第一話 憎しみは力となりて
「おーいクーちゃーん」
「ん?おおダンどうしたの?」
アルケミア城下町
ギルドで依頼表を見ていたクーに声を掛けた少年の名はダン・バスティー
クーと同じくハンターで知り合いでもある
「何か良いのある?」
「駄目ね~ロクな仕事ありゃしない」
「昨日もそういう事言ってたよな」
「ここ最近仕事内容で良いのが無くてね、お陰で毎日貧相な食生活送ってるよ」
「クーちゃんはこれでクーちゃんだからいいんじゃない?」
「どーゆー意味よソレ!」
「悪い悪い、しっかし本当にロクなの無いな」
「こりゃハンター業も考えないと駄目かなぁ」
「冗談言わないでくれよ!ハンターを辞めたら今のご時世雇ってくれる所なんて無いんだぞ」
「はぁ~世知辛い世の中よねぇ」
ハア~、と重い溜息を流していると
「なぁに二人でジジババ臭い事言ってるの!」
「あっラキ姉!」
「ラキちゃん・・・」
ラキと呼ばれた少女の名はラキ・フレイグラ
短めに切った赤色の髪とカチューシャ、背中に背負った二本の短剣が特徴のハンター
因みに階級は二人より上である
「ラキはいいよな、階級上だから仕事内容は良いし」
「ラキ姉はスタイル抜群で羨ましいのぅ」
「訳わかんないことばっかり言わない!ダン!あんたの場合実力はアタシより優れてるんだから昇格試験を受ければいいじゃない!クーだって昇格出来る位の実力あるでしょ」
「だって・・・」
「下手に階級上げたりすると色々面倒なんだよなぁ」
「そうだよねぇ」
今度はラキが溜息を漏らす
「あんたらね~それでよく仕事うんぬん言えたわね」
「そういう事言わないでくれよ~」
「そうだよ~」
「黙らっしゃいこの怠慢コンビ!」
三人が会話していると一人の女性が入ってくる
「あらあら、どうしたのみんな?」
「シズカ姉~♪」
「あらクーちゃん今日も元気ね♪」
「シズカさん来てたんですか?」
「ええ、ダン君にラキちゃんも元気そうね♪」
「シズカすぁ~ん!どうか哀れな俺にその豊満なパイオツサービスをおおおお」
「えーい!落ち着けこの馬鹿!」
「げふっ!」
「ふふ・・・ダンくんってホント弟みたい」
「ホントっすかぁ!いやぁ嬉しいな♪」
「シズカさん!あんまりこの馬鹿甘やかしちゃ駄目ですよ」
「どうして?可愛いじゃない♪そういうお馬鹿なところ♪」
「・・・・・・(シクシクシクシク)」
「どんまいダン、私もダンの馬鹿なところ嫌いじゃないぞ」
「普通に馬鹿馬鹿言うなぁ!」
「ふふふふふ♪」
シズカ・エレクティナ
四人の中で一番年上で階級も四人の中では一番上のAランク
長い黒髪の和風美人で武器などは持っておらず魔法による戦闘を得意とする
「さて、本日は私も依頼を受けるので久々に四人で赴きますか?」
「いいぞ、私は構わん」
「俺もそれでいいっすよ!」
「私も!」
「ふふふ・・・では何がいいでしょう」
「Aランクのクエストかぁ・・・久しぶりに肉にありつけるかな♪」
「考えが貧乏人じゃねぇか」
「そういうアンタもこの前懐に余裕ないって私に奢らせたでしょうが」
「アレは返すってちゃんと約束したじゃねぇか!」
「もう三ヶ月も経ってるじゃない!いい加減返さないとアンタの自慢のその刀をへし折るわよ!」
「やめろおおお!これは俺の命より大切なモンなんだぞおおお!」
「二人とも落ち着いて・・・アレ?」
クーは一人の若い青少年が手に持ってる依頼表の内容を見て固まる
「どうしたの?」
ラキが聞くとクーはゆっくり口を開く
「あの人・・・Sランクの依頼表を持って行ったぞ」
「「「・・・えっ!?」」」
クー以外の三人がそれを聞きその場で凍りつく
青少年の視点では
「(・・・)」
視線の先には「S」と書かれた掲示板があった
「(ヴォルガノス一件だけか、あいつこの前も狩ったしな)」
仕方ない、と一枚しかないSランクの依頼表を外して受付に持っていく
「ではハンターカードと認証表を」
受付は男からカードと認証表を預かると指定された場所の地図を渡す
「・・・ところで、誰ですかアンタ達は」
男の後ろにはさっきまでAランク掲示板の前で騒いでいた四人がいた
「いやぁ・・・Sランクの人なんて初めて見たからつい・・・」
「・・・・・」
ラキの言葉に男は無視して歩を進める
「ちょっとォ!人が声掛けてんのに無視するって酷くない!」
「そうだそうだ!Sランクだかなんだか知らないがもうちっとフレンドリーに挨拶の一つも出来ないのか!」
「いいわよダン!もっと言ってやりなさい!」
男は下らないといった表情で顔を逸らす
「・・・何か用でも?」
「腹立つ!何よその澄ました態度!」
「ラキ姉落ち着いて!」
「クーちゃんは黙ってて!」
「・・・どうすればいいんですか?」
男は静かに小声でつぶやく
「えっ?」
「どうすれば貴方の気が晴れるかと聞いているんです」
男の無気力で無神経な言葉にラキはついにキレた
「・・・上等じゃない、あんたの澄ました態度一気にボロボロにしてあげる」
背中の剣を抜き、共に鞘から抜いた瞬間剣が魔力に包まれる
「ラキちゃん、ちょっとやりすぎじゃ・・・」
「シズカさん!見たでしょコイツの態度!明らかに世の中舐めてるような口の利き方!」
「・・・・・」
「これでも喰らいなさい!」
ラキは一瞬で男の背後を取り二本の剣で斬りかかる
しかし・・・
「・・・なっ!」
男は剣を避ける事もせず、両手で剣を一本ずつ白刃取りしていた
「・・・こんなとこで斬りかかろうとする貴方の方が世間知らずだと思いますが?」
「くっ!・・・」
「落ち着いてラキちゃん!」
「ごめんシズカさん・・・アタシ熱くなりすぎてた」
ラキが剣をしまうとダンが男に近寄る
「そうは言うけど俺もお前の言う事はぶっちゃけ気に入らねぇ、そこでだ、俺とお前で勝負しないか?」
「ダン?・・・」
「ダン君・・・一体何を?」
クーとシズカはダンの言動を聞いて理解できていないようだった
「勝負?・・・何故?」
「別に?ただ俺はSランクの仕事っぷりと・・・知り合いコケにされた恨みを晴らしたいだけさ」
「・・・別に構わないよ」
「よし、そのクエスト最高何人までだ」
「・・・二人までだ、登録しなおせばいける」
「決まりだな」
「ダン!あんたSランクのクエストなのよ!」
「心配すんなよラキ、知ってるだろ?俺馬鹿だけど腕っぷしだけは自信あるんだ」
「でも・・・」
「ラキ姉!ダンは強いからきっと大丈夫だよ!悪運も強いからきっと生きて帰ってくると思うし」
「そうそう、さあ行こうぜ」
「・・・では登録しよう」
「了解だ!」
登録しなおした二人は外に用意してある特別なクエストの危険区域に行く為に使用されるタクシーバードに乗る
「ダン!生きて帰ってきてね!」
「おう!安心して待ってろよクーちゃん」
「・・・行くぞ」
「何時でもいけるぜ!」
二人はタクシーバードに乗り、首輪に付いている操縦用のロープに捕まり飛んでいく
ギラーガ鉱山
鉱山の中の洞窟では有名な鉱石が大量に取れると言われる
しかし、山頂では凶暴な猛獣などが生息するなど危険区域に指定される場所である
「依頼内容は何なんだ?」
「ヴォルガノスの素材調達だ」
「ヴォルガノスね、ちっちぇえ頃に図鑑で見たっきりだな」
「基本的に前で攻撃を仕掛けます、えっと・・・」
「ダンだ、ダン・バスティー」
「マオです。マオ・アマツ」
「マオか、お前さ何でそう誰かを信じようとしないんだ?」
「どういう事ですか?」
「お前の言い方、まるで『自分一人で何とかする』って言ってるようなモンだぜ」
「そうでしょうか」
「あとだ!」
山道を歩きながらダンはマオに指を刺す
「お前のその敬語やめろかたっくるしい!俺達は今はクエストで命を共有する仲間なんだ」
「・・・だったら、俺からも質問いいか?」
「(なんだ?敬語やめたら雰囲気全然違うな)」
「ダン、お前はカースキラーという集団を知っているか?」
「カースキラー?聞いた事ないな?なんかの宗教か?」
「別名『呪われた殺人者』俺はその集団を追っている」
「じゃあなんでたってここに・・・」
「情報屋ってのがいてね、そいつから情報を買うのさ。まあ、情報によっては一般人なら10年は働かなくていい額の物もあるが」
「へえ・・・すげぇな、で何でそんな事を俺に?」
「別に、俺だって一々金を払って情報を聞き出すなんて面倒な事をしたくない」
「だから個人で聞いて廻ってるのか」
「ああ・・・奴等は・・・俺から村と家族を奪ったんだ」
「なっ!」
ダンが驚いていると二人は丁度頂上に着いた
そして・・・
「ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
大きな翼を広げこちらに向かって吹き飛ばされそうな威嚇の咆哮を挙げたのは・・・
「見つけたぞ・・・ヴォルガノス」
「ひゃあでっけぇ!この前のジオドランより遥かにデっケぇ!」
ヴォルガノスの見た目は、獅子のたてがみの様な赤い毛に大きい顔、口を開けば1mはある長さの牙が
奥のほうまでズラリと並んでいる、鋭い足の爪は切り裂いた物全てをズタズタに引き裂くと言わんばかりの迫力がある
「さっき言ったとおり俺が前に出る!ダンは・・・」
「うっせぇ!」
「っ!?おい!」
ダンはマオの言う事に目もくれず自慢の大太刀「鬼神」でヴォルガノスに突っ込む
「俺はな!後ろでチマチマやるより!こうやって!」
ヴォルガノスの足の爪がダンを襲う
しかし・・・
「前に出て自分の力で向かっていく方が好きなんだよ!」
ダンは刀でヴォルガノスの一撃を受け止めていた
「(なんて奴だ、ヴォルガノスのパワーは一撃でAランクの猛獣を仕留める程だ、あいつは一体)」
「さてと!久しぶりに楽しくなってきたぜ!」
「ガアアアアアアアアアアアア!!!」
ダンはヴォルガノスの一撃を弾くと一気に接近し鬼神で斬りかかる
その攻撃速度は常人には真似できない物であった
だが、高速の斬撃もヴォルガノスの堅い皮膚には大した傷もつかず、ダンは一旦後退する
「くそっ!なんだあの堅さは!全然刃が通らねぇ!」
「大したスピードとパワーだ、お前はなんでCランクなんだ」
「へへ・・・ぶっちゃけあんまり仕事真面目にやってないんだよな」
「なるほどな」
「おいなんだよ!その『こいつ如何にも仕事とか出来なさそうだな』みたいな顔と溜息は!」
「そこまで思ってねぇよ」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ヴォルガノスは翼をはためかせその風圧で二人を攻撃する
「ぐあっ!すげぇ風だ!吹き飛ばされる!」
「・・・おらぁっ!」
マオは地面に拳を思い切り叩きつけ抉れてせり上がった岩盤で風圧を防御する
「・・・すげぇ腕力してんなお前」
「まあな・・・」
クールな癖に荒々しい戦い方するんだなコイツ・・・とダンが思っていると
「隙を作ってくれるか?隙さえ出来ればすぐにケリを着けられる」
「おいおい、俺に隙を作れってか?」
「出来ないのか?」
「・・・上等だ!やってやろうじゃねぇか!」
岩盤の盾から姿を現したダンは一気に近づき武器である刀をしまう
そして・・・
「これやるとかなり疲れるが・・・効いてくれえええええええええ!!!」
右手を引いて力を籠めると掌には光り輝く光球が発生する
「喰らえ!『気光丸』!」
ダンの輝力で生み出された光球はヴォルガノスの腹部を抉り破裂する
「今だ!いけえ!」
「・・・行くぞ!」
マオが力を体中に込め始めると、体に変化が起き始める
まず最初に握られる赤い鍔の黒い刀身の両手剣
そして、背中に生える四つの禍々しい色をした翼
最後に、周りに黒い闘気が纏わりマオの体に赤い不気味な線が入る
「な・・・なんじゃそりゃ」
ダンは変わり果てたその姿に恐怖を覚えた
まるで、自分を復讐しに来た何かが余りの怒りと悲しみに変異したような感覚であった
「こ・・・こえぇ」
「うああああああああああああああああ!!!」
マオの咆哮でヴォルガノスが動きを止める
それだけではない
「が・・がるぁ」
「何て叫び声だ、あんなデカいドラゴンがビビッてやがる」
「ふんっ!」
翼で勢いを付け一気に接近
その速さは最早人間の限界を容易に超える、kmに例えるとマッハ10は超える
ヴォルガノスはマオの常人ではない速さに動いたという事すら気づいていない
「斬り裂け!天照!」
天照と呼ばれた剣は、赤と黒の混じった輝力を纏い巨大な剣と化す
「欲望覇刃!」
巨大な刃と化した天照はダンの刀を一切通さなかったその皮膚を物ともせず豪快に叩っ斬る
一刀両断されたヴォルガノスは断末魔の叫びすら挙げる事もなく朽ち果てた
「す、凄すぎるぜ」
「さあ、とっとと素材の調達をしよう」
「ま、待てよ」
「ん?」
マオが剥ぎ取り用の刃物を取り出している途中ダンはそれを静止し質問する
「いや、なんていうかよ、お前はなんでその・・・」
「カースキラーの事を何か知っているのか?」
「いや、確信した情報じゃねぇけどよ」
その言葉にマオは血相を変えてダンの肩に掴みかかる
「言え!お前の知っている事全部だ!」
「おっ落ち着け!俺はそいつらについては何も知らねぇ!ホントだ!」
「なら何故そんな事を言った!」
「・・・俺もよ、昔家族をある奴に殺されたんだ」
「な・・・ん・・・だと」
驚愕の事実にマオは掴んでいるダンの肩から手を離す
「お前に聞きたかったけど、昔の事は余り思い出したくなくてよ、でも・・・」
「でも?」
「今のお前は・・・何というか・・・怖ぇよ」
「なに・・・」
「お前はあいつ等見つけ出して復讐にでも行くのか?」
「・・・そうだ」
「なんで・・・」
「奴等は俺の大切なものを奪った、俺は奴等を家族と一緒の目に遭わせてやらなければ気が済まない
奴等は俺の・・・父さんと母さん、その時まだ5歳だった妹すら殺した」
「だからって!お前がそいつらを殺しても家族は生き返ったりはしない!」
「生き返る?確かに・・・俺の大切なものは二度と返ってこない」
だから、とマオは憎しみに染まった目でダンを睨みつける
「奴等の五体をズタズタに引き裂いてやる!奴等の仲間も!関係した全ての人間全員!俺の大切なものを奪った時のように!理不尽で無意味で最悪に殺してやる!」
「っ!」
ダンはマオの言葉に耐えられずマオの頬を思いっきり殴った
「・・・何を」
「馬鹿野郎!」
ダンはつい感情的になったと心では後悔しているがマオの発言に今は我を忘れていた
「人を殺されて、悲しみを知って何故それを繰り返そうとするんだ!」
「憎いんだよ、憎くて憎くて考えるだけで破裂しそうなんだよ、お前は家族を奪われて・・・」
「辛れぇに決まってるだろ!」
「なっ!」
「だからこそだよ、だからこそ、目の前で理不尽な運命に苦しんでる奴を放っておけないんだよ!」
「お前は、家族の恨みを晴らしたいとは思わないのか?」
「思うよ、けどよ、俺の家族は仇討ちを俺に望んでねぇよ」
「何故そんな事が・・・」
「俺の家はな、武器工場なんだよ」
「・・・」
「親父が村で一番の職人でよ、御袋は親父の手伝いとか防具作りとかで忙しかった」
「そうなのか・・・」
「二人とも仕事の事で頭が一杯でよ、俺にはあんまり構ってくれなかった、けどよ唯一だ、唯一親父が俺に教えてくれた言葉があるんだよ」
「・・・」
「『俺の仕事は素材となった生き物達に感謝を伝える事だ』ってな、だから、俺は二人に感謝を忘れない為にも今を俺なりに強く精一杯生きてるつもりだ、親父の仕事も継いで、今じゃ立派な武器屋の店主をやってるよ、俺は親父の言葉をいつでも心に思って生きている。」
マオの方に振り返り強い眼差しで己の思いをぶつける
「だから、自らの手で無意味な殺生は絶対にしねぇ!これは親父と御袋との約束であり、
俺のルールだ!」
「それが、お前を殺そうとする相手でもか?」
「殺そうとするんなら止める、いち早くそいつの過ちを止めてやるのがハンターであり
巷で噂の最強の武器屋ダン・バスティーの仕事さ!」
「お前は・・・強いな」
「お前に言われてもなんかしっくりこねぇな、ありゃ凄すぎるぜ」
「俺は呪われた力に手を染めた、これがバレれば俺は監獄にぶち込まれる」
「・・・させねぇよ」
「なに・・・」
「俺はお前をこれ以上不幸にさせねぇ!お前は十分に不幸を味わった、だから、これからは幸福な人生がお前を待ってるって俺が証明してやる!」
自分に指を刺し笑顔で答える男に、マオは今まで頑なに閉ざしていた心を開いた
「全く、大物だよダンは」
「おっ!今名前で呼んだ!?名前で呼んだよな!?」
「ふっ!言ってねぇよ」
「えぇ!ぜってぇ言った!俺の耳は地獄耳なんだよ!」
「いいからこいつ剥ぎ取るぞ、命を無駄にしないんだろ?」
「あぁテメエ!こっ恥ずかしい事だけ覚えてやがったな!」
こうして、二人の戦いの日々が始まろうとしていた・・・
第一話 完




