第4話「モフモフの神獣(子犬サイズ)を拾いました。この子の能力もチート級でした。」
仲間が増え、村での生活はますます活気に満ちていた。
シルフィは畑仕事を手伝ってくれるだけでなく、薬草を栽培してポーション作りを始め、ガンツは俺のクワが掘り出した鉱石で、生活に必要な道具を次々と生み出していく。ミミは、その驚異的な身体能力を活かして村の周りを偵察し、危険な魔物を事前に察知・排除してくれるようになった。
俺はと言えば、相も変わらず神農具を振るい、畑を広げ、食料を確保するのが主な仕事だ。皆がそれぞれの得意分野を活かし、協力し合う。理想的な共同体が、少しずつ形になりつつあった。
そんなある日のこと。
俺はミミと一緒に、少し離れた森まで食用のキノコを採りに出かけていた。
「ダイチ、あっちにすごいいい匂いのする木の実があったよ!」
「あんまり遠くに行くなよ、ミミ。はぐれるぞ」
ぴょんぴょんと木々の間を飛び移るミミの後を追いながら、俺は苦笑する。彼女の体力は本当に底なしだ。
しばらく森の奥へと進んでいくと、不意に、茂みの奥から「クゥン、クゥン」というか細い鳴き声が聞こえてきた。
「ん? なんの音だ?」
「犬……かな? でも、すっごく弱ってる匂いがする」
ミミが鼻をひくつかせる。獣人である彼女の嗅覚は、非常に鋭い。
俺たちは顔を見合わせ、音のする方へ、慎重に近づいていった。
茂みをかき分けると、そこにいたのは、一匹の小さな子犬だった。
雪のように真っ白な毛並みをしているが、泥に汚れてしまっている。生まれたばかりなのか、手のひらに乗るくらいの大きさだ。親とはぐれてしまったのか、体は小刻みに震え、その瞳は不安げに揺れていた。
「わぁ、かわいい!」
ミミが駆け寄ろうとするのを、俺は手で制した。
「待て、ミミ。下手に匂いをつけたら、親が迎えに来なくなるかもしれない」
「でも、このままじゃ死んじゃうよ! あたしの鼻でも、近くに親の匂いはしないもん」
ミミの言う通りだった。子犬はひどく衰弱している。このまま放置すれば、夜を越すのは難しいだろう。
俺は覚悟を決め、そっと子犬を抱き上げた。驚くほど軽い。
「……仕方ない。俺たちで面倒を見よう」
「うん!」
ミミが嬉しそうに頷いた。
村に連れ帰ると、シルフィとガンツが驚いた顔で出迎えてくれた。
「まあ、可愛らしい……ですが、この子、ただの子犬ではないかもしれません」
シルフィが子犬の額にある、小さな菱形の紋様を指さした。
「これは……伝説に聞く、神狼の紋章……? まさかな」
「神狼?」
俺が聞き返すと、ガンツが重々しく口を開いた。
「この世界を守護すると言われる伝説の神獣だ。成獣になれば山一つを動かすほどの力を持つという……。だが、もう何百年も姿を現していないはずじゃが……」
神獣、ねぇ。
目の前でプルプル震えているこの小さな毛玉が、そんなすごい存在だとは到底思えなかった。
「まあ、神獣だろうが何だろうが、腹が減ってることには変わりないだろ」
俺は温めたヤギの乳(これも村で飼い始めた家畜から搾ったものだ)を、指につけて子犬の口元へ運んでやった。
子犬は最初、おびえていたが、やがてぺろぺろと乳を舐め始めた。その姿は、あまりにも愛らしく、俺たちは自然と笑みをこぼしていた。
俺たちは、その白い子犬に「コロ」と名付けた。単純だが、呼びやすいのが一番だ。
コロは驚くべき速さで元気を取り戻した。そして、どういうわけか、俺に一番懐いた。俺が畑仕事をしていると、いつも足元をちょこちょことついて回り、夜寝る時は、俺の布団に潜り込んでくる。モフモフの感触が、一日の疲れを癒してくれた。
***
そして、コロがただの子犬ではないという事実は、数日後に証明されることになる。
その日、俺は村の近くに温泉でもあれば最高なんだがな、などと呑気なことを考えていた。前世では、仕事の疲れを癒すのは決まって温泉だった。
すると、足元にいたコロが、突然「ワン!」と吠え、地面を前足でかき始めた。
「どうした、コロ? 何かあるのか?」
コロは俺のズボンの裾をぐいぐいと引っ張り、森のある方向を指し示すようにして、また「ワン!」と吠える。何かを伝えようとしているのは明らかだった。
「もしかして、あっちに何かあるのか?」
俺が指さすと、コロは嬉しそうに尻尾を振った。
俺は半信半疑のまま、コロの案内に従って森の中を進んでいった。ミミとシルフィも、興味津々でついてくる。
しばらく進むと、少し開けた岩場に出た。コロはそこの地面の一点を、くんくんと嗅ぎ、またしても前足でカリカリと引っ掻き始めた。
「ここか? ここに何かあるのか?」
見たところ、ただの地面にしか見えない。
だが、コロは確信があるように、俺を見上げて「ワン!」と一声鳴いた。
「……分かったよ。掘ってみるか」
俺は半ば冗談で、『潤水のスキ』をコロが示した場所に突き立てた。このスキには、水脈を探すだけでなく、地中にあるものを探る機能もあるのだ。
スキを地面に差し込むと、いつもとは違う、温かい感触が手に伝わってきた。
「……ん? なんだこれ……熱いぞ?」
そして、次の瞬間。
ゴゴゴゴゴ……!
地響きと共に、スキを突き立てた場所から、勢いよく湯気が噴き出した。
「うわっ!?」
俺たちが慌てて後ずさると、そこから熱いお湯がこんこんと湧き出し、あっという間に天然の湯だまりを作り出した。紛れもない、温泉だ。
俺とミミとシルフィの声が重なり、森にこだました。
「お、温泉だー!!!」
コロのお手柄だった。この子は、ただの犬じゃない。その嗅覚で、大地に眠る特別なものを見つけ出す能力があるのだ。
その日から、コロは俺たちの最高の探知機になった。温泉だけでなく、ガンツが狂喜乱舞するほどの高品質な鉱脈、シルフィが喜ぶ珍しい薬草の群生地など、次々と新しい資源を発見してくれたのだ。
モフモフで可愛いだけの存在じゃなかった。コロもまた、この村にとって、かけがえのない仲間の一員となった。
俺は湧き出たばかりの温泉に浸かりながら、空を見上げた。
仲間が増え、温泉まで湧いた。
こんな幸せなセカンドライフ、罰が当たるんじゃないだろうか。
まあ、いいか。今はただ、この温かさを満喫しよう。そう心に誓うのだった。




