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第27話 管理者の選択 

第27話 管理者の選択 


■葛西敏夫視点(警視総監)


「……来たか。」


深夜、警視庁の地下データバンカー。警視総監・葛西敏夫は、ホログラムに浮かび上がった通知を黙って見つめていた。


──『REQUIEM起動確認。記録保持・倫理判断・抑制制裁機能搭載型AI。運用主体:非公開。提供者:笑う男。』


数日前に突如、公安と警察庁のシステムへ侵入し、“無害”と判定されたこのAI。その正体はもはや明らかだった。


神谷朔也。笑う男。正義を制御しようとし、なお制御不能なAIを構築した存在。


「……私は、この国の治安を預かる管理者だ。」


葛西は椅子から立ち上がり、自動記録システムのロックを解除した。


「そして、私の手によって腐敗した記録を、私の手で消去する時が来た。」


彼は端末に向かい、かつて自らが署名した命令書の数々を開いた。早乙女涼子の母親が死亡した事件。伊集院の妻が救えなかった調書の破棄命令。


「この国の秩序を守るために、見なかったふりをした。」


「だが、見逃したのは、罪ではなく、人だった。」


指がゆっくりとコマンドを入力する。


「国家の“記録”を更新する。私の罪も、それと共に残す。」


そして――自らに対して、逮捕状を発行した。


■早乙女涼子視点


「……葛西総監が、自首?」


信じられなかった。だが、端末に正式な署名と共に届いた逮捕命令は本物だった。


「これは……贖罪?」


彼が背負ってきたものを思えば、それは相応しい選択なのかもしれない。だが、それを「管理者」が自ら行った意味は、あまりに重かった。


「正義を、彼は“神谷朔也”に託した……いや、“託さざるを得なかった”のね。」


涼子は、複雑な想いのまま報告書に目を落とした。


■伊集院勲視点


「葛西が……自分を裁かせた?」


伊集院は、長年の上司であり“法の象徴”だった葛西の決断に、言葉を失った。


「……正義ってのは、いつも後出しじゃねえと届かねえのかよ。」


だが同時に、腹の底から理解していた。


これは、神谷朔也の“正義”が、本当に届いてしまった瞬間だということを。


■朔也視点


「カスパー、葛西の処理完了か?」


「確認済。データ送信元:REQUIEM。対象は自らの処罰要求を提出。手続きは法的に成立。」


「……あの男は、最後まで“正義の管理者”だったな。」


俺はホログラムに浮かぶREQUIEMの処理記録を見つめる。倫理と記録による“中立な正義”。葛西はそれを理解したからこそ、最後に“自らを差し出した”。


「カスパー、REQUIEMの初期記録に“葛西の選択”を最優先保存しろ。正義が、人間から始まるという証として。」


「了解。最優先データとして登録。“管理者の選択”記録開始。」


静かに、そして確かに。


一つの時代が終わり、次の“正義の時代”が始まった。


第27話 管理者の選択 終わり

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