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過労死した俺、異世界で最強農業チートに目覚める。神農具で荒野を楽園に変えたら、エルフや獣人が集まって最高の国ができました  作者: 黒崎隼人


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第1話「転生先はド級の荒野。女神様、チート農具は嬉しいけど、まず水と食料を下さい!」

【登場人物紹介】

相川あいかわ 大地だいち

本作の主人公。ブラック企業での過労が原因で命を落とし、豊穣の女神によって異世界に転生させられた青年。真面目で心優しいお人好し。前世の知識と、女神から授かった三つの神農具を手に、荒野の開拓に挑む。目指すは皆が笑って暮らせるスローライフな楽園。


◆シルフィ

エルフの美少女。魔物に故郷を滅ぼされ、飢えて倒れていたところを大地に救われる。心優しく、少し引っ込み思案な性格だが、芯は強い。植物に関する知識が豊富で、大地の農業をサポートする。大地が作った温かいスープに胃袋と心を掴まれた、最初の仲間。


◆ミミ

猫の獣人族の少女。明るく元気で、考えるより先に体が動く猪突猛進タイプ。驚異的な身体能力を持ち、村の警備や魔物討伐で活躍する戦闘要員。大地の作る美味しいご飯が大好きで、彼によく懐いている。


◆ガンツ

ドワーフの男性。頑固で職人気質だが、情に厚く面倒見が良い。伝説の鍛冶師の末裔であり、その腕は確か。大地が持つ神農具に興味を惹かれ、村のインフラ整備や道具作りの要として力を貸すことになる。


◆コロ

大地が森で出会った白い子犬。その正体は、世界を守護するとされる神狼の子供。非常に賢く、人懐っこい。大地を主と認め、彼の最高の相棒として、危険を察知したり、新たな資源を見つけたりと大活躍する。


◆豊穣の女神セレスティア

大地を異世界に転生させた女神。魔王によって荒廃した世界を憂い、大地に神農具と使命を託した。天真爛漫で少しおっちょこちょいな一面もあるが、大地のことを見守り、時に導きを与える存在。

「う……」


 意識が戻ってくる。


 瞼に感じるのは、やけに眩しい光。そして、全身を撫でる乾いた風。


 昨日は確か、締切三日前のデスマーチで、会社の床で……あれ?


 俺、相川大地、二十八歳。しがないゲームグラフィッカー。連日の徹夜作業で意識が途切れたところまでは覚えている。


「……天井じゃなくて、空?」


 ゆっくりと目を開けると、そこに広がっていたのは、雲一つない真っ青な空だった。


 体を起こす。ざらりとした砂のような感触。見渡す限り、赤茶けた大地と、ところどころに転がる岩。植物らしいものは、枯れ草がわずかに見えるだけ。


 要するに、荒野だ。見渡す限りの、ド級の荒野。


「は? どこだよここ……っていうか、俺の体……」


 自分の手を見下ろして、さらに驚いた。昨日までカフェインと疲労でむくんでいたはずの手が、すっきりと健康的な色艶を取り戻している。服装も、よれよれのTシャツとジーンズではなく、麻でできたような簡素な貫頭衣とズボンに変わっていた。


 何が何だか分からない。パニックになりかけた俺の頭の中に、唐突に声が響いた。


『――こんにちは、地球の魂よ』


 透き通るような、それでいてどこかおっとりとした女性の声。


「だ、誰だ!?」


『わたくしはセレスティア。この世界で豊穣を司る女神です』


 女神? なんだその、ラノベみたいな展開は。


 混乱する俺をよそに、声は呑気に続ける。


『単刀直入に申し上げますと、あなた、過労で死んでしまいました』


「……マジか」


 まあ、薄々そんな気はしていた。あの働き方で、いつまでもつか自分でも分からなかったし。


『あなたの魂は、その勤勉さと、植物を愛でる優しい心根から、わたくしの世界に招かれたのです。どうか、あなたの力で、この荒れ果てた大地を、かつての緑豊かな姿に戻してはもらえないでしょうか?』


「いや、無茶言わないでください。俺、ゲームの背景で森を描くのは得意ですけど、リアルで森を作るなんて……」


『ふふふ、もちろん、手ぶらでお願いするわけではありません。あなたに、わたくしの力を込めた三つの神器を授けましょう』


 その言葉と共に、俺の目の前に、ぽん、ぽん、ぽんと光が現れ、実体化した。


 一つは、柄の長い頑丈そうなクワ。


 一つは、刃が鈍い銀色に輝くカマ。


 そしてもう一つは、土を掘り起こすためのスキ。


 見慣れた農具だが、どれも不思議な神々しいオーラを放っている。


『左から順に、『開墾のクワ』『豊穣のカマ』『潤水のスキ』です』


 女神の説明が頭に流れ込んでくる。


『開墾のクワ』は、どんな荒れ地も一振りで極上の畑に変える。土壌の栄養バランスを最適化し、害虫や雑草の発生も防ぐらしい。


『豊穣のカマ』は、作物の成長を自由自在に操れる。種をまいた直後に使えば、数秒で収穫期まで成長させることも可能だとか。


 そして『潤水のスキ』は、地面に突き立てれば自動で水脈を探し当て、最適な形で畑に水を引く灌漑設備を構築してくれるという。


「……え、これ、チートすぎません?」


 思わず心の声が漏れた。これさえあれば、どんな場所でも農業やり放題じゃないか。


『それこそが、わたくしの狙いです。さあ、相川大地さん。あなたの第二の人生、この世界で始めてみてください。目指すは、すべての民が飢えることのない、緑豊かな楽園です!』


「いや、スケールでかすぎ!」


 俺のツッコミも虚しく、女神の声はそれきり聞こえなくなった。


 後に残されたのは、俺と、三本の神農具、そしてどこまでも続く荒野だけ。


「……はあ」


 とりあえず、状況を受け入れるしかないらしい。


 俺は死んで、異世界に転生した。そして、この何もない場所で農業をしろ、と。


「まずは……水と食料だよな」


 喉がカラカラだ。幸い、太陽はまだ真上にはない。今のうちに行動しないと、干からびてまた死ぬ。


 俺は三つの農具の中から、『潤水のスキ』を手に取った。ずっしりと重いが、不思議と手に馴染む。


「水脈を探し当てる……だったな」


 半信半疑のまま、目の前の乾いた地面にスキの先端を突き立てる。


 すると、どうだ。


 スキがぶるぶると震えだし、まるで生き物のように地面の中へぐいぐいと潜っていく。そして数秒後、確かな手応えと共に動きを止めた。


 次の瞬間、奇跡が起きた。


 俺がスキを突き立てた場所から、こんこんと清らかな水が湧き出し始めたのだ。水はあっという間に小さな泉を作り、さらさらと音を立てて流れ始めた。


「うおっ、マジかよ……!」


 慌てて駆け寄り、両手で水をすくって口に含む。冷たくて、ほんのり甘みさえ感じる、最高の味だった。


 生き返る心地がする。これなら、とりあえず喉の渇きは凌げる。


 次は食料だ。


 幸運なことに、俺が着ていた服のポケットに、いくつか小さな種の入った袋が入っていた。女神様からのサービスだろうか。中身はカブやジャガイモっぽい。


 俺は泉の近くの地面に、『開墾のクワ』を振り下ろした。


 ガツン、と硬い感触を想像していたのに、クワはまるで豆腐を切るかのように、すっと大地に入っていく。そして、一振りしただけで、周囲五メートル四方が、ふかふかの黒土に変わってしまった。石ころ一つない、完璧な畑だ。


「はは……笑うしかないな、これ」


 乾いた笑いを漏らしながら、俺はポケットの種をぱらぱらと蒔いた。


 そして仕上げに、『豊穣のカマ』を畑の上で軽く一振り。


 カマから放たれた柔らかな緑色の光が、畑全体を包み込む。


 すると、信じられない光景が目の前で繰り広げられた。


 種を蒔いた場所から、にょきにょきと芽が出て、ぐんぐん伸びていく。葉が茂り、あっという間に立派なカブとジャガイモが、土の上から顔を覗かせた。


 あまりの出来事に、俺はしばらく呆然と立ち尽くしていた。


 ゲームの世界じゃない。これが、俺の新しい現実。


 腹が、ぐぅっと鳴った。


 俺は土からカブを一つ引き抜き、泉の水で泥を洗い落とす。そして、思いっきりかじりついた。


 シャクっとした歯ごたえと共に、みずみずしい甘さが口いっぱいに広がる。


「……うまい」


 涙が出そうなくらい、うまかった。


 こうして、俺の異世界農業ライフは、たった一人、荒野の真ん中で幕を開けた。


 途方もない使命を背負わされた気もするけど、まあ、なんとかなるだろう。


 だって、こんなに美味いものが食えるんだから。ブラック企業より、よっぽどマシだ。

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