああああああああああああああ!!!!!」
マオの天照が全てを殲滅し
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
ダンの鬼神とVソニックが敵を滅多切りにする
「「だりゃあああああああああああああああ!!!!!」」
二人が叫ぶと同時に触手の猛攻が止む
「そんな・・・馬鹿な・・・数十年・・・数十年だぞ・・・それが・・・」
ホルバッグの初めて見せる絶望の表情
それにも構わず鋭い視線を向ける復讐の鬼と激怒する狩人
「こんな・・・こんな奴等にぃぃぃぃぃ!!!」
「「終わりだあああああああああああああ!!!!!」」
「欲望覇刃!」
「気光丸・・・マックスパワァァァァ!!!」
マオの巨大な剣がモラルバイトをX字に切り裂き
一気に近付いたダンの巨大な光球が醜い巨体を破裂させる
「・・・はは・・・ああ・・・私の人生が・・・崩れ落ちてゆく・・・」
崩壊してゆく龍の中に
一つの悪が無念を嘆いている光景が二人の目に入った
「・・・あいつの人生も酷いもんなんだろうな」
「・・・なんにせよ、これで奴の蛮行は終わる。村の人たちが奴の支配から開放されるんだ」
第五話 完




