第三話 強き者達
ハンターギルド内会議室
ここでは月に一度、最上級ハンターが集まり互いに情報通達を行う集会が行われる
「しっかし俺もSランクかぁ実感ねぇなぁ」
ダン・バスティー
先日、アルケミア王国の王子キエラ・メキレルとの決闘に勝利しSランクへと階級を飛ばして昇級した男
「頼むから面倒事起こすなよ、ここはお前より強い奴なんか幾らでもいるからな」
マオ・アマツ
ダンと共に行動するこの男の階級はSランク、よって本日の会議に参加する一人である
「面倒事なんか起こすかよ」
「お前の言葉には余り信用性がないからな」
「ひでぇ!」
「着いたぞ」
「おう・・・ってデカぁ!」
二人の前には5mはある巨大なドアがあった
「ギルドにこんな巨大な部屋があるとは・・・」
「さあ、入るぞ」
「ちょい待ち、緊張してきた」
「今更だろ、入るぞ」
「おい、待っ!」
ガララ・・・
ドアを開けた先には、長方形の長テーブルと椅子が九つ置いてあった
「・・・まだ誰も来てないんだな」
「ま、時間通り来る奴なんていないだろう」
「そうなのか?」
「この会議に大した意味はないからな。情報通達と言っても最近は特に気になった事件も無い」
「へ~」
「正直、ここに来れば多少は奴等の情報も集まると思ったがさほど集まりもしない。まったく、期待外れも良い所だ」
「相変わらず厳しい言われようですね」
二人が喋っていると、中央の一番奥にある椅子がこちらを向く
「でも、決まって貴方がここに一番早くに来てくれる。ん~80点です♪」
椅子に座っていたのは、クリーム色のふわっとした長い髪の女性であった
「誰?」
「・・・いたのかギルド長」
「ギルド長って・・・ってことは」
「私がここの総責任者ですよ♪ダン・バスティー君♪」
「て・・・ええええ!こんな可愛らしい女の子が!?」
「あら♪褒めてもらえて光栄です♪貴方には初回ボーナス85点をあげましょう♪」
「長、今日はまだ俺達だけなのか?」
「いえ、カリンさん♪」
すると、ダン達の向かいの椅子から読書をしている女性が現れる
その女性は、小柄で短めの髪でクールな雰囲気が特徴である
「お前もいたのか、現『闇帝』・・・」
「カリン・ディラノート・・・」
「見ての通り読書が大好きでして、Sランク一番の闇属性の使い手なの♪」
「・・・(モジモジ)」
「・・・そして、Sランク一番の人見知りだ」
「なるほど・・・よろしく!」
「っ!?(アタフタ)」
「聞こえそうなくらいあたふたしてるぞ?」
「奴は気が弱いからな、初めての人間に声を掛けられれば混乱する」
「・・・了解」
謎の不思議&文系少女の紹介が終わった頃に再びドアが開く
「すまぬ!少々遅れた!」
「・・・申し訳ない」
「いいんですよ二人共♪」
「あれは?」
「おお!お主が新しく入ったという者じゃな!」
「・・・初めまして」
「おぅ・・・君たちは?」
「ワシはヨシナガ・オウカ!若輩ながら『地帝』を任されておる!」
「・・・シガラ・モロユキ、同じく帝・・・『風帝』」
シガラと言われる男性は小柄だが痩せてるというより締まった体をしている言葉数の少ない男
もう一方は・・・
「君は女の子なのか?」
「?何を言っておるのじゃ?ワシは・・・」
「れっきとした男・・・らしいぞ、まあ、俺も最初は間違えたが」
「マオ、お主は相も変わらずじゃのぅ」
「おっ男!?・・・全然見えない」
「失敬な!これでもしっかり男じゃ!」
怒る素振りもどう見たって女性にしか見えないジジイ言葉の男の娘
髪の毛も男からしたら長めのセミロング
これで男だと言わなければ完璧に間違えるレベルだ
「すげぇなSランクって・・・色んな奴がいるんだな」
「ダン君?ここは変わり者の集まる場所じゃ無いんですよ?」
「そうだ、その言い方では俺も変わってるみたいじゃねぇか」
「わりぃわりぃ・・・」
「・・・水帝と炎帝もそろそろ来る」
「なんでそんな事が・・・」
「シガラは風の流れに乗った輝力と魔力で誰かを特定する事が出来るのじゃ」
「すげぇ・・・」
と、シガラの言葉通り二人入ってくる
「やっほー遅れたぁ!」
「すまねぇな!ちょっくら遅れちまった!」
「もう、貴方達二人はまたですか!」
「気にしないでよ♪シオンちゃん♪」
「もう!茶化さないで下さい!」
「あっはっはっは♪ごめんごめん!」
「おいっす!今日も元気でなによりだ!」
「・・・お前の暑苦しさも相変わらずだな」
「おっ!その刺々しい嫌みはマオで決まりだ!」
「うぜぇ・・・」
「おっ!新人さん?私より年は上っぽいね♪」
「お前がそうか!うむ!良い眼をしているな!」
「ちっす!お二人は・・・」
「ああ、シガラから多分聞いてると思うけど、私がSランクで『水帝』をやってるハルナ・ミュートちゃんでーっす!」
「押忍!俺がこのギルド一の火系統使い!ガロン・ミシェリだ!気軽にガロンと呼んでくれ!」
ハルナという女性は平均的な身長のスタイルの良い健康的な体と黄緑色の髪が特徴で
ガロンと呼ばれた男は、如何にもパワー系と言わんばかりの肉体と右腕の『炎帝』と書かれた刺青がなんとも迫力溢れる雰囲気である
「そして、遅れました。私がこのギルドの長シオン・エリュシオンです♪現在の『聖帝』は私が務めております」
「あとは・・・奴か」
ガロンは頭を抱えて少々うんざりする
「・・・そろそろ来る」
シガラの声と一緒に、ドアが轟音と共に吹き飛ぶ
「よう・・・てめぇら」
金髪のド派手な格好で全身黒色の服を纏った身長180cm程度の男が右手に今放ったであろう魔法の残り跡でもある雷が走る
「・・・で、あれが今の『雷帝』」
ハルナが冷静に説明するとダンは溜息をつく
「あれならキエラの方がまだマシだな」
「おぉう!新入り!てんめぇ今なんか言いやがったな!あぁん?」
見た目から分かるほど悪餓鬼臭を漂わせる男にダンは若干呆れていた
「てんめぇ・・・なんだその人様を舐め腐った態度はぁ!」
「落ち着きなさいライガ!」
ライガ・ギアンバルゴ
現雷帝でありSランク一番の問題児
能力は群を抜いているが、それ以上の素行の悪さで現在ギルド長により謹慎を受けている身
今日は丁度謹慎が終わった日なので来たらしい
「まったくよぉ、久しぶりに下の階級の奴等相手に憂さ晴らしでもしようかと思ってたのによぅ・・・来てみたら会議って・・・超つまんねぇ」
「だったらSランクから降りろライガ」
「あぁん・・・またおめえか『呪帝』様よぉ」
「正直、貴様のように来ては他人に迷惑しか掛けない足手纏いは正直目障りだ、俺がもう一度手を出す前に消えろ」
「てめぇ・・・こっちが下手に出りゃ言うじゃねぇか・・・」
「(面倒事は避けろって言ったのはお前だろ)」
「おい新入り!見た所この集まりは初めてらしいな・・・」
「ああ・・・」
「言っとくぞ!ここで!俺の目の前で!舐めた事したら俺が殺す!いいな!」
「そうなの?」
「ライガはSランクで一番素行が悪くて有名じゃからのう」
「・・・実際はSランク内で最も成績が悪い」
「なるほど(ポン)、つまり不良か!」
「あぁん!てんめぇ言った傍から何調子に乗って・・・」
「おい、本当の事を言うな、馬鹿がまた腹を立てて茹で蛸になるから」
「呪帝ええええええええ!!!てんめぇもう我慢ならねえええええええ!!!」
「いや今の我慢してたか?」
「全然・・・むしろこいつに我慢などと言う文字は辞書にはない」
「つまり、馬鹿なんだな」
「お前に言われたら終わりだな」
「ひっでぇ」
「新入り・・・てめぇそこまでして早死にしてぇらしいなぁ・・・」
「とりあえず座ろうぜ・・・ライガくん♪」
「調子こいてんじゃねえええぞおおおおおおおおおおおおお!!!」
ライガは両手で雷の巨大な球を作る
「やめなさい!ライガ!」
シオンが立ち上がり輝力を放出する
放出された大量の輝力に全員がその場に動けなくなる
二人を除いて・・・
「すっげぇなぁ・・・流石ギルド長・・・」
「・・・また一段と強くなってるな」
「てんめぇシオン・・・あんま調子に乗って!」
攻撃しかけたライガに全員で止めに掛かる
「ライガ・・・いい加減にしろ」
「お前は少し熱くなりすぎじゃ!」
「放せ!糞共!」
「貴方という人は・・・いいでしょう!」
シオンはマオとライガを見て言う
「マオ・アマツ!ライガ・ギアンバルゴ!貴方達二人は今から決闘をしてもらいます」
「あぁん!何言ってんだおめぇ!」
「・・・」
「ライガ、貴方にチャンスをあげましょう」
「チャンスだぁ・・・てめぇ上から何物言ってんだよ!」
「貴方の行動にはSランク・・・そして、帝としての自覚が欠けています。故に貴方が決闘で負けた場合はハンターギルドの特別管理室による謹慎とさせていただきます」
「な・・・いっいいぜ!やってやろうじゃねぇか」
「(あの不良君がビビってる、そんなに恐ろしいのか・・・その特別管理室ってのは)」
「・・・特別管理室は名ばかりの研究所兼刑務所」
「うわぁ!って人の心が読めるのかお前・・・」
「・・・そこでは日々猛獣の調査をする為に危険な実験が行われる」
「なるほど・・・」
「・・・そこにいれば普通の人間なら2,3日で崩壊する」
「一応聞くけど・・・何が?」
「精神・・・」
「OK、もう十分だ」
俺の気分が悪くなるのをお構いなく話が進む
「言ったとおり、二人にはギルドの闘技場にて決闘をしてもらいます」
「ちょっと待てよ、俺が勝った時は何があるってんだ」
「・・・貴方の好きにしなさい」
「へっへっへそりゃいいや」
じゃあよ、と言葉を続けるライガ
「ここにいる女全員、しばらく俺の奴隷にでもなるか?」
「「「!?」」」
「顔だけは上玉なんだからよ、遊ばねぇと損するような連中ばっかじゃねえか」
「ふざけないで!」
ライガの言葉にハルナが立ち上がる
「なんでアンタなんかに好きにされなくちゃいけないのよ!」
「ハルナよ、おめぇの気の強い所は正直気にくわねぇ、女だったら男に尻尾振るくらいしねぇとな」
「アンタイカれてんじゃないの!」
「けっ何とでも言いやがれ」
「・・・それでは闘技場に場を移しましょう」
「シオン!こいつの言う事聞くつもり!?」
「・・・大丈夫だよ」
そう言ってマオが立ち上がる
「・・・マオ?」
「逆に言えば、お前等はこいつの心配をしてやるべきだ」
「・・・てめえ、言うじゃねぇか」
「とっとと準備を済ませろ、時間の無駄だ」
「上等だ、捻り潰してやるよ・・・」
ギルド内闘技場
「さあ、てめぇのそのたけぇ鼻っ柱折ってやるぜ!呪帝!」
「・・・貴様は吼える事以外に何か出来ないのか」
「・・・開始はまだかぁ!」
「試合・・・開始!」
シオンが務める審判の合図がなった瞬間ライガは巨大な雷球を上空に幾つか放つ
「行くぜ!サンダーボルテックス!」
巨大な雷球は雷となってマオの頭上から放たれる
「・・・逝ったな」
「・・・甘いな」
「何っ!」
ライガの背後に魔法を受けて倒れたと思われたマオがいた
「悪いが、始めからお前のような奴は正々堂々やるとは思っていない」
「くっ・・・」
「こんどはこっちから行くぞ」
と、マオは発生した小さな黒い渦から天照を呼び出す
「ふん!」
「なんの!」
ライガは電気で作った斧二本でマオの天照を受け止める
・・・しかし
「だからお前は甘いといっている・・・」
「なっ・・・」
マオの足が紫色の炎に包まれる
「『魔鎌』!」
炎に包まれた足でライガの顔の側面を蹴りつける
蹴り飛ばされライガは闘技場の壁に叩きつけられる
「いいねぇ・・・いい感じに出てきたぜ沸々と・・・」
「タフだな・・・」
「次は・・・俺だあああああああ!!!」
地面を叩くと大きな雷の柱がマオを襲う
「ちっ!だがこの程度・・・」
「甘いのはてめぇだ!」
「っ!」
「『電磁波導』!」
ライガの手から放たれる高魔力の雷砲
コレをまともにマオは受けてしまう
「どうだ、今のは当たっただろう・・・」
勝利を確信したその時・・・
「な・・・」
「あれは・・・」
観客席で見ていたダンはマオの姿を確認した時、初めてクエストに行った時の事を思い出していた
「ライガ・・・さっきお前・・・いい感じに出てきたって言ってたよな・・・」
「・・・っち!」
「俺もだよ・・・」
前にダンが見た時と同じ状態のマオがそこにいた
「あれは一体・・・」
「・・・呪われた宝具『呪具』」
「カースド・・・ギア?」
「古くから使った使用者に強大な力を与えると言われる神の道具、しかし、その副作用は大きく使用者の体を何らかの呪いで蝕み朽ち果てるまで離れない」
「そんな・・・マオは呪われてってのか」
「ええ、そして彼の呪具は『果て無き欲望』という代物」
「長・・・それは他言無用だとマオから・・・」
「彼はマオのパートナーでもあるの、だからこうして話している」
ヨシナガとシオンの言葉にダンは思いつめた表情になる
「(あいつは自分からその事を喋ってはくれなかった・・・何故だ・・・なんでそんな大切な事を)」
「呪具は今では使用を禁じられ各地の洞窟や遺跡などに厳重に封印されている筈なのに彼はそれを持っている。彼が呪具を持つ理由の一つ・・・」
「・・・・・」
「彼に近づく何らかの手により無理やり呪具の使用者にされた」
「っ!そんな馬鹿な!」
ダンは話の内容に耐え切れなくなり激昂する
「なんで、死ぬ事より悲しい目にあったあいつがそんな事に遭わなくちゃいけないんだ!」
「だからよ」
「えっ?」
「だから私は、使用する事を禁じられ今ではそれを犯した者を罰せられるというのを承知で彼をハンターに選んだ」
「・・・あいつの思いを叶えさせる為か」
「復讐は復讐しか呼ばない、最初は私もそう言った、。でも彼は自分のケジメをつけたいって聞かなくてね。だから、私は彼の近くで見守るって決めたの」
「なんで・・・そんな事」
「・・・万が一、彼が人間にとって脅威となる存在になってしまえば取り返しがつかなくなる。そうなる前に私がすぐに葬り去れるようにって・・・彼が自らそう言ったの」
「あいつは・・・自分で自分を追い込みすぎている・・・」
「分かってあげてあの子は今、自分の身を汚す事より大切なものを奪われた気持ちの方が強いの」
「だからって、復讐しても何も戻りはしない」
「・・・彼はその身に宿した呪具ごと自らを破滅に導こうとしている」
「なんでそれを止めようとしないんだ!」
「・・・・・・」
「あんたが見守るだけなら俺がやる!」
「・・・本気なの?」
「俺は!あいつをこれ以上不幸にさせたくない!」
「彼はそれを望んでいないわ!」
「そんなの知るか!」
「・・・ふう、まあいいわ」
「・・・・・・」
「では今は見ておきなさい、彼の闇を・・・」
「呪われた宝具か・・・相変わらず不気味なモンぶら下げやがって」
「どうした、怖気づいたか」
「別・・・に!」
「っ!?」
自分の周りに大量の魔方陣が展開されていると言う事に気づく
「遠隔展開!電導滅殺陣!」
マオの周りにある魔方陣から大量の雷の光線が向かってくる
「・・・遅い」
マオは最低限の動きで全ての魔法攻撃を避ける
「ちっ!」
「終わりか?」
「まだだぁ!」
ライガは雷の翼で飛び上がり片手に巨大な魔方陣を展開する
「まさか・・・やめなさいライガ!それが地上に直撃すれば闘技場ごと街が吹き飛ぶことに!」
「知るかあああ!!!『最終雷撃砲』ああああああああああああ!!!」
手から放たれた雷撃砲は今までの物とは比べ物にならないサイズと魔力があった
「どうだ!これなら貴様も耐えられまい!」
「・・・馬鹿が、魔力など俺の前では無力に等しい」
マオが上空に手をかざすとライガの放った魔法はその手に吸い込まれていく
「そんな・・・馬鹿な・・・」
「面倒だ、これで終わらせよう」
マオは翼でライガの元へと高速移動する
「やっやめろ!やめてくれえええええ!」
「心配するな、貴様の魔力ではたかが知れている」
マオはライガに向かって手を向ける
「『欲望開放』」
マオの手から輝力で構成された巨大な禍々しい掌が現れ、それがライガを握りつぶし爆発する
「・・・かはっ・・・」
「ふっ・・・ゴミが・・・」
倒れて気絶していたライガは意識を取り戻し起き上がる
「ライガ?眼を覚ましたか?」
「・・・シオンか」
「決闘に負けた貴方を特別管理室に連行します。同行願いします」
「っ!やっやめろ!あそこだけは勘弁してくれ!」
「・・・大丈夫です。貴方の気持ち次第で期間は短くなります」
「シっシオン!頼む!」
「・・・決定事項です」
シオンは手元にある手錠と縄を取り出し魔力で作動させる
「魔法道具、『光速の拘束』」
その名の通り光の速さで拘束されたライガはその場に倒れる
「っ!シオンてめぇ!」
「・・・意思が無いと判断した後拘束しました。強制的に連行させていただきます。」
「シオン!シオオオオオン!てめぇ・・・覚えてやがれえええええええ!」
ハンターの従業員が拘束されたライガを連れて行く
「ライガ、どうしてこうなってしまったんでしょう」
「シオン、いやギルド長」
「シオンでいいですよダン、どうしました?」
「あいつって元からああだったのか?」
「・・・ええ、過去にあった事件で心が歪んでしまったらしく」
「そうか・・・」
ダンは辛い表情でその場を去った
「ダン・・・」
シオンはその表情を見て少し寂しくなってしまっていた
第三話 完




