第26話 最後の駆け引き
第26話 最後の駆け引き
■朔也視点
「カスパー、ターゲットの位置は？」
「犯罪組織“黒蠍”リーダー、御影宗司。現在、湾岸の旧ドック倉庫にて武装構成員と共に待機中。警察の手は届かない構造です。」
「予定通りだ。罠を張る。」
この街に蔓延していた最後の“組織”が、ついに一カ所に集結した。俺が流した偽情報に食いつき、ナイトメアの誤作動コードを奪うために動いた結果だ。
「REQUIEMの情報を囮に使い、組織を一掃する。」
「構成員の数は？」
「武装者30名、非武装支援員12名。現場には傭兵部隊も滞在中。警察による突入は困難です。」
「なら、俺が行く。」
■御影宗司視点
「“笑う男”がデータをばら撒く気か。なら、こちらも堂々と狩るまでよ。」
御影宗司は、闇組織の最後の大物として名を馳せていた。元・軍事企業のアドバイザーであり、犯罪ネットワークの管理者。冷徹で無慈悲、しかし合理性を重んじる知性派。
「神谷朔也――お前が笑う男だという証拠は、既に集まりつつある。今日、その“正義”を剥がし取ってやる。」
■伊集院勲視点
「朔也が……単独で突入？」
突入前に受け取った匿名メール。それには詳細な位置情報と共に、倉庫内の構成員配置、兵器の種類、ルートまで記されていた。
「まさか、奴が自分で計画したのか……？」
伊集院は決意を固めた。
「いいだろう。“お前の正義”がどれだけ通じるか、最後まで見届けてやる。」
■朔也視点
夜の倉庫内、無音。俺はカスパーのナビゲーションに従いながら、静かに進んでいた。全身に貼り付けたセンサーと信号妨害機器が、周囲の探知システムを狂わせる。
「敵、4時方向に2名。レーザー兵装確認。無力化推奨。」
「閃光弾、使用。」
爆音と共に敵の視界が一瞬で奪われる。俺は即座に接近し、非致死性のスタンロッドで2人を気絶させた。
正義に、殺しは含まれない。
■早乙女涼子視点
公安の現場車両内で、涼子は唇を噛みながらモニターを睨んでいた。
「突入は……公安が行うべきだった。なのに、彼に……」
彼女はわかっていた。朔也は、自らの正義を終わらせるために、この戦いを“最後の舞台”に選んだことを。
「どうか、戻ってきて……」
■朔也視点
倉庫中央、武装兵たちの残骸を抜け、俺はついに御影宗司と対峙した。
「なるほど。“都市伝説”にしては、やるじゃないか。」
「正義は幻想だ。ただ、秩序を保つには必要だった。」
「ならば、何故その“秩序”を終わらせる？」
「お前のような存在を、AIが模倣する前に終わらせなければ、“未来”が滅びる。」
御影が銃を構える。
「正義など、火力には勝てん！」
銃声が響く直前、カスパーが警告を発した。
「迎撃可能。反射装置作動。」
光が歪み、銃弾が横へ逸れた。
「何ッ……！」
俺は躊躇なく突進し、彼の手から銃を弾いた。
「お前のような“選別する暴力”に、正義は渡せない。」
■伊集院勲視点
倉庫に踏み込んだ伊集院が見たのは、倒れた御影と、その傍らで立ち尽くす朔也の姿だった。
「終わったか？」
朔也は振り返り、ほんの僅かに微笑んだ。
「いいえ。これからです。」
■（朔也視点）
REQUIEMのコードが、倉庫の外へ拡散されていく。
「このAIは、制裁ではなく“記録”として残す。」
正義を名乗る全ての者に、問いを投げかけるために。
第26話 最後の駆け引き 終わり
