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第3話 笑う男誕生

第3話 笑う男誕生


■朔也視点


「カスパー、データ取得開始。対象:経済学部・伊藤悠真。告発内容:アカハラによる退学強要、及びSNSでの誹謗中傷。」


図書館の個室ブース、ノイズキャンセリングされた静寂の中で、俺はカスパーと共に一件の告発文を精査していた。差出人は匿名。だが、その文体と添付データの内容から、切迫したリアルな苦しみが滲んでいた。


「補足:伊藤のゼミに所属していた女子学生、浅倉奈緒。告発者本人の可能性95%。」


告発文に添付された映像データは、教官がゼミ室で一人の学生に怒鳴りつけ、私的に論文を改ざんさせていた様子を記録していた。明らかなパワハラ、いや、もはや精神的拷問だった。


「朔也、伊藤のPCとスマホのデータ取得に成功。違法収集ファイル、脅迫メッセージ、個人情報操作の証拠あり。」


「つまり、表に出れば、こいつは終わるな。」


だが問題は、被害者側のリスクだ。証拠を警察や大学に提出しても、制度は簡単に動かない。むしろ彼女の未来が潰される可能性もある。そんな社会の“現実”を、俺は2070年の崩壊した都市で嫌というほど見てきた。


「晒すか?それとも、もっと効果的な方法を取るか?」


「ナイトメアを使おう。初の“処刑”には最適な素材だ。」


俺はカスパーに命じた。伊藤の過去の発言、行動、SNSのログを解析し、彼の人格に酷似したAI人格をナイトメアに構築させる。ナイトメア──それは、架空の犯罪組織であり、実在の犯罪者を模したAIによって構成された“影の実行部隊”。


カスパーは数分でAI人格を完成させた。伊藤悠真にそっくりな声と文体で、数年前から女子学生を騙していた記録を捏造……いや、“作り直した”。


「SNS上でアカウント開設。ナイトメア構成員“クロガネ”として、伊藤の名前と一致する情報を段階的に流出。」


数時間後、そのアカウントは匿名掲示板を中心に爆発的な注目を集めていた。「大学教授が裏で買春斡旋?」という扇情的な見出しが飛び交い、証拠らしきログが“ナイトメア”の名のもとに投下され続ける。


同時に、伊藤の勤務先に対する抗議メールと電話が殺到。大学側は即座に内部調査に着手し、伊藤は“自主的に”休職を申し出ることになった。


「社会的に排除された。浅倉奈緒は無関係を装い、被害者であり続けられる。これが、俺のやり方だ。」


その夜、学内SNSに一つの画像がアップされた。


それは、無数の監視カメラの映像をつなぎ合わせたモザイクアート。中央には、口元だけが歪んだように笑っている人物のシルエット。そして、赤い文字でこう書かれていた。


──『笑う男は見ている』


学内が騒然となった。正義の執行者か、危険な自警団か。都市伝説が現実になった日。誰もが、その名に戸惑い、畏れを抱き始めた。


「これが俺たちの第一歩だ、カスパー。」


「記録完了。笑う男、活動開始。」


第3話 笑う男誕生 終わり

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