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過労死した俺、異世界で最強農業チートに目覚める。神農具で荒野を楽園に変えたら、エルフや獣人が集まって最高の国ができました  作者: 黒崎隼人


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2/12

第2話「初めての仲間は、はらぺこエルフ少女でした。」

 神農具のおかげで、水と食料の問題はあっさり解決した。


 とりあえずの寝床として、近くにあった岩場の影に風除けの石を積み、夜を越す。幸い、夜もそれほど冷え込まず、快適とは言えないまでも無事に朝を迎えることができた。


 朝日に照らされた荒野は、昨日と変わらず殺風景だ。


「さて、今日も一日、頑張りますか」


 俺は大きく伸びをすると、さっそく『開墾のクワ』を手に取った。


 昨日作った畑は、わずか一日で消費するには多すぎるほどの作物を実らせてくれた。だが、女神様の言葉を信じるなら、この世界には飢えている人々がいる。それに、いつまでも野宿というわけにもいかない。まずは拠点となる家を作り、畑を広げ、食料を備蓄する必要があるだろう。


 クワを振るい、畑を広げる。スキで水路を引き、種を蒔き、カマで成長を促す。


 作業は驚くほど順調に進んだ。前世では一日中パソコンと向き合っていた俺が、こうして土に触れているのが不思議な気分だった。だけど、不思議と嫌な感じはしない。むしろ、自分の手で何かを生み出しているという実感に、満たされた気持ちにさえなっていた。


 昼過ぎには、昨日よりもずっと広い畑が完成し、色とりどりの野菜が実っていた。


「ちょっと休憩にするか」


 採れたてのトマトにかじりつきながら、泉のほとりに腰を下ろす。太陽の光をたっぷり浴びたトマトは、甘くて味が濃い。最高の贅沢だ。


 そんなことを考えていた、その時だった。


 ガサッ、と遠くの岩陰で何かが動く音がした。


「……ん?」


 野生動物だろうか。この世界にどんな生き物がいるのか、俺はまだ知らない。念のため、『豊穣のカマ』を手に取り、身構える。いざとなれば、植物を操って足止めくらいはできるかもしれない。


 俺は音を立てないように、ゆっくりと岩陰に近づいていく。


 そして、そっと中を覗き込み――息をのんだ。


 そこにいたのは、獣ではなかった。


 銀色の長い髪、そして特徴的な、長く尖った耳。薄汚れてはいるが、仕立ての良さそうな服を着た少女が、ぐったりと倒れていたのだ。


「エルフ……?」


 ゲームや映画で見た、あの幻想的な種族にそっくりだった。歳は俺よりいくつか下に見える。十五、六歳くらいだろうか。


 彼女はひどく衰弱しているようで、荒い呼吸を繰り返している。唇は乾ききっていた。


 俺は警戒心を解き、慌てて駆け寄った。


「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!」


 声をかけると、彼女はうっすらと瞼を開いた。透き通るような翠色の瞳が、ぼんやりと俺を映す。


「……だれ……?」


 か細い声でつぶやくと、彼女は再び意識を失ってしまった。


 このままでは危ない。


 俺は彼女を慎重に抱え上げると、泉のそばまで運んだ。思った以上に軽い。ちゃんと食事を摂れていないのだろう。


 ひとまず、濡らした布で彼女の唇を湿らせてやる。そして、何か食べさせないと。


 幸い、食料は豊富にある。俺は昨日収穫したジャガイモと、そこらへんに生えていた香りの良い草(これも神農具で鑑定済みだ。食べられる)を使って、即席のスープを作ることにした。


 火を起こす道具はなかったが、そこは文明の利器――というより、前世の知識が役に立った。乾いた木と石を使い、なんとか火種を作ることに成功する。石を組んで即席のカマドを作り、これまた都合よく持っていた金属製の水筒でスープを煮込んだ。


 ジャガイモが柔らかくなる頃、少女が再び目を覚ました。


「……ここは……?」


「気がついたか。大丈夫、何もしないよ。とりあえず、これを飲んで」


 俺は水筒から木の器に移したスープを、ゆっくりと彼女の口元へ運んでやった。


 最初はおびえた様子だった彼女も、スープの香ばしい匂いに、こくりと喉を鳴らした。そして、おそるおそる一口、スープを口に含む。


 その瞬間、彼女の翠色の瞳が、驚きに見開かれた。


「……おいし……い……」


 それからは、もう夢中だった。よほどお腹が空いていたのだろう。あっという間に一杯を飲み干してしまった。


「おかわり、あるぞ」


 俺が言うと、彼女はこくこくと力強く頷いた。


 二杯目のスープを飲み干す頃には、彼女の顔にも少し血の気が戻っていた。


「ありがとう……ございます。助けて、いただいて……」


「いいんだ。それより、君、名前は?」


「シルフィ、と申します。あなたは?」


「俺はダイチ。相川大地だ」


「ダイチ……様」


 シルフィと名乗ったエルフの少女は、自分の身の上をぽつりぽつりと語ってくれた。


 彼女の故郷の森は、魔物に襲われて滅んだらしい。命からがら逃げ出したものの、仲間とはぐれ、この荒野を何日もさまよっていたのだという。


「もう……ダメかと思いました。水も食べ物も尽きて……」


 そう言って、シルフィの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。


 俺はなんて声をかければいいか分からず、ただ黙って彼女の隣に座っていた。


 故郷を失い、一人でこの過酷な世界を彷徨う。その恐怖と絶望は、俺の想像を絶するものだろう。


 しばらくして、涙が止まったシルフィが、ふと顔を上げた。


「あの……さっきのスープ、本当に美味しかったです。あんなに優しい味のするものを食べたのは、生まれて初めてでした」


「そ、そうか? ただの芋のスープだけど」


「いいえ。ダイチ様の優しさが、たくさん入っていました」


 シルフィはそう言って、はにかむように微笑んだ。その笑顔は、この殺風景な荒野には不釣り合いなほど、可憐で、美しかった。


 俺はなんだか照れくさくなって、頭をかいた。


「よかったら、もっと食べていけよ。野菜なら、うんざりするほどあるからさ」


 俺が畑を指さすと、シルフィは信じられないといった表情で目を見開いた。


「ここ……全部、ダイチ様がお一人で……?」


「まあな。ちょっと便利な道具を持ってるんだ」


 この日から、俺の開拓生活は二人になった。


 シルフィは、衰弱していたのが嘘のように、すぐに元気を取り戻した。彼女は植物に関する知識が豊富で、俺が神農具で育てた作物の最適な調理法や、薬草として使える植物のことを教えてくれた。


 一人きりだった荒野の生活に、話し相手がいる。それだけで、世界が少し色づいて見えた。


「シルフィ、今日の昼飯、何がいい?」


「はい! 今日はカブを使ったポタージュが食べたいです」


 他愛もない会話。前世では、こんな穏やかな時間を過ごしたことなんてなかった。


 俺は、このささやかな日常を守りたい、と心から思った。


 シルフィという初めての仲間を得て、俺の異世界農業ライフは、新たな一歩を踏み出したのだった。

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