最終話 覇道戦記
激しくなる戦い
グラドとシーヴィを失ったカースキラーの兵士達は徐々に士気を失う
だが、それでも呪いの影響を受け強制的に強化された兵士達に苦戦を強いられていた
「くっ!強い!」
「こんなのがまだまだいるなんて・・・流石に辛いです」
「諦めてはいかんラキ姉!シズカ姉!」
戦いの最中、クー・ラキ・シズカの三人も何とか応戦している様子であった
「くっ・・・危ないクーちゃん!」
ラキの声により後ろ振り返るクー
そこには既に斧を振りかぶった兵士の姿が
「クーちゃん!」
シズカの叫びも虚しく、クーはその場から動けなかった
「・・・くそっ」
もう駄目だ、と諦めた その瞬間
大きく鳴り響く轟音と共に一閃の雷が兵士を吹き飛ばす
「・・・おぬしは!」
「間に合ったな、君達は確かダンの仲間の」
「キエラ・メキレル!」
「何故、王子である貴方が・・・」
「私は王都を守るために修行してきたのだ、城で高みの見物などしていられるか!」
フッ、と笑うキエラに三人も感化される
「・・・そうじゃな!私達の居場所は私達で守る!」
「そうね、ここで弱音吐いてられないわね!」
「みんなで戦いましょう、そうすれば勝利は見えてくる筈です」
「勝利をこの手に!大量殺人集団の理不尽かつ愚かな行動を私は止めてみせる!」
「見なさいシオン、多くの人間がお互いに血を流し滅びていく、何と美しいのでしょう」
上空で飛行しながらシオンとルシエルは戦っている
「貴方は歪んでいます。前までの貴方はそんな人ではなかった!」
「愚かですねシオン。貴方が憧れを抱いていた私は偽者、ただの人の皮を被った人形です」
「なら!今の貴方はなんだと言うのですか!」
シオンは白い羽のような鍔で世界一刀身が美しいということから「天使の剣」と言われる
聖剣パーシアンでルシエルに斬りかかる
「今こそ本当の私なのです。醜さこそ人間の本来の姿、貴方のように美しい人は私にとって忌まわしき存在なのです。」
「それでも私は!」
シオンの剣をルシエルは両手から放たれる輝力の光剣「堕天サザード」で受け流す
「貴方に・・・元聖帝の貴方に!」
「くどいですよシオン、現聖帝なら過去の存在に一々こだわらないで下さい」
「っ!しょうがないじゃないですか!一度愛した人とまともに戦えるほど私は器用じゃありません!」
「醜い」
「っ!」
シオンの言葉にルシエルは心底不機嫌になっていた
「愛?貴方のその言葉は軽すぎます、所詮美しさには限度があります。限界というのはそれ以上の輝きを見せないという意味です。つまり、限界に到達した者に価値などない!」
ルシエルは光の矢「スーペルヴィス」でシオンに追尾攻撃を仕掛ける
「くっ!・・・」
シオンはそれを避ける為に自分の限界速度で回避する
しかし・・・
「・・・なっ!」
ルシエルはスーペルヴィスの第二波をシオンの真正面に飛ばしていた
「きゃああああ!」
「ふふ・・・」
シオンはルシエルの攻撃を直撃しそのまま降下する
「見ましたか、私の呪具『醜キ愛』は?この呪具は私が醜い物に恋焦がれるほどに強大となる。美しい物に人は焦がれます。しかし、醜い者達はそれを恨み、妬み、やがては自分を見失う」
「・・・・・・・」
「だからこそ醜いというのは美しいのです!醜さに限界などない、醜い者はその鈍く汚れた輝きを一生放ち続ける。そして、死する時でさえ、自分の生涯を呪うという自業自得をする。そんな醜い姿を晒す者達に私は恋焦がれるのです。愛しい者達に私は絶頂してしまいます。私は、この世界を私達の理不尽な行いによって死んでいく不幸な人たちの醜い最後を見届け果てたいのです!」
その言葉にシオンは反応する
「・・・何様のつもりですか?」
「・・・はい?」
シオンの傷ついた羽根が修復
いや、前以上の輝きを持つ巨大な羽に生まれ変わる
「貴方は何ですか?人を好きにさせといて、片思いにさせといて、自分はあーだこーだ言ってそれを拒否ですか?本当に救いようが無いとしか言いようがありませんね」
「・・・醜い、君はそうやって逆上して私にどうさせたいのですか?」
「どうさせたいですかって?そうですね、まずそのイカれた頭のネジ締め直してから、ギルドの檻の中にブチ込んで私の前でへーこらさせてあげましょうか?こんの・・・ブス専キモナルシストがあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
そう叫んだ瞬間
シオンの生まれ持った特殊魔法能力が発動する
「私の特殊能力・・・『不器用乙女心』を受け止めろおおおおお!!!!!」
やがて、大きな白い炎に包まれたシオンがルシエルに猪突猛進と言わんばかりの勢いで接近する
「くたばれええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「ひぃっ!」
武器を捨て、そのまま懐に飛び込み鬼の形相で叫ぶと・・・
「これが私のぉ・・・積もりに積もった・・・恋心だああああああああああああ!!!」
そう叫ぶとシオンは、筋骨隆々の男も顔負けどころか失禁モノの右フックをルシエルの顔面にブチかます
そこには
乙女とは言い難い
言葉通り
怒りの炎に身を包んだ最恐の天使がいた
「・・・あぁ、私ももう駄目のようですね」
ルシエルは後方に吹き飛ばされながら呟く
副作用で朽ちて行く体を察知したのであろう
「世界の終わり、とても楽しみにしていました、ですが、マオ君なら必ずやり遂げてくれる筈です」
「それは無理な相談ですね。彼自身それを望んでいないし、何より彼にはダン君が付いています」
「・・・美しき乙女よ、何故私は道を誤りましたか?」
「知りませんよ、乙女の怒りは海より深いんです。死んだ後にでも考えやがってください」
「・・・怖い答えだ」
「ふん、一々感に触りますね。0点です」
そういい、ルシエルは半壊状態で見えなくなった
多分あの状態で落ちれば命は確実にないであろう
「・・・なんでですって?それが解れば私が貴方を止めてましたよ。・・・馬鹿」
シオンの甘くも切なく、ほろ苦い片思いが幕を閉じた瞬間であった
それぞれで決着が着く頃
ダンとマオの空中での激しい戦いが繰り広げられていた
しかし、覚醒したマオの力に徐々に押され始めるダン
マオに対して生半可な攻撃は大した意味を持たない物になっていた
「く・・・う!」
武器の鬼神で天照を抑えるが、強化されたマオの腕力がダンにとって不利な状況を生む
「くそぅ・・・この馬鹿力が・・・」
「・・・・・・・」
無言で圧倒するマオに対し、ダンは一方的に苦戦を強いられる
「こ・・・のぉ!」
ダンは刀でマオの剣を弾くと一旦距離を取りVソニックを取り出す
「パワーが駄目なら・・・手数とスピードで勝負だ!」
両方の武器を逆手に構え、再びマオに接近する
威力を落とした分、先程より速度は上がった
しかし・・・
マオの異常なまでの動体視力がそれを捉え、弾いていく
連続攻撃による激しい体力消耗にダンの攻撃に速度が失われていく
「(クソ!こいつの動きに対してこれじゃジリ貧になる!)」
「・・・・・喰らえ」
「っ!」
一瞬の隙から
マオは、ダンの剣を強く弾き剣をそのまま上段に構える
「・・・・終わりだ」
勢い良く振り下ろしダンの上半身を切り裂いた
ダンは、大量に出血する体を抑えながらもう一度距離を取ろうとするが・・・
「・・・・逃がさない」
更に輝力を解放させ、一気に近付くマオ
「ちっ!・・・龍神玉ぅ!もっと俺に力を貸してくれ!」
そう叫ぶと、ダンの体が輝き、体の傷を癒すと同時に力が溢れてきた
「よっしゃ!まだまだイケそうだ!」
ダンはVソニックを投擲し、耳に引っ掛けてあった龍神剣を日本刀と同じ位の大きさに変化させ
鬼神との二刀流に構え、Vソニックを弾いたマオに一気に接近する
「どうだぁ!」
鬼神と龍神剣をX字状に切り裂き
マオに有効的なダメージが入る
「くっ・・・・・」
「マオ!いい加減目を覚ませ!こんな事の為にその力を使ってる訳じゃないだろ!」
「・・・・・・・」
「お前は、もう二度と大切な物を失わない為に戦ってるんだろうが!」
「・・・・・・・」
「今お前のしている事は、自らの手で仲間を・・・大切な物を壊そうとしているんだぞ!」
「・・・・・・・」
「俺の言葉が聞こえているんなら、もうやめろ!こんな戦いは何も生まない、ただ人が殺し合う事に意味なんてない!」
ダンの心の叫び
しかし、マオはそれを聞いても動じなかった
「(・・・あいつにはもう・・・俺の言葉は届かないのか!)」
ダンは説得を諦めようとした瞬間・・・
「・・・お兄ちゃん!」
地上から聞こえる聞き覚えのある声
「・・・あの子は!?」
「お兄ちゃん!聞こえる?私だよ!・・・ユーナだよ!」
Sランクの面々に囲まれ
一人、兄の身を案じて来たのは
マオの実の妹である少女
ユーナであった
「・・・・ユー・・・ナ」
「・・・っ!」
ユーナの言葉にポツリと漏らす言葉はダンは聞き逃さなかった
「もうやめて!お兄ちゃんはこんな事をするような人じゃない!ただ、重なった不幸がお兄ちゃんを狂わせているだけなの!」
「ユーナ・・・くっ!」
ユーナの必死の説得に、マオは頭を抑え始める
「頭が・・・なんだ・・・これは・・・」
マオがもがいていると変化が起きる
「っ!・・・ぐああああああああ!」
なんと、マオの体に取り付いていた『絶望ノ誘惑』がマオの体から抜けていき
そのまま砕け散ったのだ
「・・・ダン?」
「っ!マオ!よかった・・・」
ダンはマオの変化に安堵する
しかし・・・
「・・・ぐ、あああああ!!!」
「マオ!」
マオはまた急に苦しみ始める
すると・・・
『・・・まだです、まだ終わりません』
マオの口から発せられる別人の声
ダンはその声が誰かとは大体想像が着いていた
「てめぇ、さっきの野郎か!」
『そうです、まだマオ君には果たさなければならない仕事がある。こんなつまらない結末は私が許しません。』
その声はルシエルの物であった
恐らく、操っていたルシエルが滅びたことにより、思念体のみがマオに乗り移り
結果として、『絶望ノ誘惑』の洗脳効果が残ったのだろう
『今やこの体は私の思うがまま、さあマオ君、思う存分にこの世界を破壊しつくすのです!』
「ぐ、ぐああああああああ!!!」
マオは急に暴れだし、輝力を辺り一体に撒き散らす
Sランクの面々はそれを回避する為に一時避難する
「これでは巻き添えを食う、急いで逃げるのじゃ!」
「ほら、ユーナちゃんも!」
「お兄ちゃあああん!!!」
『邪魔者はいなくなりました。さあ、文字通り最後の戦いにしましょう』
「フザけんな、絶対にお前を、マオの体から引っぺがしてやらぁ!」
『残念ながらそれは不可能です。何故なら今の私は呪具そのもの、彼を殺さない限り私は消えません』
「そんな・・・」
『ふふふ、さあ』
そういいルシエルに乗っ取られたマオは剣を再び構える
『・・・絶望の淵に沈むがいい』
両者、お互いに剣がぶつかり合う
『貴様もこれで終わりだ、愚かな狩人よ!』
ダンの鬼神が弾かれ、刀身がぽっきりと折れる
「・・・俺の刀が」
『終わりです!』
ダンの頭部に向かって最後の一撃が入る
真正面に受けたそのダメージによりダンは意識を失う
「(・・・いてぇ・・・こんなにもいてぇモンなのか)」
(もう・・・駄目だ・・・)
(勝てる訳無かったんだ・・・)
(そりゃあいつは強いからな・・・)
(もう、諦めるしかないのか・・・)
ふと、ダンは自分の深い意識の中で目を閉じようとする
すると・・・
(・・・何時まで寝てるつもりだ?このボンクラ)
意識の中、目の前にいた人物の声に目を開ける
(マオ!)
ダンは意識の中でマオに叫んだ
(どうした?まさか、ここで諦めるのか?)
(・・・だけどよ、俺はお前に勝った試しなんざ・・・)
(・・・だったら、お前はその程度だな)
(っ!んだと!)
(・・・その意気だ)
(え・・・?)
(初めて会った時もそうだ)
マオはダンに向かって語りかける
(お前は、初めて会った時、俺の無愛想な態度で接して腹を立てた仲間の為に
大してランクも高くないくせして無理して俺の旅に同行した)
(・・・そんな事もあったな)
(人一倍寝るのが好きで、人一倍おせっかいで、人一倍負けず嫌いで、人一倍仲間を愛しているのがお前だ)
(・・・・・・)
(そんな奴がよ、今ここで、へこたれてるの見てたらよ、俺まで駄目になっちまいそうだ)
(・・・・マオ)
(諦めるな、お前は、唯一俺が認めた戦友であり相棒であり・・・大切な仲間なんだから)
あぁ・・・
分かってる・・・
分かってるさ・・・
「・・・ふん!」
一撃を受け、気絶寸前のダンは
痛みを無理矢理抑え込み、再び目の前の敵に向かい合う
『・・・馬鹿な、何故そこまで・・・君は一体なんだというのだ』
「・・・諦めねぇ、俺は、俺はアンタを認めない!」
『・・・なんだと?』
「親父が言った!『俺の仕事は生き物達に感謝を伝える事だ』と!
ヴァジュラが言った!『大切な物を守れ』と!
マオが言った!『諦めるな』と!
だから、自分勝手な理由で命を粗末に扱うアンタを、俺は絶対に認めない!」
『くっ・・・ほざけ、所詮それが貴様の限界だ!』
「人の限界を・・・勝手に決めてんじゃねぇぇぇ!!!」
ダンの叫びに応じるかのように
更に、また更にと
龍神玉の光は、やがて大きな光となってダンを包む
『これは、龍人族の光!まさか、奴が何故!』
光が収まり
現れたダンの体には、燃え盛る紅蓮のような鎧が装備されていた
その両腕は、まるで、本物の龍のような迫力を併せ持つような大きさであった
『これは・・・』
「龍神玉・・・『龍装甲』」
『・・・おのれ!今更そんなこけおどしが通用するか!』
「だったらかかって来い!」
『貴様ぁぁぁ!!!』
ルシエルは最大の速度で接近すると
天照を力の限りに振り下ろす
『ぜやああああ!!!』
「・・・・・ならぁ!」
しかし・・・
『・・・な!』
ダンはそれを片手で受け止めていた
「・・・吹き飛べ」
ダンは、龍装甲の巨腕で
太い指をギリギリと鳴らしながら、拳を握り締める
「はぁ!」
巨龍の拳をまともに受け
マオの体は一気に後方へ吹き飛んでいく
『ぐあああああ!!!おのれぇ・・・おのれぇぇぇぇ!』
激昂したルシエルはマオの天照を天にかざす
『遊びは終わりだ!貴様はこの技で葬ってくれる!』
言うと、マオは剣に輝力を籠め、巨大な輝力刃を形成する
「・・・なら、こっちも決めさせてもらう」
そういうと、ダンは龍神剣を頭上に放り投げる
放り投げた龍神剣は巨大化してゆき、最終的には超巨大な剣になる
『これで終わりだ!死ね、愚かな男よ!』
「・・・お前の絶望、今ここで俺が砕く!」
『・・・『欲望』』
「・・・『紅蓮』」
『覇刃!』
『覇導!』
マオの欲望覇刃と紅蓮の炎に包まれ振り下ろされるダンの紅蓮覇導がぶつかり合う
『はあああああああああ!!!』
「うぉらあああああああ!!!」
ぶつかり合う二つの力
そして・・・
『・・・馬鹿なっ!押されているだと!』
「これで・・・決まりだああああああ!」
ダンの力により、大きな炎に包まれる龍神剣は
マオの天照を完全に圧倒、破壊した
『そんな・・・馬鹿な・・・』
「うおおおおおおお!!!」
武器を失ったマオにダンが近付く
「これで終わりだ!そいつから離れやがれぇ!」
『・・・うわああああああああああ!!!』
「これが俺の『紅希望拳』だ!」
ダンの拳が決まり、マオの中にある呪いを浄化していく
『おのれ、私はぁ・・・このわたしぁ・・・』
ルシエルの洗脳から解放されたマオはそのままぐったりと倒れる
「おっとっと・・・ふぅ、終わったな」
それをダンが両腕で受け止める
「・・・ダン・・・か?」
「おう、長い間お疲れさんだったな」
「あぁ・・・俺さ、夢を見てたような気がするんだ・・・」
「・・・そっか、見ろよマオ」
「ん?・・・おぉ」
ダン達の目の前には
赤く綺麗に輝く夕日が見えていた
「・・・綺麗だな」
「あぁ・・・そうだな、なあダン」
「・・・なんだ?」
「・・・なんでもないよ」
「・・・そうか、じゃあ帰るか、みんなの待ってる場所に」
「ああ、帰ろう、俺達の場所に・・・」
・・・カースキラーの首領ルシエルの消滅により、カースキラーの兵士は力を失った
今、一つの激戦がここに終結した
傷付きながらも無事に生還した二人の狩人の帰りを
ハンター「セイクリッド」の者達はそれを暖かく迎えいれてくれた
その後、歴代に残る戦として・・・
この時の戦いをこう名付けた・・・
・・・覇道戦記、と
最終話 完
すいません、最終話って書いてありますけどもうちょっと続きます
まだまだ未熟ですが、最後まで読んでいただき
感想・アドバイス等を貰えると幸いです。 byガンマニ




