第4話 闇金融の罠
第4話 闇金融の罠
■朔也視点
放課後の学生課前。坂井翔太は、俺に気づかぬふりをしながら、スマホを握りしめていた。その表情には、いつもの軽さも悪戯っぽさもなかった。代わりに宿っていたのは、焦燥と――恐怖だった。
見つからないよう、俺は少し距離を保ちながら彼の行動を観察した。スマホ画面には「残高通知」と思われるメッセージ。繰り返し開いては閉じ、そして、ため息をつく。
「カスパー、坂井翔太の金融履歴を追跡。学費の引き落としができなかった理由を調べろ。」
「確認完了。三週間前から定期的な高額出金。受け取り口座は存在せず。現金引き出し、合計27万5千円。」
「使途は?」
「照合できる購買履歴なし。現金のみ。対象ATMは新宿区、某金融ブローカーの取引拠点近隣に限定。」
答えは明らかだった。翔太は闇金融に手を出していた。
親の援助が途切れたのか、家族に何かが起きたのか……だが、理由は重要じゃない。問題は、彼が“誰に”依存し、今どんな代償を払っているかだ。
「金鱗会──準暴力団系闇金融組織。幹部:硲龍一。複数の名義で暗号通貨口座を運用中。」
カスパーの分析が一つずつ情報を結び付け、硲を頂点とする構成図が浮かび上がる。貸付記録、脅迫文、被害者からの苦情――それらすべてが、組織の輪郭を明確にしていった。
だが俺は、朔也として動くことはない。翔太に声をかけ、助け舟を出すような真似はしない。それは“俺”の役目ではない。
■別人格・笑う男、起動開始
SNS上に一つの匿名投稿が上がった。
──『金鱗会幹部・硲龍一の動静と資金洗浄ルートの一部を暴露する。笑う男より。』
同時に、警視庁公安部への匿名リークが実行される。添付されたデータには、硲の銀行記録、裏口座の通貨の流れ、構成員の身元情報、そして被害者証言の改ざん前ファイルが含まれていた。
メディアは騒然とし、数時間後にはネットニュースのトップに名前が上がった。
「準暴力団幹部・硲龍一、資金洗浄容疑で家宅捜索」
だが、これで終わりではなかった。ナイトメアの出番だ。
AIが構築した“偽の犯罪組織”ナイトメアが、金鱗会を装い、硲の個人アカウントから架空の告発を発信した。「幹部の裏切りにより、自浄処分を行う」との文言と共に、内部資料が“誤って”公開される。組織内に混乱が走り、警察の捜査が加速する。
■朔也視点
翌朝、翔太の姿は学内にあった。顔にはまだ疲れが残っていたが、携帯を握る手は微かに震えていなかった。ATMの出金通知も止まっていた。
俺は、ただ静かに通り過ぎる。言葉も、視線も交わさない。
その日のニュースで、硲龍一の逮捕が報じられた。金鱗会の残党は姿を消し、活動資金の多くは凍結された。
笑う男の名が、また一つ都市の闇を浄化した。
「……正義とは、語るものではない。示すものだ。」
カスパーの沈黙が、まるで肯定のように響く。
第4話 闇金融の罠 終わり